健康経営とは?目的や注目される背景、先進企業の取組み事例も紹介

2024.03.29

2023.06.14

健康経営とは会社が従業員の心身の健康を管理することをいう。健康経営は生産性の向上や離職率の低下などさまざまなメリットがある。健康経営は企業にとっても取り組むべき課題なのである。健康経営が注目される背景や具体的な導入方法と注意点について解説する。またすでに健康経営に取り組んでいる事例なども紹介していく。

健康経営とは

健康経営とは、従業員の健康を企業が管理し戦略的に実践することをいう。経済産業省でも日本再興戦略や未来投資戦略にも大きく影響する国民の健康寿命の延伸に対する取り組みとして、さまざまな顕彰制度を設けている。

以前は従業員の健康は従業員自身で管理するスタイルが主流であった。しかし、従業員が心身共に健康で働けることは企業にとっても大きなメリットをもたらすとして、健康経営を積極的に取り入れる企業が増えてきた。現在では従業員の健康管理は企業の責任であるという認識が定着している。

健康経営の目的

健康経営は従業員が健康な状態で業務に取り組めるだけではなく、企業にとってもさまざまなメリットがある。健康経営はアメリカの臨床心理学者、ロバート・ローゼン博士が提唱したヘルシーカンパニーの思想が元になっているとされる。従業員の健康を企業が管理することは、企業の利益にも繋がるとしているのだ。このヘルシーカンパニーの思想が世界に広まって、日本でも健康経営の実践が企業にもたらす利益が注目されている。

生産性の向上

従業員が心身共に健康であると生産性が上がる。テレワークやフレックス制の導入、残業禁止制度などの勤務形態や福利厚生、有給休暇の取りやすさなども健康経営の一環である。

総合的に働く環境が快適で整備されていれば、従業員はストレスなく働ける。企業への帰属意識や働くモチベーションの向上も期待でき、従業員自らが積極的に業務に取り組むようになるだろう。一人ひとりがパフォーマンスを最大に発揮できるため生産性の向上へと繋がる。

医療費の削減

従業員が健康であれば、医療費の負担を軽減できる。自社の従業員の健康を管理できれば、病気や怪我などで医療機関を受診したり入院したりする機会が減るため、医療費の削減に貢献できる。従業員の医療機関への受診が減ると企業の医療費負担も減らせるため、健康経営は企業のコスト削減にも役立つのだ。

さらに、それぞれの企業が健康経営に取り組んで医療費を削減できれば、高齢化が進み医療費が増加傾向にある日本全体の医療費を減らすことにも繋がるだろう。

離職率の低下

従業員が健康を維持できて、働きやすい環境が整っていれば長く企業で働けるようになる。離職率の低下に繋がるだろう。職場環境が悪いと従業員は転職を考える。スキルの高い従業員ほど、よりよい環境を求めて離職しようとするだろう。また、少子高齢化により、今後も企業が事業活動を行う上で十分な従業員数を確保することが難しくなる。

健康経営で産休や育休からの復帰をサポートする体制を整えたり、定年を延長して技術や経験のある従業員がより長く働けるようにしたりすることで、離職率を下げられ自社にとって必要な人材を長く確保できるようになるだろう。

企業のブランドイメージの向上

健康経営に取り組むことは、対外的なイメージにも大きな影響がある。従業員の健康を考え、働きやすい環境づくりを行う企業という認識が広まれば、ブランドイメージが向上し取引先や株主から優良企業と認知されるだろう。さらに、人材採用の際のアピールポイントにもなるため、新卒や中途採用を行う際にも有利に展開できる。

また、健康経営を導入する企業には、経済産業省による健康経営優良法人認定制度の認定が与えられる。自治体や金融機関には、健康経営優良法人を優遇するところもあるため、経営の大きなメリットとなるだろう。

健康経営が注目される背景

健康経営は、2009年頃から長時間労働やブラック企業など労働環境が悪化したことをきっかけで日本でも注目されるようになった。労働環境の悪化を招いた原因として人口の減少と高齢化に伴う労働人口の減少が挙げられる。

企業で働ける年代の人口が減っているため、在籍している従業員1人当たりの業務量が増加し、長時間労働やブラック企業などが問題視されるようになったのである。他にも企業の利益目的だけではなく、健康経営を取り入れるべき課題がある。

少子化による人手不足

日本において、少子化の傾向はさらに深刻化を増している。第2次ベビーブームと呼ばれる1973年の出生数は約210万人であったが、1984年には150万人を下回り、2019年には出生率は86万5,239人にまで落ち込んでいる。今後も各業界において人口減少による人手不足の問題は避けられない状況だ。

