従業員エクスペリエンスとは?メリットや注目される背景、向上のポイント、事例等を紹介
2022.10.05
2022.08.31

昨今、ビジネスシーンにおいて従業員の仕事体験「従業員エクスペリエンス(Employee Experience (EX))」がテーマに挙がることが増えている。この記事では従業員エクスペリエンスの定義を明確にし、その重要性や企業経営におけるメリット、従業員エクスペリエンスを向上させるポイントなどについて解説する。
また、実際に従業員エクスペリエンスに力を注いでいる企業の事例も紹介し、従業員エクスペリエンスに対する理解を深めたい。
目次
従業員エクスペリエンスとは
従業員エクスペリエンスとは、従業員が企業で働く場合に得る経験をさす。これは労働の賃金や会社の福利厚生のみにとどまらず、業務を通じた思考や感情などの経験全般が含まれる。
従業員エクスペリエンスには従業員の仕事に対する満足度や会社への帰属意識を測る側面もあり、近年ビジネスシーンにおいて注目を集めている。
従業員エクスペリエンスが注目を集めている理由
これまでは、顧客の体験「カスタマーエクスペリエンス」がビジネスシーンで注目されてきた。だが昨今では、従業員の体験「エンプロイーエクスペリエンス」にも着目する企業が増えている。この動きにはどのような背景があるのだろうか。
流動化する雇用と労働力の不足
これまでの日本では、一度就職したらその会社で定年まで勤めることが一般的であった。しかし近年では、日本の景気後退やグローバル化の影響もあり、終身雇用制度は不確実なものとなっている。
そのような背景を受けて、ビジネスパーソンは転職をしながらスキルアップをはかることが普通になりつつある。その結果として人材の流動化が加速し、企業は社員を自社に定着させるため従業員エクスペリエンスに注目をしはじめている。
また、日本の人口減少と並行して生産人口も減少傾向にある。業種によっては人手不足が常態化し、労働力の不足から従業員ひとりあたりの労働負担は増加している。その結果として離職率が増加してしまう負のスパイラルに陥る会社も少なくはない。このような背景からも人材の確保と定着を目的とした従業員エクスペリエンスの向上が急務と考えられている。
ネット口コミと求人の関係
近年インターネットとスマートフォンの普及により、企業の情報を口コミサイトで検索できるようになった。最近では、転職を検討している会社の口コミをネット経由で確認することが一般的になってきている。
会社の元従業員などが悪い口コミを投稿していると、その会社への応募率も下がってしまう。これは企業にとっては人材雇用の機会損失となりうる。雇用の損失を回避するためにも企業は従業員エクスペリエンスを向上させ、ネット上に悪い口コミが出回らないように努める必要があるといえる。
働き方改革の影響
従業員エクスペリエンスが注目される背景には、働き方改革関連法案の影響も否めない。働き方改革が推奨され長時間労働の制限が求められている昨今、企業は短い就労時間で労働生産性を高める必要がある。労働生産性を高めるには従業員のモチベーション上昇が不可欠だ。福利厚生の充実や職場環境の改善をおこない、従業員エクスペリエンスを向上させる必要があると考えられる。
従業員エクスペリエンス向上のメリット
従業員エクスペリエンスが向上すると、従業員は会社や自社のブランドに対して愛着心を抱く傾向が強くなる。人事用語では、このような愛社精神を「エンゲージメント(engagement)」と呼ぶ。従業員のエンゲージメントが高まれば会社に対する自発的な貢献が期待でき、そこにさまざまなメリットが発生する。ここからは、従業員エクスペリエンスの向上に伴って得られるメリットについて検証する。
生産性の向上
従業員エクスペリエンスが向上すると、事業の生産性向上が期待できるようになる。充実した従業員体験によって従業員のモチベーションが上昇すると、ひとりひとりのパフォーマンスも向上していく。
さらに、個人のパフォーマンス向上がチーム全体に拡大することにより、結果的に企業としての生産性向上が期待できる。従業員エクスペリエンスの一例としては社食の充実や育休制度、住宅手当、テレワークの推進などが挙げられる。
人材の定着
従業員エクスペリエンスを向上させる大きなメリットのひとつとして、人材定着率の上昇が挙げられる。終身雇用が当たり前とされていた時代には、従業員は自分たちの会社に対して強い帰属意識を持っていた。しかし、転職が一般的となった現代では従業員の帰属意識は低下傾向にある。従業員エクスペリエンスによって自分の務める企業に対する帰属意識が高まれば、離職率を下げ人材の定着率の上昇にも繋がる。
企業価値の向上
従業員エクスペリエンスの向上は、企業価値の向上にもつながっている。従業員エクスペリエンスによって充実した仕事体験をしている社員は、不平や不満の感情を抱きにくい。その結果として口コミサイトなどに悪い評判が上がる確率も減少し、社外からは優良企業として認識されるようになる。優良企業として認識されると企業のブランディング力も向上し、従業員エクスペリエンスを介した好循環のサイクルが生まれることになる
従業員エクスペリエンスを高めるポイント
