SAFとは?概要や注目される背景、メリット、デメリット、企業の取り組み事例を解説

2022.09.29

二酸化炭素の排出量削減や気候変動問題などの課題解決のために、持続可能な社会への多くの取り組みが行われている。その中のひとつが次世代型航空機燃料である「SAF」だ。

まだ航空機燃料としては歴史の浅いSAFだが、持続可能な航空機燃料として多くの可能性を秘めている。この記事ではSAFの概要や注目される背景、SAFがもたらすメリットやデメリット、SAFへの各企業の取り組み事例を解説する。

SAFの概要や生産方法、安全性について

SAFの概要や原料、生産方法、安全性について解説する。

SAFとは

SAFとは”Sustainable Aviation Fuel”の略語で、日本語では「持続可能な航空燃料」と訳される。読み方は「サフ」。植物や廃油などの再生可能または廃棄物から作られるバイオ燃料だ。従来の航空燃料である化石燃料よりも、二酸化炭素の排出量を約80%削減できると言われ、次世代型航空燃料として注目されている。

SAFとして認定されるには、「持続可能性のクライテリアを満たす」ことが条件だ。持続可能性の認定基準は以下の通りとなっている。

・二酸化炭素排出量を大幅に削減できる

・原料を使用することで生物多様性に悪影響とならない

・人間に必要不可欠な食物の生産と競合関係とならない など

持続可能性の認定基準は厳格であり、「国際持続可能性カーボン認証プラス(ISCC+)」および「持続可能なバイオマテリアルに関する円卓会議(RSB)」「米国試験材料協会(ASTM)」からの認証を受けたもののみが、SAFと認められる。

SAFの原料

SAFの原料となるのは、大きく分けて以下の3種類だ。

・植物などのバイオマス由来原料

・飲食店および生活の中で排出される廃棄物や廃食油

・化石由来の廃プラスチック など

植物は光合成によって二酸化炭素を吸収できる。そのため燃料生産時に二酸化炭素を一方的に排出するのではなく、リサイクルをしながらエネルギー利用ができる。また、廃棄物を活用することで環境への配慮を踏まえた燃料生産も実現可能だ。

ただし、従来の航空燃料の原料と同じ化石由来の廃プラスチックを原料としたSAFは、植物を原料としたSAFよりも二酸化炭素排出量の削減効果が小さくなることに注意が必要だ。

SAFの生産方法

「米国試験材料協会(ASTM)」の規格である「ASTM D7566」では、以下のSAFの生産方法が承認されている。

・Fischer-Tropsch法により生活ごみや廃材から生産する方法(FT)

・廃油や使用済み油などを脱炭素化および水素化処理をする方法(HEFA)

・バイオマス糖などを発酵させ、アルコール(エタノール)から生産する方法(ATJ)

・脂肪酸エステル、脂肪酸の熱変換、水素化処理により生産する方法(CHJ)

・排ガスや大気中の二酸化炭素から燃料を精製する(PTL)

この中でも、SAFの生産方法として一般的にもちいられているのが「HEFA」だ。今後「PTL」の生産技術が向上すれば、SAFの生産の大半がPTLによって行われるようになると予測されている。

SAFの安全性

SAFは従来の化石燃料と異なる原料から作られているものの、燃料としての化学・物理的特性は従来のものとほとんど変わらないといわれている。安全性も従来の燃料と同一で、既存の航空機にも適合できるのもメリットだ。なお、SAFの安全性を保つために、SAFの生産方法によって従来の燃料への混合率も厳密に定められている。

SAFが注目されるようになった背景

持続可能な次世代型SAFの導入や普及、チェーン構築のための動きが急速に進んでいる。SAFが注目されるようになった背景を解説する。

カーボンニュートラル社会の実現

地球温暖化による気候変動が深刻化し、世界の平均気温や海水温度の上昇、北極域の海氷の減少、台風の発生頻度が増加している。将来的には、農作物や生態系への大きな悪影響も予測されている。気候変動問題解決のために有効なのが、温室効果ガスの排出量の削減だ。

温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにすることで、温室効果ガスの実質的な排出量を0にする「カーボンニュートラル社会」の実現への取り組みが世界各国で行われている。