今いる従業員の健康を企業が戦略的に管理することで、従業員に長く働いてもらえるようになり自社への貢献に繋げられるだろう。

社会保障費の増大

日本では社会保障費の増大も問題視されている。1980年では社会保障の給付費総額は24.9兆円であったが、2000年には78.4兆円、2022年は予算ベースで131.1兆円にまで膨らんでいる。今後も少子高齢化は続くため、さらに社会保障費が大きな負担となる可能性がある。

各企業が健康経営に取り組むことで、従業員の健康が維持されるようになれば、国が負担する社会保障費の抑制が期待できるだろう。健康経営は、これらの課題を解消するために不可欠なものである。

健康経営の導入方法

企業が健康経営を導入する際の具体的な流れについて見ていこう。経営者や幹部が一方的に健康経営に乗り出そうとしても、従業員に十分な理解が得られなかったり反発されたりする可能性がある。また、健康経営優良法人認定制度の認定取得などを考えるなら、専門部署の立ち上げやPR方法などしっかりとした基盤を作って戦略的に進めていく必要がある。

社内外へ健康経営に取り組むことを発信

社内へ全社的に健康経営に取り組むことを発信する。また、社外へもプレスリリースなどを通じて発表しよう。従業員にはなぜ健康経営を行うのか、企業が健康を管理する重要性や目的などを明確に伝えることが大切である。そのために、企業の経営者や上層部自らが健康経営の重要性を理解しておく必要がある。

社外にも発信する理由は、健康経営は中長期的に取り組む必要があるものであるため、企業が宣言すれば責任を持って取り組む理由付けになる。また、健康経営は従業員の健康管理であるが、企業の経営に関わることである。投資家や取引先に向けて報告する義務があるだろう。

専門部署の設置

“健康経営を行うための専門部署を設置する。産業医との連携や多くの従業員の状況を把握している人事担当者などのメンバーを揃えよう。社内の人材だけでは十分な知識と人材が集まらない場合は、外部に委託する方法を検討したり社内で健康経営に関する研修を設けたりするのも効果的だ。

健康経営の担当部署を設置してもすべてを任せきりにせず、全社で協力できる体制づくりを目指すことも重要である。

取り組むべき課題や目標を明確にする

健康経営を実施する上で取り組むべき課題や目標を明確にする。身体的な健康だけではなく、精神面での健康の課題の洗い出しも重要だ。部署ごとの健康診断の受診率や結果、ストレスチェックなどを分析しよう。また、それぞれの部署で月ごとや繁忙期の従業員の残業時間や、休日出勤の回数、有給休暇の取得率などについても把握しておきたい。

課題が明確になると、どのような取り組みを行えばいいのかが見えてくるので、目標が立てやすくなる。

実行・評価

計画を立案し健康経営を実施する。計画には具体的な数値を入れるようにしよう。健康経営は段階的に実行していくとよい。

たとえば、毎週水曜日を残業ゼロデーにする、週2回昼食後の運動を推進する、月に1回の健康面談を設けるなどの施策が考えられる。計画を実行したら、必ず定期的に評価を行おう。従業員の反応や費用対効果などを分析して、健康経営の施策に改善点があれば変更する。定期的に取り組みを振り返り評価することで、より効果的な施策が作れるようになり、結果にも現れてくるだろう。

健康経営に取り組むときの注意点

健康経営に取り組むときの注意点についてお伝えする。健康経営を実施するときには、ある程度のコストがかかることを理解しておこう。実施までのコストだけではなく、健康経営を取り入れるようになってからも効果が実際に現れてくるまでの時間的、金銭的なランニングコストは必要だ。

また従業員一人ひとりの健康データの管理も行わなければいけない。データは個人情報であるため、収集や分析、管理などを行うために新たなシステムの導入が必要になることもある。

効果が出るまでに時間がかかる

健康経営は、短期間で目標を達成できるものではない。効果が出るまでに一定の時間が必要である。また健康経営の明確な効果であるかわからないことも多い。たとえば健康経営を導入してから従業員の作業効率が上がったとしても、健康経営が直接のきっかけになったか見極めるのは難しい。

健康経営のためにコストが発生しているとなるべく早い時期に効果を実感したくなるが、定期的な分析と評価を重ねながら中長期的な視野で効果が出るかを見ていくといいだろう。

