脱炭素社会とは?求められる背景や世界や日本、企業の取り組み事例などを紹介

2024.03.29

2023.06.15

脱炭素社会とは、温室効果ガスの排出実質ゼロを実現した社会である。地球温暖化によるさまざまな悪影響はすでに世界各地で起こっており、企業も個人も脱炭素社会を喫緊に目指す必要がある。脱炭素社会に向けた世界や日本の対策、さらに企業の取り組みについて詳しく解説する。

脱炭素社会とは

地球温暖化によるさまざまな悪影響が世界各地で顕著になってきている。地球温暖化の原因の1つが、温室効果ガスである。温室効果ガスには、二酸化炭素や一酸化二窒素、メタン、フロンガスなどの種類がある。中でも特に地球温暖化に影響があるとされているのが、二酸化炭素だ。

温室効果ガスが地球環境に与える影響は大きく、気温や水温の上昇により生態系が破壊されたり、海面上昇によって国土が消失したりと、深刻な問題が起こる可能性があるのだ。2015年のパリ協定では、産業革命前からの世界の気温上昇の平均を、2度未満に保つことが目標として掲げられた(努力目標1.5度以内)。2度未満は、人間と自然が共存できる限界のラインと言われている。現状はすでに待ったなしの状態のため、世界各国が一丸となって脱炭素社会に取り組む必要がある。

温室効果ガスの実質ゼロ

脱炭素社会とは、地球温暖化を促進する温室効果ガスの排出実質ゼロを実現した社会であり、世界でこの脱炭素社会の実現に向けた取り組みがなされている。この実質ゼロは、二酸化炭素の排出を完全になくすという意味ではなく、二酸化炭素の排出が避けられなくとも後から回収することで実質的に排出をゼロにする取り組みである。

日本では、2020年10月に当時の菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに、脱炭素化社会の実現を目指す」と宣言した。さらに中期目標として、2030年度には13年度との比較で46%減の目標も設定している。

2050年までの脱炭素化の意味

2050年までに脱炭素社会を実現しなければならない理由は、パリ協定の長期目標にあるといえるだろう。パリ協定では、産業革命前と比較して地球の気温上昇を2度未満、可能であれば1.5度以内に抑える目標がある。

その長期目標達成のために、日本も2050年までに脱炭素化を目指しているのである。パリ協定には日本以外にもEU、アメリカ、インド、中国など多くの国が加盟している。

なぜ脱炭素社会が求められているのか?背景や理由とは?

このまま温室効果ガスを排出し続ければ、2100年には日本の多くの地域で平均気温が上昇し、猛暑日や熱帯夜の日が増える一方で、冬日の日数が減ることが予測されている。日本だけではなく、世界の国々でも異常気象や生態系の破壊などの問題がすでに起こっている。

パリ協定の前の京都議定書では、参加する先進国に温室効果ガスの削減を要求していたが、パリ協定では参加するすべての国に脱炭素化が求められている。近年、温室効果ガス排出量の多い国には、中国やアメリカ、インドなどの大国のほか、韓国やメキシコ、ブラジルなども挙げられている。もはや先進国だけが脱炭素化を目指すだけでは、地球規模の温室効果ガスを大幅に減らすことは難しい状態になっているのだ。

地球温暖化

地球の気温は、平均15度程度である。太陽から届く日射が大気を通って地面で吸収され、温められた地面から再び赤外線の形で熱が放射される。それを温室効果ガスが吸収して一部を再び地面に向かって放射することで大気を加熱し、気温を保っているのだ。

しかし人間が活発に活動することによって排出される温室効果ガスが大量に空気中に放出されると、温室効果ガスの層が厚くなる。その結果大気で吸収される熱が増え、地球の平均気温が上がってしまう。温室効果ガスを減らさなければ、さらに気温が上昇し続けて地球温暖化がますます進むだろう。

気候変動

地球温暖化が進むと、砂漠が増えたり北極の氷が溶けて海面が上昇したりする。さらに集中豪雨や大型の台風発生など、大規模な自然災害も増えている。実際に日本でも、かつてはなかったような豪雨や台風などの自然災害による深刻な被害が、年々増加している。異常気象による洪水や浸水などの水害、地滑りなどの被害はこれからも多発するだろう。

化石燃料の枯渇

現在人類が経済活動のために使っているエネルギー資源には、石油、石炭、原子力発電の燃料のウラン、天然ガスなどがある。生活に欠かせない化石燃料であるが、これらは永久に使い続けられるものではなく、近い未来に枯渇するといわれている。すでに2019年の時点で、石油と天然ガスはあと50年、ウランは115年、石炭は132年でなくなると考えられているのだ。

