HoloLens(ホロレンズ)とは?仕組みやビジネスでの利用事例を交えて解説
2022.04.22
2022.02.03

近年、MR(複合現実)技術の活用が、あらゆる企業で進んでいることもあり、注目を集めている「HoloLens(ホロレンズ)」。
しかしその一方で、HoloLensについて聞いたことはあるものの、それが果たしてどのようなもので、私達の生活にどう影響を与えるのか、理解している人は少ないのではないだろうか。
そこで本稿では、HoloLensの概要や特徴、MRとの関係性などについて詳しく解説する。また、HoloLensを活用した最新の企業事例についても紹介するため、本稿を一読することにより、HoloLensに関する理解が大きく深まるだろう。
目次
HoloLens(ホロレンズ)とは?

そもそもHoloLensとは、一体どのようなものなのか。概要や特徴、さらには最新のHoloLensの仕様や価格など、幅広く解説する。
HoloLens(ホロレンズ)とは
HoloLensとは、Microsoft社によって開発された「自己完結型ホログラフィック」デバイスである。
HoloLensは、頭に装着するデバイスとなっており、ユーザーが装着することにより、MR(複合現実)を体験できる仕組みだ。
エンタープライズ対応のアプリケーションと併用することで、製造業や建設、教育、医療の現場などビジネスシーンでの利用も可能になり、普及が加速している。
HoloLensは、2016年3月にアメリカで販売されたことを皮切りに、翌17年1月には日本での販売も開始された。また、19年11月からは、初代の進化版である「HoloLens2」の販売がスタート。22年1月末時点で、HoloLens2が最新のものとなっている。
HoloLens(ホロレンズ)の特徴
HoloLensには、Windows10が搭載されており、スタンドアローンで利用できる点が、特徴として挙げられる。つまり、パソコンやスマートフォンへの接続をすることなく、利用できるのだ。
また、スタンドアローンであることから、コンピューターウイルスや不正なアクセスによる情報流出のリスクを避けられる、などといった利点もある。
その他にも、HoloLens上で体験した情報を他のユーザーと共有したり、「Cortana」が搭載されているため、英語を使って音声操作したりすることもできる。
HoloLens(ホロレンズ)の詳細
現在の最新モデルである「HoloLens2」は、42万2180円から購入可能(22年1月末時点)。保護キャリーケース、オーバーヘッドストラップなどの付属品に加え、1年間の保証サービスも付随している。
初代HoloLensと比較して、改良された点の一つとして「装着性」が挙げられる。
初代HoloLensは、ヘッドセットを頭部全体で支える構造となっていたが、HoloLens2では、前頭部と後頭部の2カ所で支える構造に改良。これにより、装着時の動きやすさが向上した。
また「視認性」に関しても、初代HoloLensから大幅に向上した。解像度と視野角が、改良されたからである。特に視野角は、初代HoloLensが23ピクセル(1度当たり)だったのに対し、HoloLens2は、47ピクセルと、実に2倍以上大きくなっているのだ。
上述したもの以外にも、マイクのチャネル数が増加したり、メガネ着用時においても使いやすくなったりするなど、あらゆる面でスペックが高まっている。
HoloLens(ホロレンズ)とMR(複合現実)の関係性

HoloLensによってMR(複合現実)を体験できると述べたが、具体的にどのようなMRを体感できるのか。MRの概要を解説した上で、深堀りしていく。
MRとは(複合現実)とは?
