業務スーパーとソフトバンクがAIなどを活用した次世代型スーパーの実験店舗をオープン
2022.04.12
2021.08.30
「業務スーパー」を展開する神戸物産とソフトバンクは、神戸物産の直営店「業務スーパー天下茶屋駅前店」(大阪市西成区)を、AI(人工知能)などを活用して店舗のオペレーションを効率化し、お客の満足度をさらに向上させるための次世代型スーパーの実験店舗として構築、8月26日にオープンした。
ソフトバンクなどが企画・開発したソリューションを活用し、お客の満足度向上を実現するための取り組みを実施。
業務スーパーの強みである「ローコストオペレーション」のさらなる強化を目指す他、取り組みの効果や運用方法を検証し、魅力的な施策を全国の加盟店の業務スーパーに展開することで、さらなる業務スーパーのファンの獲得と事業の成長を目指すとしている。
天下茶屋駅前店に導入された技術は多岐に渡るが、まずはAIカメラの導入によるお客の行動分析、レジの待ち時間の予測、さらに欠品の自動検知が挙げられる。
店内に設置したAIカメラの映像を基に、入店人数やレジの待機人数、精算に掛かる時間などを AIで分析することで、レジの待機人数を予測して、曜日や時間帯ごとのレジの稼働台数や従業員の配置の判断などに役立てる。適正な台数のレジを稼働させることにより、お客の待ち時間が削減される。
また、これら店内におけるお客の動線分析の他、サイネージでの情報配信やその視聴者の属性分析など、さまざまな取り組みを順次実施していく。これらの取り組みによって業務スーパーをより魅力的な店舗とすることでお客の満足度向上を目指す。
店内には約40台のAIカメラが設置されている。多くが天井からぶら下がっているものだが、店頭に設置された大型のモニターの左上にUSBでつなげたAIカメラが設置されていたり、冷蔵ケースの上に設置されたモニターにもAIカメラが設置されていたりする。
入口のモニターに設置されたAIカメラは入店した人数を把握。レジの上にもAIカメラが設置されており、こちらではレジを通過した人数を把握。これらのAIカメラで把握した入店人数とレジ通過人数から店内にいる人数を把握する。
さらにそれを活用し、以後、レジにどの程度並ぶかをAIで予測。場合によってはアラートを出すことでレジを開けるなどの対応につなげ、できるだけ列を作らないようにするといったことも行っていく。
売場内では陳列棚の映像を天井からぶら下がっているAIカメラで解析し、欠品を自動で検知して従業員に知らせるシステムも導入。
日配の冷蔵ケース、精肉、常温のパン、惣菜など合計9台設置されている。モニターは事務所に設置されていて、欠品するとアラートが出る。補充をし、タブレットで操作をすると表示から消える構造になっている。状況は3分の頻度で更新する他、どの状態を「欠品」とするかは任意で設定できる。
日配などは売上げも高く、購買頻度も高いことから補充頻度も高く、欠品も発生しやすいことからAIカメラを設置し、重点的に管理している。
そのため、補充頻度が低いグロサリーなどには設置されていない。
今後、データが蓄積されることで、欠品の発生しやすい品目、時間帯などが分かってくれば、あらかじめ対策も打てると見込む。
このシステムを導入することで最適なタイミングで商品の補充が可能になり、お客がスムーズに買物を楽しめることに加え、店側は従業員の業務量や人時を削減することが可能となる。
また、壁面の冷蔵ケースの上にタブレットが10カ所、10台設置されているが、ここにもAIカメラが内蔵されている。このカメラでは性別、年代を予測しながら、人の動きや視線などを把握している。
これについては、欠品検知のカメラと併せた活用も期待する。例えば、欠品の売場に視線が向けられていたら「機会損失が発生している」といった分析につなげることができるわけだ。逆に欠品していても人が流れていれば「機会損失ではない」といった判断もできる。
「レコメンドカート」で自身でスキャンしての買物&情報提供
AIカメラの他に天下茶屋店での大きな取り組みの1つが、タブレット付きのショッピングカートである「レコメンドカート」を導入したことだ。
お客が自身で商品をスキャンしながら買物をしていくことでレジ待ちの解消を図る他、お薦めの商品の提案やレシピ提案などの情報提供も実施する。
自身でスキャンする買物については、寺岡精工の「Shop&Go」を搭載。タブレットのカメラもしくは、ハンディスキャナーで商品のバーコードをスキャンすることで商品が登録されていく。
