物流のDXとは?物流業の課題やDXの必要性を取り組み事例を交えて解説

2022.11.10

2021.12.02

DX(Digital Transformation・デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIotなどの最新のデジタル技術を活用して、サービスやビジネスモデル、組織体制などを変革してビジネス上の競争力の維持・向上を図ることを指す。

デジタル技術の発展やビジネス環境の変化が激しくなり、市場環境を一変させるようなゲームチェンジャーと呼ばれる新規参入者も続々と登場しており、国内企業においてもデジタル技術を活用したデジタルトランスフォーメーションが強く求められるようになっている。

人口減少、EC需要の増加などに伴い、さまざまな課題を抱える物流業界においても、業務効率化と課題解決に有効なDXに取り組む企業が増えている。

本記事では、物流業界におけるDXについて、事例を交えつつ解説していく。

目次

DX(デジタルトランスフォーメーション)の概要

DXとは、AIやIoTといった新しいデジタル技術を用いて、既存の社会や組織のあり方を変革することで、新たなビジネスモデルを創出することを意味する。

2018年に経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン」では、「企業は激変するビジネス環境に対応するべく最新技術を活用して、業務改革を行い、競争上の優位性を確立すること」と定義している。

DXとデジタル化は混同されがちだが、厳密には意味がやや異なる。アナログで行っていた業務をデジタルに置き換えて、業務の効率化・自動化を図るIT化は、DX化を果たすための手段に過ぎない。DX化は、さらに踏み込んで、ビジネスモデルや組織体制のレベルから変革を起こし、ビジネス上の競争力向上を果たすこを目指す。

大きな変革を伴うため、経営層の強いコミットメントや全社的な組織体制の整備などが求められるなど、DXの推進には高いハードルがある。

物流業界の現状と課題

昨今、物流の需要が高まる一方で、コロナ禍で社会情勢が大きく変化したこともあり、従来のさまざまな問題がより深刻化しつつある。物流業界の現状と現在直面する課題を紹介する。

EC市場拡大に伴う小口配送の急増

近年のEC市場拡大に伴い、個人向けの小口配送が大幅に増加している。

経済産業省の電子商取引に関する市場調査によれば、2020年時点でEC市場全体で19.3兆円まで規模は拡大し、物販系分野だけでも12.2兆円と、EC化率は年々増加傾向にある。

電子商取引に関する市場調査:経済産業省

2021年1月に国土交通省が発表した「最近の物流政策について」によると、EC市場規模の拡大に伴い、宅配便の取扱件数が5年間で約6.7億個(+18%)増加しているという数値を出している。

最近の物流政策について:国土交通省

また、2020年7月に国土交通省が出した「物流を取り巻く動向について」によると、EC市場の拡大に伴う宅配便の取扱件数の増加とともに、宅配貨物の不在再配達が全体の約2割発生しており、労働力不足が懸念される中で、再配達の手間も問題となっており、より一層の効率化が求められている。

物流を取り巻く動向について:国土交通省

配送件数の増加と高頻度化によって配送手順が複雑になり、業務効率の悪化と生産性の低下が課題となっている。

人口減少などに伴う労働力不足

2021年の厚生労働省の労働力経済動向調査でも言及している通り、物流業界では労働力不足が常態化している現状がある。

多くの企業でドライバー不足が深刻化していることから、配達員一人一人の負担増が大きな問題となりつつある。

物流を取り巻く動向について:国土交通省

また「物流を取り巻く動向について」によると、トラックドライバーは全産業平均以上のペースで高齢化が進み、高齢層の退職等を契機として、さらなる労働力不足に陥る懸念を指摘している。

また「最近の物流政策について」において、有効求人倍率の推移において、トラック運送事業は、全職業平均より、人手不足の値が全職業平均より約2倍高く、全産業平均より若年層の割合が低く、高齢層の割合が高いという統計数値を出している。(グラフは後述)

人手不足だけではなく、高齢化も一層進んでおり現役のドライバー引退後にさらなる労働力不足に陥るリスクを抱えているのである。

低賃金・長時間労働の問題

物流業界では、荷室の輸送効率より時間効率を優先するあまり、低賃金・長時間労働が常態化している。このような労働環境の悪さが、人手不足を招く要因として挙げられている。

国土交通省の「最近の物流政策について」においては、ドラック運送事業における働き方の現状として、労働時間が全職業平均より約2割長く、年間賃金は全産業平均より約1割~2割低いという統計調査の結果が発表されている。