航空機が排出する二酸化炭素量は、人類全体の2~3%に及ぶと言われている。国際的な目標として2010年「国際民間航空機関(ICAO)」にて「2020年以降、国際航空からのCO2総排出量を増加させない」、2011年10月「国際航空運送協会(IATA)」にて「2050年に炭素排出をネットゼロ」の目標が策定された。

航空機による二酸化炭素排出量を削減するには、SAFの導入推進が有効となる。2020年時点で世界のSAF供給量は世界のジェット燃料供給量の0.03%にあたる6.3万kLだ。2050年には世界のSAFの需要は、世界のジェット燃料の90%にあたる4.1億kL~5.5億kLとなると見込まれている。

航空燃料の国産化への実現

航空機燃料の原料となる石油は日本では産出できないため、現在日本は輸入に頼っている状態だ。近年、コロナ禍やウクライナ危機などの社会情勢からの影響を受けて、原油価格の高騰や流通ルート確保が困難などの課題が発生している。

SAFは従来の航空燃料とは異なり、原料が植物や廃棄物のため、日本国内でもまかなえる。SAFが従来の航空燃料にとってかわるようになれば、日本国内でも航空燃料の製造が実現できる可能性が高いだろう。航空燃料の安定供給により、空路の確保や航空運賃の安定化などのメリットも得られる。

SAFのメリット

従来の航空燃料と比較したSAFがもたらすメリットを解説。

カーボンニュートラルなフライトの実現

SAFが注目される背景でも解説した通り、SAFは航空機の二酸化炭素排出量削減に有益性がある。従来の化石燃料と比較して削減できた二酸化炭素排出量に加えて、原料である植物による二酸化炭素の吸収を加えると、SAFの生産と燃焼のサイクルのなかで二酸化炭素の排出量を差し引き0にできる、カーボンニュートラルなフライトも実現できる。

海外では、すでにSAFを導入している航空会社もある。たとえばエールフランス航空、KLMオランダ航空、マーティンエアーカーゴの3社が導入しているSAFによって、従来の燃料よりも85%の二酸化炭素排出量の削減を実現している。

外的状況に左右されない燃料の安定供給

SAF原材料は日本国内で調達可能なため、サプライチェーンが構築できればSAFの日本国内の生産も可能となる。外部の社会情勢を受けずに航空燃料の安定的な供給も実現できるだろう。

長距離航路にも利用可能

航空機における二酸化炭素排出量の削減への取り組みとして、燃料を電気とする電気航空機、水素とする水素航空機の開発がすでに進められている。ところが、電気航空機と水素航空機は、ビジネスジェットや小型機などの小型の機体や、短距離航路にしか導入できないデメリットがある。

SAFは従来の化石燃料と燃料特性上では同一の燃料のため、中長距離の航路や大型旅客機の燃料としても使用できる。

従来の航空機やシステムの転換が不要

SAFは従来の化石燃料と同一のものとして取り扱いができるため、航空機、エンジン燃料システム、流通インフラ、貯蔵施設なども既存のものを流用できる。導入への障壁が少なく、すぐに導入できる次世代型燃料としても優秀と言える。

SAFのデメリットや課題

二酸化炭素排出量の削減によるカーボンニュートラル社会への貢献のほか、従来の航空機やシステムへもすぐに導入できるなどさまざまなメリットがあるSAF。ただし、SAFの導入や普及には多くの課題もある。従来の化石燃料と比較したときのSAFのデメリットや、導入への課題を解説する。

製造コストが高い

SAFは原料をはじめとしたコストが高いデメリットがある。化石燃料と比較すると2~10倍、従来の燃料コストが100円/Lであるのに対して、SAFは、200~1,600円/Lと割高になっている。SAFの量産のためには、メーカー側の技術革新などの製造コスト削減のための努力が必要となるだろう。

安定的な原料の調達が難しい

日本国内では、2021年10月国土交通省より「2030年時点で国内の航空会社による燃料使用量の10%をSAFへ置き換える」という導入目標が策定されている。これを受けて、日本国内でも省庁や各企業でSAFへ向けての取り組みを開始した。

