MaaSとは?意味や注目される背景、物流における活用、メリット・デメリットなどを紹介

2024.03.29

2023.06.15

MaaS とはモビリティ・アズ・ア・サービスの略で、電車、バス、タクシー、飛行機などあらゆる移動手段のルート案内や予約、購入などをワンストップで提供するサービスである。日本ではまだ広まっていないが、国土交通省が主体となり普及について議論がされている。MaaSのメリットやデメリット、課題などについて詳しく解説する。

MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)とは

MaaSとは、サービスとしての移動という意味のMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字を取ったものである。最新技術を用いて、電車・地下鉄・バス・飛行機・タクシーなどのあらゆる移動手段を効率化して利用者の利便性を高めるサービスだ。現在でも、料金や時間などで最適なルートを案内するアプリは多数あるが、MaaSではルート検索だけではない総合的な移動サービスの提供が可能である。

フィンランドで始まった取り組み

MaaSは、フィンランドが始めた実証実験によって世界中に広まり注目を集めるようになった。

2016年、フィンランドのMaaS Global社が中心となりスタートした実験では、タクシーやレンタルサイクル以外のヘルシンキ市内と隣接する都市をつなぐ公共交通機関をヘルシンキ市交通局が管理し、料金も統一した。

また、MaaSのアプリ「Whim」を使い、自家用車以外の公共交通機関やタクシー、レンタルサイクルなどをシームレスにつなげて、ルート検索・チケットの予約から決済までが完結できるようにした。

この実証実験の結果、ヘルシンキではアプリWhimの導入前には交通手段の利用割合が公共交通機関48%、自家用車40%、自転車9%だったが、Whimの提供以降は公共交通が74%と大幅に増え、自家用車の利用は20%近く減少した。

交通機関の予約や支払いも

MaaSでは移動をサービスと捉え、交通手段やルートの検索から、予約、決済までをアプリで完結できる。このように移動をサービスと捉えながら効率化させるのがMaaSである。MaaSは、人々の移動を便利に効率化するだけではなく、大きな課題を抱えている物流業界の問題解決にも役立つと期待されている。

MaaSを活用するメリットとは

MaaSを活用するメリットは、運賃や時間などもっとも適した交通機関を使った移動を検索できる以外にも、渋滞の解消や物流業界の輸送の効率化などが期待できる。また、国内外の観光客を誘致するなど、交通関係以外の産業の活性化にも大きな影響を与えると見られる。

人々の生活がより自由で便利になり、さらに最新技術で蓄積されたデータをもとに、個々のニーズに合わせたパーソナライズされたサービスが提供できる可能性もあるだろう。

あらゆる交通手段の組み合わせが検索できる

MaaSを使えば電車、バス、タクシー、シェアバイク、飛行機などあらゆる交通手段を組み合わせた目的地までの最適なルートを検索できる。

現在でも検索アプリを使って電車、バス、新幹線などを利用した場合の最短ルートの検索は可能だ。しかし、MaaSならルートの途中でタクシーに乗り換え方法やシェアサイクルを利用する方法など、より多岐に渡った移動手段を駆使したルートを提供してくれる。現在よりもより多くの手段から最適なルートを割り出せるのがMaaSである。

効率のいいルートを探せる

MaaSが一般的になれば、今以上にそのときもっとも効率のいいルートを探して移動ができる。従来の検索アプリでは、電車や地下鉄などに遅延が発生していることは知らせてくれるが、利用者が別のルートを新たに検索しなければ変わりのルートを提案してくれるわけではない。

しかしMaaSなら、天候や事故などによる遅延や運転見合わせなどがある場合は、すぐに目的地までの別のルートを探して提案してくれる。また、フィンランドで実験されたアプリWhimと同様に、毎月定額制で指定範囲の中の電車やタクシーが乗り放題になるサービスができれば、いつもとは異なるルートや交通手段を利用しても交通費の精算は必要なくなる。

渋滞の解消が図れる

MaaSは電車やバスの時刻表以外にリアルタイムの運行状況、渋滞情報、バスやタクシーの現在地情報などさまざまな交通データを取得して移動の効率化を図れる。

AIやビッグデータによる予測や分析を行うため、渋滞解消に役立つ。今後は、自動運転機能を搭載した車や、山間部や過疎地と空港を結ぶドローンがつながることで、交通機関の渋滞は大幅な減少や解消が見込めるとされている。渋滞が減れば、地球温暖化防止にも役立つだろう。

観光客の誘致に役立つ

MaaSが普及すれば観光業の活性化にもつながる。日本各地に観光資源はあるが、多くの観光客を輸送できる交通網が整っておらず、思うように観光業が発展していない地域も少なくない。

