「八ヶ岳のビックリ箱」はこうして生まれた ひまわり市場 那波秀和社長

2025.07.25

大手企業との真逆を行く商売に転換し、やり切る

 ひまわり市場は、八ヶ岳の山麓に、決して広いとは言えない面積のスーパーマーケット(SM)を1店のみ展開している。しかしながら、同店には全国から多数のお客、あるいは視察者が訪れる。

 同店のコンセプトは「八ヶ岳のビックリ箱」。ひまわり市場の店舗に訪れると店内には各部門のこだわり商品があふれ、お客が楽しそうに買物をしている光景が広がる。一方で経営の視点でみれば、観光地であるとはいえ山梨県と長野県との県境に位置する山梨県北杜市で全国各地のこだわり商品、しかも日持ちのしない生鮮や惣菜、日配も含めて品揃えするのは、リスクを考えればかなり勇気のいる判断といえる。

 なぜ、ひまわり市場はこだわり商品をそろえ、「八ヶ岳のビックリ箱」を目指すことを決断し、そして実現できているのか。現在のひまわり市場のコンセプトを作り上げたともいえる那波秀和(なわ・ひでかず)社長にその深層を聞いた。

 一般的にこだわり商品は、供給される数量も限られることから高価となり、また、それゆえ需要も限られるため小商圏の店ではなかなか品揃えすることができない。逆に言えばチェーンストアが実現しづらい店づくりができるということにもなる。

 ひまわり市場は「大商圏ターゲットの1店舗だからこそ」品揃えできるともいえるが、まさに戦略としては「逆張り」である。一方でこれには、「お客に選択肢を提供する」という役割があることもまた重要な点である。

 「(大手企業と)真逆を言っているのは間違いないですね。ひまわり市場は、山梨県北杜市の八ヶ岳山麓、標高で900mほどの地にあるSMです。足元の商圏は(北杜市)大泉町の5000人少しということで、非常に少ないです。だから結構、遠方からお客さまが来てくださっているSMです。

 約180坪の細長い売場で、1日の客数は平均で約1000人弱。平日が一番暇な日で約700人、土日で約1000人、ゴールデンウィーク辺り(の大型連休)だと約2000人。客単価は安定して4000円近くになります。おそらく今期は(年商)13億円を超えますが、建物の場所の都合上、増床の余地はなく、この売場ではこれぐらいの年商が限界だと思いますね。

 現在の店舗は2006年のオープンで、19年目ですが、当初より年商は3倍ぐらいになっています。特にチラシを打ったり、安く売ったりするわけでなく、良い物を、ちゃんとした価格で販売し、生産者も、われわれも販売するメリットがあるようにしています。そしてそれを大量に販売する仕組みをいま貫いている、ちょっと変わったSMです」

 那波社長のリーダーシップの下、個性的な店として注目されているひまわり市場だが、ここに至るまではやはり試行錯誤の日々だったようだ。那波社長も最初は従業員としてかかわり始め、店長、そして社長へと役割を変えていった。

 「もともとひまわり市場は2店舗を展開していて、私も当時からかかわっていたのですが、その2店舗を閉めて現在の1店舗に集約するタイミングで店長に就任しました。当時は本当にナショナルブランド(NB)しか売っていない、普通の安売りのスーパーでした。それだと、とてもじゃないけど大手のSM、ショッピングセンターに値段で全然勝てない。

 このままだと生きていけないということで、方向転換をしようと。価格ではなくて、良いものを売らなければ利益も残らないし、特色も出ないから客数も上がらない。それで、一般的には売っていないものを集約して、変わった食材に特化しようと舵を切りました。オープンから3年ほど経つ09年ごろのことです。

 正直、オープンして3年目のこのころ、経営危機を迎えていました。本当に『このままだとまずい状態』で、このまま商売を続けていれば、1年後ぐらいには資金が尽きると分かっていたので、急に舵を切ったんです。だから、勝算があったわけではありません。

 ちょうど私が社長になったころです。当時、後に私を物心共に支えてくれることになる弁護士の先生との出会いがあり、その先生の知恵を借りながら、会社を再生していったんです。そのときは、会社を再生させる業務は全部その先生がやり、私の仕事はとにかく良い物を売って、ちゃんと利益を出す、SMの経営だけでキャッシュフローが回るような経営にする、といった形で分担し、両面で立て直していきました。

