食品ロスとは?日本や世界の現状、企業の取り組みや対策の事例などを紹介

2024.03.29

2023.06.15

まだ食べられるはずなのに捨てられてしまう食品のことを「食品ロス」と言う。世界では約13億tの食品が廃棄されており、SDGsにも一人当たりの食品廃棄物を半減させる目標が掲げられている。

本記事では、食品ロスとは何か、放置することで発生する問題点やSDGsとの関係、日本や世界の食品ロスの現状、実際に企業が取り組んでいる対策を解説していく。

目次

食品ロスとは

食品ロスとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。世界では毎年、約13億t、日本でも年間522万tの食品ロスが発生している。

食品ロスを放置することの問題点

食品ロスを放置することはどのような問題を引き起こしているのか。

焼却時に二酸化炭素を排出してしまう

食品ロスは、最終的には可燃ごみとして廃棄される。ごみを廃棄する際に問題となるのが二酸化炭素の排出だ。廃棄された食品を焼却する際に、地球温暖化に大きな影響を及ぼしている二酸化炭素を排出してしまう。

将来の人口増加に伴い食糧不足へ

世界の人口は現在約80億人。国連の世界人口推計2019年版では2050年に97億人に増加すると予測されている。(※1)食品ロスをそのまま放置していると、世界の人口増加に伴う食糧危機に対応できなくなってしまう。

※1 国際連合広報センター 世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果(日本語訳)

食品ロスとSDGsの関係

2030年までに達成すべき国際目標として定められたSDGs(持続可能な開発目標)は、17のゴールと169のターゲットで構成されている。その中の「12 つくる責任 つかう責任」のターゲット12.3では次のことが書かれている。

”2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。”(※2)

※2:農林水産省 SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット 

この目標を達成するためには個人だけでなく自治体や事業者など皆で取り組んでいかなければならない。

日本の食品ロスの現状

日本の食品ロス量

では、日本ではどのくらい食品ロスがあるのか。令和2年度では、年間522万tに上ると言われている。これは1人当たり年間約41kgで、一日にするとお茶碗1杯分のご飯を捨てている量と近い。

食品ロスには、事業活動に伴い発生する食品ロスと、各家庭から発生する食品ロスの2つがあり、事業系の食品ロスは275万t、家庭形の食品ロスは247万t発生しているのが現状だ。

参照:環境省 我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和2年度)の公表について

日本の食品ロスの原因

日本でこれだけの食品ロスが発生する原因は、事業系食品ロスと家庭系食品ロスで異なっている。

事業系食品ロスの原因は、食べ残しや売れ残りだ。例えば、製造段階において、食べられる食品であっても規格外を理由に廃棄されることがある。また、製造業者では食品の納入の期限を、賞味期限の3分の1までにしなければならないという「3分の1ルール」の商習慣がある。これにより返品が発生し、食品ロスに繋がっている。外食産業での食べ残しも食品ロスの原因の一つだ。

家庭系食品ロスは、調理されて食べなかった食べ残しによる廃棄と、消費期限切れなどで購入したのに食べることなく廃棄されることが原因である。

日本の食品ロスへの対策

日本では、食品リサイクル法で、事業系食品ロスの削減について、2000年度比(547万t)で、2030年度までに273万tまで半減させる目標を立てている。具体的な取り組みは、賞味期限の延長と年月表示化や、納品期限の緩和などの商習慣を見直すこと、食べきり運動の推進など。(※3)

また、令和元年10月1日には「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行された。食品ロス削減推進法では、毎年10月を食品ロス削減月間とし、特に10月30日は食品ロス削減の日とされている。基本的な施策としては、食品ロスの実態調査や効果的な削減方法に関する調査研究、消費者や事業者などに対しての教育や知識の普及などがある。(※4)

※3:農林水産省 「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」18ページ
※4:「食品ロスの削減の推進に関する法律の概要

世界の食品ロスの現状

世界の食品ロス量

世界では、毎年約13億tの食料が廃棄され、これは食糧生産量の約3分の1にあたると、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書で発表されている。

参照:FAO(国際連合食糧農業機関)発行、国際農林業協働協会(JAICAF)日本語訳

世界の食料ロス と食料廃棄」要旨

世界人口の10.5%が飢餓に直面

FAOが発行した「世界の食料安全保障と栄養の現状 2022年報告」によると、2021年には世界全体で 7億200万から8億2,800万人が飢餓に直面していたと推定されている。これは世界人口の8.9%から10.5%に相当する数字だ。まだ食べられる食品が廃棄される一方で、飢餓に直面する人が存在している現状がある。

