新型コロナで需要大幅増のネットスーパー、黒字化続けるスーパーサンシ「売れて儲かる」セオリーとは?

2022.04.21

2020.11.12

三重県鈴鹿市に本社を置き、スーパーマーケット(SM)13店を三重県内に展開するスーパーサンシは、日本におけるネットスーパーのパイオニアといえる。

同社はインターネットが普及する前、1984年から宅配事業を開始。「いまネットスーパーだが、当時はインターネットがない。クレジットカードもそれほど普及していなかった。そういうときに宅配事業を始めた。さらに当時はいまのような高齢化の問題もなかったが、とにかく『届けて欲しい』というニーズを捉えた」。現在、ネットスーパーを担当する高倉照和・スーパーサンシ常務取締役NetMarket事業本部長は振り返る。

当時、大手企業が広域に渡って店舗数を増やす中、同社は改めてローカルSMとしての自社の方向性を考えていた。その中で当時、少しずつ存在感を増していたコンビニがより住宅の近くに出店するなど、「よりお客に近づく」状況に着想を得た。「それを飛び越えてお客さまにお届けしたらよいのではないかということで、始めたのがきっかけ」(高倉常務)だという。

当時は当然のことながらネットはなく、電話もプッシュホンですら少ない状況。クレジットカードもあまり普及していなかった。受注の仕方や決済などにも苦労があったというが、重ねて商品のピッキングや配送などにも苦労した。高倉常務は、「だいぶ鍛えられた。40年間近く積み重ねて改善してきている」と語り、これらの苦労が、現在のベースとなっていることを強調する。

90年代に入ると、ネットが一般にも普及し始めた。数年間は電話回線を使用している状態で、画面も「文字だけ」のような状態ではあったが、それでも素早くネットに対応。その後はネット自体の進化、あるいはパソコンから携帯電話へという動き、さらにスマートフォンが出たときにはすぐにアプリを開発するなど、その都度、最新のハードウエアにスピーディに対応してきた。

「ネットで黒字化し、スマホで一気に花が咲いた」

実際、宅配事業は開始以来ずっと赤字が続いていた。黒字化に貢献したのは、まぎれもなく「インターネット」だった。ネットを用いることで、受注の負荷が減ったことが大きい。「紙のカタログを制作して、電話で受注しているとかなり経費がかかる。それがインターネットになればなくなる」(高倉常務)からだ。

結果、コストが大幅に下がり、利益構造が一気に改善する。さらに現在はスマホのアプリを開発。プラットフォームとして他企業にもフランチャイズ展開するまでに至っているが、新規導入店ではほとんどの注文がアプリ経由になっているといい、店側にとっての受注の負荷は当初と比べるとほとんどゼロのレベルになっている。

この間、赤字が続いてもやめなかったのは、「信念を持って、いつか必ずお届けすることが認められるだろうと思っていた」(高倉常務)ためだという。

さらに黒字化を経て、一層の事業の拡大において大きな鍵となったのは「注文のしやすさ」だった。ニーズはあることは分かっていたが、一般まで普及するにはやはりスマホの登場を待たなければならなかった。

「スマホが出てから一気に花が咲いたような感じ。パソコンだと主婦の方が1台持っているとは限らないし、立ち上げるのにも時間がかかった。あと、ノートパソコンは別にしても、パソコンはあまり持ち歩けない。これがスマホの場合だと、いつでもどこでも注文できる。1人1台のスマホの時代になってから、非常に受注もよくなってきた」(高倉常務)

「ネットスーパーは本来儲からない方がおかしい」

現在、スーパーサンシでは1店で10億円レベルの年商をネットスーパーで稼ぐ店も登場している。新型コロナウイルスの影響もあって、全般的にネットスーパーの売上げが増加しているが、平均して店の売上げの23~25%ほどを占めるまでになっているという。店によっては多い日で40%の売上高構成比に上ることもある。

しかも、この40%は営業時間中に売れるわけではなく、朝、注文を締めた時点で売れている。「桁違いに効率が良く、しかも値引きロス、廃棄ロスゼロ。本来はこれで儲からない方がおかしい」(高倉常務)というわけだ。

