「10年後の東急ストア」に向け、続々と施策打つ 東急ストア 大堀左千夫社長
2025.08.07
2025.08.05

高級フォーマット「プレッセ」をリブランディング
東急ストアは1956年に創業された日本有数のスーパーマーケット(SM)企業である。長らく「東光ストア」として親しまれ、その間、東京急行電鉄の関連会社化、「東急ストア」への商号変更を経ながら東京都、神奈川県を中心とした首都圏の電鉄系SMの一角として存在感を放ってきた。
2008年に東京急行電鉄の完全子会社となったが、その後も親会社の沿線にとどまらずに首都圏でのSM企業として小型店を含むマルチフォーマットを展開しながら着実な成長を続ける他、広く小売事業としてコンビニエンスストア、ドラッグストア、駅売店など多業態の展開を図っている。25年2月末現在、店数ではSM90店、駅売店26店、コンビニエンスストア38店、ドラッグストア8店、和洋菓子店1店を数え、年商は2000億円超。リージョナルチェーンの業容を持つ。
昨今ではDX(デジタルトランスフォーメーション)にも注力する同社の大堀左千夫(おおほり・さちお)社長に、首都圏のSMとして、そして電鉄系SMとしての生き残り戦略を聞いた。
ここ数年続くインフレ基調は、日常消費の商品が主力のSMにとってはトップラインの売上を押し上げることに大きく作用している。同時にそれは原料高、経費高を通じて利益を圧迫することに作用し、結果的に24年度の決算では利益面の厳しさが表面化した企業も多かった。
「2025年2月期は、商品値上げもありましたし、米や野菜などいろいろな高騰がありました。売上は好調だった一方で中身を分析すると、1人当たりの買上点数は減少傾向です。これは節約志向を反映していると思います。
利益面では、コストの上昇などが大きく影響し、前年比で減益でした。物流のコストも上がっていますし、電気代も前年ほどの伸びではないにしても上昇基調は間違いない。資材費も上がっており、備品なども少し買うだけでも負担が大きくなっています」
24年度の決算では全社計で2.5%増、SMの既存店売上高で2.4%増と増収の一方で、営業利益は10.7%減となった。今期に入ってからも増収傾向は続いているのか。
「直近の売上は5%ほど伸びています。エリア的な問題もあると思います。地方の方が、人口減少の傾向が見え始めているのかなと。東急ストアの場合、伊豆(静岡県伊東市、下田市)にある3店は少し(商圏として)特殊といえますが、基本的には東急線沿線が中心のドミナント展開で、千葉と埼玉を含め都市部といえますし、そこは区分けをしていません。
商圏人口についても、どれだけの占有率が取れるかで出店エリアを決めているので、人口が少ないから出ないというわけではありません。業態としても、狭小形態を含めさまざまなフォーマットを持っているので、商圏に合わせた展開ができることも強みです」
出店エリアとして有利である上、多様な出店形態を持つことも強みになっている。SMのフォーマットは主力の「東急ストア」と高級商品を取り扱う「プレッセ」、また、駅前などに小型店として出店する「フードステーション」の3つを抱える。
「いろいろなフォーマットを持っていることは重要だと思います。『プレッセ』は田園調布(東京・大田)や東京ミッドタウン(東京・港)などで展開していますが、近々、リブランディングをする予定です。
理由の1つに、新店検討の際、デベロッパーの方からのプレッセフォーマットのニーズが高いことがあります。そうしたこともあり、『ここはあらためて、高級業態を作り直そう』ということで、『プレッセのリブランディング』を今年のテーマにしています。
田園調布店をまずは改装して、その後、東京ミッドタウン店を改装する予定です。プレッセはいま4店舗を展開しているのですが、この2店舗が旗艦店なので、ここをまず手がけます。田園調布店の改装は今年度中を目指していましたが、MD(マーチャンダイジング)だけでなく、制服やサービス、接客などすべて1個1個見直して、ありとあらゆることをリブランディングしようとしているので、来年度になる見通しです。
特に都心に近いところに出店していく上で、われわれとしてはまずは複数の引き出しを持ちたいと考えています。物件が決まってからそこに合わせるのではなく、ニーズがあったときに、むしろわれわれから売り込めるような材料と引き出しをしっかり作ることが先だと思っています。
特にワインの分野、洋系のものについては、東急ストアのはるか上に行かなければいけない。(六本木という都心部にある)東京ミッドタウン店は(07年3月30日オープンで)10年以上営業していますが、いまだに毎年(売上が)伸びていて、ありがたい限りです」
