シリコンバレー発「体験型ストア」b8ta(ベータ)が日本上陸

2022.04.12

2020.08.07

「体験型ストア」として米国で小売関係者から注目されていたb8taが、日本法人であるベータ・ジャパンを通じて2020年8月1日、新宿マルイ本館1階と有楽町電気ビル1 階という都心の好立地に、日本初進出となる2 店を同時オープンした。

b8ta は15年、サンフランシスコ近郊のシリコンバレーの一角でもあるパロアルトに1号店をオープン。売場には平均的な大人の腰の高さほどのテーブルの形の什器が整然と並び、約60㎝×40㎝を1区画として、区画ごと什器の上に商品とタブレットが並ぶ。お客はそこにある商品の現物を実際に試すことができる他、その商品に関する情報をタブレット、もしくは売場にいる「テスター」と呼ばれるb8taの従業員から得ることができる。

大きな特徴は、その場が「販売を主目的に置いていない」という点だ。「b8taのミッションは『Retail Designed for Discovery.(リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす。)』。発見、体験がキーワード」と北川卓司・ベータ・ジャパンカントリーマネージャーは言う。もちろん、今回2店に並ぶ145種類以上の商品の8割以上はその場で購入することもできるが、あくまで重視するのは、「発見」と「体験」となる。

北川卓司・ベータ・ジャパンカントリーマネージャー

米国ではこの「b8ta」フォーマットを23店の他、アパレルを試すことができる新フォーマットの「Forum by b8ta」の1号店をロサンゼルスにオープンし、2フォーマット体制。日本事業は米国b8ta inc.とベンチャーキャピタルのEvolution Venturesの共同出資で設立されたベータ・ジャパン合同会社が行う。日本で事業を開始するに当たって、丸井グループ、三菱地所、カインズがEvolution Venturesなどと組成したファンドを通じて出資。また、凸版印刷は米国法人に直接出資した。

1区画月額30万円の出品料でオフライン体験

販売を主体としないのは、同社のビジネスがRaaS(リテール・アズ・ア・サービス、サービスとしての小売り)と呼ばれるものだからだ。b8taは商品の売買差益を得るわけではなく、出品者から1区画当たり月額30万円前後という一定額の出品料を得る仕組みになっている。

その上で、出品者には商品をお客に体験してもらうマッチングの場の他、収集したさまざまなデータを全て開示、提供し、マーケティング活動に生かしてもらう。データは販売や在庫管理といったものはもちろんだが、大きなものとして「店内のお客の行動データ」がある。どのような人が来店し、区画の前を何人が通って、どれだけの滞在があったのかといった定量的なデータを収取し、それらはソフトウエアでの分析も可能。

また、テスターが集めたお客の声といった定性的データも提供される。出品者とテスターはチャット機能で直接やり取りが可能。お客の生の声を蓄積しながらフィードバックができるようになっているのだ。

行動データについては、2種類のカメラで収集。まずは入口に設置されたデモグラフィックのカメラが来店客のおおよその年齢層と性別を判別。その際、データには個人情報を残さず、すぐに数値化して破棄する。もう1つは天井に複数設置されたAI(人工知能)カメラ。これらが全区画を撮影しており、区画の前を通った人数、滞在時間などを観察。また、テスターがデモンストレーションをした回数も把握できるようにしている。

来店客の年齢層と性別を記録するデモグラフィックのカメラ
全区画を撮影し、区画の前を通った人数、滞在時間などを記録するAIカメラ。天井に多数設置

具体的には、区画の前を5秒以内で通り過ぎると「IMPRESSIONS」、通過した人としてカウント。また、区画の前に5秒以上滞在すると、AIカメラがその商品に興味があると識別し「DISCOVERIES」となる。生のデータの他、類似商品が出品していた場合、それと自社の商品のパフォーマンスを比較できるといった機能もある。ちなみにこれらのデータはリアルタイムではなく、1日の終わりに更新されるようになっている。

サブスクリプションモデルとして、これらデータの提供の他、店舗運営に必要なテスターの手配と接客応対、在庫管理、販売代行、イベント実施、そのテスターのトレーニングやシフト管理、さらに物流サポート、POSといった、およそリアル店舗に必要なものは全て付帯サービスとして月額の出品料金に含まれている。