お客が商品のバーコードを読み取ると、ソフトバンクのグループ会社であるヤフーが提供する多様なサービスから得られるビッグデータや神戸物産が保有する実績データなどを基にAI が導き出した推奨商品やレシピをタブレットに表示する。このAI による提案が、お客の購買意欲にどのように影響するかを検証する。
提案される商品は過去の購買データでの組み合わせに基づいたものとなり、過去1~3カ月のデータを任意に設定する形。新規店舗の場合は、オープン当初は類似店舗のデータを用いることになる。
この取り組みは1年程度前から取り組んできた。売場にはこのレコメンドカートの他、通常のカートやレジ(セミセルフレジ)も導入しているが、今後はいかにレコメンドカートの利用率を高めるかが鍵となる。
高まることで従業員のオペレーションの負荷が減る効果が高まるからだ。神戸物産としても、ソフトバンク、あるいはヤフーによる情報提供を差別化として利用率を上げていきたい意向だ。
ソフトバンクとしても今後、レコメンドのロジック、ヤフーの検索ワードからのランキングなどのトレンド情報の充実、ソフトウェアはアップデートを図っていく。
データは蓄積されることによって店特有の情報になっていく他、導入店舗が拡大することによって地域特性なども蓄積していき地域特性に合わせた提案も可能となっていくとみる。
また、店内では天井に9カ所ビーコンが設置され、レコメンドカートで買物をしていると近くにあるお薦め商品の情報が表示されるようになっている。このビーコンによって客動線のデータも取れるため、今後は分析、レイアウトの改善にもつなげていきたい意向だ。
バーコードを読み取った商品をカートに入れると、タブレットでカート内の商品を一覧で見ることができ、買い忘れ防止となる他、その時点の買物合計金額も一目で確認できる。
レコメンドカートは、専用の精算機での会計になる。精算機の会計ボタンを押すと、タブレット端末に会計コードが表示される。それを精算機のスキャナーでスキャンすると精算機にデータが移り、確認後、会計するという流れとなる。
スキャン忘れの商品などもある可能性があることから、最後に従業員が立ち買上点数などを確認する形を採っている。
一方で、神戸物産の電子マネー「Gyomuca」の展開が始まっていることから、これの活用による個別提案にも期待を寄せる。Gyomucaは、まだ使用店舗が天下茶屋店を含め2店しかないが、来年からは加盟店への拡大も見込む。プラスチックカード、もしくはスマホのアプリによる運用で、現金によるチャージのみの対応している。
これをレコメンドカートと連動させると、個人の購買履歴と紐付けられるようになることから、今後、個別の提案にもつなげていきたいという。現在はログインでの展開をしていないが、今後、ログインを導入する可能性もあり、そうすると、その人個別の提案につなげることができる。
神戸物産は2000年3月に「業務スーパー」の第1号店をオープンし、フランチャイズ展開で急成長を遂げてきだが、今回、直営店での取り組みによって投資対効果などを検証し、それを踏まえた上で加盟店への導入を提案していく。今後は省人化を図る中で次第に、無人化を目指していきたいという。
加盟店の投資を抑えるため、防犯カメラなど既存のカメラを活用してAIカメラに切り替えるといった形も前提にある。
ソフトバンクは、「Beyond Carrier」戦略の下、従来の通信事業者の枠を超えて、幅広い産業分野における革新的なサービスの提供や、他社との共創による DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みに注力している。
今回、業務スーパー天下茶屋駅前店で検証するソリューションや取り組みを生かして、小売業界が抱える人手不足の課題解決や新しい買い物体験の創出に貢献し、業界の DX を促進することを目指すとしている。ソフトバンクは今回の仕組みを月額の利用料金によるSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)で提供する。
神戸物産はフランチャイズ本部として全国に900店以上の業務スーパーを展開。店数は今年6月末段階で928店に及ぶ。「良いものをより安く」をコンセプトとして製販一体体制を構築し、国内外の工場で製造したプライベートブランド商品などを主力として展開している。
登録アイテム数は生鮮を除いて約5300。天下茶屋店は約2500。そこにテナントの青果と精肉が加わる。冷凍はアイテム構成比でも20%強を占め、強化中。賞味期限の長さによる利便性の高さもあって、アイテムの60%弱を占める常温と同様に強化している。
業務スーパー天下茶屋駅前店概要
オープン日/2021年8月26日
所在地/大阪市西成区岸里1-3-4
営業時間/9時〜21時
店舗面積/878.89㎡