従業員満足度(ES)とは?概要や注目される背景、向上させるメリットや方法を解説

2024.03.26

2023.06.14

近年「従業員満足度(ES)」の考え方を重視する企業も多くなった。従業員満足度は人事マネジメント上で重要な指標となるのはもちろん、企業の生産性や利益にも影響を与えると言われているためだ。本記事では、従業員満足度(ES)の概要や注目されるようになった背景、従業員満足度を向上させるメリットや測定する方法、向上する方法を解説する。

従業員満足度(ES)の概要

従業員満足度(ES)の言葉の意味や、従業員満足度を構成する要素を解説する。

従業員満足度(ES)とは

従業員満足度とは、従業員の職場や仕事に対する満足度を指標化したものだ。英語では”Employee Satisfaction”と呼ばれ、略語の「ES」と呼ばれることもある。おもに福利厚生、職場環境、マネジメント、待遇、仕事へのやりがい、人間関係などが従業員満足度に影響する。

従業員満足度の構成要素

従業員満足度の上下には、以下7つの要素が影響している。

・企業理念・行動方針
・仕事内容
・マネジメント・評価
・人間関係
・職場環境
・給与待遇
・福利厚生

企業理念や行動方針へ従業員が共感している、または企業と従業員の考え方や価値観が一致していれば従業員満足度は高くなる。

一方企業理念や行動指針に従業員が共感できない場合、「会社の考えに納得できない」「会社のやり方に疑問を感じる」といったことが起きやすく、従業員満足度の低下を招いてしまうだろう。

なお企業理念や行動方針への従業員の共感度が高い組織は、個々の従業員へ的確な指示や判断ができることで団結力が強くなる、といったメリットもある。

人員配置が最適化され、「従業員の能力やスキルに応じた仕事をしている」「仕事に誇りややりがいがある」「仕事を通じて成長できている」と従業員が感じると従業員満足度は高くなる。仕事に対する従業員満足度が高い組織は、個々の従業員の意欲やモチベーションが高いことが多く、業務の生産性が高い場合も多い。

管理職と従業員が良好な関係を築いている、適切な業務指示や評価を受けている場合はマネジメントや評価に対する従業員満足度が上がる。管理職がマネージャーとして高評価を受けているチームや部署、組織である場合が多く、大きな成果を出せる高い組織力を持っていることが多い。

管理職のほか、同僚、先輩、部下と良好な人間関係を築けていれば、従業員満足度は高くなる。逆にコミュニケーションが取りづらい、言いたいことを言えないといった環境では従業員満足度は低くなる。良好な人間関係の組織は風通しがよく、意見交換やアイディアの提案も活発なためイノベーションが創出できる可能性が高いメリットもある。

ライフスタイルに合わせた働き方ができる、業務量が適切、職場が快適など、職場環境が良ければ従業員満足度は高くなる。近年テレワークが普及したこともあり、在宅勤務を認めているなど多様な働き方に対応できている企業は従業員満足度が高くなりやすい。

成果やポジションに応じた給料が支払われている、同業他社と比較して妥当な給料を受けている、といった適切な給与待遇を提供していれば、従業員満足度は高くなる。給与待遇における満足度は、マネジメント・評価に満足度と連動することが多い。

住宅や食事、家族に対する手当がある、特別休暇が充実している、スキルアップや学び直しのための制度があるなど、福利厚生が充実していると従業員満足度が高くなりやすい。特に福利厚生の中でも手当金や休暇が多いと、従業員満足度が上がりやすいといえる。

従業員満足度(ES)が注目されるようになった背景

企業や社会、職場を取り巻く環境や状況が変化したことを受けて、従業員満足度を重視した経営や人事マネジメントが行われるようになった。従業員満足度(ES)が注目されるようになった背景を解説する。

少子高齢化による働き手不足

少子高齢化により、働き手が不足している。企業が優秀な人材を確保するためには従業員満足度を高めることが必要だ。従業員満足度が高いと採用への応募が多くなるだけでなく、従業員の離職を防いで定着化ができる。また、従業員満足度が高いと従業員の意欲やモチベーションも高くなるため、生産性も向上し少ない人手で多くの成果を上げられるだろう。

終身雇用から流動化への変化

かつて日本の働き方のスタンダードだった終身雇用がゆらぎ、転職が当たり前になった。より良い待遇ややりがいを求めて従業員自らが企業を選ぶことも多い。企業側としては、従業員の満足度を高めることで、選ばれる企業となる必要がある。

