リテールメディアとは?意味や注目される背景、市場規模、メリットなどを最新の事例を併せて解説
2024.09.09
2023.03.10
リテールメディアの定義は様々だが、基本的には小売企業が有する店舗(デジタルサイネージなど)やECサイト、アプリを媒体として広告を配信をする仕組みを指す。
また広告配信には、消費者と直接接点を持つ小売企業が保有する消費者の購買データなどが活用される場合もある。小売企業が自社で保有するアセットを活用して「メディア」となるのである。
リテールメディアは、小売企業のマネタイズの手段として、2020年代になってより注目を集め始めたビジネスモデル。本記事ではリテールメディアの基本的な解説と、リテールメディアが注目される背景、小売企業のメリットなどを解説していく。
目次
リテールメディアとは?なぜ注目されているのか?
現在、広告業界や小売業界が注目している新たな販売戦略が、「リテールメディア」である。2020年代に入ってより注目されはじめ、今後さらなる拡大が予測されている小売企業のビジネスのひとつだ。
リテールメディアとは
小売企業が保有する小売店舗やECサイトなど、従来「モノ」を売るプラットフォームをメディアとして掲載する「広告枠」を販売する仕組みだ。
実店舗を持つ小売企業であるからこそ、オンラインとオフラインを問わず、メディアネットワークを構築することができる。また、消費者と直接的な接点をもつ、小売企業がもともと店舗やECサイト、アプリの販売データ・POSデータも活用することで、より精緻なターゲティングを期待できる点も一つの特徴といえるだろう。
Business Insider(米国)が発行するアナリストレポート「Insider Intelligence(インサイダー・インテリジェンス)」によれば、米国におけるリテールメディアの広告費は2024年には全デジタル広告費の19%にあたる610億ドル(8兆円弱)、3年後には、約6倍の805億円規模に拡大すると予測しているなど、小売企業としては新しいビジネスの仕組み、広告主としては新しい消費者との接点として、注目されている。
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアが脚光を浴びるようになった背景にはいくつかの要因が考えられる。以下では、リテールメディアが注目されるに至った要因を挙げていく。
テクノロジーの発展・浸透
リテールメディアが実現するには、広告配信・データ活用を容易にする技術が欠かせない。昨今の、AI・IotなどITテクノロジーの発展と浸透はリテールメディアを実現する重要な土壌となっている。
特に、精緻なターゲティングを行うには、様々な消費者接点から収集した多種多様なデータを統合、分析して、広告配信に活用する必要がある。そのため、データプラットフォームの発展、そしてプラットフォーム上のデータを分析するAI・機械学習技術の発展・浸透は、リテールメディアを実現する上で重要な転換点といえるだろう。
また、ECサイト・自社アプリ導入ハードルの低下も考えられる。以前は、多額の開発・運用コストを必要としたECサイトやアプリの導入も、今はSaasなどのツールを使用することで、導入のハードルをかなり下げられる環境が整っている。
ノーコード・ローコードと呼ばれる、プログラミングの必要がなく、クラウド上などで直感的にアプリを作成・編集できるツールも増えてきており、小売企業が自社でメディア(ECサイト・アプリなど)を持つのも容易になってきている。
Cookie規制も後押し
「サードパーティ(=他社)Cookie規制」も、リテールメディアの拡大を後押ししているひとつの要因と考えられる。Cookieとは、Webサイトを閲覧する際に使用する仕組みで、閲覧履歴やログイン情報などを記録する機能を持つ。サイトを訪問するたびに、履歴が蓄積される仕組みだ。
一方サードパーティCookieとは、消費者のWebの閲覧履歴をもとに作成されたリストであり、アクセス先のサイトとは直接関係がない。
例えば、閲覧履歴による広告表示は、サードパーティCookieを利用したものだ。Webマーケティングにおいて重要な役割を担う機能であった。そのため、GoogleがこのサードパーティCookieの廃止を発表したことは、Web広告に関連する業界に衝撃を与えた。サードパーティCookie規制により、小売企業が保有する「ファーストパーティー・データ」を活用して広告を配信するリテールメディアに対し、新しい消費者へのリーチ手法として注目が集まっていると考えられる。
新型コロナウィルスの蔓延
上記のようなテクノロジーの発展に加えて、新型コロナウィルスの蔓延によってもたらされた「ニューノーマル」と呼ばれるような消費者行動の変化も、リテールメディアが注目される一つの要因になったと考えられる。
新型コロナウィルスの蔓延により、人々は不要不急の外出を避けるようになり、店舗ではなくECサイトやネットスーパー、アプリで買い物を済ませるようになった。その中で小売企業は、WEBを介して商品を販売・PRする方法を模索してきた。
こういった新型コロナウィルスの蔓延という外圧も、小売企業が自社でメディアをもつ後押しとなり、また消費者も、店舗だけではなくそういた新しい販売チャネルから商品を購入するという新しい行動様式に順応するなど、消費者行動は大きく変化した。
モノが売れない時代
長きにわたる経済成長の低迷により、消費者意欲は後退し、モノが売れない時代と言われて久しい。消費者に直接「モノ」を売るシンプルなビジネスを展開する小売企業において、消費マインドの低下は売上に大きな影を落とす。
また日本の人口の減少に歯止めがかからず、総務省の統計によれば、2021年は64万4千人の減少となり、減少幅は、は比較可能な1950年以降過去最大となったという。 小売企業にとって「モノ」を買う消費者の絶対数が減ることは、そのまま売上の減少に直結しやすいといえる。
