DX推進のポイントとは?経済産業省の『DX 推進ガイドライン』を元に解説
2022.10.26
2021.11.12
AIやIotなど最新のデジタル技術を活用してビジネス上の競争優位性を高める、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増加している。
経済産業でも、2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するための
ガイドライン(DX 推進ガイドライン)」を作成し、企業のDX推進を後押ししている。
本記事では、経済産業省のDX推進ガイドラインなどを参考に、DXの概要から、DX推進における課題やポイントついて、基礎的な内容を解説していく。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DXという言葉は、元々、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という仮説を元に提唱したのが始まりとされている。
次第にビジネス分野でも用いられるようになり、近年では、もはやバズワードのように様々な業界・業種で「DX」という単語が飛び交うようになった。
ビジネス用語としての定義は、概ね「AIやIotなどの最新のデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織を変革して競争力を維持・強化する」という意味合いで用いられることが多い。
DXが求められている背景にあるもの
経済産業がDXを推進する背景に、「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(以下、DXレポート)にて提唱された「2025年の崖」という問題がある。
「2025年の崖」とは、2025年までに、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合に発生する国際競争力の停滞やそれに伴う経済損失などを指す。
経済産業省はDXレポート内にて、2025年までに予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まりに伴い、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘している。
具体的には、爆発的に増加するデータ活用における競争力の低下、既存システムの運用・保守担当者不在による技術的負債の増加、また、サイバーセキュリティ上のシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスク増加などを問題として挙げている。
DXレポートによれば、DXによっていかにビジネスを変革するかという経営戦略の方向性を定めていく以前に、老朽化した既存システム自体が足かせとなって、DX推進の実行を妨げている場合が多いという。
老朽化した既存システムを残存させたままでは、新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用・連携が限定的となり、結果として効果が限定的になりDXの効果を十分に発揮できない場合がある。
そのため、DX推進にあたっては既存のシステムの刷新を視野に入れていく必要があるが、既存システムはビジネスプロセスと密接に結びついているため、既存のシステム刷新するとビジネス・プロセスそのものの刷新が必要となる。これに対する現場サイドの抵抗が大きいため、いかに実行に移せるかが課題だとDXレポートは指摘する。
経済産業省では、企業がこういった課題を乗り越えてDX推進を実現するための要綱を『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(以下、DX推進ガイドライン)』としてまとめている。
DX推進が求められる背景には、上述のような「2025年の崖」と呼ばれる、既存システムの残存による経済損失という問題が存在している。
経済産業省の『DX推進ガイドライン』が作成された背景
上述の通り、DX を本格的に展開していく上で、既存のITシステムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化や、IT システムと併せたビジネスプロセス刷新の必要性など、様々な課題が指摘されてきた。
こういった状況を踏まえて、経済産業省は、2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置して、日本の企業が DX を実現していく上での現状の課題整理とその対応策の検討を行い、前述の『DX レポート~IT システム「2025 年の崖」の克服とDX の本格的な展開~』として報告書を取りまとめた。
