トレーサビリティとは?意味やメリット、サプライチェーンとの関係などを解説

2023.03.23

トレーサビリティとは、原材料調達から生産、消費、廃棄までの流れすべてを追跡可能な状態にすること、及び各工程の履歴を正確に記録、管理するシステムを構築することを指す。

米国で起きたBSE問題をきっかけに日本にもトレーサビリティが浸透し、現在では製造、販売など流通に関わるあらゆる業界で用いられている。今回は、トレーサビリティの必要性や種類について簡単に解説する。また、導入のメリットや導入時の課題についても併せて説明する。

トレーサビリティとは?

トレーサビリティ(traceability)とは、追跡を意味するトレース(trace)と能力を意味するアビリティ(ability)を組み合わせた造語であり、日本語では「追跡可能性」や「生産履歴」など訳される。業界により多少定義が異なるが、基本的には、原材料調達から生産、消費、廃棄まで、サプライチェーン全体の流れを記録し、履歴を追跡可能な状態にすることを指す。

製造業界や食品業界をはじめ、幅広い業界で導入が進められているトレーサビリティであるが、具体的にどのような点で必要とされているのだろうか。日本にトレーサビリティが浸透しはじめたきっかけや、「トレースフォワード」と「トレースバック」といったトレーサビリティを語る上で欠かせない考え方についても解説する。

トレーサビリティの考え方

トレーサビリティには、「トレースフォワード(追跡)」と「トレースバック(遡及)」という2つの考え方がある。

サプライチェーンにおける生産者を上流、消費者を下流と考えた場合、上流から下流へ向かって商品を特定(追跡)することがトレースフォワード、下流から上流へ向かって商品を特定(遡及)することがトレースバックとなる。

具体的には、ある部品で不備が見つかった場合、その部品が使用されている商品を特定し、対象商品をピンポイントで回収するのが、トレースフォワードである。そして、出荷した商品に問題が発生した場合、材料調達や製造時点まで遡って、原因を特定するのが、トレースバックである。

トレースフォワード、トレースバックを適切に実現できる環境を整えられれば、不良品やリコールへのスムーズな対策や、製品の品質向上、安定性の確保などのメリットが期待できる。

トレーサビリティが広まったきっかけ

トレーサビリティの概念が日本により広く浸透した要因といわれているのは、アメリカで発生したBSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)問題である。2003年にBSE感染牛がアメリカで確認されたことをきっかけに、日本でも「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」が制定、施行された。牛肉トレーサビリティ法とも呼ばれる同法により、耳標による個体識別番号付与、管理がすべての牛に義務づけられた。

現在では、牛肉だけではなく、さまざま製品でトレーサビリティに関する規格や法規制が設けられている。

トレーサビリティの必要性

製品に欠陥や不具合が発生した場合、企業は素早く問題の発生源を特定し、対策を講じたり、再発防止に努めたりする必要がある。

もし、トレーサビリティの体制が整っていないと、発生したトラブルへの対応が遅れ、消費者や取引先への信用不安に繋がりかねない。企業への信頼が揺らげば、最悪の場合、事業の存続が困難となる事態も起こり得る。

そのため、トレーサビリティの構築は、企業の信頼性や安全性を担保するために欠かせないといえる。

トレーサビリティの種類

トレーサビリティは、大きく「チェーントレーサビリティ」と「内部トレーサビリティ」の二つの観点から語られることが多い。それぞれの考え方や特徴について詳しく解説していく。

チェーントレーサビリティ

チェーントレーサビリティとは、サプライチェーンの各段階において、製品がどのように移動したかを把握できる状態を指す。一般的にトレーサビリティというと、こちらのチェーントレーサビリティを指す場合が多い。

チェーントレーサビリティによって、原材料や部品の調達から、加工、流通、販売、廃棄に至るまでの移動履歴が追跡、遡及可能となる。つまり、生産者は、自分が作ったものがどこへ行ったかがわかる(トレースフォワード)、消費者は、自分が手にした商品がどこからきたかわかる(トレースバック)状態となる。

生産者にとっては、出荷した製品にトラブルなどが起きた際の原因特定や、製品回収がしやすくなるというメリットがある。また、消費者にとっても、製品がどのように手元に届いたのか正確な情報がわかる、安心安全な製品選びの指標を得られるなどのメリットが挙げられる。

内部トレーサビリティ

内部トレーサビリティとは、サプライチェーン全体のうちの特定の範囲(工場や企業など)に限定して、部品や製品がどう移動したか把握できる状態を指す。

製品の組み立て工場を例として考えると、組み立てに必要な各部品の仕入先、組み立て作業の方法、検査の実施状況や検査内容、完成品の納入先など記録し、追跡・遡及できるようにするのが内部トレーサビリティである。

