顔認証システムは店舗運営をどう変える?導入のメリットや活用事例などを徹底解説
2022.10.25
2021.03.03
昨今、各業界の情報化、IT化の流れはとどまることがない。ITは業務の効率化やマーケティングに有益であるが、さらに未曽有のコロナ禍の影響によって接触や3密を避けるためにIT化に拍車がかかってくるのは必至だ。
リアル店舗を持つ小売業者にとっても抱える課題は増えていくが、問題点を解決するには、ITをうまく導入していくことが鍵となる。今回は、小売業界おける顔認証システム導入のメリットや顔認証技術の可能性、活用事例などを踏まえ詳しく解説する。
顔認証システムとは?
顔認証システムとは、カメラに写った顔の情報をコンピューターのデータベースと照合し、識別する生体認証の方法である。
リサーチステーション合同会社による顔認証の調査レポートでは、顔認証の世界市場規模は2025年には85億ドルにまで達すると予測している。20年の同市場規模が38億ドルだとし、25年にかけては年の成長率が平均17.2%増で推移することになるだろうとの予測データを掲載。顔認証の技術がいかに可能性を秘め、多種多様な業界から求められているかが分かるデータである。
顔認証技術の概要
顔認証は指紋認証などの生体認証の1つだが、顔認証技術は、カメラさえあれば活用できる利便性や利用者の心理的負担が少ないなどの特徴を持つ。近年では、顔認証技術は急速に進歩を遂げ、顔1つでさまざまなことが可能になってきている。会社での勤怠点呼管理は言うに及ばず、空港の出入国管理からイベント会場まで顔認証技術は活用されつつある。
パソコンやスマートフォン、アプリなどの本人確認、ログオンなどの用途は身近な例だが、リアル店舗においてもさまざまな場面に寄与している。顔認証技術は接客業務や従業員オペレーション、バックヤード業務、売場づくりなどにおける課題のITソリューションとなる技術だといえる。
小売店舗における顔認証システムのメリットとは?
小売業に向けたソリューションとしての顔認証システムの活用には大きく分けて、①決済、②防犯、③認知の3つの分野がある。顔認証決済(レジレス型)を活用すればレジ要員を削減でき、労働人口減少や少子化などによる人手不足に対応できる。
また、防犯分野の顔認証万引防止では、編集した顔情報のデータベースを基に店内の監視をカメラが行い、要注意人物を検知するとアラートなどで通知する。09年に経済産業省が発表した「商業統計」によると、小売業事業所の全国での万引き総被害額は年間4615億円にも及ぶという。
小売業にとって、1日当たり12億円を超える万引き被害は大きな損失だが、顔認証の利点を生かせば万引きをさせない店舗づくりも可能だ。活用することで万引きの被害が未然に防げるは大きなメリットになる。
さらに、顔認識の認知機能を活用すれば、来客の属性が分析できるため、購買層の年齢や性別を把握することでマーケティング戦略に利用できる。いままで見えていなかった来店客の情報が可視化できるため、分析したデータを活用すれば「売れる店舗レイアウト」などへの応用も可能になる。
顔認証技術の最前線とその可能性
顔認証技術とは、相手を判別する手段をシステム化した認証技術である。監視カメラなどで撮影した顔の画像を、データベースに保存されている対象者の画像と照合して認証する。照合する際は、顔の形や大きさ、目、鼻、口などの特徴点の位置を基にするが、なりすましが困難なためセキュリティ性が高い。
そのため、国民IDなどの国家インフラや出入国管理などのセキュリティから企業の入退管理、さらにパソコンのログオンなどのセキュリティ強化、企業のサービス高度化まで、あらゆる業種に幅広く活用できる可能性を持っている。
リアル店舗にとって機械化や省人化は、機会損失の減少やコスト削減つながるため、結果的に収益増加が期待できる。顔認証システムの導入が今後、検討課題に入ってくる可能性もある。
コロナ禍における顔認証システムの役割