 最終的には2010年に新しい会社を立ち上げて営業を譲渡し、その会社がいまのひまわり市場になります」

 結果的に新会社に切り替わったとはいえ、人も店舗を旧店から引き継いだ中、どのように店を変えていったのか。

 「当時は、以前からいたスタッフも、『良い物を売ると言ったって、どこから仕入れるの? どうすれば良いの?』といったところから始まりました。それで、成城石井でバイヤーをされていた方などに話を聞きにいって問屋を紹介してもらうなど、いろいろなところから教わることにしました。

 そのうちに何となく、『こだわり品はこうやって仕入れるんだ』ということが少しずつ分かってきました。何しろ、1日に1つ2つでも、商品を変えていこう。NB商品の横にちょっとこだわった商品を並べていこうということを私1人でやっていました。

 八百屋(青果担当)は八百屋で、地元の生産者との付き合いはあったのですが、本当に『道の駅』レベルで、近所の農家の商品を売っている程度でした。それも見直して、たまたまつながることができたオーガニック専門の商社から一気に日本中の野菜を集め出しました。さらにその会社からはバターやチーズなどの乳製品、加工食品も仕入れることもでき、売場が少しずつ変わっていきました」

 お客の反応はどうだったのだろうか。

 「最初は『高い!』でした。『何でいきなりこんなに高くなったの?』と言われるので、『物が違うから』と説明していきました。それで説明をすると、何とか納得して買ってくれるのですが、とにかく(那波社長の)時間がない。資金繰りもしなければいけない、会社の運用もしないといけない、人のシフトもしないといけないということで、売場に立っている暇がないわけです。

 苦肉の策で作ったのが商品説明のPOP。商品説明をなるべく分かりやすくすることで、買ってもらおうと思いました。そうしたら、そのPOPがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でバズったんです。それで、そのバズったSNSを見たネット業界の専門新聞が取材に来ました。『こんな田舎に、おもしろいPOPで、おもしろい商品を売っているスーパーがある』と。

 さらにその記事を見た一般紙や地元のテレビ局が取材に来て、それが放送されて、さらにそれを見た全国放送のテレビが取材に来てという形で、認知がものすごく広がりました。それが2015~16年ごろのことです。それで、全国的に取り上げられるようになって、売上もだんだん上がってくるわけです。売上が上がってくると人が雇用できるようになってくる。そのときに集まってきたのが、『アベンジャーズ』です」

 ひまわり市場では、各売場に名前と顔を出す形で那波社長が「アベンジャーズ」と呼ぶ担当者たちがいる。担当者の中でも各分野に特に造詣が深く、仕入れから販売まで深くかかわる重要な役割を担っている。

 「もともと私が入る前から寿司(担当)に1人いましたが、ここ10年ぐらいの間に一気に増えました。八百屋に1人、寿司に2人、惣菜(担当)に2人、スイーツ(担当)に1人、一般食品(担当)に1人、酒(担当)に1人、レジ(担当)に1人、そして私の10人ですが、パン工房がオープンして11人になりました。

 地元の人もいますが、東京から移住、千葉から移住、淡路島から移住、甲府から移住など、さまざまです。報道で『こんなスーパーがあるんだ』と知って入った方もいますし、中には私の学生のころの仲間で、たまたまテレビを見て移住してきた料理人もいます。

 アベンジャーズは『人で売っている』という部分がありますね。例えば、スイーツのアベンジャーズは元々銀座のパティシエをやっていた方で、まさに『この人が仕入れた商品』ということでやっています。4年間でスイーツの売上を13倍にしました。すごいですよね。1店舗、同じスペースで13倍ですから。400円ぐらいするエクレアがありますが、多い日には100個売れることもあります。20cmの売場で4万円の売上ですよ。

 陳列の仕方も、われわれみたいにドカンと出してドカンと売るのではなく、奇麗に並べて、売れたらまた奇麗に並べて、というのを朝から晩までやっている。だから、いつ来ても洋菓子店みたいな売場です。ドカンと山ほど陳列するというものではなくて、手を入れて売上を上げていくわけです。

