業務効率化だけじゃない「DXの意義」とは? 第2回

2020.10.01

第2回 小売業における「リモートマネジメント」の可能性を考える

ナレッジ・マーチャントワーク代表取締役 染谷剛史

Withコロナの環境下において、従業員・お客の感染予防のため、SV(スーパーバイザー)の「臨店業務」が制限されるようになりました。また多くの企業出張などの頻度を少なくし、販売管理費の削減を考えるようになっています。このような環境変化が店舗経営に大きな影響を及ぼす中で、遠隔で店舗をマネジメントする「リモートマネジメント」へのニーズは急速に高まっています。

P.Fドラッカー氏が提唱する「マネジメント」から考える

まず、「マネジメント」とは何かということですが、この概念の発明者であるP.Fドラッカー氏が提唱する「マネジメント」とは以下の5つになります。

①目標設定する

②組織をつくる

③コミュニケーションを取り、モチベーションを高める

④結果を測定する

⑤人材開発をする

「マネジメント」を実行するということは、この5つの要素を実現することです。例えば店舗の売場に自分がいなくても、この5つの要素を具体的に実施することができれば、「マネジメント」は可能になります。

元組織人事コンサルタントとして研修を重ねてきた私自身も、マネジメントとは「人を動かし、成果を出す技術」であり、自分の力だけで成果を追求するのではなく、人を組織し、成果を出させ、その成果が自分1人よりも大きな成果につながるようにすることだと思っています。

そのように考えると、マネジメントは ITを活用した「遠隔=リモート」でも可能なのです。現在はクラウドカメラやタブレット、スマートフォンなどが普及し、リモートマネジメントを可能にする環境が整いつつあると感じています。

そこで弊社では、ある大手スーパーマーケットとリモートマネジメントの実験を行いました。

1つ目は私の会社で提供する「はたLuck」(従業員のスマートフォンにダウンロードして使用してもらう仕事用アプリ)の「連絡ノート(業務連絡)」というコミュニケーション機能を活用した取り組み、2つ目はクラウドカメラの画像をパソコンやスマートフォンから確認しながら遠隔で指示を出し、どのように売場が改善されるかを検証しました。

事例1)売上げを意識した売場づくりをリモートマネジメント

各売場を担当する従業員が、自分で作った売場の画像を撮ってアプリ上に投稿し、その日の売上目標を宣言します。その投稿に対してSVや店長は、売場の出来栄えに対するフィードバックを5段階評価で行い、営業終了後に従業員は売上結果を報告するという一連の流れを毎日、3カ月に渡り実施しました。またこの投稿は、同じ取り組みを行う他の店舗の従業員にも閲覧できるようにしていました。

この取り組みによって従業員に対し、日々の営業にしっかりと目標設定させること、上司からのフィードバック、結果を振り返らせること(効果測定)ができるため、売場づくりという、ルーティン作業になりがちな仕事に「気づき」を与えるものになりました。

従業員からも、「これまで何となく売場をつくっていたが、SVからのフィードバックがあり、それがうれしく、また宣言した売上げを意識するようになった」といった声が上がっていました。従業員は仕事に「目的や意味」を見いだしており、日々の業務を通じて人材開発につながっていると思います。

また、同じ取り組みを行う複数店舗の従業員全員が擬似的に代理体験できるため、売場を作った本人だけではなく、他の従業員にとっての学びとなり全体のレベルアップにもつながっています。これで400人近い従業員の能力開発がITツール(アプリ)を使うことでできたと考えると、ITを活用したリモートマネジメントならでの効果になっていると思います。

スクリーンショットの画面

自動的に生成された説明

事例2)店長へのリアルタイムマネジメント

続いて、生鮮3品の売場に固定クラウドカメラを設置し、売場全体が見えるように広範囲の画像を24時間撮影しました。SVには重要な時間帯には各店舗の売場の画像をスマホアプリで確認し、リアルタイムで店長に指示を出してもらいました。また、SVと複数の店舗の店長の間で、売場コンセプトやクロスセルなどの情報を毎日交換して、生鮮3品の売り方を変化させていきました。

こちらも、店長には1日の店舗の売上目標があり、それに対して適切に売場に商品を補充し、時間帯によっては商品を変更し、1日の売上達成を図ります。事例1が1人の従業員に対し、1日1回のマネジメントチャンスだとすると、クラウドカメラを使ったリアルタイムマネジメントは、1日の中での重要な複数の時間帯(朝、昼、晩等)の売場をその都度マネジメントすることが可能になります。重要な時間の売場を複数店舗同時に可視化し、指示が出せる回数が多くなったことで、販売機会を最大化させることにつながりました。

臨店業務で売場指導をすることになると、1日に臨店できる店舗数も滞在時間も限定されてしまいます。クラウドカメラを使うことによって、重要な時間帯の全ての店舗の売場を把握し、比較することができ、多くの指示やアドバイスをすることを可能にしています。

また、スマホを使って画像を切り取り、リアルタイムで横展開できるので、店長会などの会議を待たずに、商品政策や売場改善を日次や週次単位で変更可能になりました。マネジメントするタイミング、回数が増加し、店の「売る力」が底上げされたと思います。

写真, 異なる, 多い, 画面 が含まれている画像

自動的に生成された説明

以上のような検証から、画像を活用したリモートマネジメントの効果は大きいと考えています。

特に小売業にとっては、毎日の売場づくりの積み重ねが売上げを作っていくため、ITを活用することで、遠隔による指示でも「売場づくり力」を底上げし、人材育成につなげることが可能になります。

またクラウドカメラの導入は、遠隔でも指示をするタイミングを逃さず、指示の回数も増すことができます。このように店舗サービス業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、これまでの臨店業務業だけではできなかったことを可能にします。これは単なる業務効率化だけではなく、人材能力開発やモチベーション向上という積極的なマネジメントが可能になることを意味すると思います。

そめや たけし 1976年茨城県生まれ。小山工業高等専門学校電気工学科卒、信州大学経済学部卒。98年リクルートグループ入社、中途・アルバイト・パート領域の求人広告営業などに従事。2001年デジットブレーン入社、副編集長、ホテルやハウスウェディングのコンサルティングに従事。03年リンクアンドモチベーション入社、大手小売・外食・ホテルといったサービス業の採用・組織変革コンサルティングに従事。12年同社執行役員就任、新規事業開発(グローバル事業立ち上げ、健康経営部門の立ち上げ)を経て、サービス業に特化した組織人事コンサルティングカンパニー長に就任。17年 ナレッジ・マーチャントワークスを設立、代表取締役に就任。チェーンストア経営の組織変革を目的にサービス産業に特化したリテールテック事業を推進。

はたLuck サービスサイトhttps://hataluck.jp/

第1回目はこちら「従業員エンゲージメントを高めることから始める店舗の変革

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