最近の物流政策について:国土交通省

多忙な現場では新規採用の時間の確保も難しく、例え採用できたとしても十分な教育が行えないことで、生産性の低下も指摘されている。また、仕事が大変にもかかわらず、収入が高くない現状は、若年層の労働力不足に拍車をかけ、業界全体で就業者の高齢化が加速している。

2024年問題

物流業界において今後大きな問題として待ち構えているのが、2024年問題である。2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されるというもの。

上述の通り、物流業界は、他業界と比べて低賃金・長時間労働が問題となおり、その要因は、EC市場の拡大による配便の取り扱い個数の増加や、人口減少と高齢化による働き手の不足が大きく関係している。

こういった労働環境を改善する意図があり、働き方改革関連法によって自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限する法律が施行されるのである。

労働環境が改善されるのは良いことではあるが、労働時間の制限によって、運送・物流業者の売上・利益減少、ドライバーなど労働者の収入が減少などの問題が懸念されている

労働時間を制限すれば、1日に運べる荷物の量は減少する。売り上げを維持しようとすれば、1個あたりの配送運賃を上げる必要があるが、競争環境の激しい物流業界において運賃をあげるのは容易ではないだろう。下手に運賃をあげれば競合に顧客を奪われる可能性もある。

また、中小企業でも2023年4月1日以降、月60時間を超えた時間外労働に対する割増賃金率が25%から60%へと引き上げられるため、時間外労働によってこれまで以上に利益率は減少し得る。

また、ドライバーの歩合給として支給される運行手当は、走行距離などに応じて支払われるが、労働時間が規制されて走行距離が短くなれば、収入が減少する可能性もある。

働き方改革関連法の施行によって、物流業界は嫌が応にも変革を迫られているのである。

物流業界で求められる標準化とは?

上述の課題を解決していくため、物流業界においてDXと同じく求められているのが「物流業の標準化」である。

国土交通省が2021年6月に出した「物流をとりまく状況と物流標準化の重要性」において、標準化について下記のように述べている。

物流を構成する各種要素が標準化されることで、物流現場の作業が簡素化することはもちろん、自動化機器の導入による省人化が促され、人手不足の中でも物流の機能と高度なサービスの維持が可能となる。

物流をとりまく状況と物流標準化の重要性

物流業界を構成する各要素とは、モノ・データ・業務プロセス等を指し、伝票や、受け渡しのデータ、荷物を梱包する外装、運搬用のパレットなどである。

例えば、荷主などの事業者ごとに記載項目が異なるなど、伝票がバラバラであり、荷積み、荷卸し時に非効率が発生している。また、外装の形状がバラバラなために、パレットへの積載効率が低下するなどの問題がある。

物流標準化を真に効率的で持続可能な物流への転換のための社会全体の課題として捉え、その必要性を一般消費者含め広く、強く発信していく。

物流をとりまく状況と物流標準化の重要性

国土交通省は「物流をとりまく状況と物流標準化の重要性」において、上記のようにも述べており、デジタルを活用した改革に加えて、物流業界における構成要素の標準化も今後より一層求められるようになるだろう。

物流業界で主にDX化が進む領域

物流業界では、人手不足、低賃金・長時間労働、2024年問題など多くの問題を抱えている。前述の物流業の標準化と併せて、課題解決に向けて注目されているのがDXである。

以下では、物流業界においてデジタルの活用によって生産性の向上に向けた取り組みが進む領域を解説していく。

顧客情報や配送状況のデータ化

顧客別の配送データをAIで分析して、一人一人の行動や傾向を把握する取り組みが実証され始めている。前述の通り、小口配送の増加により、配送員一人が受け持つ業務も急増する中で、不在による再配達の削減が課題となっている。

蓄積したデータから在宅時間を割り出すことで、再配達が発生しにくくなるのが狙いだ。他にも、スマートメーターの利用推移をもとに、不在予測を行う実証実験も進んでいる。配送管理システムとの連動も可能であり、効率的な配送ルートを利用すれば、配送時間の短縮と労働時間の改善、コストの削減が期待できる。

物流業務の機械化・自動化

人の手で行っていた物流業務をロボットやドローンなどを導入して機械化・自動化することで、人手不足を解消し、非接触・非対面型の物流システムが構築できる。

例えば自動運航船やトラック隊列走行といった幹線輸送を自動化・機械化すれば、作業員の負荷が軽減され、安全性の向上にも繋がる。倉庫内の荷物運搬や梱包作業を行う自動ロボットの導入も進んでいる。

