スマートシティとは?国内の取り組み事例を交えて、メリットや求められる背景など解説
2022.09.27
少子高齢化や人口減少、自然災害など多様な問題を抱えている都市および地区。昨今では、諸問題を先進技術で解決し、持続可能な都市・地区を目指すスマートシティの実現に向けた取り組みが加速している。
本記事では、スマートシティの定義からメリット、求められる背景、進め方、実現ポイント、取り組み事例まで網羅的に解説していく。
スマートシティとは?意味や定義
国土交通省都市局が取りまとめた「スマートシティの実現に向けて」では、スマートシティは「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義されている。
昨今、各都市・地域では、生活者が労働・子育てを行いながら安心して暮らせるまちづくりの必要性を認識しており、実現に向けた施策を講じている。しかし、高齢化に伴う労働力不足、都市と地方の地域格差、多発する自然災害など、さまざまな問題が生じている。
スマートシティの実現に社会的な課題が重くのしかかる中、新型コロナウイルスの感染拡大も当初はまちの発展を妨げる要因となったが、その一方で革新的技術も登場。コロナ禍が先進技術の導入を推し進める契機にもなっている。
例えば、災害リスクの見える化。都市空間データと災害データを組み合わせ、リスクを可視化することで、避難シミュレーションの実施や防災対策につなげる。
その他、安心なまちづくりの一環としてAIを導入。まちや建物の中で人が倒れた場合でも、AIで迅速に検知し、安心に暮らせるまちの実現を目指す。
移動・物流、防災・気象、安心なまち、観光、エネルギー・環境など、多様な面において先進技術を活用し、持続可能な都市を実現することをスマートシティ構想の目標とした。
スマートシティのメリットとは?何がよくなる?
ここでは、スマートシティを推進していくことで、どのようなメリットがもたらされるのか解説していく。
分野横断的なデータ活用で総合的にサービスの質を向上
従来、ICTシステムの構築は分野ごとに実施され、データを活用して生活者の利便性向上などが進められていた。特定分野における課題解決であれば、各分野ごとに先進技術を構築しても問題ないが、分野横断的なデータ取得・利活用が困難であった。
その点、分野横断型のスマートシティにおいては、各分野で得られる大量のデータを利活用し、都市が抱える諸課題を複合的に解決しつつ総合的なサービスの質の向上を図れる。各分野のデータ利活用例としては、下記が挙げられる。
エネルギー | エネルギー・上下水・リサイクルなどを地域内で最適管理 |
金融 | キャッシュレス社会を実現し、取引をデジタルで完結 |
自動走行・自動配送 | いつでもどこでも必要な移動・配送サービスを提供 |
教育 | ICTを活用したe-Learningおよび遠隔教育の充実 |
見守り・安全 | 地域の見守りを支援し、安心で安全なまちを実現 |
健康・医療・介護 | ICTデータを活用し、健康寿命を延伸 |
防災 | 災害情報をリアルタイムで取得・発信し、迅速な避難・復旧を実現 |
これらの取り組みは都市内に留まらず、都市間でもデータの利活用を実施。産官学・市民が施策に関わっていくことで、新たな枠組みによる課題解決につなげていく。
生活者のニーズに沿った生活を実現
各都市・地域の生活者には多様な個性が存在し、ニーズもさまざまである。
例えば、人口が密集する都市の場合、データを活用して公共交通の最適化を実施することで、生活者の移動がより快適に。一方、農業が盛んな地方の場合、ロボットやICTを活用して省力化し、高齢化に伴う作業負担を軽減可能。
各都市のニーズに沿った先進技術を構築すれば、生活の質の向上を大いに期待できるだろう。
スマートシティが求められる背景や理由
スマートシティの実現に向けた取り組みは国内だけでなく、国外でも広がっている。次に、スマートシティが求められる背景・理由を解説していく。
都市部への人口集中に伴う負担増
昨今、地方の高齢化や利便性の低さ、雇用・所得の問題など幸福度の格差から、都市部への人口流出が後を絶たない。東京一極集中とも言われる人口の集中は、都市機能への負担を増大させ、交通問題・環境問題・感染症リスクなどさまざまな問題を発生させる。