 いまは和日配、洋日配、菓子の一部、アイスクリームなども担当してもらっています。やはり、バイイングのセンスが良いんですよね。

 一般食品のアベンジャーズは、オーガニックの商社から転職してきた方で、本当に日本中のオーガニックの取引先を知っています。本当に安全な素材に対するアンテナが高く、知識も半端じゃない人です。それで、みんな知り合いだから、どんどんつないで商品を仕入れてしまう。

 一方で、肉にはアベンジャーズがいません。実は肉に関しては、この店を建てたときに職人による店内加工からアウトパックに切り替えました。あえて職人ではなく、優秀なアウトパックの業者にお願いすることにしました。だから、オープンに際してバックヤードを造りませんでした。肉の年商は2億円近いですが、発注だけですので肉は女性2人で運営しています。

 見切りももちろん、ありますが、販売期限が迫っているものについては惣菜のアベンジャーズの料理人が惣菜に加工するなどしています。ひまわり市場が大手スーパーと決定的に違うのはここですね。いろんな部署がいろんな勝負をしたとき、全部が全部売れるわけではない。その残ったものを、この料理人が『何でも料理にしてみせる』というノウハウを持っていることです。

 料理人が朝、店に来たとき、販売期限が迫っている肉や魚が集まってくる。それを起点にいろんな料理をどんどん作るのが、ひまわり市場の強みです。普通の店よりも廃棄はかなり少ないと思います。アベンジャーズもやはり自分の仕入れたものを廃棄するのは一番嫌なことでしょう。さらに今度はパン工房も、チーズなども含め、それを始めています」

経営危機を迎え、まさに1人で商売の転換を図った那波秀和社長。大手を含む他社との差別化をしないと生き残れないとの判断があった

「アベンジャーズ」がこだわり商品で挑戦できる環境

 こだわりの商品は単価が高いことから販売量が少なくなりがちで、販売側も陳列量をむやみに増やせない一方で、それなりの陳列量がないと、なかなか大量販売につながらないというジレンマの構造にある。

 その問題に対し、残ったものを惣菜にすることで解決するのは昔からある手法ではあるが、有効であることは確か。もちろん、そこには、臨機応変に魅力的な商品を作るというスキルが求められる。

 「多分、大手スーパーで部門の採算制でやっているところは、青果が仕入れて、それを惣菜が引き取ることは難しいでしょう。ひまわり市場の場合は、店全体で仕入れたものはいかにしてでもお金に変える。廃棄はできるだけしない。その意味では廃棄する物は少ないし、惣菜の料理人がいてくれるから、各アベンジャーズがドカンとやっても何とかなる」

 アベンジャーズが各分野で活躍するようになると、とにかく時間がなかった那波社長の役割も少しずつ変わってくる。各商品、売場についてはアベンジャーズが担うようになる一方、那波社長は時間のあるときに店内放送のマイクを使って商品の紹介をするようになっていった。かつて時間がないためにできなくなっていた商品説明を「マイクパフォーマンス」の形で復活させたのである。

 「お酒のアベンジャーズは元甲府のワイナリーの方です。10年ぐらい前からずっとひまわり市場の店頭で試飲販売をしていて、甲府から移住をしたいという相談を受けたので入社してもらいました。それでお酒の担当をしてもらったら、ワインの売上を3年で3倍にしました。

 私とは全く逆で、私はマイクで不特定多数の方に情報を発信していますが、この方は目の前の1人1人に対面で情報発信しながら販売する形です。そうじゃないと1本3万円のワインは売れないです。すごいですよ。1人で12本買っていくお客さまもいますから。いま年間のワインの販売本数が約2万3000本です。

 だんだん私との役割分担ができてきて、マイクパフォーマンスで3万円のワインを売るのは無理だけど、4000円~5000円までのワインであればストーリーを語れば売れると分かってきたので、私に話すべき内容を私に伝えてくるようになりました。

