販売価格の決め方とは?価格設定の計算式や基本的な考え方、注意点などを解説

2023.02.17

小売業における対面販売のほか、近年EC事業の拡大によりECサイトやDtoCの販売方法により製造業をはじめとした多業種で販売価格を決定する機会も多くなった。取引先と消費者では値段の決め方のポイントが異なるため、適切な販売価格の設定で悩む担当者の方も多いだろう。この記事では、販売価格の決め方に役立つ計算式や販売価格設定での基本的な考え方、注意点、販売価格を設定する流れについて解説する。

販売価格の決め方で知っておくべき基本用語と考え方

販売価格の設定時に知っておくべき基本用語と考え方を解説する。

原価

原価とは、小売業では仕入れ値を指す。製造業では製品の製造過程において発生する材料費などの費用が該当する。

販売価格が原価よりも高くなければ利益が出せない。逆に販売価格が原価を大幅に上回る場合は大きな利益が出せることになる。

製造業における原価の分類

製造業における原価は、大きく分けて以下の3つから構成される。

・材料費…商品の製造や制作にかかる費用。原材料費、購入部品費、消耗品工具備品費など

・労務費…商品の製造や制作にかかる人件費。賃金・給与、賞与・退職金、福利厚生費など

・製造経費…商品の製造や制作に使う設備や工場の費用。減価償却費、金型・治工具費、電力・水道費、修繕費、交通費・外注費など

さらに原価が使用された目的によって、以下のふたつに分類できる。

・製造直接費…製品の製造に直接関連する費用(材料費、製造に関わる人件費、外注加工費など)

・製造間接費…製品製造とは直接結びつかないが、原価として発生する費用(油や塗料など製品ひとつあたりの数が明確にならない材料費、事務など製造以外の人件費、設備の減価償却費など)

商品やサービスを販売するときに必要となる原材料費や人件費の総額(製造原価+販売費+一般管理費)は、「総原価」と呼ばれる。

原価率

販売価格の内で、原価がどのぐらいの割合を占めているかを比率で表したのが原価率だ。「原価 ÷ 売上 × 100 = 原価率」の計算式で算出できる。たとえば売上が500万円、原価が250万円だった場合の原価率は50%となる。

原価率を下げれば利益は高くなるが、その分販売価格も下がってしまう。原価率とのバランスを考えて販売価格を決めるのが重要となる。

利益率

販売価格の利益がどのぐらいの割合を占めているかを表した比率が利益率だ。「利益÷販売価格×100(%)=利益率」の計算式で算出できる。利益率は販売価格と原価から算出できるため、販売価格の設定時に利益率を使うことも多い。利益率と原価から販売価格を算出する計算式は「原価÷(100‐利益率)=販売価格」となる。

また、利益率が高ければ高いほど商品をひとつ販売するごとに多くの利益を得られている状態となる。利益率は販売価格設定時の売上目標を立てる際の、目標値としても活用できるだろう。

基本的な考え方を踏まえた販売価格の決め方とメリット・デメリット

販売価格の基本的な考え方を踏まえた販売価格の決め方には、多くの種類がある。どの販売価格の決め方でも、重要となるのが最低限の利益が出せる価格に設定することだ。利益が出なければ、商売として成り立たない。

原価や仕入費用以上の価格設定にすることを前提に、販売価格の決め方の特徴やメリット、デメリットをそれぞれ解説する。

原価から販売価格を決める

商品の販売に関してかかるコストである原価をもとに販売価格を決める方法だ。商品の何割を占めるか(=原価率)によって販売価格を決める方法と、コストプラス法がある。

原価率から販売価格を決める場合は、原価から販売価格を決める式として「仕入れ価格÷原価率=販売価格」を使用する。たとえば仕入価格2,000円のものを原価率40%で売りたいときには、2000÷0.4=販売価格は5,000円となる。