スマートシティによる持続可能な社会構造を実現し、都市機能の負担を軽減することが早急に求められているだろう。
地方移住を機とした地域格差の是正
前述の通り、都市部への人口流出により地方の過疎化は進んでいるが、その一方で地方への移住希望者が増加している。
地方移住の相談を受け付ける「ふるさと回帰支援センター(東京)」のデータによると、2020年の移住相談者は20代以下で前年代の19.9%、30代は過去最高の30.5%という結果に。コロナ禍を機に在宅勤務の機会が増え、職場へのアクセスの良さを重要視していた層が、オンライン化を前提として地方への移住を検討し始めたと考えられている。
政府はこれを契機に、データ・先進技術を活用しながら、豊かで自然溢れる環境のもとで質の高い生活を享受できる地方再生を推進。地域格差の是正につなげていく。
個人情報・行動情報のセキュリティ面に対する懸念
社会全体でデジタル化が進む一方、個人情報や行動情報が一部の主体に集約管理されやすくなる点を懸念する声も多い。そこで、セキュリティ確保・トラスト・公衆衛生といった観点から、国際的に議論や共通認識の醸成を図り、持続可能な都市を目指していくなど、スマートシティは社会的に受容されつつある。
日本においては、総務省が「スマートシティセキュリティガイドライン」を策定。生活者の利便性を高めつつも、適切なガイドラインでセキュリティ意識の育成にもつなげていく。
スマートシティの進め方
スマートシティには、都市・都市圏スケールのエリアを対象として市民のWell-Being向上などを目指す行政主導型と、特定の地区スケールのエリアを対象として地区の価値向上を目指すエリアマネジメント型の2つの類型が存在する。ここでは、地方公共団体が主導する行政主導型に関して、スマートシティの進め方を解説していく。
初動段階
初動段階は、スマートシティの取り組みを発意・スタートさせる段階。デジタル分野・産業振興分野・まちづくり分野・個人情報の取り扱いなどに精通する専門家をアドバイザーやアーキテクトとして、あるいは庁内専門職員として招聘し、取組態勢の構築を実施する。
さらに、スマートシティに関する知識を習得すべく、講習会の継続的な開催やIT人材の採用など、関係する全ての部局において職員の知識向上を図る。
全庁的な取組態勢の構築を進めると同時に、議会・地元経済界・地域住民団体など地域関係者と積極的に対話を実施。機運の醸成に努めながら、本格的な準備段階に先立ち体制を整えていく。
アドバイザーに課題の整理から取組内容まで、施策の全てを丸投げするケースも散見されるため、まずは地方公共団体自らが重点施策などを検討。アドバイザーと二人三脚の関係を構築していく。
また、全庁体制の縦割りの弊害を排除すべく、主管部局の役割・権限などを事前に明確化することも重要とした。
準備段階
準備段階では、スマートシティ実現に向けた取り組みの方針を定め、市民へ共有および体制を整えていく。
地域が目指す方向性や現状の課題、自然・文化・産業などにおける強み、および地域の関係者・市民のニーズを収集し、実現したいスマートシティのビジョンを地域内で共有する。また、都市OSの必要性に関しても、関係者間で認識していく。
初動段階と同様、庁内組織人材の底上げや地域対話がなく、コンサルにスマートシティの施策を丸投げする地方公共団体も多い。スマートシティを実現するためには、行政・経済界・市民それぞれがスマート技術を理解し、使いこなせることが必要不可欠。初動段階・準備段階を形骸化せず、自らもスマートシティの理解を深めながらビジョン・計画を策定していくことが重要だ。
計画(戦略)作成段階
計画(戦略)作成段階は、取り組みを具体化させて強固な推進体制を構築していく段階。
地方公共団体やアドバイザー、地元大学、地元経済界、地域住民団体など各関係者に加えて、スマートシティ・プロジェクトに主体的に参画する民間事業者により、プロジェクト推進主体を組成。具体的な民間事業者としては、技術・システム・サービスを提供するITベンダーなどの民間事業者や、専門的知見を提供する学識経験者などが挙げられる。
