自治体におけるDXとは?総務省の「自治体DX推進計画」を参考に解説
2022.10.27
2021.12.10
2020年12月25日には「自治体DX推進計画」が閣議決定されるなど、民間企業のみならず。自治体においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されている。
本記事では、自治体DXが求められている背景・課題から、具体的な事例までを紹介していく。
自治体DX推進計画とは?
自治体DX推進計画とは、2020年12月25日に閣議決定されたデジタル社会の構築に向けた計画の一つ。
自治体全体のDX推進を足並み揃えて進めるための計画で、国がリードしてデジタル社会の実現を目指すものである。
同じタイミングで「デジタルガバメント実行計画」も閣議決定され、それぞれの中に自治体のIT推進に関する取り決めがされている。
この自治体DX推進計画の中では、テレワークの推進や行政サービスのオンライン化など6つの重要事項に対して自治体全体で進めていく方針が取られている。
それでは、なぜ計画立案に至ったのか、その背景を解説していく。
自治体DX推進計画が策定された背景とは?
自治体DX推進計画が策定されるほど、自治体DXが求められる背景には、新型コロナウィルスの影響で広まった新い生活様式への対応だ。
緊急事態宣言が発令され、自粛期間が続く間、各自治体のサービスがうまく成機能しない・連携がうまくいかないなどの非効率な体制が浮き彫りになった。
例えば、止むを得ない理由で引越しをした場合でも、転出届や転入届の提出で窓口にいかざるを得ない、自粛期間中だからということで窓口にいけないなどの問題が起きていた。
こうした状況に対して、多くの場合は窓口を開けて対応していくしかなく、自粛を呼びかけることとは矛盾した対応を取らざるを得ない状況となっていたわけだ。
それでは、自治体DX推進計画の全体像はどのようなものか?具体的に確認しよう。
自治体DX推進計画の概要
自治体BX推進計画は、大まかに以下の枠組みで実行される予定だ。
対象 | 全国の自治体 |
推進体制(各自治体) | ・首長・CIO/CIO補佐官・情報政策担当部門・行政改革・法令・人事・財政担当部門・業務担当部門(特に窓口担当部門) |
施策 | Gov-Cloud(ガバメントクラウド)という全自治体での活用を想定した共通のプラットフォームを軸に、6つの重点取組事項に対応する |
重点取組事項 | ・自治体の情報システム標準化・共通化・マイナンバーカードの普及促進・自治体の行政手続きのオンライン化・自治体のAI・RPAの利用推進・テレワークの推進・セキュリティ対策の徹底 |
期間 | 2021年1月から2026年3月までの期間で4ステップで推進 |
並行すべき取組事項 | ・地域社会のデジタル化・デジタルデバイド対策 |
その他推進事項 | ・BPRの取組みの徹底(書面・押印・対面の見直し)・オープンデータの推進・官民データ活用推進計画策定の推進 |
上記のような枠組みになっている。
中でも推進体制を構築する部分では、地方自治体などでIT人材の確保が困難であり、CIO補佐官など、現場で判断・推進するメンバーを獲得しにくい状況にある点だ。
計画書によると、民間の企業とも連携する・新たに教育を進めるなどの方法で人材を確保していく方針であるという。
自治体DX推進計画における6つの重点取組事項
自治体DX推進計画では、Gov-Cloud(ガバメントクラウド)の活用を中心として、6つの重点取組事項に取り組んでいく予定だ。
ここでは、それぞれの取組事項について、どのような対応を行い、何が良くなるのか等について解説していく。
自治体の情報システム標準化・共通化
まず最初にあげられるのが情報シス絵tむの標準化・共通化だ。
行政サービスに係る受付・審査・決裁・書類の保存業務といったバックオフィスを含む一連の業務を一気通貫でこなせる体制を目指すものだ。
現在の自治体における情報システムは、多くの場合部署ごとに個別の情報システムが作られてきた。そのため、他の部署への連携だったり、地方自治体から国への確認が入るような業務があった場合には全て手動で対応する必要があるのが実情だ。
これに対して、Gov-Cloud(ガバメントクラウド)という共通基盤の整備により、自治体共通の情報システムを活用できる体制にすることで、情報連携の円滑化を図る狙いだ。また、情報システムを共有することで、各自治体における管理コストの提言にも繋がり、コストの最適化にもつながるだろう。
それでは、具体的にどの業務が対象になるか?
