フリクションレスとは?意味や注目される背景、導入のメリット、デメリットなどを解説
2023.04.14
顧客体験を向上させるための施策として注目されているのが「フリクションレス」だ。企業として継続的に利益を得るためには、フリクションレスの実施を検討するのも有効といえる。とはいえ、フリクションレスの概念や実行方法がわからない担当者の方も多いだろう。
この記事では、フリクションレスの概要や注目される理由、フリクションレスによるメリットとデメリットと対策方法を解説する。
フリクションレスとは
フリクションレスの概要や例を解説する。
フリクションレスの概要
フリクションとは「摩擦」「抵抗」という意味があり、転じて顧客体験上で顧客が煩わしいと感じるポイントを指す。つまりフリクションレスとは、マーケティング用語で顧客にとっての摩擦や抵抗がなく、欲しい情報や目的に障害なくたどり着けることを指す。
フリクションの例
顧客が煩わしさを感じる「フリクション」には、さまざまな種類がある。おもなフリクションをECサイトの例からまとめた。
購入体験のフロー | 顧客が感じるフリクション |
商品の発見 | ・連絡先情報の入力(入力要求回数が多い、項目が多い、確認メールや電話が入力後多く来る)・Webサイトの構造が複雑・Webサイトのナビゲーションが複雑・価格が高い・普段使用する通貨が設定されていない・商品の画像が鮮明ではない・商品の画像の表示速度が遅い |
商品の選択 | ・ゲスト購入不可(会員登録やソーシャルログインをしないと商品が購入できない)・メールアドレス認証に時間と手間がかかる・欲しいサイズ・量・色・ブランドなどがない・お気に入り商品の保存や編集機能が用意されていない・商品レビュー、レコメンド、お客様の声などが用意されていない |
購入フロー | ・会員登録やログインに関するサポートが不十分・利用規約などがわかりにくい・購入ボタンが見つかりにくい、押しにくい・セキュリティを示すロゴやサポートツールがない・希望する配送手段が用意されていない・配送コストが高い |
支払い・決済 | ・希望の決済手段が用意されていない・ロイヤリティプログラムがない・ギフトカードが利用できない・返品・交換の選択肢がない・価格が高い・まとめ買いなどに対する割引がない・ふだん利用する通貨以外で価格が設定されている・決済処理に時間がかかる・決済処理でエラーが出る |
これらのフリクションが発生すると、カゴ落ちやECサイトからの離脱の原因となる。顧客のカゴ落ちや離脱を防ぎスムーズな購入につなげるために、フリクションレスに向けた施策が必要だ。
フリクションレスの例
すでに導入されているフリクションレスの例は、以下の通り。
・キャッシュレス決済(会計によるフリクションを解消)
・セルフレジ決済(レジ待ち、袋詰めによるフリクションを解消)
・宿泊施設でのスマートロック(ルームキーの管理、持ち運び、チェックイン手続きによるフリクションの解消)
・飲食店でのモバイルオーダー(店員を呼ぶ、待ち時間の発生、店員のオーダーミスによるフリクションの解消)
・OMO店舗(オンラインとオフラインどちらかで不可能、というフリクションの解消)
フリクションレスが注目されるようになった背景
マーケティングの概念である「フリクションレス」が注目されるようになった背景を解説する。
顧客体験が重視されているため
フリクションレスがマーケティングの施策として注目される背景にあるのが「顧客体験の向上」だ。インターネットが普及したことを受け、顧客と企業との接点(タッチポイント)が増加した。
これを受け、顧客は各接点で受けた好感、不満とともに自らの体験をかんたんに拡散できるようになった。企業としては顧客とのすべての接点で発生する「顧客体験」を向上させることが顧客満足度やロイヤリティの向上をもたらし、利益や競合への優位性を得ることにもつながる。
フリクションレスは、顧客が不快、不満と感じるポイントを取り除くことで、顧客体験を良質なものにできる。
デジタルチャネルの需要度が上がったため
顧客と企業との接点にデジタルチャネルが増えてきたのも、フリクションレスが重視される理由のひとつだ。たとえば実店舗では、ある程度のフリクションが発生しても「せっかくお店まで来たから、このくらいは我慢しよう」と、顧客はある程度のフリクションは許容することが多い。一方ECサイトやアプリなどのデジタルチャネルは、実店舗よりも時間的、距離的にアクセスしやすい環境にある。気軽に利用できることからフリクションが発生すると、顧客は離脱または競合のECサイトやアプリへ移る可能性が高くなることも考えられる。デジタルチャネルを通じた顧客体験を向上するために、フリクションレスが重視されている。
