労働生産性とは?計算式、業種ごとの目安と企業規模・国内外の比較を解説

2023.02.17

利益向上や従業員の労働時間改善に大きく影響するのが、労働生産性だ。労働生産性を高めることで、労働力不足や競争力の低下などの課題解決が期待できる。近年のグローバル化の流れを受け、日本国内だけでなく海外企業へ優位性を持つためには、労働生産性の向上が急務と言えるだろう。この記事では、労働生産性の概要や計算方法、業種ごとの労働生産性の目安と企業規模、国内外での比較を解説する。

労働生産性の概要と計算式

労働生産性の概要と計算式、計算方法を解説する。

労働生産性とは

労働生産性とは、労働者1人あたり、または1時間あたりに生み出せる成果や効率を数値化したものだ。労働者1人または1時間あたりで生み出せる成果を数値化できるため、労働量や投資額に見合っているかや経営判断に役立つだろう。

労働生産性には、以下の2種類がある。

・生み出した成果に対しての付加価値を数値化した「付加価値労働生産性」

・成果に対しての生産量や金額などを数値化した「物的労働生産性」

労働生産性の計算式

労働生産性の基本となる計算式は「生産性=成果/労働量(労働者数、労働者数×労働時間)」だ。付加価値労働生産性と物理労働生産性どちらの生産性を基準にするかによって、使用する式が異なる。

・付加価値労働生産性を算出する場合の計算式

付加価値額(売上-諸経費(燃料費、材料費、運送費など))/労働量

例:2人の従業員が4時間で15,000円の売上を上げ、商品の材料4,000円の場合の計算式は以下の通り。

15,000円-4,000円/2=5,500円

1人あたりの付加価値労働生産性は5,500円

1人1時間あたりの付加価値労働生産性は5,500円÷4時間=1,375円

・物理労働生産性を算出する場合の計算式

物的労働生産性=生産量/労働量

例:4人の従業員が2時間で16個の商品を生産した場合の計算式は以下の通り。

労働者1人あたりの労働生産性は16個÷4人=4個

1人1時間あたりの物的労働生産性は4個÷2時間=2個

労働生産性の高い・低いで分かること

労働生産性が高ければ高いほど、従業員ひとりあたりや1時間あたりで高い生産性を出していることになる。つまり従業員のスキルが高い、業務効率が良い、潤滑な投資をしている、ということが分かるだろう。

労働生産性が低いと、従業員ひとりあたりや1時間当たりで十分な生産性を出せていないことになる。つまり労働時間が長くても生産量が少ない、売り上げが低いなどの課題が発生している状態だ。労働生産性が低い状態が続くと、従業員の疲弊や不満がたまる、投資に見合う利益が出せないなどの悪影響が出てしまうだろう。労働生産性を高めるための取り組みや措置を講じる必要がある。

業務効率化と生産性向上の違い

労働生産性を上げる「生産性向上」と似ている言葉に「業務効率化」がある。業務効率化とは、生産性を向上させるための手段や施策のひとつだ。業務効率化はコストの削減や作業・労働時間の短縮を目的にしているため、成果の有無は問われない。一方生産性向上はより効率的に多くの成果を上げることを目的としているため、成果が求められることに違いがある。

業務効率化はあくまで手段であり、最終目標は生産性向上であることを覚えておこう。

労働生産性を高めるメリット

労働生産性を高めることで、企業の経営や従業員環境などさまざまなところでメリットが得られる。労働生産性を高めるメリットを解説する。

限られた人材でも利益を上げられる

少子高齢化などの影響で、日本全体で労働力不足が懸念されている。ひとりあたりまたは1時間あたりの労働生産性を上げれば、従業員が少なくても利益を上げられることになる。人手不足の企業や部署でも、利益を確保できるだろう。

ワークライフバランスの実現

労働生産性を上げることで、従業員ひとりあたりの労働時間を減らせる。その分プライベートの時間や休日が増えるため、従業員のライフスタイルに合わせたワークライフバランスが実現できるだろう。

優秀な人材が確保しやすくなる

労働生産性が高い企業は従業員のワークライフバランスを実現できるため、出産や育児、介護などによる従業員の離職が少なくなる。従業員のライフスタイルに合わせた働き方を実現している企業であることから、魅力的な企業として求職者も集まりやすい。優秀な人材の流出を防いだり、より優秀な人材を集めたりといったことも可能になる。

コスト削減と適切な投資が可能になる

労働生産性が上がることで、残業代、水道光熱費などの無駄なコストが削減できる。少ない投資でも利益を上げられることに加えて、削減したコストの分の資金を投資に活用できるだろう。事業拡大や新規事業参入への投資や事業計画の推進にもつなげられる。

競争力の強化

労働生産性が高い要因のひとつとして、個々の従業員の能力やスキルが高いことがある。企業の財産である優秀な従業員が集まっている状態のためイノベーションなども生まれやすく、競合他社に対抗できる競争力の強化にもつながる。国内はもちろん、国際的な競争力の強化も期待できるだろう。

業種ごとの労働生産性の目安と企業規模および海外との比較

労働生産性は業種、企業の規模、さらに日本国内と海外で大きく差がある。それぞれでの労働生産性を比較して分析する。

業種ごとの労働生産性の目安

中小企業庁の「中小企業の労働生産性」より、企業規模別の時間当たりの労働生産性を以下にまとめた。

業種大企業中小企業
製造業6,470円3,623円
情報通信業6,419円4,079円
卸売業、小売業3,815円3,548円
学術研究、専門・技術サービス業6,565円3,729円
宿泊業・飲食サービス業1,936円1,802円
生活関連サービス業、娯楽業3,779円2,877円
サービス業(他に分類されないもの)2,230円2,147円

