物流業界とは?課題や市場規模、今後の動向、主要な企業や仕事例と併せて解説

2024.02.08

2022.11.09

社会のグローバル化で、最も発展した産業の一つが運輸業だろう。国境を簡単に越えて、ヒトやモノが、世界中を行き交うようになったからだ。運輸業には、主にヒトを運ぶ旅客運送業、モノを運ぶ貨物運送業があるが、貨物運送業がいわゆる「物流業」だ。

物流の意味とは?

物流とは「物的流通」の略で、商品である“モノ”が顧客に納品されるまでのプロセスを指す。物流業務には、輸送・配送→倉庫保管→荷役→流通加工→梱包・包装という五つの過程、および全過程の情報管理がある。

効率的なサプライチェーンを追求する中で、物流はITとともに、重要なポジションを占めるようになっていて、最近では、物流を「ロジスティクス」と呼ぶようにもなってきた。

ロジスティクスは、日本語では「兵站」と表現される軍事用語。兵員や軍需物資を効率よく、効果的に戦地に補給するための、後方支援の戦略のことだ。そうした考え方を取り入れ、物流業務を効率化しようということだ。

物流の輸送ルートは主に陸・海・空の三つ。すなわち、陸路を使うのが陸運、海路を使うのが海運(河川や湖沼も使う場合、水運と言う)、空路を使うのが空運だ。商品流通がグローバル化している現在、それら三つの輸送手段を効率的に組み合わせ、最適な物流ルートを構築するようになっている。

島国である日本は、国際物流では海運と空運が欠かせないが、スピード輸送しなければならない高級な生鮮食品(例えば、イセエビやアワビ、メロン)などを除いて、大半が海運を利用する。

また、国内物流はトラックによる陸運が主流だが大ロット、かつスピード輸送が必要でない貨物は、運賃が安い内航海運や貨物列車を利用するケースも多い。

物流業界の市場規模・就業者数

出所:物流を取り巻く動向について 令和2年7月 国土交通省

国土交通省の『物流を取り巻く動向について 』によると、運輸業界は令和2年7月の段階で、営業収入が約38兆円となっており、そのうち物流業界は約24兆円を占める一大産業となっている。

運輸業界の総就業者数は約333万人で、そのうち物流業界は約258万人を占めており、これは全産業就業者数(約6681万人)の約4%にあたる。

出所:物流を取り巻く動向について 令和2年7月 国土交通省

物流業界の中では、トラック輸送事業が営業収入約16兆円と最も多く、中小企業比率も99.9%と最も多い。ついで、外航海運業が約3兆円、倉庫業が約2兆円と続く。

物流業界の企業や仕事

物流業界の主要プレーヤーとしては、陸運のメーンであるトラック運送会社や鉄道会社、船を動かす海運会社、空運を担う航空会社が挙げられるが、倉庫業や港湾荷役業なども物流業に含まれる。企業間の輸配送を請け負うBtoB、企業から預かった商品を消費者に届けるBtoCの物流業もあるが、大手物流業は両方とも手がけているケースが多い。

トラック運送会社

日本では、定期便を運行する路線トラック、特定エリアの輸配送を担う区域トラックといった、さまざまな種類のトラック運送会社がある。とりわけ、知られているのがヤマト運輸や佐川急便などの「宅配便」で、全国に配送網を張り巡らしている。

引越しサービスつきのトラック運送事業を営む「引越し会社」もある。物流を担う鉄道会社の代表は、旧国鉄の貨物輸送部門を引き継いだJR貨物だ。また、海運会社やトラック運送会社、あるいはメーカー、小売業者などが自社で倉庫(物流センター)を保有するケースも多いが、営業倉庫で荷主から貨物を預かり、保管料や荷役料などを受け取る倉庫会社もある。

そのほか、コールドチェーンの一翼を担う冷蔵会社、トランクルームなども倉庫業に入る。

海運会社

海運会社は、国際物流を担う外航海運会社、国内物流を担う内航海運会社に大きく分かれる。

また、定期航路事業が得意な海運会社、不定期航路事業がメーンの海運会社もある。日本を代表する大手海運会社としては、日本郵船や商船三井、川崎汽船が挙げられるだろう。海運関連では、港湾で貨物の積み込み、積み下ろしを担う港湾荷役業などの港湾運送業も重要になっている。

航空貨物・国際物流

航空貨物で注目されるのが、「インテグレーター」と呼ばれる国際航空宅配便事業者。自社専用の航空機を持っていて、トラック運送で宅配まで行う一貫物流サービスが特徴だ。世界最大級の物流業者に成長した外資系のDHL、UPS、フェデックスは、すでに日本でもお馴染みだろう。

国際物流では、運輸業でありながら、自社では輸送手段を持たず(これを利用運送業と呼ぶ)、集荷や配送、キャリア(輸送手段を持つ運輸業)への委託、通関手続きなどを取りまとめる「フォワーダー」も台頭している。

物流業はライフラインを握っているだけに、国策色が強い企業が少なくない。例えば、日本では、旧国鉄が民営化されてできたJR各社はさておき、海運の日本郵船が「フラッグキャリア」と言える。陸運の日本通運や空運の日本航空も、かつては国策会社だった。

現在、世界の大手物流業の多くは、国際的な総合物流サービスを展開しており、陸・海・空の輸送手段を兼備していたり、倉庫業や港湾荷役業を抱えていたりする。例えば、日本郵船は、航空貨物事業の日本貨物航空を傘下に収めている。物流業界では、運送業務を担うさまざまな専門職が活躍しているのも特徴だろう。

航空会社のパイロットやトラック運送会社の運転手は言うまでもなく、海運会社には航海士や機関士、鉄道会社には運転士といった職種がある。輸送機の保守を担う整備士などもいる。

