クルベ江木店が誕生、ベルクが「限界に挑戦する」ディスカウント新フォーマットを読み解く

2023.08.03

2023.08.02

ベルクが群馬県高崎市の江木店をリニューアルし、新フォーマットとなる「クルベ」の1号店として7月29日、オープンした。既存の「ベルク」フォーマットの文字を入れ替え、ディスカウントフォーマットを開発した形となる。

JR高崎駅から直線距離で約1kmの住宅地に立地する店舗で、ヤオコー高崎高関店とは約200mの距離で競合している。

特徴ある建物の形は既存のベルクと同様。店名の下に「Challenging the limits of Belc(ベルクの限界への挑戦)」とある

チラシ、売価、サービス、キャンペーンなどは既存のベルクフォーマットとは変え、ナショナルブランドの低価格販売、もしくは自社調達による「驚きの安さ」を実現する他、決済手段を現金のみにするなど、あえてサービスを絞り込むことによる「潔いサービス」、さらに売場を「宝の山」に見立て、買物に「冒険」の要素を加えるという大きく3つのコンセプトを打ち出している。

建物は基本的に旧店のものを活用しているが、売場は既存ベルクとは異なる。すっきりしたレイアウトで、売り込み商品の大量陳列などが目に付く、チェーンストアの原則に沿った売場はしっかり踏襲されているが、それをディスカウントに寄せたような売場づくりとなっている。

また、既存店でも生鮮、日配、加工食品で一部、ケースのまま陳列することで、陳列のオペレーションを簡素化する取り組みは実施しているが、それがより広範に行われている他、ゴンドラエンドを含め、常温の加工食品では投げ込み陳列方式、あるいはケース販売も多用されている。

酒を含む飲料は常温で販売し、さらにその旨を説明するPOPを設置している。

常温販売の漬物。現状、日配は多くが冷蔵販売だが、今後は常温で販売可能なものは常温で販売されていくかもしれない

売場レイアウトは第1主通路に青果売場、精肉売場をまとめ、続いて鮮魚売場となり、さらに続いて惣菜売場が配置されている。

鮮魚売場はディスカウントということもあり、売場自体がかなり狭めになっている他、「お魚の調理はいたしかねます。ご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます。」と掲示されている。

結果として平ケースの冷凍の塩干が目立つが、一方で壁面では刺身の盛り合わせから海鮮丼、握り寿司、助六など巻き物が並ぶ形となり、鮮度感がある他、鮮魚と惣菜が隣接していることのメリットを生かしている。ちなみに巻き物ではキンパを5切れ399円(本体価格、以下同)で展開するなど、しっかりトレンドも押さえた品揃え。

ディスカウントだが、生鮮、惣菜は店内加工が主力

全体的に売価は「Everyday Low Price(エブリデーロープライス、毎日低価格)」が主流だが、一部特価特売も活用。

エブリデーロープライスでは「極PRICE」と銘打たれた形で、青果ではホウレンソウ99円、小松菜79円、トウモロコシ99円、精肉では牛バラ切り落とし100g当たり99円といった商品が並ぶ。

特価特売では「VERY VERY LOW PRICE BY CLBE RAINBOW PRICE」と銘打ち、青果ではレタス59円、長ネギ99円、精肉では国産黒毛和牛切り落とし100g当たり299円といった商品を展開する。

ディスカウントを志向する場合、生鮮食品ではプロセスセンター、惣菜では惣菜工場などアウトパックを活用するケースが多いが、ベルクの場合、既存店の設備を生かしているためか、店内加工が主体となっている。その分、生産性を高めるためか、大容量パックのフェースが広く取られているようだ。

惣菜は、「肉肉研究会」とブランディングされた肉惣菜を最初の平台で大々的に展開。「店内調理」と大書されたシールで店内加工をアピールしている。カツ丼は299円だが、目玉商品としてハンバーグ1つとナポリタンと白米が入った「ハンバーグ弁当」、同様に唐揚げ3個とレタス、白米が入った「唐揚げ弁当」を199円で販売。かなりインパクトがある。

また、群馬県ということで、地域商品の「鶏飯」に相当する「炭火焼 とり重」は299円で販売。

当然、子会社ホームデリカによる工場製のアウトパックの冷惣菜やレンジアップ商材も展開するものの、惣菜も多くが店内加工で、シズル感ある売場になっている。こちらもカツ丼などでは通常(299円)のおよそ2倍はあろうかという「メガ」サイズ589円、「飾り気のない煮豚ほぐし丼・・・(メガ盛り)」599円といった商品が展開されているなど、大容量のインパクトある商品がところどころに並ぶ。

惣菜の大容量商品の1つ「MEGAカレー!(店内炊込み)」(555円)。推定のカロリーは1371kcal
群馬県の地域商品といえる「鶏飯」も、299円の値頃で販売。売場では大量陳列

全体的な売り込み商品作り、買物体験は「コストコ」を思わせる

店内加工の商品を陳列するオペレーション上の工夫とみられるのが、壁面の揚げ物については後ろから補充できるようにしている他、バックヤードに窓を設けた上で物流センターのローラーコンベアのようなものを、傾斜を付けて設置し、そこを通じて商品を売場側に出している点だ。

当然、ローラーコンベアの終着点には商品が溜まっていくが、売場の従業員がそれを陳列していく流れになっている。少しでも移動距離を縮めようとする取り組みの一環といえる。

一方で惣菜では平台の前に人員を配置し、積極的に試食を実施。必然的に売場にはにぎわいが出る。

大容量の商品の売り込み、試食の実施といった要素は、「コストコ」を思わせる要素である。そもそも買物スタイル自体、かごは用意されず、あくまで大型を含めたカートによるものとなっている他、従業員の多くがカジュアルな服装(レジ人員以外はエプロンを着用)ということで、買物体験はコストコのそれに近いといえるかもしれない。

なお、レジは、カウンターのないセミセルフタイプで、従業員がお客の横に立った状態でカート内の商品をスキャンする方式。その後ろに精算機があり、現金のみで会計をし、サッカー台を経て外に出るようなっている。

フォーマットの標準化を志向し、長年に渡ってシンプルで同じ形の店の出店を重ねつつ、そのフォーマット自体を進化させることでチェーンストアとしての強みを発揮してきたベルクだが、昨今は「シンプル」から少しはみ出た演出や売場づくりが増えていた。

今回のクルベはそれをさらに発展させたような印象で、販促物には派手なものも目立つ他、「クルベ」専用のものも多用している。また、店内放送もクルベ専用の内容をラジオのDJのような口調で語るものとなっていて、思わず聞き入ってしまう。

また、例えば冷凍食品のリーチインケースの照明には人感センサーが付けられているようで、近づくと照明が灯るようになっていたりと、さまざまな実験を行う舞台になっているようでもある。

肉、あるいは大容量商品を前面に打ち出し売場づくり、派手な演出など、全般的に若年層をターゲットにしていると感じられる今回のクルベ。店内加工主力のディスカウントフォーマットとして、必然的に高めの販売効率が求められる他、生産性の高い大容量の商品が売れることがポイントとなりそうだ。

その点、「消費期限の短い生鮮食品を大容量で買う」という二律背反的な問題がクリアできるか、実際にそれを実現しているコストコ的な手法がその解決の鍵となるのかは、大きな注目点といえる。(8月1日訪店)

クルベ江木店

所在地/群馬県高崎市江木町75

営業時間/10時〜20時

駐車場/約200台

お役立ち資料データ

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