MaaSを使えば交通・運行エリアの最適化ができ、アクセスの不便な地域でも観光客を呼び込めるようになるだろう。言語対応ができるMaaSを開発すれば、インバウンドをターゲットにした観光業にも力を入れられるため、地方産業の活性化につながる。

物流業界の効率化につながる

MaaSの可能性は、一般の人の移動手段や観光客のための交通サービスの提供だけではない。MaaS導入によって交通渋滞が緩和されれば、物流や運送業界の業務の効率化にも役立つだろう。交通情報や渋滞緩和のほかにも、MaaSを使えば物流の配車や人員配置業務の効率化も可能だ。

物流業界は、働き方改革関連法によって2024年問題が懸念されている。MaaSの普及で早急に業務の効率化が進むことが期待されている。

交通以外の産業の活性化が図れる

MaaSの導入により、人々の移動に関する膨大なデータを集積できる。人がいつどこにどんなときに集まるのかを分析できれば、ビッグデータをもとに地域情報やショッピングの情報、住居に関する提案や保険の案内など、さまざまな分野で利用者に有益な情報を提供できる。MaaSは交通機関の企業だけではなく、多くの産業の活性化の助けになるのだ。

MaaSのデメリット

最新技術を利用したMaaSは、今後の交通期間における利便性の画期的な向上が期待できる。さまざまな移動手段をシームレスにつなげることで、今まではなかった新たなビジネスやサービスも生まれるだろう。しかし、MaaSにはデメリットがないわけではない。特定の業界がダメージを受けたりITシステムがトラブルに陥って使用不能になったりする可能性もある。

また、利用者のデータを活用するため、個人情報の保護に関するガイドラインの制定も必要となるだろう。

自動車業界へのダメージ

MaaSでは、主に鉄道やバス、地下鉄、タクシーなどの公共交通機関を使った移動手段を効率化することサービスに力を入れる。そのため、自家用車での移動よりも公共交通機関での移動の方が安く、スムーズに移動できるとなれば、自家用車を所有するメリットがあまりないと感じる人も増えるだろう。結果として、車の販売台数が減少し自動車業界にダメージが及ぶ可能性がある。

MaaSが一般的に普及するようになった場合、自動車業界はどのようにして利益を確保するのか変化が求められるだろう。

システムのトラブル

MaaSではさまざまな最新システムを連携させて情報のやりとりを行いながら交通サービスを提供する。そのため、システムにトラブルが起きると多くの利用者に影響が広がる恐れがある。交通システムだけではなくキャリア会社のシステム障害や、クレジットカードの決済システムの不具合などでも広範囲に支障が出るだろう。システム障害に対して迅速に対応できる体制を整えておく必要がある。

物流・運送業界でMaaSを導入するメリット

MaaSは一般の人々への交通サービスだけではなく、物流や運送業界で導入するメリットも多数ある。物流・運送業界が提供するサービスは、私たちの生活に欠かせないものである。MaaSを用いることで業務の効率化を図れるため、さらに利用者の利便性も高まるだろう。

業務の効率化

MaaSを導入すれば、積載量や配達ルート、配送時間など運行リアの最適化が可能になる。現在の車両の位置情報をもとに配車や人員を配置できるので業務を効率化できる。また、収集したデータを分析して最適な運行管理をすることで受発注に適した便数の増減も行えるだろう。

業務の効率化を図れれば、ドライバーへの過度な負担を軽減させ、離職率の低下や労働環境の改善も期待できる。

渋滞の緩和

MaaSで運送ルートの交通状況をリアルタイムに正確に把握できるので、状況に適したルートを選べる。渋滞を避けた配送が可能になるので、道路状況が改善され渋滞の緩和に役立つだけではなく、道路状況による配達遅延が減少しスムーズな配送が行え、顧客の満足度向上にもつながるだろう。

環境への配慮

MaaSが普及すると公共交通機関の利用が格段に便利になるから、マイカーを使う人が減る可能性がある。物流業界でも業務に適した配車を行えるため、適切な積載量の車を、もっとも最短のルートで運行できる。つまり、渋滞緩和によってアイドリング中に発生する排気ガスも減少し、都市部の大気汚染問題の解消が期待できるだろう。ひいては、地球全体の早急な課題である地球温暖化の抑止につながる。

MaaS導入を進める際の課題

フィンランドでの実証実験で大きな成果を得られたMaaSだが、日本で実際に本格的に導入するためには、さまざまな課題を乗り越えなければいけない。MaaS実現までにどのような課題をクリアするべきなのか0〜4に分類した統合レベルがあるが、日本はまだレベル1の段階であるとされる。