以下に列挙するので参考にして欲しい。
標準化の対象業務:
住民基本台帳、選挙人名簿管理、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、児童手当、生活保護、健康管理、就学、児童扶養手当、子ども・子育て支援
これらのシステムの標準化を行うにあたっては、2025年度の実現を目指しており、そのために2022年度に仕様書等の作成など準備を進めていく方針だ。
こうした取り組みを進めるにあたっては、行政手続きのオンライン化や自動化を図る点なども考慮してしよう決定する必要がある。
そのためにも、オンライン化に必要となるマイナンバーカードの普及なども合わせて検討しなければならないのだ。
それでは、マイナンバーカードの普及促進はどのような計画で行われていくか?具体的にみていこう。
マイナンバーカードの普及促進
マイナンバーカードの普及にあたっては、受取のしやすさを追求しつつ、マイナンバーカードの利便性を高めていくことに焦点が当てられている。
なぜなら、現時点で8000万人もの方がマイナンバーカードを未取得とされており、しかもマイナンバーカードの活用シーンは現時点では限られているからだ。
これに対して、以下の対策が取られる予定となっている。
- 2020年度末までにマイナンバーカードを取得した方を対象にマイナポイントを付与
- 他のカードをマイナンバーカードに紐付けて一緒に電子化を進める
- マイナンバーカードの電子証明書発行・更新を特定の郵便局でも受け付ける
- スマートフォンへの電子証明書搭載を可能とする
- 出張申請受付や臨時交付窓口の開設、土日開庁を推進する
以上のように、様々な視点からマイナンバーカードを普及っせる取り組みが進められているのである。
これほどマイナンバーカードを普及させようとする目的には、行政手続きのオンライン化を図る際の個人情報特定にマイナンバーが想定されているからだ。
それでは、自治体の行政手続きのオンライン化について解説しよう。
自治体の行政手続きのオンライン化
行政手続きのオンライン化にあたっては、最終的に全ての行政への申請をスマートフォンで実現し、大半の情報をマイナポータルから閲覧できる状態を目指している。
目標としては、2022年度末に向けて、特に国民にとって利便性が高まると想定されるサービスのオンライン化を図る方針だ。
具体的には、子育て関係・介護関係・被災地支援関係・自動車保有関係などが該当している。
一方でこれまでも行政手続きのオンライン化は進められてきたものの、192の自治体が未対応のままとなっている。
これに対して、既にあるマイナポータルを活用することで、早期に行政手続きのオンライン化を進める方針だ。
そのためにマイナポータルの画面イメージ等の改善・各業務システムとの連携・それぞれの行政手続きに対するマイナンバーカードでの認証追加などが進められることとなる。
2022年度末のサービス開始に向けて、これから各種システムの仕様書準備や開発が進む予定だ。具体的な取り組みスケジュールは以下の通り。
こうした電子化の対応を進めた上で、更に利便性や生産性を向上させる取り組みとしてAI・RPAの取り組みを想定している。
次でみていこう。
自治体のAI・RPAの利用推進
自治体におけるAI/RPAの活用は、サービスの継続的発展を考える上で重要な取り組みと言える。
なぜなら、今後の日本は少子高齢化が進むことで、十分職員の採用ができないリスクがある一方で、介護などに対応することで業務が増える可能性すらあるからだ。
これに対して、AIやRPAの基盤を全国で共同利用することで、AIの機械学習などで活用するためのデータ蓄積の加速・費用削減などのメリットを創出して進める方針である。
それでは、次にテレワークへの対応状況をみてみよう。
テレワークの推進
テレワーク推進は単に感染症予防の観点だけでなく、非常時の対応や業務効率化や職員の働き方改革による生産性向上が実現可能となる重要な取り組みだ。
例えば、地震などの災害で出勤ができない状態でも、テレワークの体制を整えておけば緊急時の業務をリモートで実施できる。もしくは、子育てや怪我などで出勤が難しい職員でも、家にいながらにして仕事を進めることができるわけだ。
