物流2024年問題、結局どうなった? 改めて課題と小売業への影響を整理する

2024.04.22

経営コンサルタント事務所アズライト代表 榎本博之

いわゆる「働き方改革」の一環として、これまで猶予期間が設けられていた運輸業や建築業にも時間外労働の上限規制が適用されるようになった。今後「物流2024年問題」の影響がさらに顕在化してくるだろう。

4月1日の施行後、大きなトラブルは報じられていないが、現場ではすでにその対応に追われている。今後想定される課題とその対応策について考えてみたい。

物流2024年問題とは、24年4月1日からトラックドライバーの時間外労働について、年間960時間、月80時間という枠で上限が設定されたことを指す。

この規制によりドライバーの労働時間が制限され、輸送能力の不足が懸念されている。経済産業省が行った「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、何も対策を講じない場合、輸送能力が24年に14.2%不足し、30年には34.1%まで不足が拡大すると試算されている。これに対応するため「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、流通業界全体でその対応を進めている。

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月の時間外労働時間が80時間というのは、法定労働時間と合わせると1日の目安が11~12時間程度となる。国土交通省の調査によると、荷役やトラックの点検などの運転以外の業務に約2時間、荷待ち時間に約1.5時間を平均で要しており、これらを除くと実際の運転可能時間は8.5時間~9.5時間となる。

例えば、北海道札幌市から道北の稚内市や道東の根室市へのトラック輸送を考えると、高速道路を使っても4.5時間を超えることとなり、ドライバー1人での往復輸送が現実的には不可能となる。

野村総合研究所の調査では、物流2024年問題に加え、労働人口の減少に伴い、30年までに北海道内のドライバー数が約27%不足すると試算されている。さらに、荷物の3割が運べなくなるとも発表されている。しかも、これらの問題は北海道に限らず、全国各地で既に顕在化している。

メーカーサイドでは、加工食品をはじめ、これまで鮮度や納品日時を重視してきた生鮮部門で深刻な問題が起きている。生鮮を取り扱う事業者は商社を除いては、中小規模が大多数を占めており、今回の対応ではコスト増加の影響を受けている。

標準的な運賃が8%上昇でも運送業者の半数は赤字のまま

これまで依頼していた運送業者から物流2024年問題を理由に対応が困難と断られ、別の運送業者との契約により輸送コストが大幅に増加している事例も実際に起こっている。近年では、店頭訴求の差別化要素として、産直を打ち出す売場づくりが目立っているが、輸送コストの負担が生産者側に発生していると、今後の継続的な取り組みに影響が出てくる可能性もある。

全日本トラック協会の調査によると、22年度の決算分析を行った結果、半数以上である57%が赤字であったという。トラックの保有台数が101台以上の大規模事業者は平均して黒字を確保しているのに対し、20台以下の小規模事業者は同赤字であるとされており、規模間の格差が顕在化している。

国土交通省は20年4月より、運送事業者に対して「標準的な運賃」を定め、告示を行っている。これは運行距離と車種による「距離制運賃」と運行時間と車種による「時間制運賃」を設けると共に、運賃の他に「積込料・取卸料」「付帯業務料」などの別途料金についても請求を行うように要請している。

この標準的な運賃は24年4月に8%上昇したが、実際には告示通りの運賃上乗せを実現しているのは一部に限られており、依然運送事業者の半数が赤字にとどまっている。中小メーカー、生産者の実情には理解を示しつつも、このまま何もせず手をこまねいていると、共倒れになる危険が高まる。双方のメリットを享受するための、付加価値拡大に向けた取り組みが急務な点は流通業者全体に当てはまる。

コストの上昇により、廃業を選択するケースも

また、流通全体の物流の根幹を担ってきた生鮮市場においても、物流2024年問題の影響が出始めている。特に、青果市場においてはエリアをまたいだ大規模チェーンの出店増や、本部機能・仕入機能の集約による特定市場の集中仕入れにより、これまで衛星都市で役割を果たしてきた地方市場の機能低下、閉鎖が目立ってきている。

取引環境の変化や市場流通自体の規制緩和に加え、物流2024年問題が重なり、問題の深刻さが増している。市場内の仲卸においても輸送コストの負担が増大しており、倒産、廃業、売却に至るケースが少なくない。日本有数の市場である大田市場においても、仲卸数の増減はないがオーナーチェンジやM&A(企業の合併、買収)はここ数年毎年発生している。

地方市場が閉鎖されると、生産者の輸送距離が延長され、コストの増加につながる。また、コスト増により採算が見込めない場合、生産者が高齢化を理由に廃業を選択するケースが増えている。市場閉鎖や集荷自体が困難になると、地域に根差す小売店の仕入れが難しくなり、そのエリアのライフラインとしての買物の場がなくなってしてしまう可能性も高まる。

