労働分配率とは?業種別の目安や計算方法、適正な水準に保つ方法を解説

2023.01.05

2022.10.31

労働分配率とは、事業活動により企業が生み出した付加価値全体のうち、人件費の割合がどれくらい占めているかを表す経営指標である。企業にとって大きな割合を占める人件費が適正かどうかを判断する際に活用される。

労働分配率は、高すぎても低すぎてもよくなく、業種やビジネスモデルごとに適正な水準に保つことが重要だ。ここでは、労働分配率の意味や求め方、業種・規模別の目安、適正な水準に保つための方法を解説する。

労働分配率とは?意味や計算方法を解説

労働分配率は、付加価値全体に占める人件費の割合を表し、人件費の適正さをはかる指標である。自社の労働分配率の状況を把握し、適正な水準に調整できれば、企業利益の最大化も期待できるだろう。

会社にとって人件費の把握は重要な課題であり、経営していくうえで押さえておくべき指標のひとつといえる。労働分配率の意味や求め方、労働分配率の計算式に出てくる付加価値や人件費、労働分配率と深い関わりのある労働生産性についても言及する。

労働分配率の求め方

労働分配率は、企業の儲けがどれだけ従業員に還元されているかがわかる指標であるため、給与額などを決定する際の参考となるものである。以下の計算式を用いて労働分配率は求められる。

・労働分配率 = 人件費 ÷ 企業が生み出した付加価値 × 100

給与や福利厚生費、賞与といった人件費が増えると労働分配率は高くなり、企業が生み出した付加価値の方が増えた場合は、労働分配率は低くなる。例えば人件費が500万円で付加価値額が1,000万円の場合、労働分配率は50%となる。付加価値額は売上総利益または粗利とも呼ばれる。

計算式で必要となる付加価値とは

労働分配率を求める計算式に出てくる付加価値とは、企業が事業活動を行っていくうえで、新たに生み出したプラスαの価値のこと。

例えるならば、仕入れ値が100円の商品を200円で売り上げれば、100円の付加価値を創出したことになる。付加価値を算出する方法には、控除法と加算法の2通りの方法がある。  

・控除法:付加価値 = 売上高(生産高)– 外部購入価額
・加算法:付加価値 = 人件費 + 賃借料 + 税金 + 他人資本利子 + 当期純利益

控除法は中小企業庁方式とも呼ばれ、中小企業向けの簡便な計算方法である。外部購入価額とは、商品仕入高や原材料費、外注加工費、運賃などを指す。加算法は大企業向けの計算方法で、日銀方式と呼ばれ、より一般的に用いられている。

人件費に該当する経費

労働分配率を構成する要素のひとつである人件費には、さまざまな経費が含まれる。

人件費とは、会社から労働の対価として従業員に支払われる費用であり、企業の経費のうち、人にかかる費用全般を指す。一般的に従業員に支払う給与、賞与、退職金、役員報酬、法定福利費、福利厚生費が人件費の大半を占め、研修教育費や賞与引当金繰入額、アルバイトなどに支払う給料なども人件費に該当する。

自社の労働分配率を計算する際には、決算書を用いてまず人件費を算出する必要がある。決算書の勘定科目を確認して、記載されている人件費の金額をすべて合計すると、自社の労働比率を求めるときに使う人件費となる。

従業員一人当たりの平均金額を示す労働生産性

従業員一人当たり、または一時間当たりに生み出せる成果を数値化したものを労働生産性といい、従業員一人につきどれくらい利益が得られたか、付加価値の平均金額がわかる指標だ。人件費の現状を見る際に、労働分配率とともに把握しておく必要のある数値といえる。

労働量に焦点をあてた労働生産性には、付加価値労働生産性物的労働生産性の2つがある。付加価値労働生産性は、付加価値額(粗利)から割り出すことで効率的に働けているかがわかる。

物的労働生産性は、生産量のような物的な要素を対象に測定して、従業員が効率よく業務にあたれているかが見て取れる。

日本の労働生産性は、先進国で構成されたOECD(経済協力開発機構)に加盟する国の中で、ランキングの下位に位置している。労働生産性の国際比較2021によると、1人当たりの労働生産性は78.655ドルで38か国中28位、時間当たりの労働生産性は47.5ドルで38か国中23位、製造業における労働生産性は95.852ドルで31か国中18位となっている。

参考:労働生産性の国際比較 2021

適正な労働分配率の目安

労働分配率は、高すぎると利益を圧迫して経営の悪化につながり、低すぎると労働に対する給与の少なさから社員の不満が大きくなる可能性がある。企業の規模や業種によって適正な労働分配率は異なるが、経済産業省などが公表するおおよその目安となる労働分配率の数値を見ていこう。

労働分配率の目安はおおよそ50〜60%程度

2021年3月に発表された経済産業省企業活動基本調査(2019年度実績)を見てもわかるように、業種別・企業規模別の数値を参考値とすれば、全業種の平均値は50.1%となり、おおよその目安として50%程度が適正な労働分配率だと考えられている。