調査結果によると、時間あたりの労働生産性はいずれの業種でも大企業と中小企業との間で差ができていることが分かる。特に卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、他に分類されないサービス業以外の4業種での差は顕著だ。

さらに、大企業を100とした場合の中小企業の時間当たり労働生産性・一人当たり労働生産性は以下の通りとなる。

業種時間当たり労働生産性一人当たり労働生産性
製造業56.056.8
情報通信業63.567.5
卸売業、小売業93.099.2
学術研究、専門・技術サービス業56.858.7
宿泊業・飲食サービス業93.199.7
生活関連サービス業、娯楽業76.181.6
サービス業(他に分類されないもの)96.395.0

いずれの業種でも大企業に時間当たり労働生産性・一人当たり労働生産性ともに及ばない結果となった。特に製造業と情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業の3つの業種では大企業と中小企業との間に大きな差ができている。

時間当たり労働生産性が低い傾向にあるため、中小企業は時間当たり労働生産性向上のための取り組みや施策を行う必要があると言えるだろう。

日本と海外諸国との労働生産性の比較

2016年のOECD加盟諸国と日本との労働生産性の平均上昇率を比較したところ、日本は「8

81,777USドル」で35加盟国中第21位。OECD加盟諸国の平均上昇率92,753USドルよりも低い結果となった。また、第1位のアイルランドの168,724USドルの半分にも及ばない事も分かる。

2021年版の労働生産性の国際比較では、日本の時間当たり労働生産性は「49.5USドル」でOECD38加盟国中23位。1人当たり労働生産性は「78,655USドル」でOECD38加盟国中28位で、いずれも統計開始以来最下位となった。

日本の労働生産性は諸外国よりも低く、特にOECD加盟諸国中では先進7カ国中最下位となっている。グローバル化が進んでいることにより、日本の中小企業はもちろん大企業も海外に対抗する競争力を身に付けるために、労働生産性の向上が急務であると言えるだろう。

労働生産性を低くするボトルネック

労働生産性を高めるための施策を行うために、現在のボトルネックを洗い出さなければいけない。ボトルネックとなる5つのポイントを解説する。

外注先

同じ、また似ている業務やシステムに関してバラバラの外注先に発注している場合がある。外注先を一本化することで、外注費や連絡のコスト削減、作業時間の削減につながる。

業務配分

業務内容に適切な人員を配分しているかを見直してみよう。高単価の従業員は難しい、複雑な業務に配分する、簡単な業務に多くの人員を配置していないかなどを確認する。適材適所の人員配置を行うことで、業務が適切に配分され労働生産性も上がる。

作業工程

各作業工程で発生する標準工数を見直すのも重要だ。作業工程別の標準工数を定期的に確認することで、労働生産性の向上のほか、業務上のボトルネック発見や利益率を上げる施策の発見にもつなげられる。

損益管理

案件やクライアント別で損益を可視化できるようにする。適正な利益を確保できる基準が明確になるため、利益予算を越えた値引き提案の防止にもつながる。

労働時間

システムを導入するなどして作業を効率化させ、事務時間、会議時間、連絡時間の削減につなげる。

労働生産性を高めるための流れ

ボトルネックの洗い出しを踏まえた、労働生産性を高めるための流れを解説する。

現在の労働生産性を算出する

計算式を使用し、現在の労働生産性を算出してみよう。前述の中小企業庁の「中小企業の労働生産性」より企業規模別の時間当たりの労働生産性などを目安として、自社の業種の労働生産性と比較し、どの程度低いかを把握しておくのが重要だ。

前年度や前期の労働生産性も算出し、高まっているか低くなったかの偏移も合わせて確認しておこう。

労働生産性のKPIを設定する

労働生産性のKPIを設定するのも、労働生産性を高めることにつながる。KPIとは”Key Performance Indicator”の略で、業務目標達成までの評価や指標を指す。KPIを設定することで目標とする労働生産性までの到達度が可視化できるほか、ほかの従業員との目標達成度合いの共有にもつながる。

KPIを設定することで、労働生産性を上げるための取り組みがどの程度効果を発揮しているかも把握できるだろう。現在行っている取り組みの方向性や適切かの判断にも役立つ。

ボトルネックを洗い出す

前述の5つのポイントを踏まえて、ボトルネックを洗い出そう。よく遅延する作業や、同じ失敗が頻発する作業などを見直してみると、ボトルネックの発見につながる。

現時点での解決策を調査する

ボトルネックを洗い出したあと、現時点で利用できる解決方法を調査する。たとえば「工程の書き換えや確認に時間がかかっている」場合には、紙の工程表をデータにして、クラウドで共有するという解決策がある。「営業担当と現場担当のコミュニケーションが取りにくい」問題が発生している場合は、チャットツールを導入しいつでもどこでも連絡できる体制を整えるのが、解決策となる。

労働生産性を落としているボトルネックの解決は、デジタル化やツール、システムの導入などが解決策となる場合が多い。自社のボトルネックの解決策となるツールやシステムを調査し、導入を検討するのもおすすめだ。

TODOリストに落とし込みひとつずつ実行する

課題と解決法を把握したら、TODOリストに落とし込んでひとつずつ実行していく。実行した解決策の成果を分析し、必要に応じて改善をするのも重要だ。

労働生産性は企業の将来を決める重要な力

労働生産性の概要や計算方法、中小企業庁の調査結果から見る業種ごとの労働生産性の目安、企業規模と国内外での労働生産性の比較について解説した。労働生産性を高めることで、企業の抱える多くの課題解決や利益の向上につながる。労働生産力は自社の競争力にも深くかかわるため、ボトルネックの洗い出しと解決を行い労働生産性を高めよう。

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