リスキリングとは?DXで求められる背景やメリット、国内外の取り組み事例を紹介
2022.10.27
2021.11.30
テクノロジーの発展によって激しく変化する社会において、企業のDX (デジタルトランスフォーメーション)への対応は必須のものになりつつある。企業で働くビジネスパーソンにおいても、変化に対応するためのスキルアップが今まで以上に求められている。
そのような状況の中で、「職業能力の再開発、再教育」を意味する「リスキリング 」という言葉に注目が集まっている。
リスキリング は、「新しい職業や、今の職場で求められるスキルの大幅な変化に適応するために、必要な知識をやスキルを獲得する、もしくはさせる」という意味で使われることが多い。
本記事では、DXの隆盛に伴って注目が集まっているリスキリングについて、概要やメリットなどを、具体的な事例を交えつつ解説していく。
リスキリングとは?わかりやすく解説
リスキリングという言葉がどんな意味で使われていて、なぜ今注目されているのか?具体的にみていく。
リスキリングとは?
リスキリングとは、言葉の通り学び直しをする・させることだが、その中でも新しい仕事に対応するための学習といえる。
具体的には、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルをさせることだ。
近い意味の言葉である「リカレント」は、働くのを辞めて改めて学習する期間をもつ事を指し、「職を離れる」ことを前提としている。一方で、働くことを継続しつつ価値を創出できるように知識やスキルを身に着けることを指すリスキリング とは意味合いが異なる。
DX時代にリスキリングが求められる理由とは?
リスキリングが注目される背景はDXの推進からというが、それではなぜDX時代にリスキリングが求められるのか?その理由について確認しよう。
DXの推進で働き方が激変したため
まず、コロナ等の影響で、DXが急激に進みITの活用シーンが増えて働き方が激変したことがあげられる。
緊急事態宣言もあり外出自粛が続き、リモートワークが普及したが、それに伴ってzoomからSlackなどのチャットツール、SalesforceなどのCRM、VRの活用などが進み急激にDXが進んだわけだ。
今後も導入されるツールは増えていく可能性が高いだろう。
更に、今後は多くの職種で高度なデータ分析やAIの活用が求められていく。
それに対して、テクノロジーを使いこなすにはIT人材が必要となり、既存の従業員をデジタルシフトさせるためリスキリングを進めるべきだ。
技術革新による技術的失業を避けるため
技術革新が進むに連れて、世の中で求められるスキルが大きく変わり、失われる職種が多く出てくることもリスキリングが求められる理由だ。
これまでも、駅の改札で切符を受け取る駅員の仕事やエレベーターガールなど、ほとんどみなくなった仕事があるように、今後DXが進むに連れて多くの仕事が失われるといわれる。
多くの失業者が生まれてしまうことは、国全体としても経済力の低下につながるし、企業としても景気の低迷でビジネス上悪影響を受ける可能性があるだろう。
そうなれば国際競争力が失われることにつながるので、日本全体で取り組んでいく必要のあるテーマともいえる。
では、リスキリングを取り組むことで、企業側にはどのようなメリットがあるだろうか?
次にみていこう。
リスキリングのメリットとは?
リスキリングを企業が推進することで得られるメリットは意外と多く、競争力の獲得から人事的なコストカットにつながるといえるだろう。
具体的には、次の3点だ。順にみていく。
IT化が進み業務が効率化される
リスキリングを推進することで、ITスキルをしっかり習得させることができれば、IT人材を大幅に増やし、ITツール活用が進むことで効率化ができるだろう。
多くの業種では、ITリテラシーの格差からツールを導入してもうまく使いこなせず、効率化できないままでいた。
それに対して、リスキリングによってITリテラシーが高まることで、導入したITツールが使われるようになり業務の効率化が進むのである。
社内の文化を損なわないままDXを進められる
DXを推進するためにIT人材を外部から獲得してしまうと、それまであった企業文化は薄まっていく可能性もあるだろう。
通常の中途採用で全体の一部を追加採用する程度であれば大きな問題にならないが、半数近い人材を入れ替えて採用するような規模になれば、企業文化は大きく変わってしまう。
例えば、企業と取引のある顧客の顧客の中には、その企業の雰囲気や文化が気に入って採用し続けている、というシーンもあるだろう。
だからこそ、大きく企業文化が変わることで、それまでの顧客を失う可能性もあるわけだ。人材採用・育成にかかるコストを削減できる
最後に、リスキリングを進めることで、大幅な人材の入れ替えにかかる採用コストや、新たに獲得した人材に対する育成コストを低減することができる点も大きなメリットだ。
具体的にみておこう。
リスキリングによって今後必要と考えていたポジションを既存の人材でカバーすることができるようになり、新たに採用する必要がなくなりコストダウンにつながる。
また、採用しなくていいため、当然育成コストも下がることになるだろう。
更には、リスキリングの体制ができたら、教育コンテンツを十分に社内へ拡充できることになるから、新卒などの従業員に対する教育コストも下げることが可能になるわけだ。
リスキリング推進のステップは?