一般的には50%以下だと良好、70%以上になると利益を圧迫して厳しい経営を余儀なくされるだろう。自社の労働分配率と全業種の平均値を比較することで、適正な状態か判断する材料にもできる。

業種別にみる労働分配率の平均・目安

2019年度のデータでは、主要産業の労働分配率は製造業50.8%、卸売業49.5%、小売業50.0%、労働分配率の高い業種では情報通信業55.8%、飲食サービス業64.9%、低い業種では電気・ガス業21.0%、クレジットカード業・割賦金融業24.8%となっている。

情報通信業や飲食サービス業のような、ヒトが付加価値を生む労働集約型の業界では労働分配率は高くなるが、労働生産性は低くなる。一方、設備やシステムへの比重が大きい資本集約型の電気・ガス業や金融系事業では労働分配率は低くなるが、労働生産性は高くなる傾向にある。

企業規模別にみる労働分配率の割合

2020年版中小企業白書には、2018年度の企業規模別労働分配率の推移が提示されている。

・小規模企業(資本金1千万未満):78.5%
・中規模企業(資本金1千万円以上1億円以下):76.0%
・大企業(資本金10億円以上):51.3%

業種の違いだけではなく、企業規模によっても、労働分配率は異なってくる。そもそも大企業と中小企業とでは、粗利益を生み出す力が違うこともあり、同じ土俵で比較することは難しい。大企業に比べて、粗利益額が少ない中小企業は労働分配率が高い比率となっている。

また、労働生産性で見れば、企業規模が大きくなると労働生産性は上がる傾向にあるが、企業によっても大きな差が見られるのが特徴だ。業務を行ううえで多数の人員と労働力を必要とする業界では、労働生産性が低くなりやすい。

労働分配率を適正な水準に保つには

労働分配率が高い企業では、給与額が高く設定させていることもあり、従業員の満足度や意欲が高く、企業収益の向上が期待できる。

反対に労働分配率が低い場合、人件費にかけるコストが少ないため、経営的にはリソースをうまく回せている状態といえるが、低賃金や過重労働といった従業員に関する懸念が浮上する。従業員からすると、貴重な労力や時間を提供しているのだから、より多くの報酬を望むのは頷ける。

ただ会社を安定的に成長させていくためには、労働力にだけ多くの付加価値を分配するのはリスクでもある。労働分配率を適正な水準に保つには、労働生産性との関係をしっかり検証していく必要があるだろう。労働分配率が高く、労働生産性も高い状態が理想といえるだろう。

業務の効率化と労働生産性の向上を目指す

労働分配率は人件費を見直しすることで理想の水準に調整することも可能だが、利益を圧迫する人件費を削減すれば、従業員の意欲と業務効率が低下する恐れがある。そのため、むやみに人件費削減を行わず、業務の効率化と労働生産性を高めて、粗利益を増やすのが得策といえる。

人件費自体を減らさなくても、粗利益の最大化に努めれば、粗利益に対する人件費の割合は減少するため、労働分配率は自ずと低く抑えられるようになる。労働生産性を向上させるには、ITツールや従業員のスキルアップをサポートする制度などをうまく導入し、労働時間の見直しと成果のクオリティが保てる業務の平準化を進めていくとよいだろう。

決算賞与で従業員のモチベーションアップを図る

労働分配率をコントロールする方法として、業績連動の報酬制度である決算賞与を明確に提示する方法がある。決算賞与は支給予定日が定まっている夏や冬の賞与とは異なり、決算の前後に支払われる賞与だ。業績や従業員の頑張りに報いる賞与を分配することで、モチベーションやパフォーマンスの向上にもつながるだろう。

一人当たりの人件費計画と適正な労働分配率から、従業員一人当たりの付加価値額を設定し、期末時点で付加価値額を上回る結果を出したときに、労働分配率が50%となるように決算賞与を支払えば、労働分配率は最適化する。

労働分配率の視覚化で現状を把握する

現在の労働分配率を視覚化できる仕組みづくりが確立すれば、企業が抱えるさまざまな問題の見える化にもつながり、改善の糸口が掴めるようになる。企業の生産性と深い関わりのある労働分配率を分析することで、業績が芳しくないときに経営不振の原因を特定することもできるだろう。

自社以外の同業種がどれくらいの労働分配率になっているかを参考にすれば、適正な人件費と良好な労働環境の整備も可能になり、最適な労働分配率を維持できる。

また他社との比較だけではなく、視覚化により過去のデータを検証できるようになると、労働分配率の高いときと低いときでどのような違いが現れるのか、従業員の意欲や満足度といった現状の推移が読み取れる。

労働分配率の適正値を見極めることが重要

人件費は、会社を支える重要なコストであり、労働分配率が適切ではない企業では、さまざまな問題が浮上する可能性がある。労働分配率が高すぎたり低すぎたりする場合に自社の適正値がわかれば、企業が抱える問題を見直すきっかけになるに違いない。

自社の労働分配率の適正値を見極めるには、業界ごとの平均値や同業他社のデータをしっかり比較することが大切である。労働分配率の適正化に努め、利益を拡大する仕組みづくりができれば、長く健全な経営を続けていけるだろう。”

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