こういった時代の変化の中で、従来のビジネスモデルだけでは、売上規模を維持しづらくなることを想像に難くない。新しいマネタイズの選択肢として、小売企業はリテールメディアに注目していると考えられる。
リテールメディアのメリット
リテールメディアのメリットについて見ていこう。リテールメディアをいち早く導入して効果を出しているのは、小売業界である。リテールメディアを導入することで、一体どのようなメリットがあるのだろうか。
ここではリテール企業におけるメリットとメーカーにおけるメリット、消費者におけるメリット別に解説する。
小売企業のメリット
リテール企業におけるメリットは、自社が運用するECサイトに広告枠を造ることで広告を販売できるため、新たな収入源を確保できることである。
実店舗、ECサイト、アプリなど、本来は「モノ」を売るという機能が主体だったプラットフォーム上で、副次的に「広告枠」も売ることもできる。新しく広告のためにメディアを作るのではなく、今あるアセットを有効活用して広告枠を生み出し、販売できるというのはメリットといえる。
また、広告配信によってデータを収集することで、そのデータを商品開発やデータ提供など別の用途に活用するなど新しい展開も考えられるだろう。
広告主側のメリット
メーカーにおけるメリットは、リテール企業が保有しているオフライン・オンラインの顧客情報やPOSデータを利用して精緻なターゲティングを期待できる点にあるだろう。この情報は、メーカー単体では取得が難しいケースが多い。リテールメディア運用により、顧客の属性ごとのマーケディングや、顧客情報に基づいたブランディングが可能になるのだ。
広告配信についても、やみくもに発信するより、リテール企業が持っている顧客の情報をもとに発信することでより高いターゲティング効果が期待できる。リテール企業と共同で企画や検証を行うことで、より効果的なPDCAサイクルの実施が可能になるのだ。
リテールメディアの最新の取り組み事例
ファミリーマート
ファミリーマートは、デジタルサイネージ・メディア「FamilyMartVision」を展開し企業はこのデジタルサイネージに広告出稿ができる。「FamilyMartVision」2024年3月時点で、全国47都道府県、合計10,000店へ設置が完了している。
ファミリーマートは、全国に約16,300店あり、1日約1,500 万人が来店。10,000店への設置完了により、1週間で約6,400万人に接触可能な、メディアとなり、巨大なリーチを確保することが可能となっている。
「FamilyMartVision」はファミリーマートのPOSデータ、ID-POSによる購買行動の分析、ファミペイアンケートによる来店者への調査プラットーフォーム等を活用することで効果測定可能なメディアとして展開。さらにAIカメラによる視認分析を正式にメニューへ加えている。
これにより、配信期間中の「FamilyMartVision」の視認率、視認者の属性の分析が可能となり、マーケターの皆様により深い情報を提供できるように。また、AIカメラによるFamilyMartVisionの視認率は64%*となっており、ファミリーマートへ来店されるお客からの受容性も非常に高いメディアに成長しているという。
*2023年10~12月での計測結果
ツルハグループ
ツルハグループの公式アプリ上に最大6つの広告枠を設置。
ツルハドラッグ、B&Dドラッグストア、くすりの福太郎、ドラッグストアウェルネス、ドラッグストアウォンツ、くすりのレデイ、杏林堂スーパードラッグストア、ドラッグイレブンの全8屋号、アプリダウンロード数累計897万件(2024年3月21日時点)の会員IDに紐づく「購買」という事実を基にOne to Oneのターゲティング配信を行うことができ、広告接触者の購買検証を行うことが可能だ。
また、ツルハドラッグ店舗の入口、エンド最上段に音声付きの大型サイネージを設置。設置店舗数は1,271店舗に6,000台以上(2024年4月時点)の設置が完了し、今後さらに設置台数も拡大予定となる。
また、ツルハドラッグの巨大な店舗網を生かし、幅広いお客への商品訴求が可能となり、また先述のツルハグループアプリ広告と組み合わせて実施することで、オンライン・オフライン両方でお客とのタッチポイントを形成し、来店前の商品認知から来店時の購買後押しまでを一気通貫でコミュニケーションを取ることが可能となる。
リテールメディアの課題と未来
現在大きな注目を集めているリテールメディアであるが一過性のもので終わるか、新しいスタンダードになるかはまだ分からない。ただ、米国のAmazonやウォルマートなど、小売業界における先進企業はリテールメディアに注目しているのは間違いない。
国内でもリテールメディアという言葉を目にする機会は日増しに増えてきており、リテールメディアに特化した広告配信ツールを提供するベンダーも増えつつある。小売企業の新しいビジネスモデルとして、今後の展開に注視したい領域であることには間違いないだろう。
編集長竹下より
小売業における新しい潮流でもあるリテールメディアには多くの企業が関心を寄せ、実際に参入を表明する企業も増えている。特にこれまで出店を重ねる中で築き上げてきた店舗網が大きい企業ほど、それがそのままメディアとなるこのビジネスにおけるアドバンテージとなることもある。
店舗網はオンラインのみの企業にはない「資産」になるわけだ。ただ、どのようにビジネスとして構築していくのかはまだ未知数であることも確か。例えば、店舗でのメディアとして物理的なものとしてデジタルサイネージがあるが、果たしてどこまで有効であるかは今後も検討が重ねられる必要がある。
一方で、アプリ画面などは有効なメディアとなりそうだが、こちらはリアル店舗に限らないものである他、ユーザーインターフェース(UI)とのバランスを考えなければならないなど、さまざまな課題がある。いずれにしてもまさにいま、挑戦は始まったばかりで、今後、その形が少しずつ見えてくるだろう。