例えば、ソフトバンク株式会社と佐川急便株式会社は、2021年4月下旬に自動走行ロボットによる屋外配送の実証実験を実施し、日本で初めて信号機と連携した屋外配送に成功している。

また、楽天、西友および横須賀市が、2021年3月23日(火)から4月22日(木)までの期間、国内初となる自動配送ロボット(UGV:Unmanned Ground Vehicle)を使用した商品配送サービスの提供を行なった。自動配送ロボットが「公道」を走行してスーパーマーケットの商品を配送するのは国内初となる。

倉庫管理システムの構築

倉庫管理システムでは、在庫や入出荷の管理だけでなく、コンベア制御のような他のデータやシステムと連携を図って、倉庫業務全般を効率化することも可能である。

API連携を用いれば複数のECモールやネットショップで受注したデータを自動的に受信、出荷指示まで行える環境も整備できる。またリアルタイムで在庫・入出荷状況を把握できるので、欠品や過剰在庫を防ぐ効果もある。

勤務状況の管理をデジタル化

多くの企業ではアナログで従業員のシフト作成や勤怠管理を行ってきた。管理担当者にとって、個々のスキルに照らし合わせながら最適な人員を配置するのは、大きな負担を要する作業であった。

AIを勤務状況の管理に活用すれば、人の手を煩わすことなく、自動的にシフトを作成することが可能となる。管理者の負担を軽減するだけでなく、従業員の時間や作業負荷も減るため、物流全体の課題を解消する取り組みともいえる。

国土交通省が推進する物流DXの取り組み

国土交通省では、DX実現を加速させるべく、さまざまな提言や実装実験、計画策定を行っている。前述した物流の標準化もその一つである。現在進行している支援事業や物流DX化に向けた取り組みを紹介する。

AI・IoTを活用した輸送効率化事業への支援

新技術を活用して、運輸部門の省エネ化とサプライチェーン全体の効率化を図る事業の支援を実施している。

事業者と荷主の連帯による省エネや、国内の内航船運航の効率化、ビッグデータを用いた使用過程車の性能維持に向けた施策など、令和5年までの3年間で支援事業を行う。令和12年度までに運輸部門のエネルギー消費量を、原油換算で年間約156万kL削減することを目指す。

ドローン物流の実用化を目指す

過疎地や離島などでは、ドローンを活用した物流の実用化に向けた社会実験の検討が進められている。長崎県五島市では、人口減などによる船舶の減便で、物資の受け取りが難しくなる危険性も示唆されている。そのため、本土から離島に直接ドローンで物資を届ける事業の実装を検討している。

2022年度の実用化を目指し、ドローン物流に取り組む事業者・団体に導入に係る支援を実施する。物資の注文方法や受け取り方法、ドローン飛行の安全性の検討、配送できる貨物の集約による稼働率の向上が、目下の課題である。

サプライチェーン全体の合理化を推進

食品流通の多くがトラック配送に依存する中で、ドライバー不足が深刻化していることを受けて、食品流通のみならず、サプライチェーン全体の合理化への取り組みが検討されている。

関係者が一丸となって具体的な方策を検討する食品流通合理化検討会を設置。現時点では手作業による荷役作業のパレット化、集出荷拠点の集約、システムの活用による輸配送の効率化、需要予測で食品ロスの削減などが、課題解決の対応策として考えられている。

物流DXの先進的な取り組み事例

物流業界では実際にDX化をどのように推進しているのか、経済産業省の『デジタルトランフォーメーション銘柄 (DX銘柄) 2021』を参考に、その取り組み事例をいくつか紹介する。

物流DXの事例①:SGホーディングス株式会社 (陸運業)

佐川急便を傘下に置くSGホーディングスでは、市場規模約23.9兆円の物流業界全体をターゲットに、国内輸送の拡充、グローバル事業の拡大、デジタル武装したグループサービスを一体化したソリューションの提供を目指している。

具体的な取り組みとしては、手書き文字を読み取るAIシステムでデジタル化した伝票や在不在・再配達情報をもとに、最適な配送ルートを計算して、業務の効率化だけでなく、顧客の利便性を高める取り組みを実施している。

