製造業におけるDXとは?国内製造業界のDX取り組み事例を交えて解説
2022.10.27
2021.12.24
デジタル技術の発展によって、全く新しいビジネスモデルで市場に参入するゲームチェンジャーが数多く登場するなど、市場環境の変化は激しさを増している。また、新型コロナウイルスの蔓延によって、社会の不確実性や顧客行動の多様化も著しい。
目まぐるしく変化するビジネス市場において、敗北者とならないため、現在様々な業界で、DX(デジタルトランフォーメーション)の必要性が叫ばれているが、製造業においては未だDX化が遅れていると言われている。
本記事では、製造業界に焦点を当てつつ、DX化が必要な理由と推進する上での課題、製造業企業の具体的なDXの取り組み事例を紹介する。
DXとは?
DXの意味と定義
DXは、もともと、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義づけ、情報技術があらゆるものと結びついて、良い影響を与えると指摘する。
日本の経済産業省が2018年に発表した「DX推進ガイドライン」では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけている。
ビジネス上の文脈では、最新のデジタル技術やデータを活用して、ビジネスモデルや組織を変革して、市場における競争力の維持向上を指して語られることが多い。
製造業でDX化が重要視される理由
製造業でDX化が重要視されている理由は、国際的競争力や労働人口の低下といった業界が抱える課題の対抗策になると考えられている点が大きい。
社内でDXを推進して業務の効率化を図り、不足する人材を補える仕組みを確立していかなければ、新型コロナの影響でより不確実性が増す社会情勢の中で企業が存続していくことは難しいだろう。日々変化する顧客や社会のニーズに対応する上でも、DX化を早急に進めていく必要がある。
DXによる変革は業界・業種問わず求められるようになっており、製造業においても例外ではない。
日本の製造業界の現状とDXを推進する上での課題
以下では、日本の製造業界の現状とDXを推進する上で解決すべき課題を見ていく。
現場主義・業務の属人化
日本の製造業界は、勤勉で優秀な現場の人材が中心となって回してきた現場主義の企業が多いとされている。職人技は、モノづくりの源泉なのは確かではあるが、ノウハウの属人化はデジタル技術の活用を阻む足かせにもなり得る。
後継者の育成ができない技術継承の問題や属人化の解消が取り組むべき課題となっている。
老朽化した生産設備やシステムの刷新
製造業における設備投資動向は、回復傾向から2019年以降横ばいが続いたが、不確実な社会情勢の影響で、2020年度に製造業を含む全産業で10.2%減と、9年ぶりに落ち込みを見せた。製造業全体で生産設備を導入してから経過年数が長期化する傾向にあり、老朽化した設備やシステムの刷新が進んでいない、設備投資に慎重になっている現状がうかがえる。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、「2025年の崖」問題として、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムが残存していた場合に、年間最大12兆円の経済損失が生じると推定されている。国際競争力を維持していくためにも、レガシーシステムの刷新が急務である。
蓄積したデータの有効活用
日本の製造業は世界と比べてもIT化、デジタル化が遅れており、設備やシステムの老朽化もさることながら、ビッグデータやインターネットによる資源・資産の十分な活用がなされていないと言われている。
DXの要は、デジタル技術とデータの活用で、ビジネスモデルや組織を刷新して競争力を高めることにある。Iotの技術が発展するなかで、製造業の現場で収集・利用できるデータ量は爆発的に増加している。特にAIを有効活用するためには、大量のデータを収集・整理して活用するためのデータ基盤や、データ分析に精通した人材などのリソースを整える必要がある。
DX化を成功させるために必要な取り組み
DXを推進する上で重要なポイントを、経済産業省が出している「DX推進ガイドライン」を参考に解説していく。
社内全体で目指すべきビジョンや価値を共有する
DXを円滑に推進していくには、デジタル技術やデータを活用して、どの領域で、どんな新しい価値が生み出すのか、明確なビジョンや戦略を定めて、それを社内全体で共有することが重要だ。
DXのプロジェクトは、複数の部門を横断するようなプロジェクトになることが多いとされている。その際に、明確なビジョンや戦略がなければ方向性がブレたり、また現場の混乱や反感を招くこともあるだろう。
