自己資本比率とは?計算方法や業種別の目安、読み取り方などを解説
2022.12.28
会社の事業経営に置ける安定性や安全度を測る指標として用いられているのが自己資本比率だ。自己資本比率の数値によって会社の安定性や安全度が分かる一方、高すぎる場合にも注意が必要だ。自己資本比率を適切に活用するために、自己資本比率の概要や計算方法、読み取り方と目安、自己資本比率が低い場合の改善方法を解説する。
自己資本比率の概要と計算方法
自己資本比率の概要と計算方法について解説する。
自己資本と他人資本とは
自己資本比率を知る前に、自己資本と他人資本について説明する。会社の総資本は、自己資本と他人資本によって成り立っている。
自己資本とは会社が内部から調達したお金(資本)にあたり、返済の必要がない。貸借対照表では「純資産の部」にあたる。他人資本とは会社の外部から調達したお金であり、返済が必要となるのが特徴だ。貸借対照表では「負債の部」にあたる。
自己資本比率とは
自己資本比率とは、会社の総資本の内で自己資本がどの程度の割合を占めているかを表したものだ。企業の財務の安全性や健全性をはかるための指標として用いられている。
自己資本比率が高ければ高いほど負債が少ないことになるため、一般的には自己資本比率は高い方が良いとされている。国際的な取引や業務を行う銀行をはじめとした金融機関では、BIS規制(国際的に活動する銀行の自己資本比率等に関する国際統一基準)により、自己資本比率は8%以上を保つことが義務付けられている。
ただし自己資本比率は高すぎればよいというわけではない。自己資本比率の目安については後ほどくわしく解説する。
自己資本比率の計算方法
自己資本比率は、貸借対照表の項目を使って以下の式によって算出できる。
自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本(他人資本+自己資本)×100(%)
たとえば賃借対照表の「純資産の部」が800万円、「負債の部」が900万円の場合の自己資本比率は以下の通りになる。
800万円÷(800万円+900万円)×100=47.05%
自己資本利益率との関係
自己資本利益率とは当期純資産の内、自己資産がどの程度の割合を占めているのかを表す数値だ。自己資本を活用してどれだけの利益を上げられたかが分かる。英語では”Return On Equity”で略語のROEとも呼ばれている。
自己資本比率が会社の財務の安定性や健全性、安定性の指標として用いられる一方、自己資本利益率は企業の収益性をはかる指標として用いられている。よって、自己資本利益率は株主が投資効果を見るための指標としても活用可能だ。
自己資本比率と自己資本利益率は、両立できない関係(トレードオフ)にある。自己資本比率が高くなると財務の安全性は高くなるものの、自己資本利益率が下がるため利益を上げられる力は少ないことになるだろう。自己資本比率が低くなると安定性は低いものの、自己資本利益率が上がるため、少ない自己資本のなかで効率よく利益を上げている企業として、投資家などからの評価は高くなる傾向にある。
自己資本比率の読み取り方と目安
自己資本比率を算出すると、会社の財務状況が安全か、健全かがある程度把握できる。自己資本比率の読み取り方と、目安となる数値を解説する。自社の財務状況はもちろん、関連会社や取引先の自己資本比率を見ることで、それぞれの財務状況を確認することも可能だ。
貸借対照表から読み取る
自己資本比率は、財務諸表のひとつである貸借対照表を使って読み取り可能だ。貸借対照表は純資産の部と負債の部に分かれていて、純資産と負債を合算すると会社の総資本となる。
貸借対照表を見ることで、自己資本(純資産)と他人資本(負債)の調達額と調達方法が把握できる。たとえば総資本は多くても自己資本より負債の方が大きい場合、資本に返済の必要がある負債が多いため、将来的に返済分で会社の資本を圧迫してしまう可能性があることが分かるだろう。
自己資本比率の業種別の目安
中小企業庁発表の「令和元年中小企業実態基本調査報告書(平成30年度決算実績)」によると、中小企業の全産業での平均自己資本比率は40.92%。40%前後なら問題なし、50%以上ならおおむね財務状況は安全な状態と言える。
ただし、自己資本比率は業種や企業の規模によって異なる点に注意が必要だ。一般的に設備などの資産を多く持つ業種は自己資本率は低く、設備などの資産はあまり必要ない業種は自己資本率は高くなる傾向にある。
以下に中小企業庁発表の「令和元年中小企業実態基本調査報告書(平成30年度決算実績)」の業種別の自己資本率を記載する。自社の業種の自己資本率の目安にぜひ参考にしてほしい。
建設業43.23%
製造業44.65%
情報通信業54.25%
運輸業、郵便業35.46%
卸売業41.03%
小売業30.99%
不動産業、物品賃貸業39.94%