地球温暖化を促進する化石燃料を使い続けることは、地球環境だけではなく人類の経済活動にも大きな影響をもたらす。早急に化石燃料に代わるエネルギー資源を確保する必要があるといえるだろう。

生態系の破壊

地球の平均気温が上昇すると、生態系の破壊にもつながる。気温の上昇、さらに干ばつや洪水などで、今まで生息していた地域に棲めなくなる動植物が増える。WWFジャパンによると、哺乳類の12%、鳥類の33%、両生類の13%、魚類の16%、爬虫類の8%が温暖化の影響を受けているとしている。

地球温暖化が進めば、さらに絶滅危惧種が増え、地球上から姿を消してしまう種が出るだろう。また、新たに地球温暖化に適した種の数が増えて、生態系のバランスに悪影響を及ぼす可能性もある。

水不足

地球温暖化が進むと気候が変化し、年間の河川流量が増える地域が出てくる。またアメリカの中西部、地中海沿岸や中近東、アフリカ南部などでは降水量が減ると予測されている。

地球温暖化の影響で雨の強度や降る頻度も変化することが予測されるため、干ばつや洪水のリスクが増えることも考えられる。さらに河川流量の変動が大きくなり、水不足になる地域も出てくるだろう。

地球温暖化の影響で雪が降る時期が早まったり降雪量が減ったりするため、水資源が得られる時期が変化するとも考えられている。

食糧不足

地球温暖化によって雨の降る地域や量などが変わるため、今までと同じ場所ややり方では、同じ作物を作れなくなる可能性が出てくる。水温の上昇や海流の変化で、魚類の獲れる地域や量が変わってくることも考えられる。

また、気候変動によって、米や小麦、大豆トウモロコシなど主要な農作物の収穫量が減ると懸念されている。気温の上昇は、食生活にも大きな影響を及ぼすのだ。

世界が取り組む脱炭素社会に向けた対策

世界が取り組んでいる脱炭素社会に向けた取り組みを見ていこう。

再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは、有限な化石燃料とは違い枯渇せずに再利用できるエネルギーをいう。水力や風力、地熱など自然の力を使った発電や、森林の伐材や家畜の排泄物などをバイオマス燃料にして発電するバイオマス発電、バイオマス熱利用などがある。再生可能エネルギーは比較的短時間で再生でき、何度も使えるだけではなく、二酸化炭素を排出しないメリットがある。

脱炭素社会を目指すために、再生可能エネルギーへのシフトが世界中で推奨されている。

水素エネルギー

水素エネルギーは、水素を燃焼させて電気と水を作り、その電気をエネルギーとして活用するものである。発電するときに、二酸化炭素は排出しない。水素エネルギーは、水だけではなくさまざまな物質の中に化合物として存在している。水素を取り出すことは簡単で、貯蔵することもできるためエネルギーとして活用しやすい。

ガスの中の水素と空気中の酸素を使って発電する家庭用燃料電池水素エネルギーや、燃料電池で走るバスなどすでに実用化されているものもあり、化石燃料に代わる脱炭素社会のエネルギー源として注目されている。

太陽光発電

太陽光を利用して発電する太陽光発電は、一般の住宅にも使われるなどすでに広く普及している。太陽光パネルには、シリコン半導体を使用した太陽光電池が使われている。

太陽光発電も、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーだ。屋根や空き地などのスペースに太陽光パネルを設置することで発電ができるため、非常用電源としても利用できる。

乗り物の脱炭素化

飛行機や自動車などの乗り物を動かすときにも大量の化石燃料が使われている。電気自動車や再生可能なエネルギーを燃料にできる飛行機を導入するなど、燃料を二酸化炭素が排出されない燃料に変えることで脱炭素社会を目指す企業も少なくない。

日本での電気自動車の普及率は世界より遅れており、2021年は普通乗用車全体の販売台数の約0.88%である。アメリカの2021年の電気自動車の普及率は約2.9%、EUの2021年の電気自動車の普及率は9.1%となっている。

日本の脱炭素社会実現に向けての対策

日本における脱炭素社会実現のための取り組みについても見ていこう。国や自治体が主体となって取り組むものや、他国と協力して脱炭素を目指す働きかけなどもある。

カーボンプライシング制度

カーボンプライシング制度は、二酸化炭素を排出した企業や法人を課税対象とし、炭素税を設定したり排出枠取引や国境調整措置を取ったりするものである。3つの方法は以下のようなものである。

