ペーパーレス化のメリットとは?推進の背景や導入方法を解説

2023.01.05

2022.10.31

A woman signing using a tablet PC and stylus pen

近年ではビジネスシーンにおいて、紙を使わないペーパーレス化への取り組みが進んでいる。この記事ではペーパーレスの概念を定義し、普及に至る背景を考察する。さらにペーパーレス化のメリットや実践方法、浸透させるためのポイントも解説する。ペーパーレス導入の成功事例を参考に、ビジネスのペーパーレス化について理解を深める手引きとしてほしい。

ペーパーレスとは

「ペーパーレス」とは、その呼び方が示すとおりに紙をなくすことをさす。これまではビジネスや日々の生活においてさまざまな書類を紙でやりとりしてきたが、これらを電子ファイル化してデータ上で閲覧・保存をおこなう取り組みをペーパーレス化と呼ぶ。ペーパーレスの概念はテクノロジーの発展と共に世界中で普及しており、近年では日本にも浸透しつつある。

ペーパーレス推進の背景

ペーパーレスが推奨されている背景には、ITの普及のほかにいくつかの要因が考えられる。ここからはペーパーレス化推進のきっかけとなった社会的要因を紹介する。

ペーパーレスによる環境への配慮

ペーパーレスが推奨される背景には環境問題があり、とくに地球温暖化と紙媒体は密接な関係にある。一般的な紙はさまざまな種類の木から作られているが、紙をつくるためにはこれらの木を伐採しなければならない。樹木が減れば二酸化炭素を吸収できず、地球温暖化が進んでしまう。森林伐採は地球温暖化の大きな原因のひとつであり、紙の使用の削減は世界規模で取り組むべき問題である。

また、紙の書類は必要なくなれば焼却処分されることが多い。このときに発生する二酸化炭素も、地球温暖化を助長する要因のひとつとなっている。

働き方改革としてのペーパーレス 

ペーパーレスは、企業が働き方改革に取り組む場合にも重要な要素となる。紙媒体の書類は捺印や保存に手間がかかるが、電子化すると作業時間が削減できる。これにより従業員の労働時間を適正・短縮することも可能だ。また、デジタル化された書類は、パソコンやタブレットでどこでも閲覧・編集ができるため、出社する必要も減ってくる。これによりテレワークを推進して、仕事場所に捉われない多様な働き方の実践にもつながるだろう。

ペーパーレスは法律も整備されている

日本政府も、ペーパーレスの導入を推進している。日本では、2005年に書類の電子保存を認めた法律e-文書法」が施行されている。また国税関係の書類を扱う「電子帳簿保存法」は改正とともに要件が緩和されており、2022年1月からは事前の申請をせずとも帳簿や領収書などを電子化して保存することが可能となった。このように国が主体となって、企業がペーパーレスを導入しやすいような法律面の整備も進んでいる。

ペーパーレスのメリットと効果 

これまで紙媒体で扱ってきたビジネス書類を電子ファイル化するペーパーレスの取り組みでは、さまざまなメリットが期待できる。ペーパーレスへの転換がビジネスにどのようなメリットと効果を与えるのかを以下に検証する。

コストの削減 

ペーパーレスの大きなメリットのひとつとして、コストの削減があげられる。紙の書類を使用してきたこれまでのビジネスでは、日々大量の紙を消費する。会社の規模や事業内容によっては、紙の購入費用が経費の中で大きな割合を占めることもある。また、紙に印刷するためのインク代や、書類の処分費用においても同様のことがいえる。

さらに紙媒体の使用でネックとなるのが、書類の保管スペースの確保だ。書類棚や資料室などにも当然経費がかかるが、ペーパーレス化によって書類がデータ化されれば、紙の使用にかかるこれらのコストを大幅にカットすることも可能になる。

業務の効率化

紙媒体の廃止による業務の効率化もペーパーレス化のプラス効果のひとつである。紙の書類は資料整理や運搬、そして資料の検索にどうしても時間をとられる。また、書類の保管場所が大きくなれば、欲しい書類がなかなか見つからないこともあるだろう。さらに、書類の整理業務にも時間と労力が割かれなければならない。

ペーパーレス化が実現できれば、このような紙媒体の使用にかかるさまざま時間を節約して業務効率を上げることが可能だ。出先でパソコンやタブレットからいつでもデータ化された資料にアクセスできることも、ペーパーレス化の大きなメリットといえるだろう。