一方で、ここまで売上高構成比が高いと欠品などのリスクも高くなりそうだが、スーパーサンシでは店舗の売上げとネットスーパーでの売上げを合算した数値を1週間先までシミュレーションして予測。それを日々微調整しながら自動発注をかけることで、ほぼ100%の精度を維持できているという。

「お客さまがストレスを感じる大きな問題の1つに欠品がある。たとえば欠品が20%ということは、10品頼んでも2品は来ないということ。これではネットスーパーとしての商売にならないと思う。そうであれば店に行った方がよいということになる」(高倉常務)

この辺り、長年に渡って予測の精度を上げてきたことが大きく奏功している。売上高構成比の高さは、そのまま支持率の高さであるといえるが、ここまで売れるようになったのは、まさに40年近い積み重ねがあってこそ。

「勘違いされる人が多いが、ネットの画面を作ったから売れるというわけではない。スーパーは大体600坪ぐらいの売場でアイテム数が1万5000~2万だが、絶え間ない工夫を重ねてきたからこそ売上げを作れている。それと同じ。画面を作れば売れるのであれば誰でもできるが、そうはいかない。店のエクスペリエンス(体験)には、レイアウト、商品のアピールの仕方、POPの書き方などいろいろな要素が関係している。いかにして、スマホの中でそれを同じように体験してもらうか。同じような単価を買っていただくか、同じ頻度来ていただくかの工夫が必要。インターネットでどうやったら売れるのかをずっと課題として取り組んできたが、これは日々の実験の繰り返し」(高倉常務)

その意味では、スマホの画面を通じて、いかにカスタマーエクスペリエンスを充実させ、単価、頻度を向上させるかを追求してきたことになる。なお、スーパーサンシは新聞折込チラシをやめ、代わりに店舗アプリを作り、デジタルに完全に移行した。販促費は減ったが、その分を利益にすることなく、売価に還元したという。

ネットスーパーを運営する場合、利用するたびにお客に配送料を払ってもらうケースが多いが、スーパーサンシの場合は配送料としてではなく、利用料として1回96円(本体価格、以下同)コース(建物の2階以上は143円、利用料とは別に月間96円のロッカー貸出料がかかる)と、月間477円の使い放題コース(2階以上は762円、1回の注文が1429円未満の場合、サービス料として77円かかる)の2種類のコースを設けている。

特に2つ目は、定額で何度でも使えるサブスクリプション(サブスク)型だが、「サブスクは非常に難しい。キャップをかけることができず、絶対に注文を受けなければいけないからだ。利用料をもらっておいて、『できません』と言ったら詐欺になる」(高倉常務)といったように、店にとっては厳しい条件ではある。

スーパーサンシとしては、配送のキャパシティに上限を設けることは、ずっと「やってはいけないこと」の1つとしてきた。「キャップをかけると売上げが伸びない。お客さまにとって一番大きなストレスになる。買いたいときに買えるのがネットスーパーの良いところであり、買いたいときに買えないのであれば、店に行った方がよいということになる」(高倉常務)。このこだわりから生まれる信頼こそが、お客の支持、引いては売上げにつながっているのだろう。

また、1回96円、あるいは月額477円という利用料が、配送費などのネットスーパーの経費を賄うレベルであるかというとそうではない。「収支トントンにしようと思ったら、ずいぶん高くしなければならない。そんなことをしなくても、店だと発生する値引きロス、廃棄ロスが、ネットスーパーでは発生しないことは大きい。粗利益率が大体2ポイントぐらい上がる。その分で配送費が出るような感じ。売価も店とネットスーパーでいっしょ。変えるべきではないと思う。『ネットだから高くてもよい』という考え方が通るほど甘くはない」(高倉常務)

「食品は、センター出荷型では絶対儲からない」

一般的にネットスーパーでは、「どのように売上げを作るのか」という問題に加え、「どのように黒字化するのか」という問題が大きく横たわる。お客が自ら店に来店し、商品を集め、レジで精算して持ち帰るという、従来の店ではお客が行っていた行動の多くを、ネットスーパーでは店側が行わなければならない。その分のコストは、たとえネットが普及して受注の部分のコストが浮いたとしても、物理的に残るものとなる。

高倉常務は、「商品のピッキング、パッキング、そしてデリバリーまで一気通貫したオペレーションがボトルネックなく流れること。これが難しい」と強調する。

スーパーサンシのネットスーパーは、各店舗から配送する「店舗出荷型」。店舗を拠点にするか、専用のセンターを設置し、そこを拠点にするかは、ネットスーパービジネスにおいて長年議論されてきた。