SMを都市部で運営することには、地代、客層などさまざまな難しさが指摘される中、しっかり根付いている。
「われわれも出るときに反対意見の方が多かったです(笑い)。『六本木にお客さまが住んでいるのか?』という意見が非常に多かったですが、実際に出店してみたら、ちゃんとお住まいの方がいらっしゃいましたし、お客さまに鍛えていただいていることも大きいですね。リブランディングに当たっては、まずは田園調布店で具現化をし、その後、東京ミッドタウン店を手がける予定です。
われわれは都市部でしっかりと営業していかないといけないと思っています」
主力の「東急ストア」フォーマットの方向性はどう考えるのか。
「『東急ストア』も進化を遂げていかなければいけない。こちらは特にデリカの部分(が重要)です。駅前立地が多いものですから、共働きの比率がどんどん高まっている中、特に通勤帰りのお客さまから、すぐに食べられるデリカのニーズが非常に高まっています。
そこをわれわれとしては強化していかないといけない。だから東急ストアについては、デリカ強化と、加えて生鮮の強化ですね」
「東急ストア」フォーマットの旗艦店として、昨年12月4日、三軒茶屋店(東京・世田谷)を大規模改装した。
「定期的に、年に3、4店を改装していますが、その時のわれわれができる限りの改装、フラッグシップ的な改装を年に1店舗必ずやりたいと思っています。そこでMDを進化させていくという考えです。
新店もあるのですが、いまは新店で思い切った面積が取れる物件がないものですから、そこでやるよりは、既存店の中で面積もあり、売上の核となっている店舗を改装しながら、そこで進化を遂げていく形にしています。昨年では三軒茶屋店がそれに該当します」
三軒茶屋店の改装では特にデリカと生鮮に大きく注力した。
「特にデリカと水産に非常に大きな手応えを感じています。デリカではいろいろな機械(万能調理器の『バリオ』、鉄板など)を新たに導入し、他の店舗への水平展開も始まっています。
水産は逆に『原点回帰』をしました。大きな厨房で、窓を開けて、丸魚の販売からもう1回やろうじゃないかと。あとは対面販売です。水産については、そこにしっかり力を入れて取り組んでいます。これにも非常に大きな手応えを得ています。オープンしたとき、お客さまから『専門店がオープンしたのですか?』と言われました。それぐらい変わったとご評価をいただきました。
デリカも含め、本当に多くの方からご支持をいただける売場になりましたし、数字にも反映されています」
水産はトレンド的には縮小傾向で、売場も縮小する企業も多い。そうした中での強化は差別化になる。
「水産の役割のひとつに、『商圏を広げる』ということがあります。要は『あの店の魚』とご指名をいただく売場です。『水産が良い売場は商圏が広がる』というのは昔からの定説であり、今回の取り組みが手応えにつながっていますね。
既存店にはガード下など立地の都合上、窓開け厨房ができない店舗など、いろいろあるのですが、少しでもこの要素は入れていかないといけないと思います。『できない』と理由ばかり言っていても前に進まないので、『この店であれば、どこまでできるのか』という考え方で少しずつ拡大していきたいと思っています。
われわれはいま、同業態だけでなく、コンビニエンスストアやドラッグストアとの戦いの中で、徹底的に生鮮を強化することが重要なことだと思っています」
小型店の「フードステーション」についてはどうか。
面積が少ない、人口が少ない、(駅の)乗降客数が少ないなど、『東急ストア』の通常フォーマットを出すには制限のある場所で考えていきたいです」

ハード面だけでなく、ソフト面も重視
電鉄系であることから必然的に出店の中心は東急線の沿線になる。現在でも沿線以外の立地へも出店しているが、今後の出店エリアの拡大についてはどう考えているのか。
「実はまだまだ沿線のドミナントを埋め切れていません。空白地帯もあるので、まずはそこをしっかり埋めていきたい。また、沿線以外でも(伊豆を除いて)西は鎌倉店(神奈川県鎌倉市)、東は北越谷店(埼玉県越谷市)やららぽーと柏の葉店(千葉県柏市)といった店舗もあります。このエリアの中であれば、もちろん、出店は大いに検討させてもらいますし、都心にはまだまだ空白地帯があります。ここはやはり(『プレッセ』も用いながら)出店していきたいと思います。
ただ、第一優先はとにかくドミナント内をもっと埋めたいということですね。東急グループにもご協力をいただいています。やはり、マンションなど住宅を販売する際にスーパーもセットでというニーズはありますね」
目下、24年度~26年度の「中期3カ年経営計画」の真っ只中にある。その中身は。
