イオンリテールがネットスーパー事業で店舗受け取り「ドライブピックアップ!」を本格稼働開始

2022.04.12

2020.09.15

イオンリテールが、インターネットで注文した商品の「店舗受け取り」を強化する方針を発表した。9月10日、イオン東久留米店(東京都東久留米市)に専用レーンやインターホンなどを備えたドライブスルー方式による注文商品の受け取りサービス「ドライブピックアップ!」を設置、本格稼働を開始した。

2021年2月期の上期、イオンリテールはネットスーパー事業の中で、店舗で受け取れる「ピックアップサービスの強化」に注力。注文した商品を自宅に配送するのではなく、お客が店舗まで来店し、受け取るサービスで、ピックアップサービスを利用すれば配送の場合に近隣店舗で300円(本体価格)かかる配送料もかからない。

イオンリテールでは、08年にイオン津田沼店(千葉県習志野市)で店舗から商品を送る「店舗型」のネットスーパー事業を開始。順次拡大し、現在では東北を除く本州、四国の「イオン」「イオンスタイル」約180店でネットスーパー事業を展開しているが、上期中に約180店全店へのピックアップサービスの導入を果たした。

導入は今年の4月から始めたが、当初の計画では半年以上かけ、年末ぐらいに全店導入想定していたが前倒しし、お客からの要望を聞いてサービスを改善するフェーズに入った。

欧米を中心にネットスーパーの商品受け渡しの形として定着、強化が図られているBOPIS(Buy Online Pickup In Store)のイオンリテール版といえ、宅配が主流になっている日本でも次第に取り組む企業が増えてきた印象だ。

新型コロナウイルスの影響もあってか、21年2月期第1四半期段階でも、上期累計でも、イオンリテールのネットスーパー事業の売上げは前年比で約2割の伸長を示す他、同期間の新規会員数は昨年の約3倍と、事業としても大きな拡大傾向を示している。

3密を避けるため店舗への来店の抑制や、なるべく「触らないようにしたい」という意識の高まりが指摘される中、ネットスーパーの利用が増えていることが想定され、前倒しでの全店導入もそうした傾向を受けたものといえる。

また、配送の場合、予約でいっぱいになってしまう時間帯もあるが、そうしたときの代替手段としてピックアップサービスを利用することも考えられる。「ご不満の解消につながる1つのやり方でもあるし、営業機会の拡大とも捉えられる」(太田正道・イオンリテールネットスーパー本部本部長)

実際、ピックアップサービスを導入することで、ネットスーパーの受注件数は上がるという。店舗によっても異なるが、現状の上限は1店当たり1日30件程度となっている。出荷数を増やすため、導入店では梱包する作業場のスペースを拡大するなど設備面の見直しも進めてきたが、ピックアップサービスの導入で人員が大きく増えることはなく、横断的な応援態勢で対応してきた。

ドライブ、カウンター、ロッカーの3つのモデル

イオンリテールは、ピックアップサービスに関して、店舗の特性などに応じて3つのモデルを展開。1つ目は上期段階で約80店で展開している「ドライブピックアップ!」。主に大きな駐車場を完備した店舗に導入を進めている。

駐車場で車に乗ったまま商品を受け取れるモデルで、お客は注文時に、受け取り時間を設定し、それに合わせて車で来店。あらかじめ受け取り場所として設定されている場所で従業員を呼び出し、従業員が車まで商品を運ぶ。

車に乗ったまま従業員を呼び出すことができるインターホンが設置されており、従業員は商品を車まで持って行き、助手席、後部座席、トランクなどお客の要望に応じて積み込む。決済はすでにネットで完了しているため、積み込み後、お客、もしくは代理で従業員が確認のサインをすれば買物は終了。

ドライブピックアップは新型コロナの感染が拡大した4月末にイオン羽生店(埼玉県羽生市)で展開を開始し、拡大してきた。今回、東久留米店への導入に際し、利用客のさまざまな要望を受けながら設備面をブラッシュアップ。専用レーンや従業員を呼び出すためのインターホンの設置なども含め設備面、運用面に関して東久留米店を1つのモデルとして発表するに至った。

