DX投資促進税制とは?優遇内容や適用要件などを解説

2022.10.27

2021.11.29

令和3年度の税制改正において新設されたDX投資促進税制。企業のデジタル関連投資に対する税制を優遇する制度で、ウィズ・ポストコロナ時代を見据えた全社的なDX化を目指す企業には追い風となるとして注目を集めている。

当記事では、DX投資促進税制が創設された背景や制度の内容、税制優遇を受けるための適用要件について詳しく解説する。

目次

DX投資促進税制とは?

DX投資促進税制は、企業のデジタルフォーメーション(DX)を促進させるための一手として、令和3(2021)年度の税制改正法案において可決された制度である。クラウド技術の活用、デジタル技術の導入、レガシーシステムからの脱却など、DXに関連する投資に対しての税制優遇措置で、主体的にDX推進に取り組む企業を後押しする制度ともいえる。

適用される税制優遇は、税制控除、特別償却のどちらかを選択可能。適用要件には、DX認定の取得、事業適応計画の認定などさまざまな項目が設けられており、部門、拠点ごとといった限定的なDXではなく、全社レベルの本質的なDXが求められている。

DX投資促進税制創設の背景

DX投資促進税制が創設された背景にはさまざまな要因がある。ここからは、DX投資促進税制創設の一因となったとされている「2025年の崖問題」「行政によるデジタル化推進」「ウィズコロナ、ポストコロナを見据えた企業のDX実現」の3点について解説する。

「2025年の崖」問題

「2025年の崖」とは2018年に経済産業省が発表したDXレポートに登場する言葉である。レポートの中では、企業によるDXが実現されない場合、2025年以降、現在の3倍となる年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告している。

特に、複雑化、老朽化、ブラックボックス化した既存のレガシーシステムからの脱却を課題としてあげており、解消できない場合、デジタル競争の敗者となると危惧されている。このようなリスクを回避するための取り組みの1つとして、DX投資促進税制が打ち出されたとされている。

行政によるデジタル施策の推進

菅前内閣総理大臣は、就任当初から行政サービスや民間企業におけるデジタル化推進の必要性を掲げ、デジタル庁の新設、行政のデジタル化、マイナンバーカード普及促進などさまざまな取り組みを行うと明言した。

また、与党が公表した税制改正大綱の中でも、菅前内閣総理大臣の意向を反映し、社会的にDXの取り組みを推進していくことが明記された。DX投資促進税制はこのような政府のDX推進への強いから生まれ、DXの取り組みを加速化させるための一手として期待されている制度である。

ウィズコロナ、ポストコロナを見据えた企業のDX化の実現

新型コロナウィルスの感染拡大により、日本においても企業活動のあり方が大きく変化した。業務のリモート化、オンライン化への意識、需要が飛躍的に高まり、企業は半ば強制的にDXへの対応を求められることになった。

これから迎えるウィズコロナ、ポストコロナ時代には、より一層企業活動のDX化が求められるとされている。DX投資促進税制は企業が次世代で生き残るためのDX化を後押しするために、創設された制度である。

DX投資促進税制の適用要件

DX投資促進税制の適用には、まず産業競争力強化法に基づいた事業適応計画の認定を受ける必要がある。ここからは事業適応計画の認定に必要な要件について詳しく解説していく。

計画実施期間

事業適応計画の実施期間は5年以内とすること。

生産性向上/新需要の開拓

事業適応計画終了年度までに、生産性向上に関する要件または新需要の開拓に関する要件のどちらかの達成が見込まれる計画であること。

・ROA(総資産利益率)が1.5%ポイント以上向上すること(基準は平成26(2014)年度から平成30(2018)年度までの平均値)
・新商品・新サービスの売上高伸び率が、過去5事業年度の業種売上高伸び率より5.0%ポイント以上向上すること