推進主体を中心に、プロジェクトを実現するための具体的な計画を検討・策定。さらに、整理した地域課題および取組予定内容を考慮し、都市OSの導入可否も検討していく。
実証・実装段階
実証・実装段階は、サービスの社会的受容性を実証しつつ、順次実装を進めていく段階。
具体的ニーズの把握・社会的受容性の検証・資金計画の妥当性など、検討テーマを明確化し、実証実験を実施。着実に社会実装を進めていく。
当然、社会実装する上で計画通りにプロジェクトが進まないケースもあるため、各分野の取組状況に応じて、個別分野の施策を先行的に推進したり、特定分野から段階的にサービスを導入するなど、柔軟にスマートシティの実装を推し進める。
定着・発展段階
定着・発展段階では、実装したサービスのモニタリングを行って充実化を図りつつ、スマートシティを地域に根付かせていく。
サービスの社会実装がスマートシティの目標ではなく、地域に定着させることが重要。日本のテクノロジーも日々進歩しているため、サービスをモニタリングしながら効果測定を的確に実施し、サービスの改善・新たなサービスの導入など、スマートシティのバージョンアップも常に検討する。
また、スマートシティを定着させるにはサービス実装後も、ITリテラシーの向上や従来システム・プロセスの改革など、さまざまなステップが必要。長期的な展望のもと、スマートシティの成熟を図っていくことが重要と考えられる。
スマートシティ実現のポイント
政府はスマートシティを実現するための5つのポイントを明示した。そのポイントの概要を解説していく。
機能的、機動的な推進主体の構築
推進主体には、異なる組織理論や利害を有するさまざまな主体が参画する。そのため、共通の理念・方向性を基にビジョンを共有し、プロジェクトを進めていくことが重要。
議論の発散に伴い、スマートシティ化が滞ることを防止すべく、プロジェクトを牽引・調整する組織および人材の確保も有効。また、ガバナンスルールを明確化し、合理的かつ適正な意思決定を実行するのと同時に、適切な執行を図っていくことも、推進主体には求められる。
資金的持続性の確保
持続可能な都市・地区を実現するためには、資金的持続性を確保することも極めて重要である。官民のさまざまなビッグデータを流通させ、新たな価値・サービスを創出してエコ・システムを形成。データ・サービス・都市OSの利用料など、民間資金を中心にスマートシティを構築することが理想とされている。
しかし、現状の都市・地区におけるエコ・システムは未成熟。まずは行政コストの削減や、質の高い行政サービスは行政が負担して提供するなど、費用を分担していくことが資金的持続性の確保に向けた第一歩と推奨されている。
市民の積極的な参画
市民のニーズを考慮したスマートシティを実現するため、市民一人ひとりが積極的にプロジェクトに参画し、ギャップをなくしていく必要がある。
例えば、市民はスマートシティ実現計画以前に、「スマートシティ」という用語自体認識していないケースも多い。アドバイザーの協力も得ながら、スマートシティの意味や効果など市民の関心を引き、理解を深める情報発信が重要である。
また、ワークショップやパブリックコメントも実施し、市民と双方向型のアプローチを行っていくことも大切と考えられている。
都市OSの導入
分野ごとに特化したまちづくりではなく、分野横断的にスマートシティ化を進めていくため、データの分野間連携を実施。1つの分野データを他分野でも応用することで、新たなサービスの創出や既存サービスの深化にもつながる。
また、広域的な行政課題への対応・地域に縛られない共通的な市民サービスの提供・効率的なシステム運営などを実現するため、都市間連携も重要なポイントとした。
適切なプロジェクトの評価
推進主体が足並みを揃えてPDCAサイクルを回していくためには、進捗や効果を評価できるKPIなどの設定が有効。指標を可視化することで、市民への進捗・効果説明も円滑に進められる。
指標を設定する際はわかりやすく具体的で、計測を容易に実施できること、さらには目標値が高すぎず低すぎず、現実的に達成可能であることも留意すべきとした。
スマートシティの取り組み事例