「店舗運営に必要なものを全て、サブスクリプションの形でお渡ししているのがRaaSのモデル。おもしろい点は、区画の提供だけが契約になるので、物が売れた場合、売上げは出品者に渡ること」(北川マネージャー)。b8taでの売上げは「全額」出品者に渡るようになっている。

配置、お客への応対はb8taの従業員が行う

今回、2店合わせて145種類以上が出品されたが、商品を店内のどこに配置するかは全てb8ta側が決めている。回遊性を重視しているのはもちろんだが、意外な発見を生むなど、お客に「どのような体験をしてもらうか」といったことも考慮しているという。この辺りからは「小売業」としてのこだわりが伝わってくる。

「いろんなものが置いてある雑多感すらも楽しめるような店舗にしたいと思っている。やはり、オンラインで自分の興味のある分野を検索していくと、自分の範囲を少し超えたものを発見、体験することがしにくくなっているように思う。いろんなものを1つのフロアに並べることで、自分の興味のあるものの隣りに、全くいままで見たことがないもの、興味を持ったことがなかったものがあることが、b8taのおもしろさにつながる」(北川マネージャー)

また、もう1つ「小売業」としてのこだわりとして、お客への応対はあくまでb8ta側のテスターが行うという点も挙げられる。前述のように接客においては販売を主目的にしていないが、北川マネージャーは、「差別化のポイントはトレーニングの方法」という。

まずは可能な限り、テスターは出品者から直接トレーニングを受けるようにしている。さらに商品の機能だけでなく、出品者の会社のミッションなども話せるようにしているという。スマホからでも学べる独自のオンラインの学習システムを構築。学習状況も分かるようになっていて、全てのコースについてクイズ(テスト)をクリアしないと店頭に立てないようにするなど、かなりこだわった教育態勢となっている。

ちなみに、売場では販売を主目的にしないため、「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」とあいさつにするようにしているという。

低コストでリアル店舗のデータを収集できることが強み

出店者からすると、「体験付きの広告」のようなものと言えばよいだろうか。そして、お客は商品を発見、体験することを期待して、「メディアを見るように」来店する。b8taが「体験型ストア」と呼ばれるゆえんだ。

米国b8taのヴィブ・ノービー・共同創業者&CEOは、「世界の素晴らしいメーカーに素晴らしい小売体験を提供し、そして世界中の消費者にその素晴らしい商品を実際に体験する場所を提供しています」と語る。独自のRaaSが持つ、この「リアル店舗での体験」という要素を武器に、特に競争が激化しているオンラインの小売りとの差別化を図る。あるいは、オンライン小売りに対しては、オフラインの機能を補完するサービスを提供する。

「従来からの小売業が苦戦して、オフラインが難しくなってきて、また、メーカー側に消費者の声が届きにくいということも言われる中、オンラインへの移行が続いている。RaaSがそうした現状打破できる可能性があるのではないかということで、われわれのビジネスモデルに注目していただいている」と北川マネージャーは言う。

その上で北川マネージャーは、b8taに出品するメリットを3つ挙げる。まずは①リアル店舗出店/ブランド体験コストを最小化すること。また、販促POPも貼らず、商品とデバイスだけのシンプルな造りのため、②ブランドの世界観・イメージを維持した売場づくり、体験提供ができること。そして、③オフライン店舗のデータを活用した一歩先のマーケティング。ネットの世界ではなく、リアル店舗のデータを収集できることが強みと考えている。

①のコスト最小化の側面でいえば、たとえば、出店準備はどこからでも、オンラインで可能になっている。契約すると、プラットフォームであるダッシュボードへのアクセス権が与えられ、あとはそこに情報を入れるだけ。それで店頭の商品横のタブレットの情報の更新や店内データの管理などが簡単にできる。通常、実際の運用開始まで4週間ほどで実現できるという。

「オフラインへの出品を、まるでオンラインのEC(電子商取引)店舗に出品するのと同じぐらい気軽に、早く、安価に、を実現する独自のプラットフォームを持つ」と北川マネージャーは強みを強調する。