東久留米店では専用レーンを設置。途中に設置された従業員呼び出し用のインターホンの上と商品を渡す場所に屋根を設置する予定だが、写真撮影した段階ではまだ設置の手続き中。10月中に設置予定で、完成する
専用レーンに入り、インターホンで従業員を呼ぶ
その後、所定の位置まで前進し、待つ
従業員が店内からあらかじめセットしてある商品を車まで運ぶ
商品は注文後、店内でネットスーパー担当の従業員が商品を集める。その後、温度帯別に常温、冷蔵、冷凍の設備で保管し、お客がピックアップに来る時間帯にアソートして渡す
商品の積み込みは助手席、後部座席、トランクなどお客の要望に応じて従業員が積み込む
お客が確認のサインをするが、非接触を望む場合は代理で従業員が行うことも可能

ピックアップサービスモデルの2つ目は「カウンターピックアップ!」。サービスカウンターなどのカウンター越しに手渡しで商品を受け取るモデルで、徒歩、あるいは自転車でのお客が比較的多い店で実施。最終的には展開店数では、このタイプが一番多くなるとみている。展開店は上期段階で約130店、東久留米店でも実施している。

「カウンターピックアップ!」。商品を買い集めたり、レジに並ぶ手間が省けるというメリットがある

3つ目のモデルの「ロッカーピックアップ!」はロッカーを設置し、お客が注文した商品を従業員がロッカーに入れ、保管、お客はロッカーに注文番号を入力して商品を受け取るモデル。主に都市型店舗や駅前の店で展開する方針で、上期段階で約10店での展開となっている。

利用が多い「ドライブピックアップ!」を要望を踏まえて改善

太田本部長は今回のピックアップサービスの強みについて、配送型のネットスーパーとの比較では、配送時間に合わせて在宅する必要がなく、外出や予定に制約を受けない点、店舗での買物との比較では、商品を買い集めたり、レジに並ぶことなく、受け取るだけでよい点を指摘する。実際、ネットスーパー利用者からはこうした点に関する改善の要望が上がっていたという。

実際、上期に3つのピックアップサービスのモデルを強化する中、お客からはさまざまな反響があった。小さな子供がいる世帯や共働き世帯などから「買物時間の短縮」に対して好意的な意見などが寄せられたという。

一方で、改善の要望もあった。たとえば「ドライブピックアップ!」では、「受け取り場所を分かりやすく表示して欲しい」、あるいは「従業員を呼び出す方法を工夫して欲しい」という声もあった。それら1つ1つを踏まえた結果が、分かりやすい表示やインターホンの設置など工夫を凝らした今回の東久留米店のモデルということになる。

太田本部長は、ピックアップサービスの導入の意義を「選択肢の拡大」にあるとする。「全てピックアップになるかというとそうではなく、それはその日のお客さまのご都合によって、『今日はデリバリーを使ってみよう』『今日はピックアップで行こう』とお客さまのご都合に合わせて提供できることに対する好意的な反響をいただいている」

ピックアップサービスの売上げは6月比で7月は約1.7倍になるなど急増した。特に年齢層などに特段の偏りはなく、ネットスーパーの利用者全体の利用者が都合に応じて使い分けているとみている。

利便性が高いためか、特にドライブピックアップ!の利用が多いという。実際、東久留米店では9月10日の正午に本格稼働を開始したが、専用レーンには続々と利用者が訪れた。先述のとおり、ドライブピックアップ!の導入店は約80店だが、当面は100店を目指して拡大を図る。たとえば平面駐車場もある東久留米店は、ドライブスルー型で設備的にも大がかりではあるが、駐車場の一定の場所に停めて積み込むパターンなど駐車場の状況によって柔軟に対応しながら導入していく。

新型コロナがネットスーパーのニーズを変えた

太田本部長は、「スマートフォン、パソコンを活用して買物をするなどお客さまの消費行動、買物行動が変わり、新しい買物スタイルが浸透している。一言で言えばデジタル化となるかもしれないが、当社としてはその流れにしっかり対応したサービスとしてネットスーパーを強化してきた」と語った上で、ネットスーパー事業を強化する理由を次のように語る。

「もう1つは今年に入って新型コロナの感染拡大が発生した中で、3密回避、ソーシャルディスタンス、テレワーク、あるいはイエナカ(家中)消費といったお客さまの新しい生活様式に対するご要望、ご期待が大きな高まりを見せることとなった。そうしたお客さまの新しいニーズに対応するためにネットスーパーを今後一層強化していきたい」