スマートシティを完全に実現したという都市は少ないが、先行的に取り組む地域は着実に増えてきている。ここでは、スマートシティの取り組み事例を見ていこう。
石川県加賀市
石川県加賀市は観光・部品メーカーを基幹産業としているが、人口の減少に歯止めがかからない状況を大きな課題と捉えていた。加えて、山代温泉・山中温泉・片山津温泉の3種の有名温泉を有する市であるが、コロナ禍で観光客数も落ち込んでいる。そこで、製造業への先進技術導入を契機として、市が抱える課題もデジタルで解決しようと考えた。
例えば、MaaSアプリで交通・商業・観光分野のサービスを連携。子育て世代の塾送迎課題の解決や観光客の目的地情報を収集するなど、多様な分野のサービスをMaaSアプリへ実装予定としている。
また、費用を支払って「e-加賀市民」の制度に登録すると、加賀市民だけが乗れる乗り合いタクシーを利用できたり、ワーケーションのための宿泊補助券が配布されるなど、人口減少対策および移住・関係人口の増加を図っている。
参考:デジタル化に集中投資、市が変わることで地域がついてくるー加賀市
愛媛県新居浜市
愛媛県新居浜市は高齢化が進む中で、交通弱者の移動手段の確保、認知症発症者の見守り、災害水害への備えなど、さまざまな問題を抱えている。行政の資源だけでは限界があるため、産学民と協働してAI・IoT・ビッグデータなどデジタル技術を活用し、市の諸問題を解決していくスマートシティの取り組みを開始した。
まちのサプライチェーンの最適化を図るべく、交通インフラを整備する「スマートモビリティ」、先進技術を利用して災害発生予測を行う「スマート防災」、働き方をサポートして人口・空き家を減少させる「働き方サポートサービス」、健康寿命の延伸につなげる「ヘルスケアサービス」の4つの柱を展開。新規事業を創出しつつ、住みたい・住み続けたいまちの実現を目指していく。
また、都市OSを広域化することで、プラットフォームの維持費を削減。総務省の補助金以外の財源確保も目標とする考えだ。
熊本県人吉市
熊本県人吉市は人口減少および少子高齢化を課題として抱えていたが、熊本地震・新型コロナウイルスの感染拡大・令和2年7月の豪雨被害など自然災害にも見舞われた。限られた財源および職員数の減少も進む中、住民のニーズに効率的に応えるためには、DXが不可欠であると考えた。
例えば、豪雨で河川の水位が上昇して氾濫の危険性が高まった際、防災行政無線や携帯アラームを使用するが、聞こえなかったという声も少なくない。そこで、従来の音・文字に加えて、色で判断する手段を追加。
河川の水位が通常であれば電球色、危険レベル1のときは白色、危険レベル2のときは赤色、危険レベル3のときは赤色で点滅というように、より視覚的に注意喚起を行う。また、通常時は観光地を照らす灯りも兼ねており、夜間のそぞろ歩きの誘発・SNS拡散など、新たな観光資源としての役割も果たしている。
福島県会津若松市
福島県会津若松市は、東日本大震災の復興と人口減少の2つの課題を解決し、地域を活性化すべくスマートシティに取り組み始めた。
農業分野においては、ICT技術で収穫量・品質を向上させるだけでなく、労働時間の削減・負担軽減につなげている。観光分野においては、事前に国別の嗜好性をリサーチし、閲覧者の言語に応じて観光コンテンツ・ルートをレコメンドするインバウンド向けサイト「VISITAIZU」を構築。観光客の各地域への周遊促進を図っている。
また、会津若松市がスマートシティ構想を掲げたのは2013年と、先駆けて課題解決に取り組んでおり、現在は「定着・発展」の段階に入っている。今後も継続してAI・IoT・ブロックチェーンといった技術を活用しながら、医療・教育・行政手続きなど幅広い分野で抜本的な規制改革を図り、住民の利便性向上につなげていくことを市の展望とした。
スマートシティのまとめ
都市・地域課題の解決に向けて、スマートシティ構想を策定する地方自治体は増えてきた。先進技術を導入し、諸問題を解決に導くだけでなく、住民の利便性向上などスマートシティではさまざまな利点を享受できる。
しかし、監視社会になる点やサイバー攻撃のリスクを伴う点など、懸念点が多く存在するのも事実。住民の理解を同時に得ながら、スマートシティの実現を進めていきたい。