このようにメリットの大きいテレワークの体制だが、コロナの影響でリモートで仕事をする体制を取り入れつつある自治体は多くなっており、引き続き業務のデジタル化とともに推進する方針だという。
セキュリティ対策の徹底
最後にセキュリティ対策の徹底だ。
従来から自治体のシステムは高いセキュリティを意識して構築されてきたので、今後もそれを継続することは当然のこと。
加えて、今回の取り組みでシステムを共通化することで、システムの重要性が高まることにより、更に強化する必要性が出てきたわけだ。
ただし、セキュリティを高めることで利便性が損なわれては意味がない。
そこで、民間のクラウドサービスの中でも、特にセキュリティレベルの高いシステムを活用することで、セキュリティと利便性の両立を図る方針となっている。
ここまでで、自治体DX推進計画の中にある重点取組事項について確認してきた。
続いて、こうした取り組みを進める4つのステップを確認しよう。
自治体DX推進の4ステップ
総務省は、自治体DXの推進を4つのステップに分けるように勧めている。
総務省が4ステップに分けている理由は、段階的に実行していくことで、全ての自治体が出遅れることなく確実にDXを推進できるようにするためだ。
また、段階を踏むことで取り組みを定期的にチェックできるため失敗するリスクを低減させることにも繋がるだろう。
ステップ0:DXの認識共有・機運醸成
まず最初にDXの認識共有・機運の醸成を行う。
DXと一言でいっても意味合いは幅広く、どのような視点で進めていけばいいかを共通化しておくことが目的だ。
それにより、全国で同じレベルのサービスを提供することにつながる。
具体的には、いわゆるサービスデザイン思考を取り入れ、利用者目線にたった業務に変えていく目的でDXを進めるということを定義している。
また、首長のリーダーシップが重要である点も言及されており、各自治体のリーダーがビジョンを持って取り組みを進めることが大切になる。
ステップ1:全体方針の決定
次のステップは、全体方針の決定だ。
まずは自治体DX推進の意義を参考にしつつ、各自治体でDXのビジョンを作成し、国からの指針に基づいて工程表を作成するのがこの段階だ。
ここで作成したステップに従って今後の取り組みを進めることとなる。
ステップ2:推進体制の整備
全体方針を決定したら、次に推進体制の整備を行う。
ポイントはDX推進担当部門を設置し、横断的に連携を取れる体制をしくことだ。それにより、DX推進の司令塔としての役割を果たし、確実な計画の進行ができるわけだ。
また、デジタル人材の設置やデジタル技術の体系的な教育も重要なポイント。もし自治体の中で十分な人材確保ができなければ、外部からの採用も検討する方針だという。
ステップ3:DXの取り組みの実行
最後に、DXの取り組み実行の段階に入る。
ここでのポイントは、取り組みを定期的に改善させながら進めるPDCAサイクルを取り入れた進め方を意識する点だ。また、状況に応じて、OODAサイクルの活用にも言及されている。
確実なプロジェクトの進め方をとっていくことで、リスクを最小限にDXの実行を行っていく構えだ。このように、自治体DX推進計画の中では、具体的な進め方まで十分に定義されている。
それでは、具体的に、現段階で自治体DXが進んでいる事例についても確認しよう。
自治体DXの先進事例
実は現時点でも多くの自治体DXの事例は出ている。今回はよりイメージのつきやすい具体的な取り組み事例を2つご紹介しよう。
愛知県瀬戸市の電子決済機能付き文書管理システム導入
愛知県瀬戸市では、電子決済機能付き文書管理システムを導入して業務の効率化を図っている。
これにより、行政事務のペーパーレス化など4つの効果を期待しているという。
- 事務の効率化(文書検索時間の短縮)
- 文書管理の強化(組織対応力の向上)
- ライフサイクルの厳格化(文書廃棄の円滑化)
- 文書管理システムの本格運用(ペーパーレス化)
千葉県船橋市の段階的なオンライン化の取り組み
千葉県船橋市では、わかりやすい画面を意識しながら、アンケートなど一部のサービスから段階的にオンライン化を進めている。
オンライン化を進める上で、特に課題になったのが押印義務だ。
町内で押印義務の廃止を検討し、押印の必要な様式のうち約70%にあたる 3,843件文の押印廃止が決定したという。