財務の健全性

事業適応計画終了年度までに、財務の健全性に関して以下2つの要件の達成が見込まれること。

・有利子負債÷CF(キャッシュフロー)≦10
・経常収入>経常支出

前向きな取組

課税特例を受けるための取り組みが以下のいずれかの類型に該当すること。

(1)新商品の開発、生産または新サービス提供を行う場合
事業適応計画終了年度までに、当該商品、サービスの売上高の合計が投資額の10倍以上となること。
(2)新しい生産方法の導入や設備の能率向上を行う場合
事業適応計画終了年度までに、当該商品の1単位あたりの製造原価等を8.8%以上削減できる見込みがあること。
(3)新しい商品の販売方法や、新た強いサービス提供方法を導入する場合
事業適応計画終了年度までに、当該商品、サービスの1単位あたりの販売費額を8.8%以上削減できる見込みがあること。

既存データとの連携

クラウド技術を活用し、データ連携を行い、有効に利用すること。既存データと連携するデータには以下のようなものが想定されている。

・グループ企業内外の事業者または個人が保有するデータ
・センサー等の利用により新しく取得するデータ

意思決定

実施を計画している事業適応が、限られた事業部門や事業拠点のみの意思決定ではなく、全社的な意思決定であること。申請の際には、取締役会などの決議決定に係る文書の添付が求められる。

その他

その他の要件としては以下のものが挙げられる。

・DX認定を取得している事業者であること
・過去にDX投資促進税制に関する課税の特例の確認を受けていないこと
・投資額が下限額(国内売上高の0.1%以上)を上回ること
・投資対象資産の要件を満たしていること

DX認定とは

DX投資促進税制の適用要件の中でも特にポイントとして挙げられるのが、DX認定の取得である。DX認定制度とは、情報処理の促進に関する法律に基づき、2020年11月から開始された認定制度である。

DXに関連した優良な取り組みを行う事業者、DXの取り組み準備ができた事業者(DX Ready)を国が認定する制度で、取得事業者も年々増加している。法人(公益法人も含む)、個人事業者などの全てが事業者が取得の対象となり、一定の要件を満たすことで申請が可能となる。

DX認定制度の認定基準は国が新たに策定した「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応している。そのため、DX認定を受けるには、デジタルガバナンス・コードに即した施作や対応が必要となる。

デジタルガバナンス・コードの項目は以下の通り。各項目に明記されている基本的事項に対応している企業のみがDX認定を受けられる。

【デジタルガバナンス・コードの項目】
(1)経営ビション・ビジネスモデル
(2)戦略
-組織づくり・人材・企業文化に関する方策
-ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
(3)成果と重要な成果指標
(4)ガバナンスシステム

DV認定の審査申し込みは通年で受け付けており、認定までに係る期間は書類提出から2か月程度である。DX認定に関する認定審査業務は独立行政法人情報処理推進機構(IPA )が担当。各種問い合わせについてもIPAが担っている。

DX投資促進税制の内容

DX投資促進税制の対象となる法人、資産及び、税制優遇措置の内容や投資限度額について解説する。

対象法人

青色申告書を提出する法人で「産業競争力強化法」の事業適応計画の認定を受けた法人が対象となる。この要件を満たす企業であれば、業種や資本金規模にかかわらず申請の対象となる。

対象資産

税制優遇措置の対象となるのは以下の4種に分類される資産である。税制上、下記に分類されない資産(例:建物、建物附属設備、車両運搬具など)は対象とならない。

(1)ソフトウエア
取得(購入)または自ら製作するソフトウエア
(2)繰延資産
クラウドシステムへの移行やクラウドサービス利用開始時に発生する初期費用
(3)器具備品
取得(購入)または自ら製作する器具備品
ソフトウエア、繰延資産と連携し、使用されるもののみが対象となる
(4)機械装置
取得(購入)または自ら製作する機械装置
ソフトウエア、繰延資産と連携し、使用されるもののみ対象となる

また以下に該当する設備はDX投資促進税制の対象外となる。
・中古設備
・貸付設備(賃貸資産)
・試験研究に使用されるもの
・ソフトウェア業や情報処理サービス業、インターネット付随サービス業の事業において使用されるもの
・国内にある事業に使用さないもの