港湾運送でも、クレーンなどの特殊な運転士免許が必要なケースが多い。また、国際物流では、貨物の輸出入申告手続きなどを行う通関士も必要。ロジスティクスの情報管理が重要性を増していることから、ITエンジニアのニーズも高まっている。

物流業界の現状・課題・動向

最近では、「物流クライシス」がクローズアップされているのを、知っている人も多いだろう。その要因の一つが、インターネットを利用する「EC」の爆発的な拡大だ。

ECは、抜群の利便性に加え、ネックだった宅配のスピードも大幅に改善された結果、急激に伸びており、日本では今後しばらく、年10%前後の成長が見込まれているという。さらに、コロナ禍での「巣ごもり需要」が、ECの拡大に拍車をかけた。しかし、それが新たな問題を引き起こしたのだ。

メーカー→卸売業者→小売業者といったBtoBの大量物流に比べると、ECの宅配などBtoCの小口物流は著しく非効率。

しかも、単身者世帯や共働き世帯が拡大し、宅配便の配送効率はどんどん低下している。その一方で、物流業界は、過当競争に巻き込まれ、荷主の物流費削減の要求に応じるため、合理化に次ぐ合理化を進めてきた。

また、全国的な人手不足を背景として、若年層の“物流業離れ”も加速している。そのため、物流機能の余力はなくなり、宅配ニーズの急増に対応できなくなっている。

将来的に、自動車の自動運転や大型ドローンによる空輸などが普及すれば、ドライバーの人手不足問題は解決し、運賃も劇的に下がるといった観測もある。しかし、日本での完全自動運転の実現は、早くても2030年以降という見方が支配的。自動運転のコストダウンは、さらに時間がかかると見込まれるので、物流クライシスは容易に解消されないだろう。

とはいえ、「ピンチはチャンス」でもある。物流クライシスは、運賃の引き上げ、人件費の上昇などの呼び水となり、物流業の経営基盤を立て直すテコになるかもしれない。

世界の物流業界では現在、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)と呼ばれる一括物流受託サービスへのニーズが、製造業や小売業を問わず、幅広い業種で高まっている。荷主としては、物流窓口が一本化され、サプライチェーンの業務効率化や物流費のトータルコストダウンも図れるからだ。

例えば、3PL企業が大手スーパーの物流センターの運営を受託し、商品の荷受から保管、流通加工、店舗への配送までこなすといったケースが増えている。また、海運でも、荷主から届け先までのコンテナのドア・ツー・ドアのサービス競争が激化。大手海運会社は、陸運も含めた国際的な複合一貫輸送体制の整備を急いでいる。

3PL事業には、大手物流業だけでなく、フォワーダー、商社・卸売業といった異業種からも参入が相次いでいる。

ただし、最適な物流システムを構築・提案するコンサルティング能力、物流機能を調達するソーシング能力、物流機能を管理するマネジメント能力を備えていなければ、3PLは提供できない。将来的には、大手の3PL企業が陸・海・空の物流業、倉庫業、港湾荷役業などに対して、資本参加を含めた系列化を進めると見られている。

国際的な3PL企業として飛躍するか、下請けの物流業の地位に甘んじるか、物流業者にとっても、運命の分かれ道となるだろう。すでに大手インテグレーターは、世界各国に宅配網を完備しているが、宅配サービスを手がける大手物流業も、海外での宅配網の拡充に力を入れている。陸・海・空入り乱れて、国内外の物流業との業務提携、さらには資本提携、経営統合にまで進むケースも続出するだろう。

物流業界は今後、環境問題にも直面する

例えば、トラックは、小回りが利いてスピードも速く、利便性が高いのだが、現状では主なエネルギー源が化石燃料のため、環境負荷も大きい(トラックを電動化しても、電源が化石燃料由来の火力発電では環境負荷が大きい)。

環境負荷が極めて低い内航海運に比べると、1トンの貨物を1㎞運ぶのに、営業用トラックは内航海運の約5倍、自家用トラックは内航海運の約20倍のCo2を排出するというデータもある。

ECの宅配が今後も拡大し続ければ、トラック運送も増え、環境負荷はますます重くなる。そうなれば、宅配の利用を必要最低限に抑えるため、宅配を対象とする、新たな環境税などが創設される可能性もある。宅配便の共同配送、最寄り店での荷物受取りなどで、トラック運送を効率化し、環境負荷を軽減する取り組みも求められるだろう。

物流の環境負荷を減らすという社会的要請を受けて、主力のトラックから鉄道輸送、船舶輸送に切り替える「モーダルシフト」の動きも活発になっている。とりわけ、我が国のような内航海運が発達している国では今後、環境課税などの政策誘導によって、物流で海運が見直される余地が大きくなるだろう。

編集長竹下の視点

大量のモノを動かす小売業にとって、店までモノを運ぶ物流は極めて重要なものになる。小売業は消費者に販売する存在であるが、物流を含めたサプライチェーン全体を考えることは、より効率的な調達を考えることにもつながり、利益を取り込む機会ともなり得る。

そこで、自社専用の物流センターを設置する、あるいは物流会社をグループに持つなど物流段階に踏み込む動きは以前からあった。

ただし、その際、重要な点は「店舗の作業との関係性」である。仮に物流が効率化されたとしても、店舗の負担が増えるようでは意味がない。あるいは逆に店舗の負担を減らすために物流に大きな負担がかかるというのも問題となる。

もちろん、ある程度「せめぎ合い」の部分はあるが、物流を考える際はあくまで「全体で最適になるのはどのような方式か」という視点が重要になる。

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