デジタル庁が推進するガバメントクラウドとは?地方自治体の導入メリットなどを解説
2022.10.26
2021.11.25
デジタル庁は、政府・地方自治体が共通に活用できるクラウド基盤として、ガバメントクラウドの運用を進めている。2021年10月には、基盤となるクラウドサービスも選定され、その動向に一層注目が集まっている。
また、政府は地方自治体の基幹業務システムを、国が定める標準準拠システムへ移行することを法律で義務付け、ガバメントクラウドの利用を推奨した。昨今の行政において、無視できない存在となっているガバメントクラウドの詳細を、本記事では解説していく。
ガバメントクラウドとは?
ガバメントクラウド(Gov-Cloud)とは、利便性の高いサービスをいち早く提供し、改善していくことを目標に構築された、政府共通のクラウドサービス(IaaS・PaaS・SaaS)のことを言う。ガバナンス機能とテンプレートを利用し、政府の管理レベルや品質向上に寄与するだけでなく、セキュリティ・ネットワーク・運用監視の設定自動化も支援する。
ガバメントクラウドは、地方自治体の情報システムでも活用できるよう、運用が進められている。アプリケーション開発事業者は、政府の標準仕様に準拠した基幹業務システムを、ガバメントクラウドに構築できる。複数の開発事業者が、ガバメントクラウド上にシステムを構築し、地方自治体はそれらの中から適したシステムを選択。地方自治体は、基幹業務をスタンドアロンではなく、オンライン上で行える。
政府が共通に提供する最新クラウド基盤・機能を活用することで、高いセキュリティ・可用性・スケーラビリティでシステムを実装可能。また、インフラコストを可視化し、適切なコスト管理にも繋がる。
ガバメントクラウドの共通基盤として採用されるサービスは、2021年10月に公募を実施。応募した企業は3社で、選定されたのはAWS(Amazon Web Services)と、GCP(Google Cloud Platform)と発表された。残り1社が国産クラウドであったかは明かされていないが、アメリカの2社が選定された結果に。
ガバメントクラウドの選定基準には、約350の項目が設けられており、加えて政府が定めるセキュリティ評価制度ISMAPに登録していることが条件。ISMAPの登録事業者は、富士通やNTTデータなど日本企業も数社存在するが、約350項目の選定基準を国産クラウドでは満たせなかったというのが定説として挙がっている。
ガバメントクラウドが推進される背景とは?
ガバメントクラウドが推進される理由としては、令和3年9月1日に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が背景にある。地方自治体の基本的な事務処理を行う基幹系情報システムは、その大半が法令で定められているが、利便性やユーザビリティなどを高めるため、各地方自治体は個別カスタマイズを施していた。
しかし、その一方で下記のような課題が問題視されていた。
- 制度改正等によるシステム改修の際、個別対応が必要で負担が大きい
- 情報システムの差異を調整できず、クラウドによる共同利用が進まない
- 住民サービス向上のための取り組みを、迅速に全国へ普及できない
課題を解決すべく、推進されているのが地方自治体の業務プロセス・基幹系情報システムの標準化だ。本法では、住民記録・地方税・福祉といった地方自治体の主要基幹業務17種に関して、国が定めた標準仕様に準拠したシステムへ移行し、処理することを義務付けた。標準準拠システムへの目標移行時期は、令和7年度(2025年度)だ。
そして、開発事業者は標準準拠システムを全国的に利用できるよう、ガバメントクラウド上で実装することを推奨している。ガバメントクラウドの提供で、各地方自治体が標準的機能を保有でき、システム更改も円滑に進められるだろう。
ガバメントクラウドのメリットとは?