「去年(25年2月期)からスタートして、今年度(26年2月期)で3カ年計画の2年目に入ります。今回の3カ年計画を組むときに、『10年後の東急ストアはどうあるべきか』を役員で半年ほどかけて、ディスカッションしました。
そこでわれわれが方向性として打ち出したことが3つあります。1つ目は『CX(顧客体験) 顧客起点での感動体験づくり』。体験価値を高めた売場づくりをしたいということで、実はその1号店が三軒茶屋店の位置づけです。対面販売や厨房内をご覧いただくといった、『ものを売る』だけでなく、『体験価値を突き詰められるような』売場にするということがその中身です。
2つ目は『EX(従業員満足) 従業員起点での企業文化づくり』。これにはDXなど生産性向上の問題も含まれます。働き方改革など、いろいろな問題がある中で、その対応に向けてしっかり投資も加えてやっていこうということです。
最後の3つ目は『SX(持続可能な企業へ) 地域・社会起点での共創づくり』。お客さまサービスの中で、去年はファンサイトを立ち上げるなど、こちらからいろいろ仕掛けをしていこうといったものです。
これらを3本柱にしながら、『10年後の東急ストアはこうあるべきだ』ということに向かって取り組んでいます。初年度はある程度できた、スタートは切れた感じがしていて、この2年目が非常に大事だという話をずっとしています。初年度でできたものを煮詰めて、どうやって高めていけるかということに取り組んでいます」
「CX(顧客体験) 顧客起点での感動体験づくり」の成果は、三軒茶屋店で具体的な取り組みとして表現された。一方で、「EX(従業員満足) 従業員起点での企業文化づくり」についてはどうか。
「DXについてはいま設備投資をしていて、例えば電子棚札は3分の2ぐらいの店に入っているなど、急ピッチで進めています。フルセルフレジ、いろいろな発注形態、カメラなど、いろいろなことでDX投資を高めています。生成AI(人工知能)なども研究に着手しています。
一方で、アナログ的なこともやっています。従業員とのコミュニケーションづくりとして、『パートナーランチミーティング』という会を開き、1回当たり20人ぐらいのパートナー(パートタイマー)さんに本社に来ていただいて、私を含め役員数名と高級弁当を食べながら皆さんとお話をしています。
普段のお仕事の話とか、逆にこちら側からプレゼンテーションをさせていただくなど、コミュニケーションの機会を作っています。順番に、半期で8~10回開催しています。パートナーさんは直接役員と話す機会がないので、この取り組みを始めました。
あとは入社2年目、3年目などの若手社員ですね。その年次だと手元の作業を覚えるのに精いっぱいで、なかなか視野が広がらないということもあり、一定の機会を設けて研修しようと考えました。役員が持ち回りで、『インナーブランディング研修』という形で取り組んでいます。
『10年後の東急ストアはこうなりたい』と考えているといったことに加え、それぞれの役員の得意分野などを話してもらっています。商品部系の役員はやはり商品の話から入るなど人によっていろいろで、それに制限は加えていませんが、一方で10年後のビジョンだけは必ず組み込むようにとは言っています。
研修後の懇親会には私も参加しています。若手社員は何に悩んでいるのかなどざっくばらんに聞く機会にしていますが、こういった機会はなかなか持てないものです。DX的なことと、人間的なコミュニケーションをミックスして、やっていきたいと考え、いま実際に始めているところです」
DXを進めていくと、ともすれば直接のコミュニケーションが減っていく可能性は確かにある。
「(デジタル技術を通じて)情報が簡単に流れるようになっていますので。特にいまの若手社員たちは、(新型コロナウイルスの影響で)大学生時代にコミュニケーションを取る機会が少なかったこともあって、逆に機会を作ってあげなければいけないとも思います。
また、一般的に3年目までは離職率も高いとされますが、その要因の1つに、会社が何をこれからやろうとしているかということに対して、理解度による違いがあるのではないかと思います。会社の未来が見えるか見えないかということは若手社員にとって重要です。それが見えないと、日々、目の前の作業ばかりやっているような感じにどうしてもなってしまう。だから、少し視野を広げる機会を作りたいという思いがあります。
コロナの期間中は会社としてもなかなか研修ができなかったのですが、去年ぐらいから一気に実施し始めました。従業員アンケートでエンゲージメントのスコアを計測していますが、高い数値が出ています」
3カ年計画の3つ目の柱である「SX(持続可能な企業へ) 地域・社会起点での共創づくり」としては、どのような取り組みがあるのだろうか。