コストプラス法とは、製造段階までの総原価を基準にして販売価格を決める方法だ。おもに製造業において使用される。販売価格の算出には「原価+予定利益=販売価格」の式を使用する。たとえば原価10,000円の製品なら3,000円の利益を付与すれば、販売価格13,000円となる。

販売価格の計算が簡単なため、価格設定がしやすいのがメリットだ。ただし原価率を重視することから販売価格が高くなり、市場価格や消費者のニーズや目線からかけ離れていることで手に取られにくくなるのがデメリットとなる。類似商品があれば競合他社へ顧客が流れやすくなることもデメリットだ。

需要に対して供給が不足している売り手市場の業界や、市場競争が激しくない業界での価格設定方法として有効といえる。

利益率から販売価格を決める

利益を基準にした販売価格の決め方には、商品を売ることでどれだけの利益を得たいか(=利益率)によって販売価格を決める方法と、マークアップ法がある。利益率から販売価格を決める補法は、「原価÷(1-利益率)=販売価格」の式から販売価格を算出する。たとえば原価1,000円のものを利益率60%で販売したい場合は、1000÷(1-0.6)=販売価格は2,500円となる。

利益率を上げれば上げるほどひとつの商品あたりで多くの利益が得られるが、販売価格は高くなる。たとえば原価1,000円のものを利益率80%で販売したい場合は、1000÷(1-0.8)=販売価格は5,000円となる。

マークアップ法とは、販売段階までの総原価に利益を加えて販売価格を決める方法だ。おもに小売業や卸売業にて使用される。「(原価+販促費+人件費)+予定利益」の式を使用する。たとえば総原価1,000円のものを30%の利益額を付加して売りたいときの販売価格は1,300円となる。

自社が得たい利益を考えて販売価格を決められるため、確実に利益が上げられるのがメリットだ。ただし原価から販売価格を決める方法と同じく、自社都合による決め方のため市場価格やお客様目線からの乖離があり、商品が売れにくくなるデメリットもある。

市場や競合他社の価格を参照して販売価格を決める

類似商品の市場価格や競合他社の商品の価格を参考にし、比較して販売価格を決める方法だ。市場価格追随法とも呼ばれている。市場価格や競合価格より自社の商品が高ければ安くする、逆に安ければ高くすることで、価格差がなくなる。

ただし、市場価格追随法で販売価格を決めるときには商品を売るときの戦略が必要となる。市場や競合と価格をそろえても、自社の商品を手に取ってもらえる魅力や強みがなければ売れなくなるためだ。自社製品と他社製品の差別化を図る、付加価値を付けるなど売れるための戦略が必要となる。

また、市場と競合の販売価格のみを基準にして販売価格を決めると、値下げ競争に巻き込まれたり、利益率が低くなったりなどのリスクもある。

プライスリーダー追随法

市場価格追随法が市場価格や競合他社の販売価格を参考にするのに対して、プライスリーダー追随法とは自社の業界で高いシェアと大きな影響力を持つリーダー的存在の企業の販売価格を販売価格のベースと考えて決める方法だ。

市場でシェアを持つリーダー企業は信頼度が高いため、リーダー企業よりも価格が高いと売れない可能性が高い。リーダー企業より安い価格にすれば売れる可能性は高いものの、利益が下がるためコストを抑えるための取り組みが必要だ。

取り扱い商品の業界でリーダー企業が大きな力を持ってる場合、類似商品なら価格設定も追随した方が良い。そのため自社商品の業界のプライスリーダーの有無や影響力について確認しておくのが良いだろう。

慣習価格法

市場価格のなかでも、長期にわたって慣習的に決められてきた価格を追随して販売価格に設定する方法だ。ペットボトル飲料、ガム、日配品など伝統的な価格帯(監修価格)のあるジャンルの商品を販売する場合に多く用いられている。

慣習価格のあるジャンルでは、慣習価格よりも高くても安くても消費者に敬遠される傾向にある。高い場合は品質に差がないと売れず、安い場合には品質や安全性などの不安を消費者が持ちやすいためだ。