 それで、私がそのとおりにしゃべると、お客さまがわーっと酒売場に向かい、そこにはこのアベンジャーズが待ち構えていて『こちらです』となるわけです。この戦法で、1銘柄で1カ月1000本売ったワインもありました。G7(広島サミット2023)の晩餐で使われた甲州ワインですが、その『事実』さえあれば良い。『マクロン(フランス大統領)もびっくり』とか、『首脳が日本のすごさに舌を巻いたワイン』『日本のプライド』などと言うと、ぶわーっと酒売場にお客さまが向かっていきます。本当に一声で12本ずつ売れていきました」

 那波社長がマイクパフォーマンスに専念できるのは、まさに人材が育っていることの裏返しでもある。

 「昔は本当に1人でやっていましたが、いまは私は一切、仕入れをやっていません。アベンジャーズが仕入れたものを売っています。いまはアベンジャーズも私が売る力があると分かっているから、自分が仕入れたものをこっそりと言いに来る(笑い)。それでマイクで紹介するとドッと売れて、それでまた次のものも、といった形です。だから、すごく回転が速いです」

那波社長のマイクパフォーマンスはひまわり市場の名物になっている。こだわり商品の売り切りにも大きな力を発揮する

 ひまわり市場では惣菜、あるいは加工食品などでオリジナル商品も開発しているが、「歴史的メンチカツ」「歴史的コーヒープリン・フィエルテ」など、「歴史的」という物々しい表現の商品名が目を引く。

 「これには歴史的メンチカツがヒットしたことがあります。その『歴史的』というフレーズに、お客さまが『歴史的? それは何だ?』『ただごとじゃなさそうだ』といったように反応されました。それもあって、こだわって作ったものについて、『歴史的コーヒープリン』といったような商品名を付けたり、パン工房に『歴史的パン工房』と付けたりしています。うちの屋号のようなものですね。

 歴史的メンチカツは、現在、土日の12時などに1回当たり50枚限定で販売していまして、大好評です。10年ぐらい前に、集客する目玉を作りたいとの思いで開発しました。以前は惣菜のノウハウがなかったので普通のスーパー以上にキットや冷凍ものを活用していたのですが、中華料理で経験を積んだ料理人が加わることで、手作りでいろんなものが作れるようになりました。

 それで、そのときに料理人に『日本で一番うまいメンチを作ってくれ』とお願いしました。『頼むよ。目玉が欲しいんだよ』と。その後、半年ぐらい、いろいろ試行錯誤しました。いろんなところのお肉を仕入れてみたり、配合を変えてみたり、割合を変えてみたり。それで出来上がったのが『歴史的メンチカツ』です。松阪牛が7割、鹿児島産の黒豚が3割の割合で1個540円(税込み)です。

 最初はやはり、全然認知度がないので、作ってもわっーと売れるものでもありませんでした。だから、お客さまに説明していきました。

 「12時にすごいメンチカツが出ますよ。松阪牛7割、鹿児島産黒豚が3割ですよ。ソースを付けずに食べるんですよ」と、お客さまの興味を引きながら、とにかくマイクで説明していったら、少しずつ列ができるようになってきました。それでようやく売れるようになってきました。

 その後、それが『料理人が作るメンチカツ』ということで、テレビ番組で取り上げられ、一気にお客さまの認知が上がりました。その後、他のテレビ局でも取り上げられるうちに、だんだん『歴史的メンチカツ』を買いに、それこそ世界中からお客さまが来るようになりました。一時は海外からも来ていました。(新型)コロナ(ウイルス)前にはそれこそアフリカ、ヨーロッパ、ブラジルなどの遠方からも来ていました。もちろん、旅行のついでではあるとは思いますが(笑い)」

 限定の数を増やすことはしないのか。

 「いつでも買えるものになると、プレミアム感がなくなってしまうので。うちとしては、これはイベントとして、売上とではなく、『このメンチカツを買うと良いことがある』というプレミアム感で勝負し続けました。売り切ることを貫いてきました」