このAIによる文字認識技術は、自社のみならず、顧客向けにもサービスを提供している。また、全国の佐川急便や協力会社と連携を図り、TMS(輸配送管理システム)の更なる強化に努め、安定的な車両の供給と輸送における積載率の向上を目指す。

物流DXの事例②:日本郵船株式会社 (海運業)

日本郵船では、ESG(環境・社会・ガバナンス)の課題に取り組むべく、DXを社内の全部門で推進している。

DXを実現するための工夫として、デジタル人材の育成に注力している。具体的には、現場の課題を発掘してDX案件として推進・解決できるデジタルリーダーを育てる「デジタルアカデミー」 。業務上の課題を解決しながらデジタル技術やデータサイエンス体得させる「データラボ」などの活動を行っている。

DXを活用した具体的な事例には、経験と勘を要した配船スケジュールを自動化するシステムの導入、外国人船員と家族の生活の利便性を高める電子通貨「MarCoPay」の実用化、自動運行船の社会実装に向けた取り組みなどが挙げられる。DX実現のために、デジタル人材を育成する機会を積極的に設け、船上搭載型AIの活用に向けて信頼できるデータの蓄積も行っている。

物流DXの事例③:日本通運株式会社 (陸運業)

作業ロボットやRPAを導入することで、作業の効率化を推進する日本通運。DX化を活用した事例では、コンテナ輸送会社の発注から支払いまで、また作業計画から完了報告までの一連の単純作業を自動化させて、大幅な作業時間の削減と業務の効率化に成功

2019年時点で100台の作業ロボットを既に稼働させている。2021年には500台のロボット導入を行い、100万時間の削減を目標に掲げる。また、納品書発行業務も自動化したことで、経理部門においても、年間2万時間の作業時間削減に貢献している。

物流DXの事例④:株式会社日立物流 (陸運業)

日立物流では、顧客のサプライチェーンを最適化するために、デジタル事業基盤の構築に取り組んでいる。

さまざまなニーズに対応する新しい価値を提供するべく、収集したビッグデータをリアルタイムで可視化して高度な分析を行い、ビジネスをさらに加速させることを目指す。物流部門に特化した取り組みではなく、製造から販売に至る全ての工程を一体化させて、情報の分析と改善を図ることも狙いである。AIやIoTを用いて省人化・自動化する取り組みも行われている。

物流DXの事例⑤:日本航空株式会社 (空運業)

日本航空では、さまざまな課題解決に向けて、ドローンを活用した配送サービスの展開に取り組んでいる。

過疎化する地域や離島、交通渋滞が発生しやすい都市部において、特に医療品のような緊急物資の輸送手段としてドローンの活用が期待される。

2023年の事業化を目指し、物流業界の人手不足の解消はもちろん、非接触の輸送の実現に向けて、長崎県の五島列島で無人飛行機を用いた実証実験を実施。また、ドローン物流とともに、2025年までには人を輸送する空飛ぶクルマの実用化も目指す

物流DXの事例⑥:東日本旅客鉄道株式会社 (空運業)

JR東日本グループでは、「変革2027」というグループビジョンを掲げて、「鉄道を起点としたサービスの提供」から「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」への転換を目指している。

ビジョンの実現に向けて、技術と情報を融合して新たな価値の創造を目指して、DXに取り組んでいる。

具体的には、運行情報や振替輸送情報などを提供する「JR東日本アプリ」を提供し、列車の遅れを加味したリアルタイムでの経路検索や列車混雑状況の提供を行っている。

また、2020年3月から「新幹線eチケットサービス」の提供を開始し、「えきねっと」などのオンライン予約サイトでの予約情報の管理・認証を行うセンターサーバーを新規で構築し、交通系ICカードをタッチした際に、センタサーバー照会することで改札の開閉ができる技術を導入して、きっぷを受け取ることなく新幹線を利用できるチケットレスな仕組みを実現している。

物流業界におけるDXまとめ

構造的な面においてもたくさんの課題を抱える物流業界では、デジタル技術を活用した課題解決は大きな業務変革のチャンスともいえる。

コロナ禍のような予測不可能な事態に柔軟に対応していくためには、業界全体のあり方を根本的に見直す必要がある。自社の業務効率化だけでなく、顧客にもメリットをもたらすDXは、あらゆる分野で未だアナログ運用が多い物流業界にとって、必要不可欠な取り組みだ。多様化するニーズに対応していくうえでも、物流のDX化を推進し、業務の効率化を図る取り組みは急を要する。

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