最低契約期間は6カ月で、契約期間中の商品変更は最大で2回としている。商品について、データをじっくり集める重要性が高いこともあるが、あまり頻繁な変更ではテスターの教育が難しいということもある。

前述のとおり現在、米国に23店の他、ドバイにも1店オープンしている。今回、米国、ドバイに続いてなぜ、日本に進出したかについては、まず、①サンフランシスコの店に日本からのお客が多かった他、②ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)でも多く日本人が話題にしていることを察知していたことがある。将来的に視野に入れるアジア展開の入口としての位置づけもあるという。

出品ブランドの世界観を体現する「エクスペリエンスルーム」

今回、新宿マルイ本館および有楽町電気ビルの1階へのオープンとなったが、「東京都内でも屈指の素晴らしい場所だと思っている。目的来店だけでなく、通りすがりのお客さまにも多くご来店いただける良い場所」と北川マネージャー。

「商業施設内の低層階に出店するのはかなりハードルが高い。路面店の出店も、デザインを含め施工にお金もかかるし、あるいは運営するにしてもハードルが高い。つまり、オフラインのプレゼンスを上げるのは難しい」(同)

その意味では、ネットで立ち上がった企業がリアルの店をオープンする前段階として、オフラインを体験するという活用の仕方も考えられる。

店内には幅広い商品が並ぶが、2店とも「エクスペリエンスルーム」と名付けられた、出品ブランドの世界観を体現した半個室の区画も設けている。

新宿の店にはエクスペリエンスルームが1室設けられ、ネットショップ作成サービスのBASE(ベイス)の加盟店19ブランドが1カ月間、2週間ごとに10ブランドずつ入れ替わる形で出店。

BASEは、個人でも、決済などを含め全て無料で、たったの2分で簡単にネットショップが開けるサービス。ショップ数は12年の創業から累計110万を突破するなど勢いがある。ネット発だけにオフラインのニーズが高いことから18年に丸井と協業し、渋谷マルイにSHIBUYA BASEという常設の店舗も出店している。今回も同様にオフラインの取り組みの一環だが、同社などはまさにネット発の企業のオフライン体験という意味合いが強い。

新宿の店は百貨店のマルイ本館の中にあるため、出入り口がない。そのため、中に大きな通路を通すような配置とするなど回遊を重視した。今回、出資企業でもある丸井グループの上席執行役員も務める青野真博・丸井社長は、「アメリカでは本当に小売りの未来を象徴するような店として、ものすごく支持されているし、尊敬されている店。丸井も小売りのビジネスをずっと営んでいるが、いまのままでは小売りのビジネスは非常に難しくなると思っている。これからの小売店は体験を提供できるように変わっていかなければいけないと思う」と語る。

米国と同じ什器を船便で運ぶ

今回の日本での事業開始に当たって、什器は米国と同じものを船便で輸送。あえて商品をカテゴライズしないシンプルな造りで、先入観なく商品を体験できるという米国の雰囲気を再現した。特に有楽町の店は、新宿の店の2倍以上の広さを持ち、路面店のような形となっているため、より米国の雰囲気に近いという。

有楽町の店は、広い分、エクスペリエンスルームが3室あり、オープン時はホームセンターのカインズと、グーグルが1室ずつ、そしてもう1室はイベントスペースとして出品企業とのコラボレーションイベントなどを開催する予定だ。

カインズは壁をコーポレートカラーのグリーンにして、オリジナル商品を16商品出品。ちなみに同社は新宿の店にも10商品を出品している。一方のグーグルは7点以上の商品を展示。

グーグルのエクスペリエンスルーム
デジタルディスプレーにスマホのカメラをかざすことでメッセージが読み取れるという仕掛けを設け、デバイスを通すことでさまざまな発見があることをメッセージとして伝えている

カインズは出資企業でもあるが、その理由について渡邊喜久・社長補佐は、「RaaSというb8taのサービスが、お客さまの買物体験を楽しくするための非常に有効な技術で、これからも成長していくであろうと思った」と説明する。