「これにはサステナブル経営も含まれ、例えば去年の象徴的な取り組みでは、家庭の廃食油を東急ストアで回収して持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)にリサイクルする取り組みを始めました。他にも太陽光パネル、資源のリサイクル、フードバンクなどの取り組みを地道にやっています。社会に対する企業の責任だと思っているので、これ抜きには語れなくなってきています」
SMを磨きつつ、事業の「染み出し」にも取り組む
今回の3カ年計画のベースになった「10年後の東急ストア」の姿はどのようなものになるのか。
「先ほどの3つを基軸にして、基本的には鮮度・品質・健康価値の提供を強みにしたSMになろうということで、戦ってきています。この機軸は変えず、ただ、いろいろなことに『染み出ていく』ということを1つ、考えていかなければいけないと思っています。
いま、『ステーションリテール事業』として展開していますが、駅の売店(toks)、コンビニエンスストア(LAWSON+toks)、ドラッグストア(マツモトキヨシ)もそうですし、2月からは『シャトレーゼ』のフランチャイジーとしての展開も始めました。これらの物販の染み出しをやっていきたい。
例えばマツモトキヨシ五反田店(東京・品川)は、インバウンド効果で絶好調です。免税売上は多い月で14%ぐらいを占めます。もちろん、インバウンドの影響があるお店は五反田店などに限られますが、ドラッグストアは他の一般的な店舗も好調です」
簡便需要がますます高まることを鑑みると、商品面ではデリカの重要性はさらに増す。
「そうですね。三軒茶屋店では『シン・デリカ』という考え方の中で、生鮮も含めた垣根を取っ払ったデリカをしっかりやりたくて、『Fresh Cook DELI』という取り組みに挑戦しました。
水産で生のアジをおろして、それをデリカに持って行って、卵を付けて、パン粉を付けて、揚げて提供すると、あっという間に、1時間で100枚ぐらい売れてしまう。やはり、お客さまも価値をご理解いただいているし、ニーズがあるなと、手応えがあります。もちろん、非常に手間がかかって大変なのですが、いろいろなことに取り組んで行ければと思っています。
いままでのデリカの派生、拡大ではなく、万能調理器のような新しい調理器具を入れたり、生鮮からの商品供給をしたりといったところで、もっともっと進化を遂げていきたいと思っています」
生鮮部門の素材を使った惣菜ということでは、生鮮部門の中で惣菜まで手がける形もあるが、東急ストアの場合はあくまでデリカに素材を供給する形を採っている。
「水産売場や畜産売場でデリカコーナーを作るチャレンジをされているところもありますね。もちろん、スペースがあれば、それも良いと思いますし、可能性もあると思いますが、一方で、それよりもお客さまからするとやはり、デリカはデリカ売場で販売した方が良いのではないでしょうか。生鮮はあくまで素材供給をして、デリカで製造して販売する形で、1つの売場にした方が良いと思います」

東急ストアの場合、三軒茶屋店も含め、店内加工の冷惣菜である「RICH DELI」シリーズに注力している点が特徴的だ。
「低温厨房をわざわざ造って『RICH DELI』として取り組んでいます。低温でしか調理できないスイーツ、サラダ、ローストビーフなどを作れる厨房を、改装のたびに設置しています。これもデリカの幅を広げる施策の一環です」
作りたての「温かさ」が重要な温惣菜とは異なり、冷惣菜はアウトパックへの移行を進め、効率を重視する企業が多い。
「もちろん、全部が全部そういうわけ(店内加工)ではない。例えば汎用品のポテトサラダを自店で作るのかというと、そこまでやると店舗の負担が大変なことになります。付加価値を付けた商品、この厨房がないとできない商品について、『RICH DELI』としてしっかりやっていきたいですね。
(アウトパックの設備では)東扇島(川崎市川崎区)にプロセスセンター(PC)がありますし、デリカのサテライトキッチン(デリカPC)がいま3カ所にありますが、いまの製造量で手いっぱいの状況です。将来的にはPC(の機能を拡充すること)でもう少し冷惣菜ができたら良いと思っています。
東扇島のPCはカットフルーツを含む青果、水産、畜産、デリカを加工して、そこから店舗供給しています。他、デリカについては、田奈店(横浜市青葉区)と長原店(東京・大田)に温惣菜と寿司、あとは碑文谷(東京・目黒)に寿司のPCがあります。
ただ、特にデリカは分散していることで物流費や採用などの面で問題が出てくると考えています。できれば1カ所にまとめたいと考えていますが、そもそも土地があるかといった問題もあるため、今後の検討事項になります」
