レコメンドとは?意味や仕組み、ビジネス・ECサイトにおける活用について解説

2023.02.08

消費者の趣味嗜好が広がりを見せる現代において、事業者は消費者のニーズを的確に捉え、商品やサービスを提供することが重要である。その手法の1つとして、ECサイトを中心に活用されているのがレコメンドの機能だ。

本記事では、レコメンドの概要から仕組み、導入メリット、活用事例まで解説していく。

レコメンドとは?

レコメンドとは、英語で「おすすめ」や「推薦」といった意味で使用される「recommend」からきた用語。日本語でもデジタルマーケティングの領域において、しばしば同義で活用されている。まずは、レコメンドの派生用語をいくつかチェックしていく。

レコメンドアイテム

レコメンドアイテムとは、ユーザーにおすすめする商品やサービスを指す用語である。

例えば、ECサイトを閲覧している際、過去にチェックした商品と類似した商品がおすすめに表示されたことはないだろうか。これは、後述のレコメンドエンジンの機能により、実現されている。

その他、売り手が「おすすめ商品」といったコンテンツで意図的に表示する商品も、レコメンドアイテムに該当する。

レコメンドエンジン

レコメンドエンジンとは、主にECサイトやニュースサイト、ポータルサイトなどで導入されるシステムの1つ。ユーザーの購入履歴やプロフィール、蓄積した行動データなどをもとに、おすすめの商品・コンテンツを表示してアプローチする仕組みを指す。

例えば、ユーザーがECサイトで商品を買い物カートに入れた際に表示される、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というコンテンツも、レコメンドエンジンにより実現されている。

レコメンデーション

レコメンデーションとは、前述のレコメンドエンジンを活用したマーケティング手法の1つ。ユーザーのニーズや趣向に沿った商品・コンテンツを個別的に表示することを指す。

売上の向上やサイトの回遊率アップなどを見込める手法であり、EC市場が拡大する現代において、非常に有効なマーケティング戦略と考えられる。

レコメンドの仕組み・種類

従来、レコメンドエンジンは商品間の関連性を定義し、おすすめ商品を表示できていたが、どのユーザーが閲覧してもおすすめされる商品は同様で、パーソナライズを実現できていなかった。しかし、蓄積した嗜好情報や購入履歴などを活用することで、ユーザーごとに最適な商品やコンテンツを表示可能に。

レコメンドエンジンには大きく分けると、下記5つの種類が存在する。

  • 協調フィルタリング
  • パーソナライズドレコメンド
  • コンテンツベースフィルタリング
  • ルールベースレコメンド
  • ハイブリッド・レコメンデーション・システム

それぞれの仕組みを順番に解説していく。

協調フィルタリング

協調フィルタリングとは、ユーザーがチェックした商品や嗜好情報が近い他のユーザーの行動データを分析し、おすすめ商品を表示する手法である。

レコメンドエンジンの中でも、協調フィルタリングは最も採用率が高く、Amazonでも本仕組みが実装されている。なお、協調フィルタリングはさらに細かく定義すると、「アイテムベースレコメンド」と「ユーザーベースレコメンド」の2種類に分けられる。

アイテムベースレコメンド

アイテムベースレコメンドとは、同時に購入されることの多い商品を提案する手法である。洗剤を購入するユーザーに柔軟剤をおすすめする、スマホを購入するユーザーにスマホケースや保護フィルムをおすすめするなどが、アイテムベースレコメンドの一例として挙げられる。

ユーザーベースレコメンド

ユーザーベースレコメンドとは、ユーザーの行動履歴をもとに、類似性の高い行動を取ったユーザーが閲覧・購入した商品をおすすめする手法である。例えば、ユーザーAが商品a・商品b・商品cを購入、ユーザーBが商品a・商品bを購入したとする。

ユーザーAユーザーB
商品a
商品b
商品c

上記シチュエーションの場合、共通の商品a・商品bを購入したユーザーAとユーザーBは類似度性が高いと評価され、ユーザーBには商品cがおすすめされる。

両手法とも関連性のある商品をおすすめでき、ユーザーは認知していない商品を知る機会になる。ただし、発売から間もない新商品はデータが少なく、レコメンドされにくい点に注意が必要。

パーソナライズドレコメンド

パーソナライズドレコメンドとは、性別や年齢などユーザーの属性だけでなく、サイト上における閲覧履歴や購入履歴をもとに、趣味嗜好を分析しておすすめの商品やコンテンツを表示する手法である。

