アバター接客とは?特徴やメリットを最新事例を交えて解説
2024.08.05
2021.01.20
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための国民の外出自粛は、さまざまな業種に影響を及ぼし、多くの小売業者にも大打撃を与えた。
消費者としては人の集まる場所には行きづらく、売り手側としても多数の来客と触れ合うのはリスクが伴うからだ。そんな双方の懸念を解決へと導く新たなサービスの形として、アバター接客の導入が進んだ。ま
たアバター接客は非接触の需要に応えるだけではなく、小売企業の大きな課題である人材不足に対する一つの対策ともなり得る。
新技術を盛り込んだ非接触型の接客システムは、私たちにどのような恩恵をもたらす可能性を秘めているのか。アバター接客の解説や具体的なメリット、実際の導入事例まで詳しく紹介する。
「アバター接客」とは?
アバター接客とは、従業員が来店客と直接的接触を持たない接客システムのことである。店内に設置された液晶画面に現れるアバター(分身)と呼ばれるキャラクターが、従業員に代わって接客を行う。
別室には実際の従業員が待機しており、従業員の口や体の動きに合わせて画面内のアバターがほぼリアルタイムで動いたり、スピーカーを通して従業員の話す声が届いたりして、画面を介して来店客と対話する仕組みだ。
ポイントは、液晶画面内のキャラクターの中身がAI(人工知能)ではなく、専門知識を持った生身の人間だということ。機械を介して行うやりとりは事務的でやや温かみに欠けるイメージを持たれがち。だが、受け答えを人間が行うことで共感が得られたり、一定の安心感が生まれたりする。
これまで従業員は、店舗に常駐することが当たり前の存在だった。しかし、遠隔型の接客を取り入れることで、どこにいても働くことができる手軽さや、自由な勤務形態の実現が可能となった。
アバター接客のメリット
非対面・非接触のため衛生的
遠隔で行われるアバター接客の何よりのメリットは、双方にとって感染リスクを考えるストレスが少なくて済むことだ。従業員と来店客の直接的な接触がゼロになるため、衛生的で安全性が高い。
新型コロナウイルスへの感染リスクはぐんと低下する。人との密着を危惧して遠のいていたお客も、仕組みの安全性を知ることで気軽に立ち寄りやすい。
この先、新型コロナが収束に向かったとしても、安全性の高さからしばらくはアバター接客の需要が増え続けていく可能性もある。
物理的・精神的な負担が少ない
アバター接客を導入することで、店舗側は専門知識やサービススキルを持った有能な人材を全国から雇うことができる。物理的な距離が関係なくなるので、企業としては隠れた才能を発掘するチャンスともいえる。
一方、従業員にとっては、身支度を整える時間や通勤時間を省略できるのが大きな魅力となる。実際の顔や姿は相手に映らないので、メイクやヘアセットなどにかける手間を省くことができる。
また来店客にとっても、従業員と面と向かって話す必要がないため、心理的負担の軽減につながる。顔が見えない相手とならパーソナルな内容でも気軽に話しやすく、本質的な会話から満足度の高い接客に結び付くこともある。
テレワーク、働き方改革、性別や年齢を超えた働き方
従業員は相手に素顔が見えないため、性別や年齢、生活環境などの枠にとらわれず、フラットで自由な働き方が実現できる。
働く意欲があっても自宅から離れることが難しかった育児中の人や、高齢者、身体的なハンディを抱えて毎日の通勤が難しい人など、さまざまな環境にある人に柔軟な雇用を与える機会となる。
人手不足への対応
労働人口の減少にともなう人手不足は小売企業を含めて多くの企業で大きな課題となっている。
人件費を削減できる
設備を整えるための初期費用はかかるが、従業員の交通費などコストダウンが可能。また、1人の従業員で複数の店舗を管理できる場合は、店舗従業員分の人件費の大幅カットが見込める。
アバター接客の導入事例
ワコールの導入事例