MR(複合現実)は「Mixed Reality」の略で、HoloLensをはじめとした専用のデバイスを利用することにより、現実世界と仮想世界が融合された空間を体感できる技術のことをいう。
MRと似た意味を持つ言葉として、AR(拡張現実)があるが、ARはあくまでも現実世界をベースとし、そこに仮想世界のコンテンツなどを追加表示させるものである。
MRが発展することにより、あらゆるビジネスシーンにおいて、良い影響がもたらされることが期待される。
HoloLens(ホロレンズ)で体感できるMR(複合現実)とは
HoloLensで体感できるMRの代表例として、成果物の完成イメージを、リアルなスケール感で体感できる点が挙げられる。HoloLensを装着することにより、あたかもそこに存在するかのように、見ることができるからである。
さらに、映し出されたホログラムは、拡大や縮小、回転などといった操作もできるため、関係者同士で、より質の高いコミュニケーションを図れるのだ。
また、HoloLensと同じくMicrosoft社が提供している「Remote Assist」を使うと、複合現実の世界にいながら、ハンズフリーでの通話や、画面共有などといったことも実現できる。
以降の章では、HoloLensを活用している企業の事例を紹介しているため、実際のビジネスシーンでどのように活用されているのか、理解が深まるだろう。
HoloLens(ホロレンズ)の活用事例

HoloLensの活用事例として、一体どのような取り組みが行われているのだろうか。
ここからは、以下4社によるHoloLensを活用した事例を紹介する。
- サントリー
- PARCO
- TOYOTA
- 東急建設
サントリー
多種多様な飲料製品を取り扱い、国内でも有数の飲料メーカーである、サントリーグループ(サントリー)は、次の3つの課題を実現するべく、HoloLens2の導入を開始した。
①需要の増加
製品ライン全体の需要が継続的に増加すると予測されたことを受け、新たな需要に対応するべく、生産性と従業員の規模を拡大する必要があった。
②従業員の年齢構成
サントリーの従業員の大半が、今後10年のうちに定年を迎えることから、新入社員を大量採用。新入社員の研修を効果的に行うための作業指示を提供する仕組みについて、再考する必要があった。
③製造工程の複雑さ
製造チームが1日に50種以上のチェックリストを利用するほど、工程のチェックリストは非常に複雑になっていた。その上、複雑なチェックリストの中には、習得が困難な技術も含まれていたのだ。具体的には、色の判別や機器の洗浄およびメインテナンス、小ロット生産を行うための切り替えの実施などである。
サントリーは、HoloLens2独自のMR機能に、「Dynamics 365 Guide」の機能を組み合わせることが、上記3つの課題に対処する上で最適だと判断したのだ。
なお、「Dynamics 365 Guide」は、HoloLens用のMRを実現するためのアプリである。
新たなアイデアやコンセプトの実現可能性などを検証する「概念実証(PoC)」には、サントリーの担当チームが数週間かけて取り組んだ。
この取り組みでは、「Dynamics 365 Guide」のガイド作成機能を活用し、200段階にわたる手順を、ステップバイステップの3D手順書に変換した。
3D手順書は新入社員向けに作成されたもので、手順の中で特定のタスクを行うべき場所を点線や矢印、手の形の3Dモデルなどで作業者に示しているという。
作成された手順書は、3カ月間、サントリー白州蒸溜所に配備され、これまでの職場内研修との比較検証が実施された。訓練を受けていない従業員が実際に、ヘッドアップ、ハンズフリーの操作手順書とホログラムを介して、「Dynamics 365 Guide」に表示される情報だけを頼りに、サポートを受けることなく、手順を進めていった。
サントリーは、今回の検証結果を通じて、「Dynamics 365 Guide」を活用することにより、全従業員がタスクを習得するまでの時間を最大70%短縮できる可能性を示している。
同社は、今後もHoloLensの活用を進めていくという。
参考:HoloLens 2 と Dynamics 365 Mixed Reality を活用し、品質維持と高まる需要への対応を同時に実現
PARCO
1969年に「池袋PARCO」がオープンして以降、50年以上にわたり、ファッションを中心に、アートやカルチャーなど幅広く、活動し続けているパルコグループ(パルコ)。
19年に、次世代型商業施設「渋谷PARCO」がグランドオープンした際には、XRを駆使した取り組みで、大きな注目を集めた。XRとは、仮想的な空間があたかも現実の世界のように感じさせる技術のことをいい、MRをはじめ、VRやARなどの総称である。
XRを駆使して、数々の取り組みを行った「渋谷PARCO」は、開業1カ月で約2万5000人を動員した。
XR技術の活用により、多くの人々にインパクトを与えたパルコは、16年よりXRの取り組みを本格的にスタート。数多くある取り組みの中には、 HoloLensを活用したバーチャルショップへの共同出店も行われた。
パルコの執行役員でCRM推進部兼デジタル推進部担当の林 直孝氏は、HoloLensについて、以下のように語っている。
「HoloLens のような現実を拡張するデバイスは、この組み合わせをさらに増やすものです。MR の世界観が加わることで、買い物をより楽しく新しいものに進化させることができます。(※1)」
しかし、20年以降は、新型コロナウイルスの影響により、リアルな場所でのXRを体験する機会は大きく減少。それでもパルコは逆風にさらされることなく、デジタルやXRの強みを生かした施策を行っている。