働き方や価値観の多様化

働き方改革によってワークライフバランスが重視されるようになったこと、コロナ禍によってテレワークが急速に普及し多様な働き方が実現できるようになったことなどが影響し、従業員の働き方や価値観が多様化している。多様な働き方や価値観を持つことが当たり前になった昨今では、企業の理念や行動指針が理解されにくくもなっている。

当然従業員が企業の理念に賛同が得られないと、事業もうまく回らず生産性も落ち、優秀な人材は流出してしまう可能性も高い。企業の考え方へ従業員の賛同を得るためには、従業員満足度を高めることが重要だ。

従業員満足度(ES)を向上させるメリット

従業員満足度(ES)はさまざまな社会情勢や労働環境の変化を受けて注目されるようになった背景がある。ただ人材確保の目的だけでなく、従業員満足度を上げることで経営面や利益の面でも多くのメリットが得られるだろう。従業員満足度(ES)を高めることで得られるメリットを解説する。

生産性が上がる

従業員満足度が上がると、従業員の仕事へのモチベーションや意欲も高まることが多い。モチベーションや意欲が高い従業員は能動的に仕事をするため、業務においても大きな成果を上げやすくなり、生産性の向上が期待できるだろう。生産性を向上することで、労働力不足が補える、最終的な企業の利益も大きくなるといったメリットも得られる。

組織が活性化する

従業員満足度が上がり仕事に意欲的な従業員が増えれば、組織内のコミュニケーションも活性化する。伝達ミスなどがなくなり、従業員同士が得意、不得意を補い合って効率的に業務を進められるほか、意見や提案も出しやすくなるため新サービスや製品、事業などのイノベーションが生まれることもある。

人材が定着する

従業員満足度が高いと、従業員が企業の理念や考えに賛同しやすくなる、職場環境や人間関係に居心地の良さを感じることで長く働きたいと感じるようになるなど、企業への帰属意識が高くなる。優秀な人材が定着しやすくなることで、採用や募集に関するコストを削減できる、長期にわたって成果を出せるようになる、流出による人材不足を防げる、従業員からのリファラル(紹介)での採用が増える、などのメリット燃えられる。

顧客満足度が上がる

従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)の関係

従業員満足度は、顧客満足度(CS)とも密接な関係がある。従業員満足度が上がると企業への帰属意識が高くなり、自社製品やサービスへの関心や興味も高くなる。

その結果顧客へより良い製品やサービスを提供するための取り組みや提案を積極的に行うようにもなるため、結果的に顧客満足度の向上にもつながるだろう。顧客満足度が上がれば顧客のファン化による集客や利益の向上といった効果も得られるため、従業員満足度を上げることが自社の利益向上にも深く関係していると言える。

従業員満足度(ES)を測定する手順

従業員満足度を上げることで多くのメリットがある。「自社の従業員満足度が低いのなら、ぜひ改善したい」と考える人も多いだろう。ところが従業員満足度は数値で可視化はできない。自社の現状を知るために、従業員満足度を測定する手順を解説する。

調査の目的を明確にする

従業員満足度を調べる方法には、社内でアンケートを実施する、ES調査のサービスを利用するなどの方法がある。いずれの場合も従業員にアンケートや調査へ協力を仰ぐことが必要だ。協力を得るためには、従業員満足度調査を行う目的を明確にしたうえで、あらかじめ従業員に周知しておこう。

設問を考える

アンケートや設問の内容や数を考える。一般職、管理職など従業員の立場が異なる場合は設問を変えるなどの工夫も必要だ。設問の数が多すぎると回答する従業員の負担となるため注意しよう。

調査を実施する

アンケートや調査を実施する。設問の内容によっては個人情報やプライベートに抵触するものもあるため、結果の取り扱いは慎重に行い、公開範囲についてもあらかじめ周知しておこう。社内でアンケートや調査結果の適切な取り扱いが難しい場合は、第三者機関やサービスを利用してアンケートや調査を行うのも選択肢となる。

結果を分析する

アンケートや調査の内容を分析する。調査結果を複数の分析方法を組み合わせて分析することで、表面上の結果だけでなく従業員の持っている本質を見抜き、自社の持つ課題を見つけることが重要だ。

課題改善のための施策を検討、実践する

アンケートや調査結果から課題が把握できたら、改善のための施策を検討する。施策の実行には関係各所の協力が必須だ。たとえば「休暇が少ない」と感じている従業員へ対する施策を講じるなら、福利厚生を見直すために人事部と連携を取る必要がある。