成長戦略としては、ネットスーパーのチャネルも手がけている。
「店舗型のネットスーパーを展開していますが、結構な店舗数に拡大しています。ただ、ネットスーパーはコロナ(のまん延)のときに急速に拡大したのですが、そこからは横ばい、もしくは少し伸びているぐらいといった状況です。
展開していない店にはそれぞれ理由があります。例えばガード下の店舗だと配送業者が入れないなど、物理的にできない店もあります。また、店舗型のネットスーパーなので、小さい店舗はどうしても品揃えが限定されてしまう。だから、売場規模があって、配送もしっかりできて、ピッキングスペースもしっかり取れる店舗を中心にやってきています。
ただ、最近では、狭小の店舗でも始めているので、エリア的にはかなり広がってきています。今後、新店では新たに展開する可能性はありますが、既存店ではこれ以上増やす必要はないと思っています。また、センター型のネットスーパーも予定はありません」
集客においては、ポイント施策も鍵になってくる。
「東急グループの一員としてTOKYU POINTでの施策を長年やってきましたが、どうしても60代以上の方がメインターゲットになりがちでした。やはり20代~40代の方を取り込みたいとなったとき、楽天さまともポイント施策をやった方が良いだろうという考えで、楽天ポイントも導入しています。
ダブルポイント制度(本体価格200円買うごとに両方のポイントを1ポイントずつ付与、還元率は2つ合わせて1%)で展開していますが、販促費の中で調整できるだろうと考え、進めてきました。
結果、想定どおりのすみ分けになりました。やはり楽天ポイントは若い層を呼び込み、客数に大きな貢献をもたらしています。ありがたいことに、楽天ポイントの利用者の伸びはいまだにすごいです。
さらにいま、どんどん利便性を高めていて、(24年7月には)スマホの画面のバーコードをスキャンするだけで両方のポイントが付き、さらに東急カード利用者であれば決済までできる『TOKYU CARDスマート払い』を導入しました。特にフルセルフレジだと1回スキャンするだけですので本当に早いですね」
楽天は1億以上の会員数を持ち、データ分析などさまざまな形での活用にも踏み込んでいる。
「楽天さまのデータは顧客数も大きく、データ分析力も高い。これもわれわれとしては魅力でした。いろいろな連携をさせていただいています。一方で、ネットスーパーは楽天さまとは組まず、自前での展開です」
今後の店舗運営の在り方、DXという文脈ではセルフ化が進むレジも焦点になる。
「全台をフルセルフレジにするつもりはなく、セミセルフレジを残しながらフルセルフレジを導入していますが、いまフルセルフレジの割合がどんどん大きくなっている状態です。一番効果を感じているのは学芸大学店(東京・目黒)で、改装に際してフルセルフレジを入れたのですが、フルセルフレジの利用率が全体の売上の60%以上になっています。
圧倒的にフルセルフレジの方を利用していただいているので、その面では『もうフルセルフレジでも問題ないね』という話になりますが、そうは言っても朝に来られる高齢者の方とか、中にはレジの担当者と会話をしたいという方もいらっしゃる。もちろん、『操作が煩雑』という声もあります。全台をフルセルフレジにするつもりはありませんが、割合は高めていく方向です」
Vマークでボトムを押さえつつ、消費の二極化にも対じ
SMの競争を考える上で、今後、商品の独自性が重要性を増すことは確かだろう。デリカなどはその代表的なものだが、一方で加工食品でも東急ストアを含む私鉄系SM企業が共同で商品の企画・開発を⼿がける会社として設立した八社会のPB商品「Vマーク」がある。
「私鉄系の企業を中心に八社会で取り組んでいますが、当然、(価格の)ボトムのラインはスケールメリットがあった方が優位なものができますので、各社で協力しています。最近では(「バリュープラス」ラインに加えて、グレードが)上のブランドも出していまして、「グルメテーブル」「ナチュデイズ」といったブランドも作り、共同で進めていますが、基本的には、やはりスケールメリットを生かした、しっかり価格を出せるボトム商品を作っていきたいと思っています」
他方、東急ストアとしてのプライベートブランド(PB)商品は考えないのか。
「いままで何回もチャレンジしてきましたが、なかなか難しい。どうしてもロットの問題が出たりして、最終的にはとん挫してしまっています。ただ、いま進めているのは、別に『東急ストアのPB』だと宣言しなくても、留め型で作ればいいんじゃないかということで、売場を見てもよく分からないかもしれませんが、実は東急ストアの専用商品が多くあります。