例えば、シューズを閲覧しているユーザーに同じブランドの新作シューズを提案する、サンダルを提案するなどが、パーソナライズドレコメンドに該当。協調フィルタリングのように、他人の行動履歴は参照せず、個々のニーズを反映させたおすすめ商品・コンテンツを表示できるのが魅力である。

コンテンツベースフィルタリング

コンテンツベースフィルタリングとは、事前に類似性のある商品をグルーピングしておき、閲覧や購入など特定の行動を取ったユーザーに対して、関連商品を提案する手法である。

例えば、事前にブランド香水をグルーピングしておき、その商品群の香水をユーザーが閲覧・購入すれば、同じブランドの香水や似た香りの別ブランドの香水を提案する。商品を提案する際は、閲覧・購入した商品と類似性の高い順番で表示されるのも特徴だ。

ただし、商品数・コンテンツ数が多いサイトでは、グルーピングに膨大な工数が発生してしまう。また、商品群を定期的に見直さなければ、同様の商品ばかりがユーザーにレコメンドされてしまう点にも留意したい。

ルールベースレコメンド

ルールベースレコメンドとは、サイトの運営者が決定したルールに従い、レコメンドアイテムを提案する手法である。例えば、ゲーム機本体を購入したユーザーにゲームソフトを提案する、クリスマスシーズンにケーキを提案するなどが挙げられる。

ルールベースレコメンドは、時間をかけて機械学習モデルの精度を高めていく必要がなく、期間限定商品やシーズン商品など、一時的にアプローチしたい商品がある場合に最適。

ただし、ユーザーのニーズに沿った関連商品を提案できなければ、高い効果は見込めない。継続的にABテストを実施するなど、効果を最適化するための施策は必要と言えるだろう。

ハイブリッド・レコメンデーション・システム

これまで紹介したレコメンドシステムを組み合わせたのが、ハイブリッド・レコメンデーション・システムだ。例えば、ユーザーがトレーナーを購入する際、同じブランドのトレーナーやパーカーがレコメンドされるとする。

このレコメンド機能に加え、ユーザーが過去に黒色のファッション商品を頻繁に購入しているのであれば、黒色のトレーナー・パーカーを表示するというように提案をパーソナライズ。よりユーザーの趣味嗜好に近い商品を提案し、購買率の向上を見込める。

レコメンドのメリット

ここでは、レコメンドの仕組みを活用することによるメリットを解説していく。

顧客単価が向上する

ECサイトでレコメンド機能を活用すれば、ユーザーの潜在ニーズを引き出すことができ、本来欲していた商品以外の別商品も購入される可能性が高まる。これは「クロスセル」と呼ばれており、効果的なセールス手法としてECサイトだけでなく、実店舗の小売店でも幅広く導入されている。

クロスセルの大きなメリットは、顧客単価を上げられる点。新規顧客の開拓も売上をアップさせる施策の1つだが、効率良く営業を進めていかなければ、高い利益率は見込めない。

その点、ユーザーが興味のありそうな商品を提案できるレコメンド機能では、新規顧客を開拓せずとも売上アップを期待できる。効率的に売上を向上させたい事業者に、レコメンド機能は最適と言えるだろう。

顧客満足度の向上を見込める

レコメンド機能では、ユーザーの潜在的なニーズを掘り起こしつつ、システムによる一定レベルの接客も行えるため、ユーザーの信頼を獲得可能。同時に、ユーザーからは「閲覧していて楽しいECサイト」や「欲しい商品が見つかりやすい利便性の高いサイト」といった評価も受けやすい。

また、サイトの回遊率も向上し、ユーザーは思いがけない商品やコンテンツを発見しやすくなる。結果的に顧客満足度は高まり、リピート顧客の増加や口コミによる新規顧客の拡大、ブランディングの強化などさまざまなメリットを期待できる。

レコメンドの活用事例

Amazonや楽天市場などに代表されるレコメンド機能だが、多様な企業が本仕組みを導入している。次に、レコメンドの活用事例を紹介していく。

コナカ

株式会社コナカが「リアルスーツ」をコンセプトとして国内外に展開する「SUIT SELECT」は、Arithmer株式会社との一大プロジェクト「AI Coordinate レコメンドアプリ」を完成させた。Arithmer社の「AIエージェント」がSNSを24時間監視し、世代などユーザーの属性に応じたリアルタイムなトレンドを収集。