地方自治体がガバメントクラウドを活用することには、複数のメリットが存在する。ここでは、そのメリットを4つ解説していく。
ITコストを削減できる
従来、各地方自治体では個別にシステムを構築し、運用するケースが多く見られた。しかし、ガバメントクラウドでサーバー・OS・アプリケーションを共同利用することにより、調達費用や構築にかかる時間を削減できる。
地方公共団体情報システムの標準化で定められた17種の基幹業務には、地方税・介護・福祉などの業務も含まれる。これらの基幹業務は、毎年のように制度改正が行われるが、その都度開発事業者との仕様設計やシステム改修費用などが発生した。一方、ガバメントクラウドでは、個々にカスタマイズされたシステムではなく、共通の標準準拠システムを利用するため、改修の打ち合わせなどに必要な人的リソースも削減可能だ。
また、複数の民間開発事業者がガバメントクラウド上にシステムを構築するが、地方自治体は自由にシステムを選択できる。結果的に、開発事業者間でコスト競争が発生し、地方自治体としては費用の削減に繋がる。多種多様なシステムの中から、使い勝手の良いシステムを選べるのもメリットだ。
システムの迅速な構築・柔軟な拡張を行える
新システムを導入する上では、現状把握・要求定義・ベンダー選定・サーバー構築など、複数のステップを踏む必要がある。ガバメントクラウドでも先述の通り、複数の標準準拠システムから自由に選べるため、現状把握やベンダー選定などは必要。
しかし、サーバーはすでに構築済みのガバメントクラウドを利用するため、迅速にシステムを導入し、運用を開始できる。また、ガバメントクラウドは拡張性が高いのもポイント。住民に新たなサービスを、スムーズに届けられる。
ワンスオンリーのサービスを提供できる
ガバメントクラウドでは、アプリ間のデータ移行を容易に行える。行政手続きに必要な情報を、一度提供するだけで済むワンスオンリーを実現可能なため、住民の利便性は向上。
加えて、地方自治体の職員も、システムごとに同じデータを何度も入力・確認する手間がなくなる。ガバメントクラウドの導入で、職員の業務効率化にも繋がると考えられる。
高レベルのセキュリティ対策を行える
ガバメントクラウドは、地方自治体が管理するのではなく、政府として共通に提供される。各地方自治体が、個別にセキュリティ対策・監視を行う必要がないため、システム運用にかかるコストを削減可能。
さらに、ガバメントクラウドでは、最新のセキュリティ対策を施している。個別の団体では難しい高レベルのセキュリティを実装でき、決して漏洩してはならない重要な個人情報も、クラウド上に保管可能だ。
ガバメントクラウド先行事業とは?
政府は、ガバメントクラウド上に構築する標準準拠システムを、各地方自治体が安心して利用できるようにするため、先行事業を実施している。
先行事業では、検証に協力してくれる市町村にガバメントクラウドのテスト環境を提供し、現に利用する基幹業務等システムもしくは導入を希望する基幹業務等システムをリフト。そして、下記点に関して、ガバメントクラウドの有効性を検証する。
- 標準非機能要件の検証
- 標準準拠システムの移行方法の検証
- 投資対効果の検証
標準非機能要件の検証では、「地方自治体の業務プロセス・情報システムの非機能要件の標準」の基準を満たすかチェック。要求事項としては、保守性・セキュリティ・可用性・拡張性・移行性など、さまざまな要件が定められている。
また、標準準拠システムへの移行方法の検証では、ガバメントクラウドへリフトしたシステム・リフトしないシステム間の連携と、リフト後の標準準拠システムへシフトする方法の有用性を検証する。ガバメントクラウドの本格運用が開始された際、標準準拠システムへの切り替えを円滑に進められるよう、評価していく。
検証後はデータをリフトし、本番環境へ移行。なお、先行事業中に実業務へ影響を与えないため、既存システムも並行稼働させ、万が一のトラブルに備えている。
ガバメントクラウド先行事業の市町村公募はすでに終了しており、応募があったのは52自治体。そのうち、採択されたのは下記8自治体だ。
- 神戸市
- 倉敷市・高松市・松山市
- 盛岡市
- 佐倉市
- 宇和鳥市
- 須坂市
- 美里町・川島町
- 笠置町
先行事業は、令和4年度にかけて実施予定。ガバメントクラウドへのリフトにかかる課題を洗い出し、問題解決に繋げていく。
ガバメントクラウドのまとめ
ガバメントクラウドの利用により、地方自治体が受ける恩恵は非常に大きい。コストやリソース削減に繋がるだけでなく、住民側もワンスオンリーで利便性が向上する。加えて、政府の高いセキュリティを備えた最新クラウド環境で、安心して業務を行えるだろう。
もちろん、ガバメントクラウドへの移行で、場合によっては業務フローの変更やマニュアルの整備なども必要になる。しかし、政府・地方自治体・住民の三者に導入のメリットがある。
現在は先行事業による検証段階で、ガバメントクラウド上での標準準拠システムへの移行は、来年度以降の見通し。各地方自治体は、ガバメントクラウドの利用も見据え、標準準拠システムの導入を検討してみてほしい。