この点について高倉常務は明快だ。「センター出荷型では絶対儲からない。これは確信を持って言える。食品に限っての話ではあるが、粗利益率が高くないため、スーパーの場合はコスト倒れになる。必ず店舗、つまり、既存の資産を使ったネットスーパーにしないといけない」。食品ビジネスにとっては、センターを新たに設ける投資は重すぎるというわけだ。

配送については自社で手掛けている。同社では、「注文にキャップをかけず、注文は絶対に受ける」と前述したが、それを実現するポイントも、この自社配送にあるという。「委託の配送だと制限がかかってしまう。マルチジョブで店長や次長、あるいは他の人が配送を手伝うなど波に対応できるように訓練している。だからお客さまは安心して頼める。雪の日や台風の日などはどうしても注文が増える。そういうときにこそ欲しい。だからキャップをかけるのは好きではない」(高倉常務)

店舗のオペレーションとの間で柔軟な運用を行っていることも、コストの面での大きな強みになっているといえるだろう。

配送は各配送先に設置された鍵付きの保管庫へ

配送は冷蔵車で行い、1台で最大25件分積載できる。平均では20件分ほど積み込み、1時間30分~2時間で配送する。注文の締めは2回で、大型店は朝9時と11時、中型店は少し遅く10時と12時。ここで受けた注文を17時までに配送を完了するようにしている。

配送におけるスーパーサンシの特徴として、専用の鍵付きの保管庫(ロッカー)をスーパーサンシ側が各届け先に設置し、そこに配送する方式を採用していることがある。結果、配送時間にお客が「自宅で待つ」必要がない上、届けるスーパーサンシ側としても特定の配送時間帯に縛られることがない。

昨今では、お客にとっては配送時に自宅にいなければいけないことのわずらわしさ、店側にとっては配送の負担の重さ、さらに新型コロナウイルスの感染拡大もあって、ネットスーパーの「店舗受け取り」を模索する動きもある。だが、ことスーパーサンシの場合、その問題はあまり表面化しないことになる。

冷蔵の生鮮食品は、夏場でも約8時間、保冷効果を保つ保冷箱で届ける他、冷凍食品はドライアイスを入れた保冷容器での配送によって、温度帯の問題に対処している。ドライアイスは、1回の配達につき96円をお客が負担する(1回の配達で4762円以上の場合、ドライアイス料は48円になる)。

スーパーサンシの高レベルのネットスーパーの売上げと、それを支えるシステムにはさまざまな工夫や仕掛けがあることが分かる。これは一朝一夕に実現したものではなく、同社が40年近くの実践を通じて築き上げてきたものだ。しかしながら、同社が守り続ける成功のための原則には、後続の企業でも取り入れられる要素が多々あるように思われる。

新型コロナウイルスによって需要が一気に伸びたネットスーパーだが、今後はそのビジネスとしての「強さ」が問われる時代になってくるといえそうだ。

ピッキングの様子。ピッキングは売場でも行うが、バックヤードでピッキングし、直接宅配のデポまで持って行くものもある
ネットスーパーを担当する高倉照和・スーパーサンシ常務取締役NetMarket事業本部長

「JAPAN NetMarketを立ち上げ全国にFC展開を開始」

昨年5月よりスーパーサンシでは全国に向けてJAPAN NetMarketのブランド名でFC展開を始めた。勝てるネットスーパーのノウハウを開発不要のノーコードかつ垂直展開で共有するという。

「これからは大手は全てネットスーパーを手掛けてきます。外資のネット攻勢、大手のネット攻勢からローカルSMを守り、地元商圏のネット商圏制圧のお手伝いをしていきたい。地域密着のローカルSMこそラストワンマイルを持てば最強の業態に変身します。しかしゆっくり構えている暇はありません。ネットの世界は先取り総取りの世界です。ここ1、2年が勝負です。本気度の高い企業様を歓迎します。」(高倉常務)

<JAPAN NetMarket問合せ先>
スーパーサンシ株式会社
常務取締役
NetMarket事業本部長
高倉 照和
メール:t-takakura@sanshi.co.jp
電話:059-373-4370
Twitter:@NetMarket88

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