それでは、リスキリングを実現するにはどんなステップを辿るべきかを確認しよう。
次の4段階で進めるのがいいといわれている。
STEP1:スキルを可視化する
まず最初にすべきは従業員のスキルをデータベース化だ。特に日本では、従業員のスキルセットを可視化することができない企業が多く、この部分で苦労するだろう。
更に、現状がわからないと目標設定や必要な施策の数もわからないので、スキルの可視化ができないままだとリスキリングの計画を立てることも苦労するはずだ。
一方、現在のスキルが明確になれば、逆に足りないスキルが何か、または何人がそのスキルを学ぶ必要があるかまで確認できるのだ。
そうすれば、リスキリングにかかるコストも最適化されるし、学んでいく従業員も目標設定しやすく、確実に成長につなげていくことができるだろう。
こうした理由から、まずはスキルの可視化を進める事がおすすめといえるだろう。
STEP2:学習プログラムを揃える
次に、学習プログラムを揃えることが重要だ。
日本企業はというと、OJTが教育の中心となっている企業が多い。決まった教育を受けるというよりも、技を盗むような文化が昔から受け継がれてきたともいえるだろう。
そのため、学習プログラムを備えていないケースがほとんどで、リスキリングを進める上での学習プログラムを揃えるのは時間がかかるかもしれない。
こうした傾向から、自前開発にこだわるのが日本企業の特徴だが、外部委託することも大切だろう。
STEP3:学習に伴走する
学習プロセスに入ったら、従業員が継続できるよう伴走することが重要だろう。特に年齢が高い従業員ほど、ITに関わる学習はとっつきにくく、積極的にやってくれないものだ。
だからこそ、確実に取り組んでいくため、伴走する仕組みや強制力が必要になるわけだ。
例えば、学習管理システムなどを駆使し、誰もが離脱することなく学習を進めるなどの工夫をすることで継続力が生まれるだろう。
更に、インセンティブ付けをすることも必要だ。賞与があれば効果的だが、それ以外でも社内でコンテスト形式にして、一定の学習成果があった場合に表彰するなども考えられる。
STEP4:スキルを実践させる
スキルを実践させることで実用化につなげていくことが最後のステップだ。
リスキリングの目的は仕事で価値を発揮させること。
だからこそ、職場で学んだ成果を発揮させる事をゴールにおき、そのための学習と位置付けておく必要があるわけだ。
その結果として、企業と本人双方の成長でリスキリングが完成するといえるだろう。
リスキリングの取り組み事例
それでは、実際に施策を進めている事例を確認しよう。
特に国内の企業は、これから取り組みが広まる段階といえるが、それでも一部の企業では事例が出始めている。
海外企業における事例
まずは海外企業の事例をみてみよう。Amazonを中心に多くの企業でダイナミックな取り組みをしており、リスキリングを重視していることが特徴的だ。
それでは具体的にみていこう。
<Amazon>
Amazonは2025年までに従業員全員の約30万人に対してリスキリングを実行すると発表している。具体的には、非技術職の従業員が、技術職に移行するための学習を支援する「アマゾン・テクニカル・アカデミー」や、エンジニアがAI技術を学ぶ「マシン・ラーニング・アカデミー」などの施策が実行されている。
出典:Amazon HP
<ウォルマート>
ウォルマートは「小売のDX」を実現するためのリスキリングを実行している。
例えば、eコマースに対応するための「ピックアップタワー」をバーチャルで学ぶ、もしくはVRを活用してブラックフライデーを体験するなどの取り組みが行われている。
このような取り組みによって、店舗従業員が、店舗にいながらデジタル領域の仕事を学べる機会を提供しているわけだ。
出典:Wharmart「Works Reports2021」
<マイクロソフト>
マイクロソフトは、「Global Skills Initiative」という取り組みの中で、コロナ等の影響で失業した方々に向けた就労支援のためのリスキリングプログラムを提供するという。
従業員以外の方2500万人に対して、無償でリスキリング講座の提供をすると発表している。この取り組みは日本も対象になっており、ダイナミックな施策として話題だ。
出典:Microsoft blogs
国内企業における事例
次に、国内企業における事例である。特に有名になっているのは、日立製作所と富士通だ。
どちらも大規模にDX人材の育成に注力しようとしているようだ。それぞれ確認しよう。
<日立製作所>
日立製作所グループは、日立アカデミーという人材教育に関する会社を立ち上げてリスキリングの取り組みを推進している。具体的には、日立製作所グループの全社員約16万人に対してDX基礎教育を実施する予定とのこと。
出典:日本経済新聞
<富士通>
富士通では時田社長新体制のもと、「ITカンパニーからDXカンパニーへ」と提唱している中、リスキリングをDX推進の重要項目と明言している。
その上で、DX関連の投資に5000億円以上の投資を5年間で実行するという。
出典:富士通 経営方針説明会
このように、国内外でリスキリングに関する事例は徐々に出てきており、注目のほどがうかがえるだろう。
まとめ
今回はリスキリングの意味合いから、必要となる背景やメリット、リスキリングのステップから国内外の事例まで確認してきた。
リスキリングは、DXの推進やITの発展から、既存の人材が新しい仕事に対応できなくなる点や、技術的失業が増えるリスクに対応する観点から必要性が高まっているようだ。
一方、リスキリングをやることで、企業側もDXの推進を進めることができて、将来的な競争力があることから、注目する企業も増えているわけだ。
例えば、Amazonが全従業員に技術的な学習機会と技術部門への転身機会を提供する施策をしたり、Microsoftが2500万人の失業者に無償でリスキリング講座を提供するなど海外ではダイナミックな取り組みが進んでいる。
これに対して、日本国内の取り組みはまだ発展途上だが、日立製作所や富士通が全社員に対するリスキリングを明言しているなど、今後の取り組みに期待できそうだ。