日本国内に先駆け、すでに海外でもSAFの生産や導入のための動きが加速化している。SAFの原料のひとつである廃油を、全世界的に買い取る動きが出ているため、さらなる原料の高騰が懸念されている。

生産体制や技術が構築されていない

SAFにおいて国際的な優位性を得るためには、日本国内での生産体制やサプライチェーンの構築が必須となる。ただし、現時点では日本国内で大規模な生産に対応できる技術や施設、システムが構築されていない。

日本国内では、将来的な国内でのSAFサプライチェーン構築を望み「SAF官民協議会及びSAFワーキンググループ」を設置した。SAFの導入における課題解決のため、SAF供給側の元売り事業者と、買い手側である航空会社との連携を取るのが目的だ。

経済産業省では、国内各企業のSAFの製造技術開発を支援する目的で「グリーンイノベーション基金事業」を設立した。将来的な生産体制や技術構築のための取り組みも進められている。

SAFへの各企業の取り組み事例

SAFの導入や生産技術開発が急務であることから、官庁だけでなく各企業でも多くの取り組みが行われている。代表的な日本国内でのSAFの企業の取り組み事例を解説する。

ユーグレナ

2018年10月に「日本をバイオ燃料先進国にする」目標を掲げる「GREEN OIL JAPAN」宣言を行った。2022年現在、ユーグレナを含め国内40以上の企業や団体が参画している。ユーグレナは2025年までにバイオ燃料の大規模生産及び商業化体制の整備、2030年までにバイオ燃料の産業化を目指す。

SAFの国際規格「ASTM D7566 Annex6規格」に適合したバイオ燃料「サステオ」の研究・開発が進められている。原料は使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナより抽出したユーグレナ油脂だ。作物を原料としないため、食料との競合や森林破壊などの問題が起こらない燃料として注目されている。

日本航空(JAL)

日本航空は、SAF導入のリーディングエアラインとして「2030年に全燃料搭載量の10%をSAFに置き換える」という目標を掲げた。2017年11月米国シカゴ・オヘア国際空港〜成田空港便を皮きりに、国際線定期便へ徐々にSAFを燃料として搭載している。2018年10月からは国産SAFの製造に挑戦するプロジェクト「10万着で飛ばそう!JALバイオジェット燃料フライト」をスタート。原料となる古着を集めるプロジェクトにより、2020年3月下旬に国内初のASTM D7566の認証を取得したSAF燃料製造を実現させた。

国外への取り組みも幅広く行っている。2018年9月には「海外交通・都市開発事業支援機構」「丸紅」と共同で、SAF製造事業への出資を目的にFulcrum BioEnergy,Inc.(アメリカ・カリフォルニア州)の株式の一部を取得。2021年11月は他のワンワールド アライアンスメンバー8社とともにAemetis Inc.(アメリカ・カリフォルニア)からSAFを購入する意思を共同で表明し、契約した。

成田国際空港

2020年10月28日、成田国際空港にて従来の燃料と同じ航空燃料パイプラインによりSAFが輸送された。当時国内の空港としてはじめての試みだ。フィンランドのSAF製造会社「NESTE」と全日空(ANA)が中長期的なSAFの調達に関する戦略的提携を行ったことで、シンガポール製油所よりSAFを調達し、日本初の定期便で使用していく。

コスモ石油

エネルギー事業者として「2030年のSAFの供給目標年間30万KL」を目指している。2021年8月には「国産廃食用油を原料とするバイオジェット燃料製造サプライチェーンモデルの構築」がNEDO事業に採択、2022年7月にはATJ技術を活用した国産SAF製造事業の共同検討の開始など、使用済み食用油を使用した製品の事業化やAJT製造技術開発や製造検討を中心に多角的な取り組みを行っている。

SAFは空路における持続可能性を見出せる

SAFの概要や注目される背景、メリット、デメリット、SAFへの取り組みを行っている企業の事例を解説した。航空機は旅客を乗せるだけでなく空路による物資の輸送など人間社会におけるライフラインとして欠かせないものだ。今後人類と環境が共存していくためにも、SAFによる二酸化炭素排出量の削減や、カーボンニュートラルなフライトが期待されている。

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