今後、日本でMaaSが普及していくときの問題点について詳しく見ていこう。

法整備が必要

MaaSは、従来の交通機関を使った移動のほかに次世代のテクノロジーを使った新たな移動サービスなどを取り入れることも可能だ。しかし、公共交通機関では安全性への懸念から、免許制を取るなどして、他業種からの参入のハードルを高くしている。

例えばタクシーの場合、賃金を取って自家用車で人を運ぶことは法律で禁止されている。また、乗合いタクシーもできない。バスの運行ルートは、事前に届けたルートで運行するため、時間帯や利用者の数によって本数を増減するなどの柔軟な対応が難しい。重要なインフラに関する事業は厳しい規制があるものが多く、MaaSでより利便性の高いサービスを提供するには、新たな法案の提出や法律の改正などが必要になる。

運賃の改定が必要

日本では、公共交通機関の運賃の設定も簡単ではない。運賃を変更する場合は、国土交通大臣の認可と届出が必要になる。そのためシームレスな交通サービスが実現しても、1か月定額の乗り放題などの新たな料金をすぐに設定することが難しい。実証実験を行う場合は、特別区間のみの利用とする、行政から特別な許可を得るなどの対策を取らなければいけない。

都市部以外でのニーズが低い

MaaSは、人口が多く公共交通機関網が発達している都市部では非常に有効な交通サービスだが、地方ではニーズが低い。人口が減少し利用者が激減している地域では、公共交通機関が撤退したり一部路線を廃止したりするところもある。

そのため、生活する上で公共交通機関を利用するのは不便なため、自家用車を所有する割合が高くなっている。公共交通網がほとんど機能していないエリアでは、MaaSのメリットを活かせない場合もある。地方の場合は、シェアサイクルやライドシェアなどその地域にあった新たな移動手段を活用したサービスを考える必要があるだろう。

データの取り扱いと共有方法

MaaSを導入する場合、時刻表や運行状況など、公共交通機関の事業者それぞれが得るデータをオープン化して連携する必要がある。MaaSのためにフォーマットを統一してデータを共有しなければいけないため、その方法や取り扱いなどについての取り決めが不可欠だ。どんな形式が各事業者にとって扱いやすく、安全なのかを自治体やIT企業なども一緒になって議論し開発しなければいけない。

日本におけるMaaSの今後の展望

現在、日本においては民間だけではなく行政もMaaSのサービス実現に向けた取り組みを行っている。日本でもWhimは地域限定で導入し、実証実験されることが決まっている。少子高齢化や都市への人口集中、および地方の過疎化などの問題がある中で、MaaSがどれだけの効果を発揮するのか注目される。

Maasサービスの事例

MaaS Global – Whim

前述の通り、MaaS Globalはフィンランド発祥の企業で、Whimというアプリを通じたMaaS(Mobility as a Service)サービスを提供している。

Whimアプリは、ユーザーが一つのプラットフォーム上で公共交通機関、タクシー、レンタカー、シェアサイクルなど様々な交通手段を検索、予約、支払いを行えるサービスだ。ユーザーは利用したいサービスを求め、月額定額プランや都度払いでそれらを利用可能。これにより、ユーザーは自動車の所有よりも柔軟でコスト効率の良い移動手段を選択できる。Whimは、持続可能で効率的な都市型モビリティの推進を目指し、ヘルシンキを始点にヨーロッパなど国際的に展開を進めている。

ウーバー・テクノロジーズ

ウーバーはMaaSの先駆者として知られ、スマートフォンアプリを通じて世界各地でライドシェアリングサービスを提供しています。ウーバーのプラットフォームは、乗客と近くのドライバーをリアルタイムでマッチングし、簡単な操作でタクシーのような役割を果たす。

また、ウーバーはフードデリバリーサービス「Uber Eats」や、自転車および電動スクーターシェアリングサービス「Jump」を統合し、都市内の移動手段の選択肢を広げている。最近では、都市と地域をつなぐ「ウーバートランジット」や、ウーバーの技術を使った公共交通の最適化サービスの実証実験にも取り組み、MaaSエコシステム全体の成長に寄与している。

おわりに

MaaSは、鉄道やバス、飛行機、タクシーなどあらゆる交通機関をシームレスにつなぎ、もっとも効率的に移動できるサービスである。日本においても官民両方で導入に向けたさまざまな取り組みが始まっている。MaaSを導入すれば業務の効率化や渋滞の緩和、環境保護など多くのメリットをもたらしてくれるだろう。一方で、法整備やデータの取り扱いなど解決すべき課題も多くあり、すぐには導入が難しい。

問題点を把握して、実現に向けて異業種同士が手を取り合い1歩ずつ進んでいくことが大切だ。

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