ダイナミックケイパビリテとは?意味やDXとの関係、日本企業の事例などを解説

2024.03.26

2023.06.16

未来には何が起こるか分からず、近年では新型コロナウイルスの感染拡大により生活様式が大きく変化した。「ダイナミック・ケイパビリティ」とはそのような不確実性の高い時代に外部環境に対応し、企業を変容させていくことだ。「2020年版ものづくり白書」で「企業変革力」として取り上げられ、DXの重要性も説かれている。

本記事では、ダイナミック・ケイパビリティの意味や必要な力、求められる背景、DXとの関係性、日本企業の例を解説していく。

ダイナミック・ケイパビリティとは?

ダイナミック・ケイパビリティの意味

「ダイナミック・ケイパビリティ」とは、変化する環境や状況に適応し、企業を柔軟に変えていく能力のこと。カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された戦略経営論だ。

経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省で共同執筆された「2020年版ものづくり白書」ではダイナミック・ケイパビリティを「企業変革力」と定義し、製造業に必要であるとして取り上げている。新型コロナウイルスの感染拡大があったように、未来は予想していなかったことが起こる。業界や世界の状況も変化していく中で、企業はそれに合わせて自らを変革していく力が必要であるという考えだ。

ダイナミック・ケイパビリティの元となった2つの理論

ダイナミック・ケイパビリティが発展する以前に、「競争戦略論」と「資源ベース論」という2つの理論があった。

競争戦略論

「競争戦略論」は、1980年代にハーバード大学のマイケル・ポーター氏が提唱した理論。他社と差別化を図ることで、顧客を獲得していく考えだ。差別化を図ることで、市場において自社の地位を強化させる。ポーター氏は、業界の状況など外的要因により企業の戦略行動は変わるため、外的要因で企業の業績も決まるという考えだ。だが、同じ業界内でも企業によって戦略行動や業績は異なることが指摘される。

資源ベース論

「資源ベース論」は1984年にB・ワーナーフェルト氏によって提唱され、1991年にジェイ B.バーニー氏の研究で注目された。企業の持つ資源が、企業の戦略行動や業績を決めていくという考えだ。人材、技術、強みなどの資源が企業の競争優位の上で大切である。しかし環境が変わった場合は、競争優位にはならない可能性がある。

環境や業界の状況を見る「競争戦略論」と、企業が持つ資源を見る「資源ベース論」、どちらかだけでは競争力を保てない。そこで外部環境に適応しながら企業がその変化に対応し、変革を遂げていく「ダイナミック・ケイパビリティ」が注目されるようになった。

ダイナミック・ケイパビリティとオーディナリー・ケイパビリティ

ダイナミック・ケイパビリティは、環境に合わせて自己を変革していく力だ。一方で、「オーディナリー・ケイパビリティ」という考え方がある。これは通常能力のことで、与えられた経営資源を効率的に活用し、利益を最大化していく力のこと。労働生産性を高めるといったオーディナリー・ケイパビリティも組織には必要なことだが、それだけでは環境が変わった際に適応できない。オーディナリー・ケイパビリティを高めるがゆえに、それを変更することにコストが生じ、外部環境の変化になかなか対応していけなくなってしまう。

ダイナミック・ケイパビリティに必要な3つの能力

デイヴィッド・J・ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティに次の3つの能力が必要だとしている。

感知(センシング)

環境の変化で生じる脅威、危機を感知する力のこと。他社や業界などの動向、顧客ニーズなどを感知する。

捕捉(シージング)

機会に応じて、既にある資源や知識、技術を再構築、再利用していく能力のこと。

変容(トランスフォーミング)

競争力を保つため、社内の資源を変容させていくこと。

ダイナミック・ケイパビリティを向上させるためには、変化する環境や市場の動き、顧客のニーズを感知や把握をし、見出せる機会を捉え、既存の資源を再構築、再利用することや、資源を変容させていくことで、組織の競争力が保たれていく、と捉えられる。

ダイナミック・ケイパビリティが求められる背景・理由

「2020年版ものづくり白書 概要」では、次のように書かれている。

”不確実性に対応するためには、製造業の企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を高める必要があり、その際デジタル化が有効。”

引用:2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)「概要」

2020年版ものづくり白書 総論、第1章 構成(p2)

過去には、バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災などで環境が変化してきた。このような不確実性に対応していくためにダイナミック・ケイパビリティは必要になる。具体的に求められる理由は何だろうか。例えば次のようなことが挙げられる。

働き方の変化

近年での出来事を考えると、2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、誰もが予想しなかった未来が訪れた。これにより私たちの生活は思いもよらず変化し、働き方にも大きな影響を与えた。これまで会社に社員が集い、同じ空間で仕事をしてきた組織が、突然それぞれの場所で業務を進めなくてはならなくなり、リモートワークへの適応に苦労した会社もあったかもしれない。また、新型コロナウイルスの影響だけでなく、働き方改革への対応により働き方も変化した。

デジタル技術の革新

モノのインターネット化である「IoT」やAI技術やデジタル技術が進むことで私たちの生活は大きく変わった。こうした現在進行している第4次産業革命、そしてこれから到来が見据えられている第5次産業革命の動きもある。新技術を活用できるかは企業にとっても大切なことだ。