内部トレーサビリティの構築により、得られる情報を活かせれば、作業の効率化、生産性や品質の向上が期待できる。

トレーサビリティを支えるブロックチェーン技術

トレーサビリティは、サプライチェーン上に分散しているデータを収集、共有し、全体状況を把握するものである。トレーサビリティを適切に運用していくためには、データの改ざんや不正な閲覧を防ぎ、信頼性や安全性を担保することが不可欠といえる。

これらの課題をクリアするために近年注目されているのが、ブロックチェーン技術である。ブロックチェーンとは暗号化の技術を使い、ネットワーク上に点在するデータを同期させ、記録する方法である。暗号資産の取引などでも活用されている技術で、データの分散管理ができる、データの改ざんが困難であるなどの特徴がある。

トレーサビリティにブロックチェーン技術を導入すれば、より迅速な記録の実行と高い機密性の確保が見込める

トレーサビリティ導入のメリット

トレーサビリティの導入は企業にさまざまなメリットをもたらす。ここからは、トレーサビリティ導入で期待される効果やメリットについて詳しく説明する。

不良品の発生・流出を防止

トレーサビリティを導入すれば、不良品や欠陥品が出た場合でも、問題の発生原因や責任の所在をすぐに追求し、明らかにできる。

発生した問題を早期に解決できれば、不良品や欠陥品の発生、流出を防ぐことが可能となる。また、歩留まりの向上や、不良品流出時にかかる回収費用負担の大幅削減も期待できる。

リスク管理の強化

サプライチェーン全体の工程に関わる細かな情報収集、蓄積がトレーサビリティを導入することで可能となる。

得られる情報を有効に活用すれば、不測の事態が起きても、早急に効果的な対策を打ち出せる。事態を素早く収束させる、問題や損失を最小限に抑える、市場への早期復帰の実現など、リスク管理強化の面でもトレーサビリティは有用である。

安心安全なプランドイメージの構築

製品を選択する際に、顧客が最も重視するのは、その製品が安心安全であるかという点である。トレーサビリティを導入し、どこから仕入れ、どのように作り、どうやって手元に届いたかといった一連の情報を開示すれば、「安心安全を保証する企業」というブランドイメージを構築できる。

トレーサビリティを活用したブランドイメージ構築は、企業規模を問わず取り組めるため、他社との差別化や企業イメージの向上に役立つ。

効率的な顧客管理の実現と顧客満足度の向上

トレーサビリティを導入することで、最終的に製品を手にする納品先や顧客の情報を入手できる。購入履歴や基本情報などといった顧客データの蓄積、利用が可能となるため、データに応じたマーケティング戦略の立案もしやすくなる。受注予測や生産計画の精度向上にも繋がり、効率的な顧客管理の実現も期待できる。

また、製造や流通の過程を見える化すれば、消費者の自社への信頼度を向上させられる。安心して手に取れる製品を提供する企業として認知されれば、顧客の満足度を高めることも可能となるだろう。

トレーサビリティ導入における課題

導入によって、多くのメリットが期待できるトレーサビリティ。しかし、実際の導入にはいくつかの課題もある。チェーントレーサビリティ、内部トレーサビリティ、それぞれが抱える導入時の課題について詳しく解説する。

チェーントレーサビリティの場合

チェーントレーサビリティ導入において大きな課題となるのが、各サプライヤーとの連携である。チェーントレーサビリティの場合、原材料や部品を扱うメーカーから、製造、加工、物流、流通、消費者まで、トレーサビリティの範囲は広大となる。

これらに関わるすべての企業に、まずは、チェーントレーサビリティ実現のための機械やシステムの導入をしてもらう必要がある。さらに、価値観や認識のズレをなくすための擦り合わせを行い、しっかりと足並みを揃える必要もある。

中には、チェーントレーサビリティに関わる作業が、直接的には自社の利益に結びつかない企業もあるだろう。そうった企業にどうアプローチするかという点も、チェーントレーサビリティ実現における課題の1つといえる。

内部トレーサビリティ場合

自社内で完結する内部トレーサビリティは、一般的にトップダウンによって決められることが多い。そのため、トップが現場の状況や事情を把握しないまま出来上がったシステムが、実は現場ではまったく役に立たなかったというケースは多くある。内部トレーサビリティ実現のためには、トップが現場の実情を理解し、リスクマネジメント面はもちろん、現場にとってもメリットのあるシステムを構築することが必須といえる。

今後ますます重要となるトレーサビリティ

サプライチェーンの全工程の追跡や遡及を可能にし、リスク低減や安全性の確保を実現するトレーサビリティ。製品の透明性や安心安全が叫ばれている近年の状況に鑑みると、今後ますます重要視されることは間違いないだろう。QRコードやICタグを利用したシステムの開発や構築も進んでおり、さまざまな業界や分野にトレーサビリティが広がっていくことも期待されている。

トレーサビリティの導入には一定の課題や障壁はあるが、得られるメリットも大きい。まずは、トレーサビリティについて正しく理解し、自社にマッチする形での導入を進めてほしい。”

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