参照:国際連合食糧農業機関(FAO)「世界の食料安全保障と栄養の現状 2022年報告」13ページ

先進国と途上国の背景

飢餓がある国では食品ロスは発生していないようなイメージを持つ人もいるかもしれないが、食品ロスは先進国だけではなく、途上国でも発生している。

先進国では、加工や外食、家庭などでの食品ロスが多くなっている。食べられないのに買ってしまったり、賞味期限を切らして処分してしまったりと、経済的な豊かさからくる食品ロスだ。

一方で、発展途上国では生産農家の段階で、出荷前に傷んだ作物は廃棄しなければならず、食品ロスが発生している。農家の設備や作物の輸出手段がなく、廃棄せざるを得ないという状況だ。

解決に向けた企業の取り組みや対策

ここからは食品ロス削減に向けて企業が実際に取り組んでいる対策を紹介していく。紹介するのは各企業の取り組みの一部であるため、気になる方はさらに調べてみてほしい。

セブン&アイ・ホールディングス

・商品の納品期限の緩和

セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカドー、ヨークベニマル、ヨークで商品の納品期限の緩和を行っている。これまで商品の賞味期限が残り3分の1になる前に店舗へ納品する「3分の1ルール」で運用をしていたが、2012年以降は製造日から賞味期限の半分までに納品を行うように緩和がされている。

・てまえどりの推進

すぐに食べる予定のお客様に手前に置いてある商品から選んで購入してもらう「てまえどり」を推進している。

・エシカルプロジェクトの推進

2020年5月よりセブン-イレブン・ジャパンでは、エシカルプロジェクトとして販売期限の近い対象商品に、店頭税抜価格の 5%分のnanacoボーナスポイントを付与している。

・消費期限延長を実現

セブン-イレブン・ジャパンでは、オリジナルデイリー商品において、消費期限延長(長鮮度商品開発)を実現している。保存料の不使用や味、品質の向上と合わせて、工場の技術を革新することで消費期限を延長してきた。2022年4月末には、オリジナルデイリー商品で24時間以上の販売期限があるものは約84%になっている。

・生物分解型生ごみ処理機の導入

生物分解型生ごみ処理機は、リサイクルに向かない生ごみを微生物の働きにより水とCO2に分解し、焼却処分に比べCO2の発生量を低減できるものだ。イトーヨーカドーやセブン-イレブンの一部店舗で導入されている。

参考:食品ロス・食品リサイクル対策

ファミリーマート

・食品廃棄物再生利用

生ゴミ回収リサイクルシステムで食品廃棄物を再資源化している。2008年には食品残さを、飼料工場のある養豚場に運搬し、その飼料で育った豚を使用したお弁当などを製造した。

・廃食用油リサイクル

店舗で揚げ物を作る際に出る廃食用油を、廃食用油収集運搬業者が回収し、養鶏用飼料の添加剤や石けんなどにリサイクルをしている。リサイクルで作られた薬用ハンドソープは店頭でも使用されている。

・ガス置換包装で消費期限を延長

特殊な包装技術であるガス置換包装により、消費期限を最大3日延長した。ガス置換包装は容器内部を真空状態にし、商品に適したガスを注入して密封するものだ。

・規格外の食材を使用する

規格外で廃棄されていた食材をファミリーマートのオリジナル商品の原材料として使っている。例えば「ごろごろ果肉バナナミルク」は、株式会社ドールの規格外のバナナである「もったいないバナナ」と、規格外のファミマルのバナナを使用した果肉が入った商品だ。

参考:食品ロスの削減

ローソン

・生産加工管理システムの導入

「生産加工管理システム」を導入し、製造段階で原材料の投入量や盛り付け量などを全てグラム単位で計量することで無駄な廃棄を発生させないようにしている。

・セミオート発注システムの導入

店舗では商品発注に「セミオート(半自動)発注システム」を導入している。これは売上や天気などの情報を分析して、自動的に適正な発注数を推奨するシステムで、無駄に廃棄が出ないように取り組んでいる。

・一般社団法人全国フードバンク推進協議会へ寄贈

納品期限切れのオリジナルのお菓子、日用品などを定期的に一般社団法人全国フードバンク推進協議会へ寄贈している。食品ロスの削減だけでなく、食品や日用品支援が必要な家庭、施設の支援にも繋がる取り組みだ。

・廃油のリサイクル

2006年より廃油リサイクルを実施している。産業廃棄物の収集運搬業者が店舗で出た廃油を回収し、リサイクル工場に搬入する。そして飼料用添加剤や石けん、バイオディーゼル燃料へ再生される。