販売価格の決め方のポイントと注意点

販売価格の決め方は多くあり、それぞれでメリットやデメリットがある。商品の特徴や業界のジャンル、重視したいポイントに合わせた販売価格の決め方を選ぶために、知っておきたいポイントや注意点を解説する。

顧客目線を取り入れているか

販売価格は利益が出ることを前提として決める。ただし、自社の都合や利益を優先して販売価格を設定すると、商品に見合わない価格となり顧客に購入してもらえなくなる。利益率を上げて販売価格を上げても、顧客が購入しなければ利益は得られない。顧客目線から考えて妥当な販売価格であるかとともに、顧客が「お得」と感じる戦略を取り入れるなどの工夫も必要。

自社やブランドのコンセプト、イメージに合っているか

自社やブランドでコンセプト、テーマ、イメージを確立している場合は、それらに反する販売価格設定は厳禁。たとえば高級路線のブランドの商品価格を競合他社や市場価格に合わせて下げてしまうと「格安店」というイメージを持たれてしまう危険性がある。すでに多くのファンがいる、シェアが高いなどのブランディングに成功している場合は、価格を高くしても顧客が購入してくれる可能性が高い。

もしも販売価格を下げても競合他社に勝てない場合には、ブランディングを検討してみるのも良い。

市場価格と乖離がないか

設定する販売価格の参考となるのが、市場価格。市場価格と販売価格に大きな差があると、高くても安くても顧客から敬遠されてしまう。市場価格とのバランスも見ること。

仕入れや時給以外の費用も考慮されているか

販売価格を設定するときには、商品を販売する過程でかかったすべての費用を考慮する必要がある。材料費や仕入れ値、従業員の人件費など原価部分は考慮されていても、営業費や広告費などの可視化しにくい費用が販売価格に反映されていない場合がある。また社会情勢の変化などによる材料費や光熱費の高騰など、原価が高くなるリスクもある。目に見えにくい費用やリスクも考慮して販売価格を設定すること。

消費者心理を考えた戦略を取り入れているか

販売価格の決め方は、利益や市場価格、商品の特徴以外にも消費者心理をうまく利用する方法もある。おもな消費者心理を取り入れた販売価格の決め方には以下のものがある。

・名声価格法

消費者の「価格は高くても品質の高いものに魅力を感じる」心理を利用した販売価格の決め方。商品に品質の違いや付加価値の違いを打ち出し、プレミア化して高い価格をつける方法。宝石やブランド品、車、オーダーメイド品などの「贅沢品」と呼ばれるジャンルの商品の販売価格設定に有効。

・端数価格

980円、1,980円のように少しだけ値下げして端数を作った「端数価格」で販売する方法。

1,000円と980円では、わずか20円の差ながら980円のほうがお買い得に感じる消費者心理を利用している。商品の品質や独自性、ジャンルに関係なく取り入れやすい。

・段階価格

3段階の選択肢の内、上と下を避けて真ん中を選びやすい「極端の回避性」という人の心理を利用した価格設定方法。特に売りたい商品と一緒に、高い商品と安い商品を並べることで、真ん中に位置する商品に手を取ってもらいやすくする。たとえば利益率の高い商品を真ん中にし、高い商品と安い商品と陳列することで売れやすくなる可能性が高い。

・抱き合わせ価格

商品同士を組み合わせて割引価格で販売する方法。セット価格は割引で設定するため商品の単価は下がってしまうが、客単価そのものが上がるため売上につながる。在庫商品や季節商品などを類似商品と組み合わせて販売することで、在庫処分などにも活用できる。

販売価格の決め方は利益だけでなく顧客目線も重要

販売価格の決め方や計算方法、注意点や販売価格の設定方法を解説した。販売価格を適切に決めることで、着実な利益にもつながる。市場や競合の価格や顧客心理も参考にしながら、販売価格を決めよう。

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