「歴史的コーヒープリン・フィエルテ」、1個540円(税込み)。スイーツコーナーで初のオリジナル商品として開発された

バイヤーたちには「1円も値切るな」と伝える

 さらに歴史的メンチカツと同レベルのインパクトのある商品として、馬肉のメンチカツも開発している。

 「桜のメンチカツとして去年、開発しました。こちらも土日限定ですが、歴史的メンチカツと被らないように、スポットで10時や10時半に30枚限定といった形で出して、売り切っています。これはひまわり市場が馬刺しをたくさん売ることを受けて開発した商品です。

 切れ端がどんどん溜まり、それこそ何tにもなってしまう。この冷凍の状態の切れ端をどうするのかという話になりました。それで料理人が『メンチカツを作ってみるか』ということで、馬肉に合うように、歴史的メンチカツとはスパイスを変えて作ったものです。これが売れるんですよ。山梨には馬刺し文化もありますので。

 馬刺しは日本一売ると自負しています。多いときには1日500皿売りますので。60cmほどの馬刺しのスペースで1日80万円ぐらいの売上になりますからすごいですよね。山梨には昔から馬刺し文化がありますが、東京、横浜などからも買いに来られます。先日は三重県からも来られました。奈良県から定期的に来られるお客さまもいらっしゃいます」

馬刺しは鮮魚売場で刺身と隣接させて販売している。販売力があるため、端材も出る。それが馬肉のメンチカツというユニークな商品の開発につながった

 SMの可能性を拡張したような感がある。やり方によってはまだまだできることがあると思えてくる。

 「それこそメーカーと組んで本当においしいものを、それなりにリーズナブルな価格で、徹底的にお客さまに伝えていって、ということを全ての部門でやれば、安売りでも、安売りでもなくても、まだまだやれることはいっぱいあるんじゃないかという気がします。

 あるところでバイヤー向けの講演をしたとき、『仕入先から買い叩くな』と言ったら、最初びっくりされました。『われわれはネゴシエートして他のスーパーより1円でも、2円でも下げるのが仕事』というわけです。もちろん、交渉も大事だと思いますが、僕の講座は『交渉の仕方』といったテーマはなかったので、『買い叩いてはいけないですよ。買い叩いたら恨まれますよ。それで、いざというときに相手にしてもらえなくなりますと』と言いました。

 そうではなくて、いっしょに開発するとか、対等に立ち会っていかないと、いつか必ず裏切られるということです。

 ひまわり市場では、バイヤーたちには『1円も値切るな』と言っています。まずは先方の取引先の言い値を必ず聞く。その言い値でひまわり市場としての定量が売れるかどうかを考える。売れないと判断したら断る。売れると判断したらその値段で買って勝負する。これをみんなやっていますし、これがひまわり市場のバイイングです」

 この考え方も、那波社長が一から仕入れをしていたことからできてきたものだ。

 「もともと市場で仲卸にいた時期があって、自分で取引先にトラックを運転して配達したり、営業したりしていましたが、『買ってやっているんだ』という感覚だったり、『サンマ1ケースを30分以内に持ってこい』といった無茶なことを言ったりする企業は、山梨にもいっぱいありましたが、みんな潰れていきました。

 結局、生産者や卸から買い叩くところは、人として商売を間違えていると思います。同じ人間なのに、自分が偉くなったつもりでいる。『こんなチーフのいるスーパーはだめだろうな』と思っていたら案の定、潰れていきました。

 こういうことを見ていたから、自分がスーパーに来たとき、『いいか、みんなが見ているんだから、供給先の皆さんを大事にしなさい』『買ってやっているんじゃなくて、月締めで来月お支払いをするまで、45日間商品を借りているんですよ』ということを嫌というほど説明することにしました。

 僕が仲卸で叩かれていた経験があるから説得力があるんでしょうね。(バイヤーが)入ってきたばかりのころは(仕入先に)『ちょっと負けて』と言う人もいましたが、誰も言わなくなりました。さんざん『負けろ、負けろ』と言われたら、何かで取り返さないと採算が合わないじゃないですか」

 現在、部門別のマーチャンダイジングの方針はどのようなものになっているのか。

 「青果は、特に野菜については基本的に誰が育てたかが分かる、トレーサビリティをなるべく追っています。また、やはり地の物を大事にする。例えば、この地域で新玉ネギが出てきたら県外の新玉ネギは売らないということで、ここの生産者の暮らしを守るということです。モヤシなど品揃えの上では市場からの仕入れも活用していますが、構成比は非常に少ないです。