このDX レポートにて、DXを実現するためのアプローチや必要なアクションについて認識の共有が図られるようなガイドラインの必要性が指摘され、経済産業省は、2018年12月に「DX推進ガイドライン」を発表した。
DX推進ガイドラインでは、DX の実現やその基盤となる IT システムの構築において、経営者が押さえるべき事項を明確化し、取締役会や株主が DX の取組をチェックする上で活用できるものとすることを念頭に作成されている。
次からは、DX推進ガイドラインにて、提言されているDX推進で抑えるべき事項を紹介していく。
DX 推進における経営のあり方、仕組み
DX推進ガイドラインにて提言されている、DX推進において特に経営者が押さえるべき事項を紹介していく。
(1)経営戦略・ビジョンの提示
DX推進ガイドラインでは、トップが明確な戦略やビジョンを示さず、例えば「AI を使って何かやれ」といった抽象的な指示しか出さず、部下に丸投げして考えさせるような例を失敗ケースとして挙げている。
データとデジタル技術の活用によって、どの事業分野で、どのようなビジネスモデルを構築して新たな価値を生み出すのか。経営戦略やビジョンを提示できているかが重要になる。
前述の通りDX推進には技術部門だけではなく、複数部署を横断したプロジェクトになることが多い。経営トップが明確なビジョンを示すことで、立場の異なる利害関係者間でもスムーズな意思統一や認識の共通化を図れる効果が期待できる。
(2)経営トップのコミットメント
前述の通り、既存のITシステムの刷新は、現行のビジネスや組織、仕事の仕方自体にも影響を及ぼすため、現場サイドからの抵抗が大きくなる可能性が高い。
その時に、経営トップ自らが強いコミットメントを持って取り組み、リーダーシップを取って意思決定を行う組織では、会社全体での意思統一や利害調整もスムーズに進みやすいと考えられる。
(3)DX 推進のための体制整備
経営トップの戦略やビジョンを実行するために、現場の体制も整える必要がある。DX推進レポートでは、①マインドセット、②推進・サポート体制、③人材の3つの要素の整備を提言している。
①マインドセット
DX推進レポートでは、新しい挑戦を積極的に行っていくマインドセットの醸成が必要としており、そのために仮説検証を正しく繰り返すためのプロセスの確立を挙げている。
「仮説の設定→実行→検証→新たな仮説を得る」という一連の繰り返しプロセスを確立し、そのプロセスをスピーディーに実行し、また実行した上で本来の目的を満たすものかどうか評価する仕組を確立する必要になる。
仮説検証のプロセスをスピーディーに実行していくことで、新しい挑戦を積極的に行えるマインドセットの醸成を仕組みから生み出す効果が期待できる。
②推進・サポート体制
DX推進を現場に丸投げするのではなく、現場の新しい挑戦をサポートするような体制構築も推奨している。DX推進レポートでは、『各事業部門におけるデータやデジタル技術の活用の取組を推進・サポートDX 推進部門の設置』を挙げている。
③人材
DX推進には、デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保が重要だ。また、ただデジタルに詳しいだけではなく、自社の事業や業務内容をよく理解したうえで、システムに落とし込んでいく必要があるため、外注だけではなっく、業務に習熟している社内人材の活用も積極的に考えていくとよいだろう。
(4)変化への対応力の有無
デジタル技術は進化の速度が早いため、ビジネスを取り巻く環境も刻一刻と変化を続けている。 そのため経営方針や戦略も状況に合わせたものに変化を
DX推進によって実現するビジネモデルの変革自体が、経営方針転換やグローバル展開等へのスピーディーな対応が可能なものになっているかどうかも求められる。
DX 推進における IT システムの構築
DX推進ガイドラインにて提言されている、DX推進で求められるITシステム構築のポイントをいくつか解説していく。
(1)全社的な体制構築
前述の通り、DX推進は、複数の事業部門を横断したプロジェクトになり得る。各事業部門におけるデータやデジタル技術を戦略的に活用し、有効なITシステムを構築するには、部門単位ではなく全社的にDXに取り組む体制構築が求められる。体制と併せて、デジタル技術屋データ活用に知見のある人材を確保することも重要だ。
例えば、DX推進ガイドラインでは、先行事例として、経営レベル、事業部門、DX 推進部門、情報システム部門から成る少人数のチームを中心にトップダウンで変革に取り組む例を挙げている。
(2)ガバナンスの整備
ITシステムの構築においては、前述の「2025年の崖」問題で言及したように、新規で構築するITシステムが複雑化・ブラックボックス化しないように、既存の IT システムと円滑な連携が図れて、部門単位の個別最適になるのではなく、全社最適になるかどうかを管理するガバナンスの強化が求められる。