加えて、SUIT SELECTが保有する数百万人の顧客属性データ・購買データ・アプリユーザーのデモグラフィックデータと併せて解析し、顧客のパーソナルプロファイルを充実化。さらに、SUIT SELECTのスタッフがコーディネイトセオリーを構築し、コーディネイトに関する「AIレコメンドコアエンジン」をアプリ上に組み込んだ。

上記のビッグデータおよびレコメンド機能を活用することにより、本サービスではAIデリバリー・AIコーディネイト・セレクトレンズの3つの機能が提供される。

AIデリバリーの機能では、3種のAIエンジンを活用し、ユーザー一人ひとりに適したアイテムを最適なタイミングで提案。AIへのフィードバックも常時実施することで、提案の精度も向上していく仕組みである。

AIコーディネイトの機能では、ユーザーが選択したお気に入りの1アイテムをもとに、残りはAIがコーディネイトの最適解を導出。2億通り以上のパターンの中から、おすすめコーディネイトが提案される。

セレクトメンズの機能では、気になるアイテムをスマホで撮影し、SUIT SELECTのアイテム総在庫約10,000点の中からユーザーが探しているアイテムを見つけ出す。

店頭の販売員しかできなかったコーディネイトの提案を、多様なレコメンド機能によりアプリ上でも実現した。

凸版印刷

凸版印刷はAIが一人ひとりの顔を瞬時に分析し、分析結果に応じてパーソナライズされた商品を組み合わせ、その場で自販機のように提供できる什器「AIレコメンドベンダー」の運用を開始した。AI顔印象分析からおすすめ商品の提案、提供まで非接触で行えるのが大きな魅力。

また、自販機は通常、一度の注文につき一商品しか提供できないが、本製品は一度の注文で複数の商品を同時に提供可能。ユーザーは煩わしさを感じることなく、商品を購入できる。

現在本製品を利用しているのは、カネボウ化粧品の化粧品ブランドであるKATEの「KATE iCON BOX」。AI顔印象分析の結果をもとに、26色の単色アイシャドウから4色を提案・カスタマイズできる機能を搭載。約35万通りの色の組み合わせから、ユーザーはオリジナルのアイシャドウパレットを購入可能となっている。

店頭でスタッフと相談しながら化粧品を選ぶ必要はなく、また一定のサービス品質を受けられる。

ビックカメラ

ビックカメラグループのお酒専門店「株式会社ビック酒販」は、2022年11月1日に新規オープンした大型店「ビックカメラ千葉駅前店」内に、日本酒ソムリエAI「KAORIUM for Sake」を設置した。人の感性を自然言語処理によって日本酒とマッチできるAIが搭載されている。

「癒されたい」「気合を入れたい」などの気分や、「個性的」「フルーティ」といった好みの味わいに合わせ、AIが店頭にある日本酒と顧客のマッチ度を計算。そして、顧客と相性の良い日本酒を提案する仕組みだ。

顧客に最適な日本酒の提案は、従来唎酒師やソムリエだけが可能とされていたが、AIでも同様の接客体験を実現可能に。また、贈りたい相手のイメージにぴったりな日本酒をレコメンドする機能も搭載されており、お酒に詳しくないがプレゼントしたいという顧客からも好評である。

東武鉄道

東武鉄道は浅草・東京スカイツリータウン周辺エリアにおいて、デジタルツールを活用した沿線観光地の回遊性向上を検証する実証実験として、「AIレコメンド機能付き観光デジタルマップ」を期間限定で運用した。

顧客が趣味や好きな食べ物、観光に求める条件などをスマホの案内に沿って入力すると、AIがデジタルマップ上にモデルコースやおすすめの店舗情報を表示する。初めて当該エリアへ観光に来た顧客だけでなく、何度も訪れている顧客に対しても、趣味嗜好に合った観光プランのレコメンドを可能とした。

レコメンドのまとめ

今やデジタルマーケティングに取り組む上で、欠かせない存在となっているレコメンド。ユーザーの購買意欲を高めて売上向上につなげるのはもちろん、レコメンドはCXを改善し、顧客との関係性を深化させる効果も期待できる。

企業間の競争が激化する昨今においては、顕在ニーズだけでなく、顧客の潜在ニーズを引き出して他社と差別化を図ることが極めて重要。潜在ニーズを掘り起こすきっかけにもなるレコメンドを活用し、自社の商品やサービスを効果的にアプローチしてみてほしい。

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