 他に有機などの商品にもこだわっています。有機ではなくても、例えばバナナは無農薬、冬場のかんきつなども特別栽培とか減農薬といったものをオーガニック(有機)専門の商社から仕入れます。

 世のオーガニック専門店はたくさんありますが、量を売るのが苦手のようで、『2本ずつ』とか少量の発注が多い。単品の販売力がないわけです。それがひまわり市場ではオーガニック専門商社にキャベツでも150ケースといった単位で頼みます。

 それで先方もびっくりして、必然的に注目が集まって、先方で(販売期間の)日が短くなった商品があるとなったとき、『よし、(ひまわり市場で販売するので)持ってきてください』と言ったりしながら信頼関係が築かれ、一番大事な取引先として大切にしてくれるようになります。定価で大量に有機野菜を売る店は、そんなにないでしょう。

 鮮魚は、良い魚を仕入れたらどんどん寿司で売って、刺身でも売ってという感じです。さらに鮮度が良いうちに、例えばアジを惣菜に持っていってフライにして、といった形で回転が速い。あっという間に売ってしまう。寿司の職人が3人、魚の職人も3人います。

 精肉は、先ほど言ったとおりオールアウトですが、国産の牛肉、国産の豚肉、国産の鶏肉です。

 惣菜は、これまで説明したように素材を調理しますが、定番の商品も一応あります。

 また、6月15日、パン工房ができました。パン部門ができたという形です。しかも、もともとこだわっているひまわり市場の食材を使っているわけです。

 若いころから知り合いで、いいパンを焼く人がいまして、23年の12月にひまわり市場に入りたいとの話があり、入ってもらいました。それで1年半かけて準備して、パン工房ができたということになります。設備投資をしっかりして、最新鋭のパンの機材を入れました。パン工房ができる前はひまわり市場の店内の小さなコンベクションオーブンで焼ける分だけ手がけていて、サンドイッチとフレンチトーストだけを作っていました」

青果では誰が生産したかが分かる商品を重視しているという。そのため、生産者のこだわりや商品の特性などもしっかりとアピールできる

 山梨県は「海なし県」ではあるが、鮮魚売場にもかなり力が入っている。

 「海辺のスーパーに行けば良い魚を売っていますから、逆に海がない山梨県だからこそこだわっています。例えば、白身魚のイシダイ、イシガキダイ、マツカワガレイなどを売っている店はあまりないのではないでしょうか。だから、ひまわり市場はそれをあえて仕入れて売ると。

 アベンジャーズに職人の腕がありますから、どんな魚が来てもさばける。スキルがあって、商品化するレベルが高くて、なおかつ商品が売場に出た瞬間にマイクでしゃべる。『マツカワガレイの刺身を売っているスーパーに行ったことがありますか? ないでしょう? 豊洲にも1日5箱しか入ってこないカレイがここで売っているんですよ。見てください』と言うと、みんな買っていきます。

 それで、例えば1本1万円のマツカワガレイでも、刺身にすれば2万円の売上になります。それを一瞬で売り切る。これを朝から晩までいろんな部署でやっているわけです。野菜もそう。スイーツもそう。そうやって1個1個の商品の単品当たりの売上をどんどん上げていきます。しかも、それが全部定価であるということです。安売りして挙げているわけでなく、全部定価で挙げている。そうなるとやはり、利益率が上がってきます。商品回転も速くなります」

 那波社長が売る力があるから、アベンジャーズも安心して挑戦できる。役割分担の中で、良い循環ができている。

 「これは意図して作ったわけではないです。一所懸命やっていたら、いつの間にかできていました。540円のメンチカツを置いておいても絶対売れない。銀座でも売れないでしょう。それが、50枚が1分で売り切れるわけですから。だから商品自体の良さプラス、訴えかける情報量と情熱。それらがマッチしないとここまでの単品の販売力は出ることはないでしょう」