顔認証の技術はイベント会場や空港などでの本人確認に使われ、世の中に浸透し始めている。キーボードや画面を手や指で操作することもない「非接触方式」のため、鍵やICカードが必要ではなくなり、パスワードの設定も不要だ。また、今回のコロナ禍を契機に非接触型の取り組みや3密防止が進み、決済の自動化や入退店管理など、顔認証システムの価値は高まっている。
NECが20年9月に開発を発表した新たな顔認証エンジンでは、マスク着用時でも高精度な認証を実現するとしている。その認証率は99.9%以上だとされる。マスク着用、非着用者が混在している場合も、さまざまな柄や色のマスクにも対応して高い精度の認証が可能だという。
顔認証システム導入の事例
顔認証システムを導入しているリアル店舗2店と実証実験店舗1店の3店舗を紹介していく。
ハイパーフィットネス
首都圏で9店舗のフィットネスクラブを展開している神奈川県川崎市のハイパーフィットネスは、座間市に「フィットネス&スパ あすウェル小田急相模原」をオープンの際、顔認証システムを導入している。導入の背景には、自社コンセプトである質の高いサービスを低価格で実現したとの思いがあったという。そのために、店舗運営の効率化と省人化を図り、同時に会員の利便性も高めることが希望であった。
新しい施設オープンでは、施設の使い方などをサポートする必要もあり、お客の事務手続きの対応など、受付担当者の業務負担軽減やカードの貸し借りで起こる「なりすまし」の防止が求められていた。顔認証システムの導入で、セキュリティを強化し、深夜、早朝の時間帯にも安心して利用でき、コンセプトどおりの施設運営が実現したという。
渋谷区内の3書店
東京都渋谷区内の3つの書店、大盛堂商事書店部の大盛堂書店、京王書籍販売の啓文堂書店渋谷店、丸善ジュンク堂書店のMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店が、「渋谷書店万引対策共同プロジェクト」を計画し、顔認証システムを導入している。
顔認証システムで認証した顔の情報を基に、データベースを構築。データベースを3つの書店が共有することで、各書店内で発生する万引きの再犯を未然に防ぐことが可能になる。また、万引きなどの犯罪を防止することで、お客にとって安全で安心できる店舗環境を提供し、万引きの被害も減少させることを目指している。
SECURE AI STORE LAB(セキュアエーアイストアラボ)
東京都新宿区の住友ビル地下にオープンしたSECURE AI STORE LABはセキュアが開発し運営している未来型無人化店舗だ。同店は、最初に個人情報の事前登録を済ませゲートで顔認証をして入店する。
入店から購入、退店までを顔認識システムと個人情報を紐付けることで管理しているため、会員カードやQRコードなど提示する必要はない。顔をモニター画面に向けるだけで個人が認識され顔認証決済までできるのだ。
お客の入店から決済までが自動で処理できるため、従業員は商品説明などに注力できる。また、購入者の情報が取得できるため、商品配置の最適化を図ることも可能である。
顔認証システムが小売業界にもたらすもの
小売業界の業態は時代と共に変化するが、昨今は業態や売上規模にかかわらずITやデジタルへの対応が不可欠となってきた。いまやリアル店舗でも、キャッシュレスの導入は特別なことではない。同じように、顔認証システムもレジレス決済の試験導入やアミューズメント施設での入・退園の際など、徐々に身近なものとなってきている。
顔認証システムに小売業向けのソリューションが存在しているのは、導入活用事例でも述べたとおりである。決済、防犯、認知の「決済」においては決済時間の短縮が売上げと顧客満足度のアップにつながる。また「防犯」では可視化することで万引きなどの被害を減らし、「認知」では客層に合った宣伝や物品レイアウトで販促に貢献できるのだ。
さまざまなメリットがある顔認証システムだが、さらに大きいのは、これを活用することで3密状態をさけることができるということだ。そのため、新型コロナウイルス禍においてはさらに成長が見込まれ、小売業界での認知が広がりを見せると考えられる。