ベルクが実験する売場のDX、AIカメラで業務の改善と向上目指す

2022.09.07

AI(人工知能)カメラのクラウド録画サービス大手のセーフィーは、小売り、飲食などの店舗を運営する業態に向けて、映像データを活用し、業務効率化や省人化などの課題解決に貢献するエッジAIカメラ「Safie One(セーフィー・ワン)」を開発し、9月28日に発売する。

「Safie One」は、システムの末端にAIを搭載した「エッジAI」を利用した「AI-App(アイアップ)」をインストールしており、ユーザーの用途に応じてカメラのアプリケーションが切り替えられ、カメラの賢さがどんどんアップしていくのが特色。

第1弾として、小売り、飲食向けに、「Store People Detection Pack(ストア・ピープル・ディテクション・パック)」の提供も同時に開始する。

これにより、立ち入り検知、通過人数カウント、立ち入りカウントにより、来店人数や混雑具合を可視化することが可能となり、現場の課題解決につながるとする。映像から「働く」を変え、より効率的に人が働ける環境を実現させることを目指す。

「Safie One」は、「Store People Detection Pack」内にある人検知機能を強化し、レジ前に人が滞留している状況を可視化するなど人流を解析することができ、リアルタイムでも録画映像でも現場の様子を確認することが可能。

何かあったときに映像を確認する防犯・監視はもちろん、遠隔で自分の目の代替として見る能動的な使い方もでき、さらに、既存業務ツールとの連携も可能で、クラウドプラットフォーム上の機能が増し、サードパーティーを巻き込んだエコシステムの構築も視野に入る。

また、LTEアタッチメントを利用すると、インターネットに接続せずにクラウドに接続することができ、さらに、Bluetoothのヘッドセットやスピーカーを接続することで、インタラクティブに通話が可能となるなど、さまざまな環境で使えることが強みとなる。

高画質、高セキュリティで、ユーザビリティを追求した高い操作性も特色で、解析アプリも気軽に始められる。

惣菜のフードロス対策に活用

発売に先立ち、同社は、埼玉を中心に関東でスーパーマーケット(SM)を127 店展開するベルクと共同で、小売業における業務の改善と向上を目的とし、エッジAIカメラ「Safie One」による店舗業務の実証実験を行った。

セーフィーが8月2日に発表した「スーパーでの買い物に関する調査」の結果によると、レジ待ちの長さや混雑、品揃えや欠品が理由で利用する店舗を変えたことがある人が約半数(50.2%)と、混雑や欠品が機会損失を招いていることが分かる。

調査結果では、惣菜コーナーでは従業員の約半数が惣菜、弁当の売れ残りが多いと思っており、買物客は3人に2人が「なるべく食品ロス対策をおこなっている店舗を利用したい」と思っているとしており、フードロス対策を実施することが、店舗のイメージアップや販売向上につながることがうかがえる。

こうした課題を解決するために、今回の実証実験を実施することになったわけだが、これまでも、ベルクでは、既存の設置カメラにおいて売場での陳列、売れ行きの確認やバックヤードでのオペレーション確認に映像を活用し、売上拡大や業務改善に取り組んできた。

一方、店長、部門管理者といった店舗従業員は、業務が多忙で、映像を見る時間を割けないという課題が存在していた。

そこで、クラウド録画サービスの映像とAIが連携し分析を行うことで、従来の業務における課題の改善と新たなスタイルを創出するため、実証実験を自資することになった。

ベルクフォルテ我孫子店(千葉県我孫子市)で今年4月から実証実験をスタート、惣菜売場の弁当エリアを俯瞰できる場所に「Safie One」を設置した。

映像とAIによる立ち入りカウント検知を連携したデータ分析を行うことで、適切な弁当の陳列と補充を行うことで、弁当エリアの滞留率検知による販売精度の向上を図る。

今回はエリアを4分割したゾーン計測により、滞留数、通過人数、滞留率を数値化、来店客の立ち寄りが一番高いエリアを明らかにし、人気商品などを適切に配置することを実現させた。

立ち入りカウントにより、それぞれのエリアにおける来店客の回遊の把握から、消費者の購買行動に合わせた商品配置を変更、曜日や商品キャンペーンにより、旬の商品や売り切り商品の配置の決定を行った。

実証実験から得られたデータは、売場の担当者など店舗従業員だけではなく、SV(スーパーバイザー)も共有し、気づきとなるよう活用し、店舗オペレーションの改善にも役立ていく。

今後は、販売実績のデータと掛け合わせることで、値引分析、PI値分析による管理にもつなげていく。

データを販売力のさらなる向上に生かす

また、店舗入口2カ所に「Safie One」のカメラを設け、通過人数カウント(ラインカウント)による検知も行った。

入店時のライン検知により取得できる滞在者数から曜日、時間帯の傾向を把握することで、レジ開放やシフト最適化につなげていく。

さらに通過人数カウント、立ち入りカウントの検知データとPOSの販売データを連携し、店舗の統合的な数値の可視化も図っていく。

「SMの2大課題はレジ待ちと欠品。今回のSafie Oneによる実証実験は、こうした課題を解決し、弁当エリアをはじめ、今後の販売力向上につながるヒントが見えた一歩と捉えている。思い込みではなく、見える化、数値化できたことで、売場の状況が明らかになった。滞留率の変化など、映像とともにAI計測による具体的な数値を、これまで差異が生じていた各店舗へ提示し、店舗共通の視点が生まれることで、販売力のさらなる向上につながると考えている」(原田裕幸・ベルク取締役システム改革部長)

今回の実証実験から、映像とAIによる立ち入りカウントを活用することで、商品販売に関する新たな知見を得ることができた。

これからは、映像とAI連携により、惣菜、弁当コーナーにおけるフードロスへの貢献も期待でき、通過人数カウントによる時間帯別の滞在者数の分析を進めることで、最適なレジ開放数やシフト配置による混雑エリアへの改善をはじめ、立ち入りカウントとPOSデータを連携した店舗の統合的な数値の可視化も目指していくことしている。

こうしてベルクは、セーフィーと共同で、AIカメラを売場で活用することで業務改善や売上増を図っていこうとしている。

「Belc Digital Lab(ベルク・デジタルラボ)」でDXを加速

ベルクはいままでも、QRコード決済をはじめとするキャッシュレスサービスやスマートフォンで決済できるセルフレジサービス「スマベルク」の導入を進めてきた。

さらにSMのDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるため、「Belc Digital Lab(ベルク・デジタルラボ)」を8月からスタートさせている。

異業種・異分野の企業団体が交流を深めるため、技術のマッチングや、ベルクの店舗を活用した実証実験に向けた検討の場として、定期的なオフラインイベント開催を予定しており、ベルクに対する提案についても随時受け付けている。

「ベルクでは、『小売業は変化対応業』をスローガンに、日頃よりデジタル領域で先進的な取り組みを行っている方々と共にDXを加速していきたいと考えている。ベルクの店舗を実験場として捉え、一緒にDXに向けた実証実験を進め、『Belc Digital Lab』から新しい時代を生み出していきたい。どんな化学反応が起こるのか今から楽しみだ」(原島一誠・ベルク社長)

ベルクに限らず、DXの推進はSM経営における課題解決のために欠かせない取り組みである。今後、進めていく上で、将来を見据えた全社的な視点から俯瞰した戦略と、現場に落とし込んだ具体的な展開の双方が必要とされ、費用対効果もきちんと検証していくことが求められる。

そのためにも現状の課題を的確に把握し、どのように改善し、さらに新たなバリューを提供していくか、きちんとした見取り図が欠かせない。(取材・文/西川立一)

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