・炭素税(地球温暖化対策税)
企業の二酸化炭素排出量に応じて課税額を設定する。二酸化炭素の排出量が1トン当たり289円の課税とする。

・排出枠取引
企業の二酸化炭素排出量に上限を設定して、それを超えた場合は罰金を課す制度。

・国境調整措置
輸出入品を製造するときに発生した二酸化炭素の排出量に応じて課税や減免を行う制度。

ゼロカーボンシティ

ゼロカーボンシティとは、2050年までに二酸化炭素の排出量実質ゼロを目標している地方公共団体を言う。脱炭素社会に向けた目標を設定し、温室効果ガスの排出量を把握したり再生可能エネルギーを普及させるPR活動を行ったりする。

2021年の8月31日時点で、444の自治体がゼロカーボンシティを表明している。

3E+Sによる電気の供給

3E+Sとは、エネルギーの安定供給(Energy Security)と経済性の向上(Economic Efficiency)、環境(Environment)の3つのEを維持しがら、安全性(Safety)を保つ考えをいう。特に電気供給にでは3E+Sに基づいた複数の発電方法を組み合わせて、電気供給を行うエネルギーミックスが推奨されている。

ESG投資

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重要視する企業を評価、分析し選んで投資することを指す。環境に配慮し社会へ貢献する企業に投資する投資家が増えることで、企業側もESGの評価や企業価値を高めるために、脱炭素社会に向けた取り組みに力を入れるようになる。

二国間クレジット制度

二国間クレジット制度とは、開発途上国と温室効果ガス排出削減について協力し合い、成果を二国間で分け合う制度である。開発途上国にとって低炭素エネルギーの開発や導入はコストがかかる。そのため日本の技術やシステム、製品などを提供することで、開発途上国でも温室効果ガスの排出を容易に減らせるようになる。

日本は開発途上国の成果をクレジットで受け取り、クレジットを利用して排出量の削減目標を補える仕組みになっている。

脱炭素に向けた企業の事例

脱炭素に取り組む企業の事例を具体的に紹介する。

株式会社セブン&アイ・ホールディングス

株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、グループ全体の8,821店舗に太陽光発電パネルを設置し、年間約4万2千トンの二酸化炭素排出量削減を実現している。また、水素で走る燃料電池を使った小型トラックの導入や、国内初のコンビニエンスストア併設の水素ステーションなども展開し、二酸化炭素排出量や総電力使用量の削減を目指している。

ヤオコー

食品スーパーマーケットのヤオコーでは、オール電化店舗や太陽光発電システムを使った再生エネルギー利用の取り組みを行っている。2020年3月末時点で、オール電化店舗は81店舗、太陽光発電システムを搭載した店舗は40店舗にのぼる。また5つの施設で再生利用可能エネルギーを100%導入、これによって年間の二酸化炭素排出量を7,900トン削減することに成功した。

ソフトバンク

ソフトバンクではパリ協定に賛同し、サプライチェーン全体で2050年度に温室効果ガス実質ゼロ、2030年度には自社の事業活動や電力消費などに伴い排出される温室効果ガスを実質ゼロにする目標を掲げている。具体的には基地局使用電力の再生可能エネルギー化したり、AIやIoT、ビッグデータなどを活用し電力の効率化を図ったりする取り組みを始めている。

トヨタ自動車

トヨタは「Toyota Environmental Challenge 2050」という環境長期ビジョンを設定し、グローバルでのCO2排出削減を目指している。

具体的な取り組みとしては、従来のガソリン車からハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、燃料電池車(FCV)へのシフトを推進している。これにより、車両ごとのCO2排出削減と併せて、自動車生産工程におけるエネルギー効率の向上、使用する電力の再生可能エネルギー化、そして水素社会の実現に向けた取り組みを行っている。トヨタは、2050年までに自動車製造、物流、オフィスワークにおけるCO2排出を90%削減する目標を掲げている。

日立製作所

日立製作所は、長期的な環境戦略「日立環境イノベーション2050」として、CO2排出ゼロを達成することを目指し、自社事業だけでなく、提供する製品やソリューションを通じて排出削減に貢献している。エネルギー効率の高い産業用機器の開発、再生可能エネルギーや各種エネルギー管理システムの販売などを積極的に行い、社会インフラ全体の脱炭素化に向けた技術革新を推進している。日立は、CO2排出量を、2024年度に基準年度比50%削減、2027年度に80%削減、2030年度にはゼロをロードマップとし、取り組みを推進すると公表している。

脱炭素社会とは環境と生物を守るための重要な課題

脱炭素社会とは、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする取り組みである。地球温暖化が加速する中、日本だけではなく世界の国々や企業において、再生可能エネルギーの利用や水素エネルギーなどを活用して持続可能な経済活動ができる仕組みを構築する必要があるだろう。

2050年の脱炭素社会に向けて、それぞれの国・企業で積極的な取り組みが求められる。

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