すでに人口減少スピードが加速しているエリアでは、買物難民対策として取り組みを進めている移動販売や配送サービスの採算が見込めず、事業から撤退するところも出ている。

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ここまでの問題に至らなくても、地方市場ではすでに集荷や品揃えに影響が出ており、ギフト商材や希少アイテムを生産地から直接取り寄せることができず、大都市の中央市場を経由した仕入れに頼るケースが出ている。生鮮品の場合、転送分の輸送コストに加え、鮮度劣化の要因となり、商品回転や値入れへの影響が懸念されている。

また、市場での仲卸の大規模化、集約化は、物流機能の効率化にはプラスの効果をもたらすものの、取引の硬直化や価格に対する競争意識の希薄化を招く恐れがある。とある地方市場では仲卸の集約が進んだことで、仕入価格の開示に積極的ではない動きが出ている。

競争相手となる他の仲卸がいなくなると、仕入れに対する情報入手が限定的になってしまうケースといえそうだ。効率化を図る一方で、健全な取引環境をどのように維持、整備しているかも問われてくるだろう。

市場においては生産者からの荷受けについての問題が発生している。すでに説明した通り、ドライバーの時間外労働の上限規制が適用されると、長距離輸送への対応が難しくなる。中継点を設けドライバー人数を増やすか、トラックの積載量を増やして1人で運べる量を増やすといった対策が必要である。

ドライバーを増やせば輸送コストにダイレクトに上乗せされる。トラックの積載量を増やすことが現実的であると思えるが、実際には受け入れる市場のインフラが整っていなければ対応は難しい。

例えば、5tトラックの荷台を2つ連結して運ぼうとしても、それを受け入れ可能なヤードを所有する市場はほとんどなく、市場の近くで荷台を分け、手分けして輸送するか、ドライバーをもう1人確保して対応するしかない。結局、これもコスト負担の増大につながるだろう。

市場でも集約化が進み、スクラップ&ビルドされ、市場自体の機能強化を図っている。仲卸も積極的に設備投資を行っているところが、小売業のセンター機能を担いながら新たなビジネスチャンスにつなげている。

一方で、このような動きは一部に限られており、全体的に考えれば規模間格差は今後さらに広がり、選別と中央市場からの転送に依存するケースが増えてくるのではないか。

情報の収集と顧客への理解が鍵に

小売側においても、呉越同舟的な取り組みが全国的に広がっている。共同物流の推進、マテハンの運用見直し、荷待ち時間の削減などに取り組んでいる。また、これまでは小売中心の要望が目立っていたが、サプライチェーンの最適化を目指し、メーカー、ベンダーサイドとの連携も進めている。

実際現場サイドでは、毎日の仕入れを見直し、週5回に減らし、輸送コストの削減に取り組む例がある。また、発注締日を前日から2日前に前倒しし、運送業者が配送計画を前もって立てられるように協力するといった動きもある。

生産者や市場の動向を考慮すると、「必要な時に必要なものが届かない」「輸送を断られる」といった状況は、小売業においてももはや対岸の火事ではなくなっている。

それに加え納品遅延、価格バランスの維持、サプライチェーンの適正化、提供するサービス自体の見直しへの対処がこれから求められてくる。今後の課題については、以下のような点に留意する必要があるだろう。

①データの可視化と分析の徹底

経験と勘だけに頼った商品仕入れ、調達は困難になってくる。取引先とのウィン・ウィンを明確に描ける企業だけが選ばれ、根拠をもって説明、提案ができることが求められる。コストや在庫、需要予測などこれまで人海戦術に頼っていた部分をどのように効率化していくかが物流2024年問題対処への第一歩となる。

②リアルタイムでの情報把握

幾らデータを分析しても、その状況が瞬時に活用できなければ競争優位性は発揮できない。即断即決に役立つ仕組みづくりが発注、在庫の適正化にも貢献するだろう。その先には、自動での発注や在庫管理への取り組みが進められていくことになる。

③丁寧な説明と交渉

判断は瞬発力が求められるが、理解については慎重さが求められる。これまで蓄積してきたデータや実績を基に、相互理解を促す姿勢が重要となる。自社の利益だけを追求するのではなく、全体最適を目指していくための腹を割った話し合いが求められる。

④テクノロジーの有効活用

現状の仕組みのままでは買物のライフラインが維持できないエリアが発生する可能性がある。採算性をどのように確保していくかがポイントとなり、既存の前提条件を排除した新たな取り組み実現することを期待したい。

⑤顧客へのメッセージ発信

近年小売業でも「ブランディング」というフレーズが目立つようになっている。商品自体や価格的な魅力は重要だが、顧客に強いイメージを持ってもらい、最初に思い出してもらうことが重視されている。

物流2024年問題に対しては、他企業との連携を通じて、社会的な貢献についてもアピールできる機会となる。顧客との関係づくりを深める一助として活用できるだろう。

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