従業員エクスペリエンスの向上は企業と従業員の双方にさまざまなメリットを与え、それに着目する企業も増えている。しかし、従業員エクスペリエンスを高めるには、単純に待遇を良くすればよいというものではない。ここからは、企業経営において従業員エクスペリエンス向上のためにおさえておくべきポイントを解説する。
従業員に対する理解を深める
従業員エクスペリエンスを向上させるには、従業員ひとりひとりに対して理解を深める必要がある。従業員のことを理解していくには、日常的なコミュニケーションを重ねることは当然といえる。
また、日常のコミュニケーション以外にも面談の機会を定期的に設けるなどの工夫も必要である。定期的な面談は、会社の問題を明らかにし、従業員が日頃からもっている不満や改善点を知る機会となる。従業員エクスペリエンスの向上には、従業員に対する理解を深めることは不可欠といえるだろう。
従業員体験を可視化する
従業員エクスペリエンスを向上させるには、従業員が会社で体験することの全体像をとらえ可視化することも重要である。このときに有効となるのが「エンプロイージャーニーマップ(Employee Journey Map)」の作成である。エンプロイージャーニーマップとは、従業員の入社時から退職までのあいだに経験するであろう事柄を時系列に基づいてまとめた表のことをさす。
エンプロイージャーニーマップを作成しておくと、従業員の体験と心情変化のタイミングをビジュアルで理解できる。このようにエンプロイージャーニーマップをもちいて体験を可視化することは、従業員エクスペリエンスを向上させるのに有効な手段といえる。
従業員の視点を取り入れる
従業員との定期的な面談やエンプロイージャーニーマップを利用すると、どのような場合に従業が不満を感じたりモチベーションが上昇したりするのかなど、従業員の視点で理解できるようになる。
また従業員の目線を考慮することで、今後従業員が直面するであろう悩みやトラブルに対し先回りして対策を講じることも可能だ。その結果従業員が不満を抱く機会を事前に潰し、充実した労働環境を提供できる。このように、従業員エクスペリエンスを向上させるには従業員の視点を取り入れることも必要不可欠である。
従業員エクスペリエンスに注力する企業の事例
近年では国内外においてさまざまなジャンルの企業が、従業員エクスペリエンスの向上を経営の柱として取り入れ始めている。ここからは従業員エクスペリエンスに注力している企業の事例を紹介する。
Starbucks Corporation
Starbucks Corporationは従業員エクスペリエンスの一環として、自社の従業員に対して学びの機会を提供している。Starbucks Corporationは従業員の能力を伸ばすためにアリゾナ州立大学と提携し、従業員がオンライン授業を受講できるサービスを提供。講義の授業料はStarbucks Corporationがカバーしている。Starbucks Corporationの従業員は自分の学びたいことを十分に学べるので、知識やスキルに加えエンゲージメントも向上。Starbucks Corporationは、飲食業界の中でも従業員エクスペリエンスの充実度を高く評価されている。
Airbnb
ホテルや民泊施設の仲介サイトとして世界中にユーザーをもつAirbnbには、「エンプロイー・エクスペリエンスチーム」とよばれる従業員エクスペリエンスの専門部門が設置されている。エンプロイー・エクスペリエンスチームはAirbnb社の健康と幸せのために働く部署として社内外で認知されており、従業員の悩みや困りごとに関して徹底したサポート体制を提供。従業員エクスペリエンスの向上と充実、社内環境の整備に責任をもって取り組んでいる。
Patagonia, Inc.
アウトドアブランドのPatagonia, Inc.は利益の追求よりも地球環境の保護を第一に考えるユニークな会社である。社員が生き生きと働けるように柔軟な業務体制で運営されており「社員をサーフィンに行かせる会社」と形容されることもある。Patagonia, Inc.では従業員エクスペリエンスの一環として、オフィスに保育所を設置。従業員は安心して育児と仕事を両立できる。このような背景から社員は会社を信頼し、エンゲージメントの強化や人材の定着にもつながっている。
freee
クラウド型の会計ソフトや企業サポートシステムで知られるfreeeには、「メンバーサクセスチーム」とよばれる部門が存在する。メンバーサクセスチームは社内の組織管理全般や業務を通じて、従業員の成長と付加価値を高めることに取り組んでいる。
またfreeeでは社員と上司が個別に面談する時間を積極的に設けており、従業員やチームの問題を発見し解決することに労力を費やしている。freeeでは従業員エクスペリエンスを向上させることにより社員の満足度が向上し、業務の最適化や効率化が図られている。
これからの企業経営には従業員エクスペリエンスが重要
従業員エクスペリエンスは企業とそこで働く人間にとって、福利厚生の枠を超えた相互的な信頼関係といえる。従業員エクスペリエンスの向上からは、有望な人材の定着や従業員ひとりひとりが目的をもち、生き生きと仕事できる環境づくりが期待される。その結果として、生産性や業績の上昇といった好循環も見込まれるのである。従業員エクスペリエンスを考慮しながら事業を構築することは、これからの企業経営にとって必要不可欠といえる。