これら以外にも自然災害の発生や、米中貿易摩擦、英国のEU離脱など、社会情勢、世界情勢が移り変わっていること。また、グローバル化により国際競争が激化していることや、ライフスタイルの変化により顧客のニーズが変化していることから、ダイナミック・ケイパビリティが求められていると言える。

ダイナミック・ケイパビリティとDXの関係性

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

「2020年版ものづくり白書」ではダイナミック・ケイパビリティにはデジタルトランスフォーメーションが必要だと言われている。そもそもデジタルトランスフォーメーションとは、AIや、IoTなどのデジタル技術を活用し、業務やビジネスを変革し、競争上の優位性を図ることだ。頭文字を取り、「DX」と略される。

なぜダイナミック・ケイパビリティにDXが必要か

ダイナミック・ケイパビリティにDXが必要な理由は、DXが「感知(センシング)」、「捕捉(シージング)」、「変容(トランスフォーミング)」の3つの能力を向上させるためだ。

デジタル技術を使い、データ収集や分析を行うことは市場でどのようなことが起こっているかなどを感知する能力を向上させる。また、デジタル技術を使った製品により顧客のデータを収集することで、顧客ニーズを把握し、技術や知識を再構築できるなど、捕捉能力にも繋がる。デジタル技術を活用し、ビジネスを変革させていくDXは、変容そのものである。

もちろんDXを行うことで、業務の効率化やコストを削減できるなど、オーディナリー・ケイパビリティを高めることになる。しかしDXはオーディナリー・ケイパビリティだけでなく、ダイナミック・ケイパビリティに必要な能力を向上させる存在だ。

ダイナミック・ケイパビリティの日本企業の例

ダイナミック・ケイパビリティの日本企業の例を2つ紹介しよう。

富士フイルムホールディングス

富士フイルムホールディングスの特徴的なスタンスは、カニバライゼーションを恐れずに新しい市場を開拓することだ。縮小するのであれば自分たちが取り組んでいる事業を侵食しても開拓するという考え方がある。

例えば、売上の6割を占めていた写真フィルムなどの写真事業が、2010年にデジタル化が進み、写真フィルムの市場がピーク時と比べ、1/10まで縮小するという危機があった。しかし、既に銀塩カメラの全盛期であった1970年代からデジタルカメラの研究をし、1988年には世界初のフルデジタルカメラを開発、発表を行っていた背景がある。

また、写真フィルム市場の縮小に伴い、写真事業の生産や販売体制の規模を縮小させ、ディスプレイ材料事業に投資も行った。生産拠点の新設などの投資をしていたことで、写真フィルム事業の縮小と、次の分野の拡大の波に乗り、需要に対応ができた。

その他にも、写真フィルム事業で培った技術は何だったのか、それを応用できる分野は何かを考え、年間2,000億円規模の研究開発投資を行った。2006年には「富士フイルム先進研究所」を設立し、新規事業や新製品の開発に重要となるコア技術の開発を進めてきた。

ヘルスケアへの参入も行ってきた。バイオ医薬品の市場拡大を見据えてバイオCDMO企業の2社を買収するなど、本格的にバイオCDMOのビジネスに参入。また、最先端の画像処理技術と、最新のAI技術を合わせ、医療ITにおいて次世代の画像診断に対する価値を創出する。2015年からはM&Aを積極的に行い、再生医療に本格参入をするなど、新たな分野への参入をし、成長を遂げてきた。

ダイキン工業

ダイキン工業の特徴は、市場ニーズがある場所で生産する「市場最寄化生産戦略」だ。「市場最寄化生産戦略」は、国や地域など各市場のニーズを満たした製品を現地で生産することで、スピーディーに提供する戦略のこと。

ダイキン工業はエアコン、換気設備など、家庭向けからビルなどの大型の製品までを手掛ける空調機のメーカーだ。エアコンは特に、天気や季節によって需要変動の大きい製品のため、夏に向けてあらかじめ作っておくことはリスクが高い。そこで「市場最寄化生産戦略」を取り入れ、現地で製品を作り、現地で販売を始めた。1972年にベルギーに生産工場を設立し、その後アメリカ、中国、タイ、インド、マレーシア、ベトナムに工場を設立している。

「市場最寄化生産戦略」は為替変動リスクにも強く、製品を届けるまでのリードタイムも短くなる。しかし、各国、各地が自立してしまうと、技術革新は起きにくく、無駄が発生しやすいという特徴もある。

これに対し、ダイキン工業ではベースモデルを作ることで対応した。日本国内でベースとなるモデルを作り、地域のニーズに合わせて機能を組み替えていくものだ。また、市場最寄化戦略を行うために生産ラインにおいて「搬送」と「検査」の2つに分け、搬送モジュール、検査モジュールを組み合わせて生産ラインを構築している。これにより生産量や地域のニーズに対応しやすくなり、生産スピードも高められる。

参考:経済産業省 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化

DXを取り入れ、ダイナミック・ケイパビリティを向上させよう

ダイナミック・ケイパビリティを向上させるにはDXが必要である。まず市場や外部環境で何が起こっているのか、データ収集と分析を行う。そして製品に対するデータ等を集めて自社の資源を再構築、再利用をしていく。デジタル技術を活用することで、外部環境の変化に対応できるようになり、競争力の強化に繋げられる可能性があるのだ。

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