企業イメージの向上

近年では、地球規模で持続可能なサステナブル社会の構築が求められている。その一環として、企業のCSR(社会的責任)も問われることが増えてきた。また消費者のあいだでも、環境に配慮した企業や商品の需要が高まっている。CSRの取り組みとしてペーパーレス化を進めれば企業イメージは向上し、消費者からも良く認知されてサービスや製品を選ばれやすくなる。

ペーパーレスに移行する方法

近年ではさまざまな社会的要因からペーパーレス化の実現が望まれており、ビジネスシーンにおいてもそれは同様である。ここからは、これまでの紙媒体からペーパーレスに移行する方法を紹介する。

電子化できる書類

2005年に施行されたe-文書法によって、これまで紙媒体で保存されていたものの多くがデジタルデータとして保存可能となった。電子保存できるものは、ビジネス文書の書類や資料、電子帳簿保存法で認められた伝票や経理書類、FAXの文書、カタログやパンフレット、チラシ、ポスターなど、幅広いジャンルのものが対象となっている。

電子化する方法

これまでの紙媒体を電子ファイル化するにはいくつかの方法がある。代表的な方法としてあげられるのが「PDFファイル」への変換だ。PDFファイルは書類を紙に印刷したものと同じイメージで閲覧・保存が可能である。書類のPDF化は、エクセルやワードやのエクスポート機能や各種ソフトウェアを使用すれば簡単にできる。

また、手書き文字を認識してデータ化する光学文字認識「OCR(Optical Character Recognition/Reader)」も、紙の書類を電子ファイルに変換するときに役立つ方法である。近年ではAIを搭載した文字認識能力の高いものや、スマートフォン向けのOCRアプリも開発されており、ペーパーレス化への貢献が期待できる。

これらの方法以外に、専門業者に書類のデジタル化を依頼できる「スキャニングサービス」や、FAXの送受信を紙ではなくデータでおこなえる「ペーパーレスFAX」なども、書類の電子化のために利用しやすい手段である。

電子化できない書類もある

世界的な環境意識の高まりや企業の社会的責任が問われるなかで、日本では政府主導のもとペーパーレスが普及しはじめている。しかし2022年現在で、まだ電子化が認められていない書類も存在する。

電子化できない書類には、法律上書面での作成が求められる書類や公正証書、相対取引の書類、その他書面の代替が難しいものなどがある。しかし、今後の法改正によっては、現在電子化できない書類もペーパーレスの対象となる可能性はあるだろう。

ペーパーレス導入の手順

これまで紙の書類でおこなわれてきたビジネスを急にペーパーレス化すると、失敗するリスクが大きくなり大変危険である。これまでの業務に無理なくペーパーレスを導入していく手順を以下に解説する。

ペーパーレスへの理解を深める

業務にペーパーレスを導入するためには、まず会社の経営幹部から従業員まで、ペーパーレス化の必要性とメリットを周知徹底する必要がある。

これからの時代はペーパーレスがスタンダードとなることを会社全体で理解して取り組まなければ、業務のペーパーレス化は困難なものとなりかねない。ペーパーレス化によって膨大な事務作業の時間が短縮され、よりクリエイティブな仕事に取り組める可能性を伝え、社員のモチベーションアップにつなげられると理想的である。

社内で部分的にはじめる

実際にペーパーレスを社内に導入する場合、プロジェクト単位や部署ごとに紙の書類の分類をはじめるとよいだろう。

デジタル化可能なものと不可能なものに書類を分け、可能なものからデジタルデータとして運用していく。このときに注意したいのは一気に全てをデジタル化するのではなく、できるところから少しずつ無理のない範囲ではじめることだ。ペーパーレスへの転換は現行の業務に差し支えのないよう、よく考えて実行することが肝要である。

必要なソフトやツールを購入する

日常の業務をペーパーレス化するには、デジタルデータを閲覧・保存するためのシステムやツールが必要だ。ビジネスで利用するデジタルデバイスはパソコンが一般的だが、近年では携帯性の高いタブレットやスマートフォンの利用も増えている。これらのデバイスを業務に導入する際には、処理能力やデータ容量に加えて見やすさや操作性にも留意するとよいだろう。