Vマーク商品主体ではありますが、その中でどうしてもすき間ができている、あるいは東急ストアならではの価値が必要な分野については、しっかり留め型を作っていこうと考えています。
いまお客さまのニーズは二極化していると思います。これだけ『値上げ社会』になっているので、『1円でも安く』というお客さまの購買行動については買上点数を見れば一目瞭然で、われわれもそこはしっかり対応していかなければいけない分野だと思います。Vマークについては3月から10品目値下げをしましたが、数量的にも売上的にも単品で見ればとても伸びているので、やはり価格のニーズはあるんだなと。
ラーメン1杯1000円以上が当たり前というように、外食がここまで高くなって内食化傾向になっているのは、われわれにとってはフォロー(追い風)で、それでお客さまがSMに流れてきているのは肌で感じます。
一方で、ハレのときはしっかりお金を使うという消費行動もあるので、それに向けても、しっかり商品供給をしていかなければならない。プレッセはまさにそこが強みで、去年の年末にあらためて、ハレの日ならではの商材が強いなと感じましたね。
普段の生活は防衛意識が高いですが、やはりちゃんと『ここは使う』というところでは使うということは感じますね」
二極化の傾向が強まるなど消費環境が変わる中、経営において最も重視する数値をどのように考えているのか。
「もちろん、売上は日々見ています。ただ、いま世の中が変わってきたなと思うことは、昔は当然、売上高が伸びれば利益も伸びるという構図だったのですが、いまはそれが成り立たないと思っています。やはり最終的には営業利益を見据えた経営をすべきだと思いますし、単純に売上だけ上げれば良いということではだめです。
いろいろな関係値があり、売上を上げるにはいろいろな経費を使わないといけない。例えば家賃が売上歩率だったりするところもいっぱいあります。単純に売上だけを上げるということが、利益を上げることにつながらなくなっている。
去年がまさにそうでしたし、多くの会社がそうだったと思います。売上は良いんだけど、減益になっている。売上偏重主義みたいなところから少しシフトしていかなければいけないという話は、会社内ではずっとしています。やはり、営業利益を見据えた売上の取り方をしていく。
そのために、まずは大元となる売益金をしっかりと取らないといけない。昔は出店攻勢で売上を挙げることもありましたが、いまは出店場所も限られています」
日本は人口が減る局面に入っている。東急ストアの商勢圏である首都圏はその速度が他の地域に比べるとゆるやかだと言えるが、中長期的には影響が避けられない。
「2030年、あと5年ぐらいは何とか大丈夫かなと思っていますが、それ以降は徐々に減少が進むと予想しています。われわれとしては人口減少よりも高齢化の影響をより視野に入れていく必要があります」
そうなると、やはり若年層をしっかりと顧客にしていく戦略が求められる。
「それもあっての楽天ポイントの導入ですし、MD上も若者を意識した取り組みを実施しています。先ほどの(3カ年計画の取り組みである)ファンサイトの立ち上げなど、いろいろなことでアプローチを増やしていくこともありますし、シャトレーゼのフランチャイジーをやるなど『染み出ていく』のもそのための施策のひとつです。
商勢圏の拡大が難しいからこそ、そういうところにも広げながら、しっかり運営していきたいと思います。一方で、主力であるSMはしっかり成立しないといけない」
SMとしてしっかり事業を継続するための施策を打ちつつ、一方で事業領域を染み出させることで、商勢圏の需要の深掘りをしていく。もちろん、主力がSMであることは変わらないだろう。改めて、SMで働くことの意義を聞いた。
「私は40年この業界にいるのですが、特にSMは、重要なライフラインの1つだと痛切に感じますね。コロナ(まん延)のとき、『エッセンシャルワーカー』と言っていただきましたが、これは非常に大きな話であって、いかに大事な職業であるかということです。
従業員には、日ごろからわれわれは『食』という人間の生活にとって重要なものを担っているんだという誇りを持ってほしいですね」

「食」は人がいる限り必要な要素であり、それを提供するビジネスの必要性についても、今後もずっとなくならないものであることは確かだろう。その重要な「使命」を自覚しつつ、一方で時代に合わせて変化していくことも求められる。
10年後の東急ストアは、どのようなものになっているのか。現時点でその姿を想像するのはなかなか難しいが、そのための準備が着実に進められていることは確かである。