「DX推進ガイドライン」では、利害関係のある部門の意思を統一して円滑にDXを進めるために、より経営層が強いコミットメントを持って、ビジョンや戦略を共有・推進していく必要があることを強調している。
データ活用やデジタル技術に精通した人材の確保
DXを推進するにはベンダーに丸投げするのではなく、自社内の業務プロセスに精通しつつ、システムの要件定義をしたり、収集したデータを活用し、分析・解析できるデジタル技術に精通した人材を確保・育成することが肝要だ。
企業が持つビッグデータを活用して課題解決に役立つ提案ができるデータサイエンティストやエンジニアなどは、社内で人材育成するには時間を要するため、社外から即戦力となる人材を招き入れることも検討する必要があるだろう。DXを推進する上では、例えば、データ分析部署を早立ち上げ、データ分析とデータの意味解釈ができる人材を配置するなどが考えられる。
ノウハウや技術のデジタル化・標準化を進める
製造業のDX化にはデジタル技術を導入するだけでなく、ノウハウや技術のデジタル化・標準化が求められる。製造現場で属人化する業務のノウハウや経験を集約して、可能な限りデジタル化して共有できる形にし、生産性や品質の向上、業務効率化に活かしていく。
ベテラン技術者のノウハウや技術が再現できるようになれば、組織内のどの拠点で生産しても、品質を標準化させることも可能になるだろう。DXによる業務変革を達成するには、業務のあり方をデジタルデータとして実装する必要があるだろう。
製造業企業のDXの取り組み事例
下記では、業界をけん引する企業のDX推進に関する取り組み事例を紹介する。
日立製作所
世界有数の電機メーカーである日立製作所では、不確かな社会情勢に対応すべく、DXによる組織のあり方や働き方の変革に取り組んでいる。業務の効率化だけでなく、新たな価値の創出に力を入れている。
デジタル技術を取り入れた社会イノベーション事業を推進し、顧客やユーザーと協創してデジタル人材の育成を図る。DXを活用して社会課題や経営課題により迅速に取り組めるよう、ノウハウや技術をパッケージ化した「Lumada Solution Hub」をビジョンに賛同したパートナーに提供する場を設けている。またさまざまな強みを持つ顧客とパートナーを結び、オープンイノベーションを促進する新たなパートナー制度「Lumadaアライアンスプログラム」を発足させた。
小松製作所
工業用機械の製造・販売を行う小松製作所は、DXによる既存商品の価値を高める「ダントツ商品」の追求に力を入れている。現場での作業をより安全で効率的に行えるよう、自動化や自立化、電動化、遠隔操作といった製品を高度化・高品質化する取り組みを実施する。
これら施工の高度化を追求する「ダントツソリューション」により、安全性と生産性に優れた無人運転の建設機械を管理する。また「KomConnect」と呼ばれるプラットフォームを用いて、人や機械など、モノを情報通信技術で繋ぎ、建設現場の課題解決を実現している。
NEC
国内最大の電機メーカーであるNECは、生体認証やAI、映像分析といった最先端のデジタル技術を活かしたDX事業を展開する。
新型コロナの影響で非接触対応が求められる空港などで、より安全で安心な旅ができるよう生体認証が可能なサーマルカメラによる感染症対策ソリューションを提供。また緊急事態宣言発令後に、NECグループの6万人以上の社員が円滑にリモートワークに移行できた実践をもとに、ビジネスのあり方や新しい働き方といったDXに向けた取り組みを顧客に提案する。
富士通
富士通では、収集した従業員や顧客の声を既存データと組み合わせて、AIによる分析を行う「VOICEプログラム」を導入し、定期的に施策に反映させる取り組みを実施している。
また、製造業のDX実現に必要なツールやインフラをクラウド上に設計して提供する「株式会社DUCNET」を設立。参加企業はDX基盤を準備する必要がなく、コストを抑えて業務の効率化・高度化といったDXの効果が享受できる。サービスを利用する参加企業同士のデータ連携もしやすく、各企業のモノづくり力の強化を目指す。
製造業におけるDXまとめ
DXを実現するためには、属人化が顕著な業務の解消や、老朽化した生産設備やレガシーシステムの刷新、データを活用・分析できる環境の整備と人材確保など、多くの課題が立ちはだかり、その実現は容易なことではない。
しかし、世界中で次々と競合が生まれ、激しさを増すビジネス競争を生き抜くためにも、DXの実現は必要不可欠なものになりつつあり、本腰を入れて検討が必要な課題であることは間違いないだろう。