カインズでは、2019年からの現在の中期経営計画で「デジタル戦略」を柱に据え、「ストレスフリー」「パーソナライズ」「エモーショナル」の3つをキーワードとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

「ストレスフリー」はレジの自動化や売場で商品の場所がすぐに分かるといった取り組み、「パーソナライズ」は、個人のマーケットデータを分析する取り組み、そして、今回のb8taへの出品は、商品を体験してもらうという「エモーショナル」の取り組みという位置づけになる。特に今回の立地の場合、店舗を出しづらい都心部での認知度向上などが見込めるのは大きい。

カインズでは、DXを促進するため米国の小売事情を吸収することを目的に昨年6月、シリコンバレーにコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立。今回のb8taへの投資はその第1号となる。b8ta自体はCVC設立前からマークしていたという。

有楽町の店に設置されたカインズのエクスペリエンスルーム
新宿の店のカインズの商品。売場先頭に10商品が並ぶ

アパレル、ロボットとコラボレーション

今回、b8taの日本進出に合わせて、FABRIC TOKYOが展開する完全無人スキャンボックスを活用したテックアパレルブランドの「スタンプ(STAMP)」とGROOVE Xが開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」とコラボレーションも実施。

FABRIC TOKYOは、14年からオーダーメイドのスーツやシャツのBtoCブランドを展開している企業。リアル店舗でデータを採寸、登録して、その後オーダーメイドで買うというシステムで、STAMPはシルエット、カラー、レングス、ポケットをカスタマイズしたジーンズが作れる店となる。

丸井グループから出資を受け、STAMPブランドの完全無人、無在庫のわずか1坪のボックス型店舗を19年11月に新宿マルイ本館に出店しているが、今回、b8taの有楽町の店にも同様の店舗を出店した。店内は3Dスキャンルームになっていて、スキャンしてデータを登録、オーダーメイドでジーンズが作れるようになっている。さらに今回、そのジーンズをb8taのテスターの制服として採用した。

らぼっとは1万点の部品から構成される家庭用の家族型ロボット。仕事をするわけではなく、ペットのようにいっしょに過ごすためのロボットだ。今回、コラボレーションとしてb8ta Tokyo – Yurakuchoの週末店長も期間限定で務めた。

今回、2店をオープンしたb8taだが、昨年の段階では積極的に多店舗化することも視野に入れていたものの、新型コロナウイルスの影響もあって現段階は当面は2店で検証を重ねる方向に転換した。その後、ビジネスモデルとしての改善余地などを模索し、主要都市に出店していきたいとしている。必ずしも都市型にこだわるものではないが、出品企業が魅力を感じるのはやはり、多くの来店がある都市型立地となるため、当初は都市部が中心となるが、将来的には小売業とのコラボレーションなども含め、郊外型の出店も可能と考えているという。

今回、新宿の店は出資者の丸井の店の中にある。同様に出資者のカインズとしても、現在は閉店してしまったが、米国ではホームセンター業界2位のロウズの店内にb8taが出店していたこともあって、自社店内での展開も視野に入れているという。

北川マネージャーは、「新しいカテゴリーとして『b8taっぽい店だね』と呼んでいただけるまで成長していく。日本のb8taに関しては、日本の皆さまと共に進化しながら、新しいものを作り上げていきたい」と日本ならではの取り組みに意欲を見せる。

b8ta Tokyo – Shinjuku Marui

店舗面積/約122㎡
出品可能区画数/125区画+エクスペリエンスルーム1区画
従業員数/8人(うち6人が丸井から出向)
出品料/月30万円前後
最低契約期間/6カ月
期間中の展示品変更可能数/最大2回
ターゲット層/幅広く日本、海外、老若男女
想定来店層/ファミリー層

b8ta Tokyo – Yurakucho

店舗面積/約256㎡
出品可能区画数/110区画+エクスペリエンスルーム3区画
従業員数/8人+α
出品料(1区画)/月30万円前後
最低契約期間/6カ月
期間中の展示品変更可能数/最大2回
ターゲット層/幅広く日本、海外、老若男女
想定来店層/ビジネスパーソン

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