フリクションへのハードルが下がっているため
デジタルチャネルを含め、顧客が気軽に利用できる企業との接点が多くなった。そのため、顧客がフリクションを許容できないことが多くなったのも、フリクションレスが重視されている理由のひとつだ。たとえば有人レジでは「待ち時間が発生する」といったフリクションが発生しても「自分の手を煩わせずに会計してもらえる」などの理由で、フリクションが許容されることが多い。一方セルフレジで「商品のバーコードがスキャンできない」「バーコードがない商品の登録方法がわからない」「レシートがつまった」などのフリクションが発生すると、有人レジよりもフリクションを許容できない顧客は多くなるだろう。
デジタル化やセルフ化によりフリクションへのハードルが下がったことも、フリクションレスが求められるようになった背景といえる。
フリクションレスのメリット
フリクションレスへの施策を取り入れることで得られるメリットを解説する。
離脱を防ぎ集客や利益につながる
フリクションレスを導入すると、障害や摩擦がなくなり、顧客はスムーズに目的を達成できる。ECサイトに置き換えると、サイトへの流入から商品購入までがスムーズに進むため、途中でフリクションの発生による顧客の離脱が防げる。「サイト全体が重い」「入力する項目が多い」「決済までの時間がかかる」などフリクションによる顧客の離脱を防げるため、集客や商品購入による利益などの達成につながる。
質の良い顧客体験を提供できる
フリクションレスは企業側だけでなく顧客側にもメリットをもたらす。実店舗やWeb上での行動に障害や摩擦がないことから、スムーズな購入や取引、決済を実現できる。目的達成までの時間や手間を最小限に抑えられるのはもちろん、ストレスのない顧客体験を得られる。
フリクションレスのデメリットと対策方法
顧客体験を向上させるうえでフリクションレスは有効な施策だが、導入にはデメリットもある。フリクションレスのデメリットと対策方法を解説する。
フリクションの発見が難しい
フリクションレスのための施策を実現するには、まず発生しているフリクションを発見しなければいけない。実店舗では、顧客の態度や表情などからある程度発生しているフリクションを見つけることができるが、ECサイトなどのデジタルチャネルは、顧客の態度や表情が見えない。そのためフリクションを見つけるのが難しいというデメリットがある。
ECサイト上では、離脱の多いページや箇所などは分析によって把握できるが、具体的に何が原因で離脱しているか(何が顧客にとってのフリクションなのか)を発見するのは困難だろう。
フリクションを発見するためには、顧客のECサイト上での行動を可視化できるヒートマップなどのツールを導入する、オンライン上でのヒアリングやアンケートを実施して顧客の意見を聞き出す、などの施策が必要になる。
コストがかかる
フリクションレスのためにツールやシステムを導入する際には、当然コストがかかる。またフリクションレスのための施策ではなく、上記で説明したフリクションを発見するためのツールや方法を実施するためにも、コストがかかる。
自分でECサイトやアプリのすみずみまで使用してフリクションを発見する、導入するツールや方法を厳選するなどでコストを抑えることは可能だ。
すべてのフリクションを一度に解消するのは不可能
顧客が感じるフリクションはさまざまな接点、フローで発生する。顧客一人ひとりの状況も異なるため、ひとつの施策を導入したからといってすべてのフリクションを解消することはできない。たとえば顧客が希望するすべての決済方法に対応するために、キャッシュレス決済ができる決済システムを導入したとしても「レジで待ち時間が長い」「欲しい商品がどこにあるかわからない」などの別のフリクションは解消できない。
顧客が持つであろうフリクションを予測し、解消できるフリクションを徐々に増やしていくことが重要。
フリクションレスを実現し、顧客体験の質を向上させよう
フリクションレスの概要や注目される背景、メリット、デメリットとデメリットへの対策方法を解説した。顧客の購買行動がデジタル化したり顧客体験が重視されたりする背景を受けて、フリクションレスは注目されている。フリクションレスを導入すると多くのメリットが得られる一方、導入までのフリクションの発見やコストの発生などのデメリットもある。まず自社の商材や発生する可能性のあるフリクションに合わせ、少しずつフリクションレスを導入していこう。