コロナ禍の赤、いち早くアバター接客を取り入れた企業の1つが、女性用下着を中心に取り扱うワコールだ。ワコールは2020年10月29日よりアバターを用いた新接客システム、「 パルレ」を導入。専門知識を持つビューティーアドバイザー(BA)が、下着選びについてアドバイスを行う非接触型遠隔接客をスタートした。
特徴は、最新技術を駆使したブースの中で、アバターと来店客が1対1でやりとりできることだ。まず、来店客は体の150万カ所を5秒で計測できるという3Dボディスキャナーで全身をスキャンする。
そのデータや悩みをもとに、BAが来店客に最も適した下着の形や種類を提案してくれる、という流れ。来店客は無人の個室に1人で入室し、専門家から自分のためだけの、言わばオーダーメイドのアドバイスが受けられる。
当該ブースはあくまでもカウンセリングコーナーという位置付けであり、アバター接客後の下着の購入は強制ではない。
サービスは完全予約制となっていて、アバターを通したクローズドな空間でやりとりが可能。立ち寄った人からは「気軽に話しやすい」と高い評判を得ている。
現在はワコール 3Dsmart & try東急プラザ表参道原宿店のみの導入だが、徐々に他店舗へ拡大していく予定だ。
ワコールはこの試みによって「リモートワークを取り入れることで、従業員の育児と仕事の両立を実現させたい」と語る。
東急ハンズの導入事例
東急ハンズはNTTデータ、UsideU(ユーサイドユー)の技術とタッグを組み、アバター接客の導入実験を行った。20年10月16日~12月15日の間、東急ハンズ渋谷店、新宿店、池袋店、梅田店、博多店の5店舗で実施。店内の一角に専用ブースを設け、通りすがる来店客に声をかけ営業していくスタイルだ。
最初の1カ月は美容やコスメに関する専門知識を持った従業員が接客を行い、残りは実演担当者「ヒント・ショー」の専任チームが接客を担当した。実験では、店舗のバックヤード、東急ハンズ本社、従業員の自宅など、さまざまな環境からリモート接客を試みた。
非対面接客を担当した従業員は、「画面から声が出ているため、ブースを行き交う来店客にとっては自分に声がかけられていることに気付きにくい。立ち止まってもらうにはこつが必要」と、初めての体験に少し戸惑った様子も見せた。
しかしながら、接客を体験した人からは、「話しかけやすい」「液晶に商品画像が出るので説明を聞きながら見ることができて分かりやすい」との好感触も得ている。
東急ハンズもワコールと同様、「これからの時代へ向けて従業員の柔軟な働き方を提案したい」と語った。
JR東日本
パナソニック コネクトは、2023年10月下旬より、JR東日本の浦和駅・さいたま新都心駅の2駅において、アバター式リモート案内サービス「TAZUNE(タズネ)」を活用した実証実験を実施。現在、JR東日本において、将来の多様な働き方の実現にむけ、一部の改札業務について遠隔案内の可能性を検討する実証実験が行われており、その取り組みもその一環となる。
TAZUNEは、アバターを介して、無人の「AI対話機能」と、有人の「リモート対話機能」の併用により、受付・案内・接客業務の応対品質向上と業務効率化を実現するハイブリッドサービス。
実証実験では、案内端末を改札窓口に設置し、問い合わせ対応や駅構内・周辺施設の案内など、一部の改札業務について、駅社員に代わってディスプレイ上のアバターが案内する。さらに、多言語対応により、外国人訪日旅行者等への案内が可能。これにより、利用者の利便性向上と駅社員等の業務効率化に貢献する。
アバター接客はコロナ禍で見いだされた新たな可能性
アバター接客は、新型コロナウイルスの影響も相まって急速に注目を集め始めた販売形態だ。遠隔による接客システムは、人と人が簡単に接触できない現代において、実店舗や小売業者が生き残っていくための大きな手段の1つである。
「アバターの方が話しやすい」「緊張しにくい」などポジティブな意見が目立つことからも、デジタルとリアルが融合した画期的なビジネスモデルになる可能性を秘めている。最新技術と人の温かみの融合が新たな価値となって、今後ますます広がりを見せる市場になることは想像に難くない。