目の前の人に買ってもらうからこそ、小売りはおもしろい

 こだわり商品だからこそ、伝えたい情報もたくさんあるし、伝えないと売れないということもあるだろう。あるべきこだわり商品の売り方が自然とできた感がある。こだわり商品をセルフサービスで売る際の負の部分である①販売量が少ないため、多く陳列できない、②こだわりのポイントや売価の背景などその商品について伝えることが難しいという2点を解決している点で注目すべき連携だ。

 「こだわっていないものはマイクでしゃべれないです。だけど、松田の有精卵のマヨネーズだったら言える。歴史的メンチカツも料理人の経歴や思い、商品のこだわりやストーリーを話せば、どんどんお客さまが買っていかれます」

 アベンジャーズを始めとした担当者が活躍する態勢を築いたが、同時にそれに報いる姿勢も鮮明にしている。

 「がんばったらがんばっただけ、報われるようにしています。ひまわり市場は労働分配率(粗利益に占める人件費の比率)が65%ぐらいですからね。普通のSMには絶対できないでしょう」

 販売チャネルという点では、かつてネットスーパーをやっていたが現在は休止している。SMにとってネットチャネルは有望という見方があるが、ひまわり市場では今後、ネットチャネルをどう考えるのか。

 「始めてみましたが、やはり、どなたかが買っているか分からない商売に身が入らない。来ていただいて、対面で物を売るということが染み付いているので、自分たちの商材を全く知らない人が買っていることに興味が湧かないのです。

 ホームページを作って始めたのですが、もう2年ほど休止しています。商品特性的に、なかなかピッキングが難しいこともありますが、あとはやはり、おもしろくない。ただの作業だから。店の中でお客さまの相手をするのは『仕事』ですが、単純に伝票を見て物をピッキングして、伝票を書いて出荷するのは『作業』でおもしろくないと。やれば売れるとは思いますが、このままやらない可能性は非常に高いです。例えば、外部でやってくれるところがあればやるかもしれませんが」

 利益が出ないからやめるという話は聞くが、おもしろくないからやめるというのは意外だ。

 「その人の顔を見て商売をしたい。その人の自分の目で選んでもらいたいというはやはり、ありますね」

 目の前のお客に対して物を売ることが重要であり、かつ買ってもらって喜んでもらうことが、おもしろさにもつながるということだろう。まさに商売の原点を見る思いである。

 「SMの一番楽しいところは、自分が仕入れた物が全部売れること。これが原点だと思います。その意味ではひまわり市場は最高に楽しいですね。例えば普通の店が10個仕入れて、8個は売れて、1個は値引きで、1個廃棄するところを、ひまわり市場は100個仕入れて、98個は売って、1個は見切って、1個廃棄するぐらいのことができる。努力次第で何とでもなる。

 そういう業界だから、おいしいものを、ちゃんと利益が乗った状態で、普通の店では考えられないレベルの大量の数量を売ることに関しては、全ての小売店にその可能性はあると思います。こんなにおもしろい業界はないから、もっと日本中に小売業の価値を上げていきましょうと言いたいです。

 日本中の若者たちが『将来、SMで働きたい』と言ってもらえるように仕事のおもしろさ、待遇を小売業としてみんなで作り上げていったら、小売業の価値自体も変わってくると思います。ひまわり市場のスタッフは本当に楽しんでやっています。ぜひ、みんなでやりませんか。小売業を全力で楽しみましょう!」

 商売は楽しいものであり、だからこそ、働く場としてもさらに可能性が広がる余地も大きい。「小売業を全力で楽しみましょう」という那波社長の言葉は、他の小売業関係者にも響くものであるはずだ。

 1店舗であることを逆転の発想で生かし、小売業の新たな可能性を引き出したといえるひまわり市場。その事業構造ゆえに本部を持つ形での多店化は難しいものがある。しかしながら、「商売のやり方」自体は他にも移植できるといえる。

 アベンジャーズを育成することは大変ではあるものの、人材育成と併せた形でのひまわり市場的な2号店ができてもおかしくはないし、それを実現するノウハウはある。さらにそれは場所の制約も受けない。那波社長は神奈川県の葉山など具体的な地名も挙げながら、冗談とも本気ともつかない2号店構想を語る。那波社長の次の一手にも注目したい。

お役立ち資料データ

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