税制優遇の内容

DX投資促進税制の認定企業は、適用期限である令和5(2023)年3月31日までに取得等した対象資産について、税制の優遇が受けられる。税制優遇には、税制控除と特別償却があり、事業者は自社の財政状況等に合わせてどちらかを選択する。

税額控除

対象資産の取得等に係る額の3%または5%の税額控除が適用される。控除率はデータ連携の類型によって以下のように定められている。

・自社グループ企業内でデータ連携を行う場合:3%
・センサーなどの外部データを活用し、企業内のデータ連携を行う場合:3%
・自社グループ企業外の他法人とデータ連携を行う場合:5%

なお、税額控除の上限は当期法人税額の20%(DX投資促進税制及びカーボンニュートラル投資促進税制の合算値)とされている。

特別償却

対象資産の取得等に係る額の30%相当の特別償却が認められる。特別償却の場合は、どのデータ連携手法を取っても償却率は一律となる。

投資金額基準

税制優遇措置が受けられる投資額には以下のように上限額及び下限額が定められている。

投資上限額:300億円(投資額が300億円を上回る場合は300億円までが対象となる)
投資下限額:国内売上高(過去3年間平均値)の0.1%以上

DX投資促進税制適用に必要な手続き

ここからはDX投資促進税制の適用に向けた手続きの概要や、申請時に必要な書類などについて解説する。

DX投資促進税制の適用に向けた手続き

DX投資促進税制の適用を受けるためには、大きく以下3つの手続きが必である。
・DX認定の取得に係る手続き
・事業適用計画の認定に係る手続き
・税制適用を受けるための手続き

事業適用計画の認定を希望する場合は、事業を所管する省庁への事前相談が必要となる。事前相談は計画開始を希望する時点の2か月程度前までとされているため、特に早めの検討開始が求められる。

DX投資促進税制の手続きの流れ

DX投資促進税制に係る手続きは大まかに以下の流れで進んでいく。

(1)事業適用計画の事前相談
計画開始希望日の2か月程度前までに事業の主務官庁へ事前相談
(2)計画の策定、申請
事業適用計画を策定し、事業の主務官庁へ申請
(3)審査開始
主務官庁が、提出された事業適用計画を審査、併せて課税の特例基準への適合性も審査される
(4)計画の認定
主務大臣が計画を認定、認定された事業適用計画は各認定省庁のホームページ等で原則公表される
(5)認定書の交付
事業適用計画提出から原則1か月以内に認定書、確認書が交付される

事前相談から認定書交付までにはおおよそ3か月程度の時間がかかる。なお、認定を受けた企業は、事業適用計画の実施状況と優遇された特別償却額、税額控除額を毎事業年度、主務大臣へ報告する必要がある。税務申告時には、認定事業適用計画、認定書、確認書(すべて写し可)を合わせて提出する。

必要書類

事業適用計画の認定のWeb申請時に必要な添付書類は以下の通りである。

・事業報告(写し)
・貸借対照表
・損益計算書
・生産性の向上又は需要の開拓について
・財務内容の健全性の向上について
・経営の方針の決議又は決定の過程について
・計画の実施に必要な資金の使途及びその調達方法の内訳について
・暴力団排除に関する制約事項
・前向きな取組の根拠
・「データ連携」および「クラウド技術の活用」について

なお、上記のうち、「計画の実施に必要な資金の使途及びその調達方法の内訳について」「暴力団排除に関する制約事項」の2点の書類については、経済産業省のホームページにある申請フォーマットの様式を利用して作成することとされている。

DX投資促進税制の適用には速やかな検討開始が必要

DX投資促進税制は、主体的にDX推進に取り組む企業を優遇し、デジタル化をより加速化させるために設けられた制度である。企業に大きなメリットをもたらす制度であるが、適用にはDX認定の取得、産業競争力強化法における事業適応計画の認定などさまざまな要件や課題への対応が求められる。

これらの対応には税務関連部署だけでなく、IT関連部署やIR関連部署など多岐にわたる部署との連携が必要となる。DX投資促進税制の適用を検討している場合は、速やかに検討、検証を開始し、万全の取り組み体制を敷くことが不可欠である。

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