従業員満足度(ES)を向上させる具体的な方法

従業員満足度を低下させている原因を把握したら、改善するための施策を実施する。従業員満足度を上げるための具体的な方法を解説する。

企業理念やビジョンを浸透、共有する

企業理念やビジョンを個々の従業員レベルまで落とし込み、浸透、共有する方法だ。企業理念やビジョンを従業員が理解、共感すれば業務への理解、企業への帰属意識の向上につながる。日々のマネジメントで企業理念やビジョンを共有する、会議などで企業理念やビジョンを確認する、といった機会を設ける方法がある。

配置や業務の適正化、キャリア支援

従業員の希望や個々の適性、能力に応じて配置や業務を適正化する方法だ。従業員の希望通りの働き方ができるようになればミスマッチも防げ、従業員満足度は上がる。

具体的な方法には、従業員が自身の経験やスキルを社内にアピールし適正のある部署へ異動する「社内FA(フリー・エージェント)制度」や、各部署が人材を募集し、異動を望む人材に応募してもらう「社内公募制度」などがある。

また、教育支援やキャリア開発の機会も従業員の成長を促し満足度を高める要素となる。企業は従業員のスキルアップを支援し、職業的な達成感を得られるよう研修プログラムやキャリアアップのための各種サポートを提供する。これにより従業員は自分たちの未来に投資してくれる企業に対し、忠誠心とエンゲージメントを高めることが期待される。

社内環境の整備や改善

社内の環境を従業員が働きやすいように整備、改善することで顧客満足度が上がる。たとえばITシステムやツールを導入して業務を効率化すれば、労働時間や残業の削減、テレワーク導入による多様な働き方の実現につながる。テレワークや時短勤務、フレックスタイム制を導入し、従業員のライフスタイルに合わせた働き方ができるようにするなどの方法がある。

評価制度を見直す

従業員満足度の向上には、公正で透明性のある評価制度の整備が不可欠といえる。効果的な評価制度を見直すためには、まず現行の評価制度について従業員からのフィードバックを積極的に集め、どの側面がうまく機能しているか、またどの側面が改善を要するかを把握することが重要だ。

また、評価基準の明確化も必要不可欠だ。これには、具体的かつ測定可能な目標設定、仕事の達成基準、行動規範などが含まれ、従業員が自身のパフォーマンスを自己評価しやすいような基盤を作ることが肝要だ。

また、評価制度がキャリアパスや人材開発の取り組みと密接に連携していることを確かめることで、従業員が評価をキャリア成長の機会と捉えられるようになるだろう。

従業員が評価プロセスを公正であると感じ、それを自己改善およびキャリア開発のツールとして利用できるような環境を作ることは、彼らのモチベーションを高め、服務意欲の向上に繋がり、キャリア開発によって従業員満足度の向上が期待できると考えられる。

福利厚生を検討する

福利厚生の内容を見直す、内容を拡充する方法だ。住宅や家賃、食事などの補助を設ける、社宅などの設備を提供する、特別休暇を増やすなどの方法がある。福利厚生のための十分な予算や設備がない場合には、昼寝休憩を設けるなど工夫次第で多様な福利厚生を設けることもできるだろう。

共働きが当たり前になりつつある昨今、子育て支援も重要な福利厚生だ。家庭と仕事の両立をサポートするため、従業員が育児と仕事のバランスを取りやすくなるよう、柔軟な勤務時間や在宅勤務などの働き方の選択肢を提供や、産休・育休・パパ育休制度の適切な導入と運用が重要となってくる。

また、長期的な視点で子育てをサポートするために、企業内に託児施設を設置するといった、直接的な子育て支援を行うことも一つの方法だ。このような施設があれば、従業員は安心して子どもを預けることができ、仕事に集中できるため、生産性の向上が期待できる。

また、従業員が健康で充実した生活を送れるように、健康診断やフィットネスクラブの利用補助のような健康とウェルネスに関連するプログラムへの投資も考えられる。これは従業員が身体的および精神的に健康でいられるようサポートし、結果として仕事の効率や生産性の向上に繋がる場合もある。

コミュニケーションを活性化させる

従業員同士や上司と部下が円滑なコミュニケーションを取れる環境へ整備する方法だ。縦割りの組織を横断的な組織へ改革する、テレワークや時短勤務などでコミュニケーションを取るのが難しい場合には、チャットツールを導入するなどの方法がある。

従業員満足度(ES)を高めれば生産性や定着率も向上する

従業員満足度(ES)の概要や注目されるようになった背景、向上させるメリットや方法を解説した。従業員満足度を上げることで優秀な人材の確保による組織力の向上や、生産性の向上にもつながる。従業員満足度を下げてしまっている原因を把握し、改善や取り組みを行い従業員満足度を向上させよう。

お役立ち資料データ

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