SKS JAPAN 2023レポート「小売業を超える、小売業のビジネストランスフォーメーション」

2023.08.25

2023.08.17

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長 藤田元宏氏
同社 プログラムマネージャー 満行光史郎氏 インタビュー  2023年7月27日

Foodbiz-net.com 道畑富美
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食とテクノロジー・サイエンスをテーマに、分野を超えて食の未来を語り、創造する場であるSKS JAPAN 2023 -Global Foodtech Summit-(SKS JAPAN 2023)が、7月27日〜29日に開催された。

今年度は、米国、アジアだけでなく、欧州そして南米からと、参加者もよりグローバルに、1200人超、437社が集い、熱いディスカッッションとネットワーキングが繰り広げられた。

初回の2017年から開催6回目となるSKS JAPAN 2023のテーマは、「UNLOCK(アンロック)」。業界業種、あるいは国や地域を超えて、そして既成の概念を解き放ち、新たなビジョンを描こうと100人を超える登壇者による約40のセッションに、参加者たちは大いに刺激を受けた。

SKS JAPAN 2023のオープニング。主催者であるThe Spoonの Michael Wolf氏とシグマクシス田中宏隆氏(筆者撮影)

今回は、社会実装されたサービスや商品も多く登場し、特に、大手食品メーカー各社が、テクノロジー活用、あるいは、高いサステイナビリティを目指す商品を提案した。また、一部は試食にも供され、展示ブースも大いに盛り上りをみせた。

小売業からは、昨年に続き、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の藤田元宏氏とプログラムマネージャーである満行光史郎氏が登壇。今年も新たな取り組みを披露した。

藤田氏は19年のSKS JAPANに登壇して以来、毎回のプレゼンテーションで、スーパーマーケット(SM)という枠を越えて取り組みを披露してきた。今年は何が飛び出してくるのか、大いに期待が膨らむところである。

「SMの枠を越えて行く」(U.S.M.H藤田氏)

セッションの冒頭、U.S.M.HはSM3社が統合し、現在530店を抱えると自社を紹介し、企業が大きくなると、対応が遅くなりがち、スピード感を持って対応することが求められると述べた。

その上で、VUCAの時代、23年からの第3次中期経営計画について、3つのエンジンを確立するとした。1つは、既存SM事業の再定義と活性化で店舗の収益を拡大するエンジン、2つ目は、店舗外、つまりオンラインや移動販売など店舗外での収益を拡大すること、そして第3のエンジンは、デジタルの知財や自社の植物工場である「THE TERRABASE 土浦」、および「BEYOND MEAT」を使ったB to Bなどビジネス領域を拡大することであると説明した。

登壇するU.S.M.Hの藤田元宏氏(写真提供:SKSJ2023シグマクシス)

実際、19年から22年まで、オンラインデリバリーのマーケットは年々拡大しており、U.S.M.Hは、このマーケットをOMO(Online Merges with Offline)の新たなビジネスモデルとして構築しつつある。一方、店舗に来店できないお客に対しては、SMとしておよそ70台の移動スーパーを展開するなど、店舗外の事業が活発さを増している。

とはいえ、第1のエンジンが肝心の要。リアルの店舗で顧客との接点をいかに創造していくか、今までのデジタルによる成果物をベースとして、品揃え、見せ方、売り方、コミュニケーションをより向上させる。

同社の最新フォーマットでもあるBLΛNDEを筆頭に、買物の形をどんどん進化させていく。お客の期待が、また従業員をスキルアップさせ、店を変える、そんな循環も生まれているそうだ。

食を通じた新しい日常文化の創造

昨年は、PLANTX社との連携によって植物工場の立ち上げと店舗での販売を開始した。また代替肉の米国BEYOND MEAT社との国内独占販売契約を発表。これらの事業は、順調に広がっている。

そして今年は、化粧品のオルビス社と共に、新しい食品ブランドを立ち上げることを発表。セッションでは、オルビス株式会社CRM・メディア戦略部CX統括担当担当部長の田村陽平氏が加わってのプレゼンテーションとなった。

同社は、売上げの7割がオンライン販売、そして3割は、93店舗(取材当日時点)の直営店からという、ビジネスモデル。美容について、女性の顧客とのコンサルテーションからさまざまな商品やサービスが生み出されるという。「化粧品とSM?」何が創出されるのだろう。

それは「Inner Color Deli」というブランドの冷凍食品、当日は、商品のプロトタイプも展示され、参加者が試食もできるようにブースが出された。

野菜が多用された色鮮やかな料理が並び、評判は上々の様子。パッケージは、化粧品に適用されるようなデザイン、そして商品に書かれたコピーは、化粧品のコピーライターが担当するという力の入りようで、冷凍食品のケースにどう並ぶのか、興味津々である。もちろん、店舗以外にもEC(電子商取引)にも登場する予定とのこと。

オルビス社との共創による新ブランド「Inner Color Deli」のラインアップ(写真提供:U.S.M.H)

両社は、「キレイも元気もバランスよく」のコンセプトの下、シナジー効果を期待して出発した。最初は、業種や企業風土の違い、例えば、U.S.M.Hの男性経営陣が表参道のオルビスオフィスを訪問した際の違和感、またSMと化粧品事業という全く異にする収益構造など、大きなギャップも多々あったというが、それを乗り越え、素晴らしい商品に仕上がったという。今年10月に上梓の予定とのこと。

オープンで対等な関係が、新しい価値を生む

SKSJ2023のセッションでは、他にも、U.S.M.Hのデジタルの仕組み、「Scan & Go ignica」の事業の1つとして、みんなの銀行イグニカ支店の開設などにも言及された。

Scan & Goとみんなの銀行とのアプリ連携イメージ(写真提供:U.S.M.H)

こういった、業種を超え、他社との協働により、企業価値を創造していく基盤となっているのが22年3月にスタートしたAKIBA RUNWAY(アキバ・ランウェイ)というオーブンイノベーションプラットフォーム。

ユニークなテクノロジーを持つ企業との連携の中から、小売業における新しい提供価値を創出することを目的とし、現在、79のシーズ(事業のたね)が集まり、実際に24のプロジェクトがテイクオフしている。

19年のSKS JAPANに登壇し「一緒にやる企業や人を求めています!」と協力を求める藤田社長がけん引する取り組みは、決して上から目線でなく、独自の技術や経験を持つ企業と対等な関係を結び、実際に、小売業という従来の概念を突き破っていくものに思える。

一消費者としても、SMは楽しいものであってくれるようにと、期待が膨らむ。

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