失敗ケースとしては、既存のベンダーから提案を鵜呑みにして、ベンダーに丸投げしてしまう例が挙げられている。
DXのような全社的なITシステム刷新においては、ベンダー企業に丸投げするのではなく、企業自らが企画・要件定義に関わることが重要になってくる。
(3)オーナーシップと要件定義能力
ベンダーや自社内の情報システム部門にシステム構築の企画や要件定義を丸投げした場合、現実の業務プロセスと合わないシステムが出来上がってしまう場合がある。
DX推進ガイドラインでは、事業部門がオーナーシップを持たず、情報シス任せとなり、結果、完成した ITシステムが事業部門の要件を満たすものにならないパターンを失敗ケースとして挙げている。
DXは、現場の業務プロセスにも影響を及ぼす場合が多く、業務プロセスを熟知した各事業部門の担当者が、企画・要件定義に関わることで、より有効性の高いITシステムが構築できる可能性が高まる。その際には、各事業部門が自ら、ベンダーからの提案を取捨選択し、要件定義を行う能力が求められる。同時に完成責任までを担うことも重要になる。
(4)変化に対する対応力の有無
前述のDXに対応する経営のあり方でも言及したが、システム構築においてもスピーディに変化に対応できるかどうかも重要になる。
次々と、新しいデジタル技術や競合サービスが生まれる、現代のビジネス環境においては、変化に対するスピーディな対応力は大前提となり得る。つまり、構築するITシステムには、新たなデジタル技術の導入や、ビジネスモデルの変化に迅速に追従できるか仕様が求められる。
IT システムの刷新自体が自己目的化し、結果、変化に弱いシステムでは、ビジネス競争力を高めるITシステムにはなり得ないのである。
DXの取り組み事例
最後に具体的にDX推進を導入している企業を紹介する。DXを導入することでどのようなメリットがあるのかが、わかってくる。ここで紹介するのは、ダイキン工業株式会社、三菱電機株式会社、オークマ株式会社の3社だ。いずれもモノ作りで定評のある企業ばかり。
ダイキン工業株式会社 「工場IoTプラットフォーム」
ダイキン工業は日本国はもちろん世界約40ヵ国に生産拠点を置くグローバル企業。問題点は海外工場での技術者の確保だった。
すべての拠点で日本国内の拠点と同レベルの基準を維持するために、作業工程をデジタル化し、作業評価によって数値化し入力することで世界でレベルを同一化することに成功した。技術者がIoTプラットフォームを通じて同じ場所にいるように感じ、技術を伝承している。
技術面だけではなく商品開発にもDXは生かされている。各エリアで温度と湿度が異なるため、そこに住んでいる人にとっての快適空間というのは差がある。快適な空間を数値化することでどのような商品がもっとも必要なのかを元に商品開発をおこなっている。
三菱電機株式会社 「e-F@ctory」
家電製品から産業機器、社会インフラといった幅広い分野で活躍している三菱電機は、「e-F@ctory」によるスマート工場を提供している。工場内における生産情報をITと連携し、工場内の状況を数値化していく。エッジコンピューティングを利用するため、サーバーへの負担が少ない。
「e-F@ctory」のメリットは、コスト削減や品質の均一化、安全性確保、セキュリティー、生産性アップなど。スマート工場によってDX推進を現場からはじめられる。
三菱電機の「e-F@ctory」は自社のDX推進のみではなく、物流システムのAmazon、菓子類を生産するロッテなどさまざまな場所で利用されている。
オークマ株式会社 「IT Plaza」
生産現場でのデジタル化を早くから進めてきたオークマ。試し加工をおこない、効果の測定を繰り返したデータをデジタル化して蓄積することで、加工方法を改善しコストを削減し生産性をアップしていく。これは2000年にオークマが最初に手がけたIT Plazaの基本的な構造だ。
オークマは生産系のシステムをベースに各部署に送られるデータを一元化し管理の簡素化を図る。すべての業務の改善案や課題、成果を数値で評価し取り組む。
蓄積されたデータへはExcelシートから直接アクセスできる。そのためすべての作業員が同じ動作を確認でき、作業ミスをなくす。生産物を常に同じ条件でつくり、品質記録を蓄積する。
また培われたシステム運用は商品として提供されている。
DX推進により企業の新しい形が生まれる
DX推進について経済産業省の資料を元に解説してきた。
DXは、IT部門やベンダーに丸投げすれば実現するものではなく、経営トップも含めた全社的なコミットによって実現し得るものである。DX推進をする際には、この点を念頭において、強い覚悟と意思を持って取り組む必要があるだろう。