例えば、「名古屋PARCO」は、ARを活用したクリスマスイベントを20年に行った。仮想的に密なイベントを演出することで、大きな成功を収めたのだ。
※1:渋谷PARCO のリニューアルオープンで XR を活用! 新たな体験価値を共創したその思いとは
TOYOTA
世界中のドライバーから高い支持を集める「トヨタ自動車株式会社(トヨタ)」は、車両の整備や修理の複雑化が進む中、HoloLens2の導入を開始した。
販売店の整備士に対し、革新的なトレーニングや修理作業のサポートおよび最新の視覚化機能を提供するのが狙いだ。
さらに、既存の車両サービスを改善かつ迅速化するために、HoloLens2で異なる4つのMRソリューションの開発も併せて行った。これらのソリューションは、21年6月時点で、国内67カ所の販売店に設けられており、さまざまなレベルで展開されている。
4つのMRソリューションの内、最初に構築されたものは、自動車のワイヤーハーネス作業を行う整備士を対象としたものだ。トヨタでは10年以上前に、マニュアルがデジタル化されており、整備士はオフィスのコンピューターからマニュアルを利用できるようになっていた。
しかし、マニュアルに掲載されているワイヤーハーネス図を確認するには、現場からの移動をはじめ、多くの手間があった。ノートパソコンを使用して現場で作業をするにしても、パソコンの画面と車両を見比べなくてはならない。その上、整備士は、ハイブリッド車をはじめ、複雑化が進む最新の自動車にも対応しなくてはならないのだ。
このように、HoloLens2が導入される前までは、多くの問題点を抱えていたが、HoloLens2が導入されると、これらの問題点は大きく改善されることとなる。
HoloLens2を装着した整備士は、ワイヤーハーネス図面を車に直接重ね合わせて3Dで確認できる。これにより、現場とオフィスの移動や、ノートパソコンを使用する必要がなくなったのだ。
また、トヨタのスペシャリストである坂井 博氏(Mixed Reality サービスインフォメーションリード)は、HoloLens2が導入された効果について、以下のように語っている。
「エンジンを調べる際、すぐに確認すべきことが目の前で可視化されるので、時間を大幅に節約できます。数分前にマニュアルで確認した内容を覚えることも見返す必要もないのです。そのまますぐに、問題の部分を迅速かつ正確に修理することができます。(※2)」
なお、残りの3つのMRソリューションについても、HoloLens2の導入により、作業効率のアップは当然のこと、複雑な修理でも遠隔で専門家からサポートを受けることができるようになるなどHoloLens2という最新のテクノロジーにより、大きな変革をもたらした。
トヨタは今後も、最先端技術の活用により、整備士の仕事が進化することを示していきたい考えだ。
※2:HoloLens 2 の Mixed Reality によって複雑な修理を簡素化、迅速かつ効率的なトレーニングを実現
東急建設
東京・渋谷に本社を持つ「東急建設株式会社(東急建設)」は、「Microsoft Azure Remote Rendering 」を利用したMRソリューションの導入を開始した。
全てのステークホルダーが、共通の建物完成形をイメージできるようにし、かつ、施工現場の品質や生産性をさらに向上させたい、という背景のもとAzure Remote Renderingが導入された。
Azure Remote Renderingは、3Dモデルをクラウド上でレンダリングし、それをストリーミングすることで、リアルタイムにHoloLens2などのデバイスに表示できるサービスである。
HoloLens2を装着することにより、建物の全体像や建築の仕様、各種計測値などさまざまな詳細データの確認が可能となる。
また、技術者や設計者は、立体像をイメージすることに慣れているものの、顧客にとって立体像をイメージすることは困難だ。顧客にとっても、HoloLens2の活用により、計画段階での建物の完成イメージや、プロセスを確認できる。
このように、HoloLens2の活用は、東急建設の社内にとどまることなく、あらゆる方面に良い影響をもたらすのだ。
また、HoloLens2は、現場での検査を行う上でも大きな変革をもたらしており、林 征弥 氏(東急建設株式会社 建築事業本部 技術統括部 デジタルエンジニアリング部 部長)は次のように語っている。
「HoloLens 2 を使用すれば、設計図やチェックリストなど書類一式をかかえながら現場を歩き回らなくても、MR 表示されたプランで確認できます。時間が大幅に省ける、と検査担当者の皆さんにも好評です(※3)」
林氏は今後についても、「将来的には HoloLens 2 を利用し、施工の現場で 3D イメージを見えるようにすることで、設計や施工品質におけるあらゆる齟齬をなくしていくのが私たちの夢です。(※3)」と語っており、HoloLensを活用した東急建設の今後の取り組みから目が離せない。
※3:東急建設による HoloLens 2 と Azure Remote Rendering を使用した技術精度と生産性の向上
まとめ
今回は「HoloLens」について、その概要や特徴、仕様などを解説すると共に、HoloLensを活用している企業の最新事例についても紹介した。
各企業の最新事例から、HoloLensの利用により、あらゆるビジネスシーンにおいて活用度合いが広がっていることを理解してもらえたのではないだろうか。
各企業が変化を起こすためのツールとしてHoloLensを利用していることには注目したい。