新型コロナウイルスの影響で巣ごもり、内食化が進み、スーパーマーケットの売上げでもこれまで伸びていた惣菜が苦戦し、対して生鮮食品の売上げは大きく伸びることとなった。イオンリテールのネットスーパー事業についても、生鮮食品の売上げが大きく増えたことが、今回の強化にもつながっているが、一方で商品軸でも通常の商品に加えて付加価値の高い食材のニーズに対応する取り組みを強化した。

たとえば、「非対面のお買物」「料理をつくる化」「産地支援の一助」をキーワードとした「鮮魚詰め合わせボックス」は各エリアで水揚げされた新鮮な鮮魚を予約形式で販売し、お客から高い評価を得た。また、関東エリアでは「豊洲市場 おすすめ商品」ということで、野菜や果物の詰め合わせを販売し、こちらも好調。太田本部長は、「ネットスーパーに求められるニーズも変わってきた」と語る。

こうした過程を経る中でイオンリテールとしても、以前はネットスーパーの象徴のような存在だった「重たいもの」や「かさばるもの」だけでなく「生鮮食品」も含めた形で、日常の生活の中でネットスーパーが買物手段の1つとして認識されたと判断。「サービスがある程度、お客さまの生活の中で定着しつつあるのではないかとみている」(太田本部長)

その結果が、先述の上期段階で前年比約2割の売上げ伸長というわけだ。イオンリテールとしては、現状約180店のネットスーパー展開店を21年2月期末までに約200店に拡大することが目標で、さらに「今後数年をめどに250店舗、もしくはそれ以上に拡大し、売上げを倍増していきたい」(太田本部長)という。

また、その際は、ピックアップサービスを標準サービスとしていく。「ネットスーパー事業を実施している店舗は、ピックアップも全店導入しているという状況で、お客さまに多様なお買物手段をご提案し、お客さまはお好きなように、それをご自身の都合に合わせて選択いただけるサービスとしていきたい」(太田本部長)

気になるのは、オカドの「次世代ネットスーパー」とのかかわり

イオンリテールのネットスーパー事業は最寄りの店舗から配送する「店舗型」で、取扱商品は生鮮食品、加工食品、日用品、医薬品、衣料品まで幅広く約3万5000アイテムを取り扱っている。届ける場所との距離が近く、最短で即日配送できることや、総合スーパー(GMS)店舗の品揃えに近い形で提供できることが強み。

今後は店舗数の拡大だけでなく、品揃えについても、お客の要望に応じた改善の取り組みを進めていく。たとえば、生鮮食品だけでなく、惣菜、ミールキットといった鮮度が求められるもの、あるいは子育て世帯のニーズが大きいベビー用品、健康志向の高まりに応じたヘルス&ウエルネスの商品、イエナカ(家中)消費に対応した商品などもこれまで以上に拡充していきたいといしている。「生鮮食品や惣菜と共に、医薬品やベビー用品も同時に買える、ピックアップができる強みをさらに生かし、お客の日々の生活に貢献できるサービスとして強化をしていきたい」と太田本部長は意気込む。

一方、イオングループ全体では、イギリスのネットスーパー専業企業Ocado Group plc(オカド)の子会社Ocado Solutionsと日本国内における独占パートナーシップ契約を締結し、AI(人工知能)やロボティクス機能を導入した顧客フルフィルメント・センター(中央集約型倉庫、CFC)を活用した「次世代ネットスーパー」事業の本格稼働を目指している。

オカドのノウハウを活用した「次世代ネットスーパー」は、CFCから配送する「センター型」のモデルとなり、今後、イオングループのネットスーパー事業がどのような形になっていくのかは大きな注目点となる。太田本部長は、「イオンリテールの店舗中心のモデルと、今後の新しいセンター基軸としたモデルのそれぞれの良さが組み合わさることによって、お客さまの便利さが各段に上がっていくと思っている」と語るなど、当面は両事業を並走させていくとみられるが、商圏のすみ分けやシステム面での連携などに関心が高まる。

おうちでイオン イオンネットスーパー(https://shop.aeon.com/netsuper/)概要

展開店舗/本州(東北を除く)、四国の「イオン」「イオンスタイル」約180店舗

配送対象地域/31都府県

配送便数/基本4~6便(最大3~12便、店舗により異なる。配送時間の2~3時間前が配送締め切り時間)

配送料/300円(本体価格)~(近隣エリア配送時の送料。広域エリアへの配送は個口数、距離に応じて配送料が異なる)

最低注文金額/700円(本体価格)以上

入会金、年会費/無料

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