・売れ残った食品を飼料化、肥料化

2022年3月末では2,496店舗で売れ残った食品を飼料や肥料にリサイクルする取り組みを行っている。

参考:地球環境保全の取り組み

イオングループ

・真空パックで鮮度保持期限を延長

イオングループではダウ社と、真空パックの包装にすることで、鮮度保持期間の延長や、輸送時のダメージからの保護、機能向上することに取り組んでいる。

・年月表示へ切り替え

トップバリュの加工食品では、賞味期限が1年以上の商品を年月表示へ変更している。

・調理くずが発生しない献立キットを開発

「クッキット」という調理する際に調理くずが発生しない献立キットを開発した。材料はカットされているため、下ごしらえが不要となっていて調理くずが発生しない。

・食品廃棄物の有効活用

「イオン完結型食品リサイクルループ」として、食品残さをイオンの直営農場で堆肥として活用している。

参考:イオングループ食品廃棄物削減目標 イオンの食品廃棄物削減の取り組み

ヤオコー

・可食部の端材を商品に使用

カットフルーツ商品のパイナップルを商品化する際に出る可食部の端材を、ドライフルーツとして別の商品に商品化している。

・産地パックで賞味期限を延長

精肉の鶏肉銘柄どりでトレーを使わないノントレーを取り入れ、産地パックで高鮮度を維持している。それにより賞味期限の延長を実現した。

・納品期限の延長

鮮度管理基準としてこれまで製造日から店舗に納品されるまで、3分の1ルールを取り入れていたが、2分の1のルールへの見直しを実施した。物流センター内での廃棄食品の削減や返品作業の減少効果に繋がっている。

・食品残さをリサイクル

店舗から排出される野菜くずや魚のあらなどの食品残さは、リサイクル工場で堆肥にリサイクルされる。一部は自社農場ヤオコーファームで使用する肥料にも活用されている。

参考:持続可能な成長のために 環境

バローホールディングス

・納品期限の緩和

賞味期限の3分の1以内に納品していたものを、2分の1まで緩和することを実施している。これによりメーカーへの返品は3分の1まで削減された。

・加工食品等の自動発注

自動発注により発注を予測する取り組みを行っている。これによりメーカー側の納品や生産計画に寄与できるようになった。

参考:株式会社バローホールディングスにおける取組

すかいらーくグループ

・各野菜類の歩留まりの目標値を設定

工場では野菜の食品ロスを削減するために、各野菜類の歩留まりの目標値を設定し、長ネギの根に近い部分を出汁取り用に使うことなどを実施している。

・規格外の商品を従業員向けに活用

計量ミスを減らすように計量手順を細かく規定し、従業員を教育することや、食材の日付管理の徹底などを行った上で、発生した規格外の商品は従業員向けに販売をしている。また、従業員食堂のメニューにも利用している。

・肥料、飼料にリサイクル

発生してしまった食品廃棄物は飼料、肥料へリサイクルをしている。

・自動発注システムの導入

自動発注システムを導入することで、適切な発注量になるように調節している。

・もったいないパック

お客様が食べきれる量を選べるようにご飯の量を選択できるようにする取り組みや、定食のおかずだけを注文できるようにする取り組みを実施している。その上で、余ってしまった場合は、希望に合わせて一部メニューを除き、持ち帰って食べられる「もったいないパック」を用意している。デジタルメニューのあるブランドでは、専用ボタンからもったいないパックを注文できるようになっている。

参考:食品ロス削減

株式会社吉野家

・食べ残しが出ないように分析

実際に発生した食べ残しを記録、分析している。味のブレとの関連付けや、厨房オペレーションを修正するなど、食べ残しが出ないように取り組んでいる。

・牛脂100%リサイクル

1976年から、調理過程で発生する牛脂を油脂化・油脂製品化による100%リサイクルを実施している。吉野家には牛丼を仕込む際に出る油を、タレと牛脂に分離する仕組みがあり、店舗で牛脂が回収されるようになっている。全国のリサイクルルートを整備し、年間約3,300tの牛脂が、再生利用事業者により飼料、脂肪酸、製品原料、発電燃料に再生されている。

参考:Promise to Society(Environment)/ 「社会」への約束

イケア・ジャパン

スウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー イケアの日本法人イケア・ジャパンは、2018年6月から開始したAIテクノロジーとスマートスケールを用いた食品廃棄物削減の取り組みで、2022年7月時点で、食品廃棄物発生量を62%削減し、173,409食分相当(1食400g換算)を節約、およびCO2排出量298トン相当の削減を達成したことを発表。イケアグループのイケア店舗全体で掲げる「2022年末までに食品廃棄物発生量50%削減」の目標に対し、1年前倒しでの達成にイケア・ジャパンも貢献している。

参考:イケア・ジャパン、食品廃棄物50%削減の目標を早期に達成

食品ロスを出さない取り組みとリサイクルする取り組み

各企業の取り組みを見ると、まず食品ロスを出さないような計量の仕組みや、自動発注による適正な発注量の分析、消費期限の延長がされている。一方でどうしても出てしまう食品ロスは、リサイクルできるように取り組んでいる。完全に食品ロスを出さないことは難しいが、無駄を出さない工夫と、リサイクルできるような仕組み作りが大切だ。

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