学術研究、専門・技術サービス業49.72%
宿泊業,飲食サービス業15.21%
生活関連サービス業、娯楽業33.42%
サービス業 (他に分類されないもの) 48.34%
自己資本比率が低い場合
自己資本比率が20%以下の場合は、自己資本比率が低い状態と言える。自己資本が少ないため他人資本の影響を受けやすく、経営が安定していない状態だ。金利や返済の負担が大きい状態のため、このままでは倒産のリスクも発生する。
投資によって事業の利益を得ている場合には、自己資本比率が低い傾向になる。それ以外で自己資本比率が20%を切っている場合はリスクの高い状態のため、利益体質へ転換するための改善が必要となる。
自己資本比率がマイナスの場合
自己資本比率がマイナスになっているのは、他人資本が大きくなり純資本が赤字となっている状態。会社の資産よりも負債が上回ってしまっている。たとえ会社の資産をすべて売却しても、負債をすべて返済できない状態となっている。
長期的に自己資産比率がマイナスとなっている状態が続くのは、赤字経営を続けていることになるため非常に倒産のリスクが高い。スタートアップ企業などが起業したてで負債が資産を上回ることがあるが、それ以外なら一刻も早い対応が必要となる。
自己資本比率が高すぎる場合
自己資本比率は高い方が財務状況が安定していて、会社は安全な状態と判断できるが、高すぎるのもあまり良い状態ではない。たとえば自己資産比率が100%となると、負債がない状態のため銀行などの金融機関との取引がまったくない状態となる。いざというときに受けられない、投資家からは負債がない今がチャンスであるのに事業拡大への意欲がないと見られるなどのリスクが発生することがある。
また賃借対照表から自己資本比率の概要を読み取ると、会社の総資本や純資本は高いものの、実は現金や預金などのいわゆるキャッシュの比率が少ない、ということがある。手元で使えるキャッシュが少ないと、仕入れのための支払いができないなどの別の問題が発生することがある。
自己資本比率の数値だけを見るのではなく、資本の概要や調達方法も確認したうえで、財務状況を判断するのが重要だ。
自己資本比率を上げる方法
自己資本比率が低い場合には、自己資本比率の分母である総資本を減らす、または分子である自己資本の額を増やすことで自己資本比率が上げられる。具体的な方法を順に解説する。
事業で利益を得る
おもな事業、つまり本業を黒字にすることで自己資本のひとつである利益余剰金が増える。一次的な利益ではなく継続的な利益を出せる経営体質に変える必要があるため、場合によっては設備投資や事業拡大などの攻めに転じる必要もあるだろう。
借入金を返済する
必要最低限の借り入れにするため、借入金を返済する方法だ。返済できる借入金を返済すれば、他人資本が減らせる。
不要な固定資産や投資有価証券を処分する
事業の利益とならない土地や建物、機械などの資産を処分して得たお金を借入金の返済に充てることで、他人資本が減らせる。ただし、固定資産や投資有価証券の処分によって損失が出る場合は、自己資本が下がってしまうので注意しよう。
棚卸資産のなかの不良在庫を処分する
材料や商品など長期間在庫になっている、さらに今後活用する見込みがないものを処分することで、総資本が減らせる。
不良債権を処分する
長時間回収できていない売掛金や未払い金のなかには、すでに回収が不可能になっているものもある。不良債権は貸倒損失として経費計上すると処分できるので、総資本を減らせるだろう。
無駄な運転資金を見直す
事業の運転資金を圧縮すると、総資本を減らせる。無駄な運転資金を見直すことで、健全な経営状況にもつなげられる。
買掛金の支払い期間を短縮する
買掛金や手形での仕入れは負債が増えるため自己資本比率を下げる原因となる。すべての取引を現金のみにするのは難しいため、支払い期間を短縮するのが良い。支払機関の短縮は仕入れ先からも好意的に受け取られる。
ただし買掛金の支払期間を短縮することで、キャッシュフローが悪化し手持ちの現金がなくなり、いわゆる黒字倒産となるリスクがある。キャッシュフローから無理のない支払期間への短縮とするのが重要だ。
増資する
株主から出資を募ることができれば、増資によって資本金が増えるため自己資本比率が高められる。出資された現金を負債の返済に当てれば、総資本も減らせる。
ただし増資で一時的に自己資本比率を改善するだけでは、財務の状態を根本から改善したとは言えない。増えた自己資本を活用して設備投資や新規事業への拡大など、黒字となるための経営へ切り替える必要もある。
自己資本比率は自社や取引先の安全性を見るのに役立つ
自己資本比率の概要や計算方法、読み取り方と目安、低い場合に上がる応報を解説した。自己資本比率が低すぎるのはもちろん、高すぎることで経営上の問題が発生することがある。自社の事業や業種に合わせた自己資本比率の数値を把握し、経営に活かそう。