従業員の理解が得られにくいことも

健康経営を実施する際に、従業員の理解が得られにくい可能性がある。たとえば、自分の健康データを見られたくない、健康問題に関することを知られたくない従業員もいるだろう。また、分煙や定期的な運動、ノー残業デーなどを定められることが窮屈に感じる従業員もいるかもしれない。

全社で協力して健康経営を進めていくためには、なぜ各従業員の健康データが必要なのか、データを管理する方法、健康経営の取り組みの目的や予想される効果などをあらかじめ従業員に伝えて理解を得ることが大切である。

健康経営の具体的な取り組み事例

健康経営を取り入れている企業の具体的な事例を紹介する。

ニッスイ

ニッスイは2019年に健康経営銘柄2019に選定されてから4年連続で健康経営銘柄に選定されている企業である。禁煙対策を継続的に取り、社内での喫煙率低下に成功、カラダ改善コンテストでは従業員の健康づくりを推進している。

また、育児や介護など家庭の事情を抱える従業員のために、休暇取得推進、労働時間管理の適正化、時間単位休暇・コアレスフレックスなどの働きやすい環境の整備も行っている。

イオン

イオンでは2016年度にイオン健康経営宣言を行い、グループ全体で従業員の労働安全衛生や健康経営に取り組んでいる。

2015年から禁煙を促進、2019年には本社敷地内全面禁煙を実施、国内グループ企業115社においても従業員の就業時間内禁煙、敷地内禁煙を行っている。また、卒煙を支援するために無料で従業員向けのオンライン禁煙プログラムを提供。喫煙率の減少に成功している。

さらに健康診断未受診者へ受診勧奨、重症の高血圧者へは産業保健職が介入するなど、特定保健指導実施率向上を計っている。これによって糖尿病のリスクとメタボ率が改善した。

マルハニチロ

マルハニチロは、2022年に健康経営銘柄2022に初めて選定された。従業員の満足度を測定する意識調査・パルスサーベイを行い、全社で1on1ミーティングを導入、従業員一人ひとりの個別の健康状態を細かく把握できる体制を作っている。

また、自社製品を使って水産由来のDHAを積極的に摂取するためのDHAチャレンジの取り組みなども行っている。

ネッツトヨタ山陽

ネッツトヨタ山陽では、カロリー別におかずを選べるヘルシー仕出し弁当の提供や、それぞれの従業員が歩いた歩数を集計して部署別や 個人別の実績を月1回、ニュース形式で公表するなどして社員の健康への意識向上を計っている。 またときどきウォーキングコンテストを実施して、楽しみながら継続して運動できる環境づくりも行っている。

桃太郎のまち健康推進応援団へ登録、岡山県のおかやま健康づくりアワードなどにも入賞。健康経営を実施してからは、自社の取組みが地元新聞に掲載されたり、ディーラー業界誌に掲載されたりと、社外アピールする機会も増えて採用面でメリットがあったと実感しているそうだ。

セブン&アイHLDGS.

セブン&アイHLDGS. では、従業員の健康は生活の質を上げるだけでなく、企業が活力を増して経営の効率を高めていくものと捉え、セブン&アイ・ホールディングス健康保険組合と連携し、2014年度に「セブン&アイ健康宣言2018」をスタートさせた。2019年10月には、これを発展させ、グループの持続的成長と地域社会の健康増進を目指すべく、下記3つの目標を掲げた「セブン&アイ健康宣言 NEXT」を策定。

①私たちは、自らの健康課題を把握し、改善に向けて行動します
②私たちは、社員の誰もがイキイキと仕事に取り組める職場作りを実現していきます。
③私たちは、「健康応援」の商品やサービスを通じて、お客様の健やかな毎日をサポートする企業であり続けます

2022年度の主な取り組みとしては、健康保険組合との共同による、定期的なウォーキングイベントの開催、外部専門家を講師とした定期的なオンライン健康セミナーの開催、メンタルヘルス研修(ラインケア・セルフケア)の実施によるメンタル疾患の未然防止などを実施ている。

健康経営の目的は企業の業績や利益の向上

健康経営は、従業員の健康を企業が管理し、生産性の向上や利益の増大を目指す経営的な取り組みである。従業員の心身の健康を維持し、働きやすい環境を整備することで、従業員のモチベーションが上がり、離職率の低下にも繋がるだろう。

健康経営を実施する際は、専門的な部署を作り社内外へ取り組みについての宣言を行い、計画を立てて実行してほしい。なぜ健康経営が必要なのかを従業員に理解してもらうことで、全社一丸となった取り組みができ、効果を実感できるだろう。

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