また、膨大な資料をデジタルデータとして保管するには「クラウドストレージ」の利用も必須である。クラウドストレージはインターネット上に構築されたデータの保管スペースで、ビジネスで利用するなら容量無制限のものを使いたい。さらにクラウドストレージサービスを契約する際は、セキュリティー面も重要視するべきだろう。

このほかに会議資料を共有できる「Web会議ツール」や、捺印のために紙媒体を使わずに済む「電子署名」などもペーパーレス化のために利用すべきサービスといえる。これらのツールやサービスを段階的に導入し、従来型のビジネススタイルからペーパーレスへのスムーズな転換を図ってほしい。

ペーパーレス化の事例

近年では、環境問題の高まりや新型コロナウイルス感染症の流行をうけたテレワークの普及などにより、各企業ではペーパーレス化への転換が急速に進んでいる。ここからは、いち早くペーパーレス化に踏み切った企業の成功事例を紹介する。

西武ホールディングスの事例

出所:PR TIMES

株式会社西部ホールディングスでは、業務改革としてデジタル経営の実現を目指していた。そのなかでも会計システムのペーパーレス化を目標として掲げていたが、法的な面で実現が難航していた。

しかし、新型コロナウイルスの流行からテレワークが普及し、ペーパーレスへの転換が急務となった。

また、法改正により帳簿の電子化がしやすい環境も整ったため、会計システムの刷新に取り組んだ。同社は請求書をはじめとする帳票類を一括管理できるデジタルソリューションを導入し、取引先に負担を強いずに伝票作業の効率化を実現した。グループ企業全体で会計システムのペーパーレス化に成功した事例といえるだろう。

日立ソリューションズの事例

株式会社日立ソリューションズでは、およそ100名が参加する会議が月に2回以上の頻度で行われていた。会議ごとに100~200ページにもおよぶ資料が用意され、その中には要回収の機密文書も含まれている。また、会議直前で資料の差し替えなどもあり、担当部門の作業負担は非常に大きかったという。

この事態を打開すべく、日立ソリューションズではペーパーレス化された会議システムを構築。タブレット端末に文書管理アプリをインストールして、会議で配布することにした。これにより、資料の印刷にかかるコストと準備のための労力が大幅に削減されることとなった。さらに機密資料の回収もれのリスクもなくなり、ペーパーレス化がスムーズな会議の進行と組織運営に寄与する結果となっている。

マニュライフ生命保険の事例

出所:PR TIMES

マニュライフ生命保険株式会社は、生命保険業界の中でもいち早くペーパーレスへの取り組みを開始している。同社は企業としてのサステナビリティへの取り組み「Impact Agenda」を発表し、契約者に送付する契約内容に関する書類をペーパーレス化した。これによりマニュライフ生命の保険契約者はインターネット上のマイページにアクセスすることで、契約内容の確認やさまざまな手続きをおこなえるようになった。

同社はマイページへのログインキャンペーンなども積極的に展開し、顧客業務のペーパーレス化を浸透させた。このほかにもマニュライフ生命ではオンラインでの面談や、LINEアプリを利用したコミュニケーションの導入など業務のペーパーレスやデジタル化が意欲的に進められている。

ペーパーレス化のデメリットと注意点

ここまではペーパーレス化のメリットばかりに着目してきたが、ペーパーレス化にはデメリットも存在する。とくに電子ファイル化された書類は従来の紙媒体と比較して視認性が劣り、取り扱いが難しくなる欠点がある。

このデメリットはITリテラシーが低いと顕著となってしまうため、業態によっては社員へのIT教育も課題となるだろう。また、電子化されたデータはシステム障害によって閲覧できなくなる可能性があり、災害時などもしもの場合の対策も十分に練っておく必要もある。

ペーパーレスから次世代ビジネスを構築する

ペーパーレスを言葉どおりに解釈すれば紙の使用をなくすこととなり、環境保護の面で十分に意義のある取り組みといえる。

しかし、ビジネスにおけるペーパーレスの意義はそれだけではない。紙媒体を電子化することでさまざまな業務の効率化をはかり、これまで以上に生産性の高いビジネスを構築することこそペーパーレス化の真の目的といえる。紙を使わずにデジタルデータで最適化されたビジネスは、新しい時代を象徴するといえるだろう。

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