LTV(顧客生涯価値)とは?意味や計算方法、向上させる重要性などを解説

2024.03.27

2023.06.27

昨今、人口の減少や市場の飽和などが影響し、新規顧客の獲得が困難となっている。そこで重要視されるようになったのが、マーケティング指標の一つであるLTV(顧客生涯価値)だ。

自社のLTVを把握することはマーケティング戦略を立案するときにも役立ち、またLTVが高ければ経営の安定化にもつながる。多様な業界で用いられるLTVに関して、本記事ではその意味から重要性、計算方法、高めるポイント、CAC・NPSとの関係性まで解説していく。

LTV(顧客生涯価値)の意味とは?

LTVとは、「Life Time Value(ライフタイムバリュー)」の頭文字を取った用語である。日本語では「顧客生涯価値」を意味し、顧客と取引を開始してから終了するまでに得られる利益を指す。

例えば、同じ顧客と一度の取引だけでなく二度目の取引も行う場合、二度目以降の取引で得られる収益も含めてLTVは算出される。つまり、LTVを高めるためには、既存の顧客と継続的に取引することが重要。

昨今では、消費者行動の多様化や新規顧客を獲得するための競争激化などが影響し、顧客シェアの拡大が一層困難となっている。しかし、LTVの指標を設定して最大化していけば、新規開拓をせずとも収益の安定化・営業コストの削減など、さまざまなメリットを享受可能。

健全な企業経営を図るためにも、LTVを把握することは非常に重要と言えるだろう。

LTVを把握することによって、高い顧客グループを優先的にターゲットにすることで、マーケティングやサービスの資源をより効率的に配分することによる資源配分の最適化や、LTVを基にマーケティング投資のリターンを評価し、最も利益を生む顧客セグメントに対する投資を増やすことで、長期的なROIを最大化ROIの最大化も期待できるなど、LTVを把握し高めていくとは経営において非常に重要なポイントとなる。

LTV(顧客生涯価値)を高める重要性

ここでは、LTVを把握した上で、高める重要性について解説していく。

新規顧客の獲得には多額のコストが発生する

新規顧客を獲得する手法としては、広告運用・SNS運用・アプリ運用などのオンライン施策から、新聞折込・ポスティング・展示会といったオフライン施策まで多種多様である。

しかし、マーケティング業界には、新規顧客に販売するコストは既存顧客に比べて5倍のコストが発生する「1:5の法則」という用語が存在しており、顧客の新規開拓には多額のコストが必要となる。

実際、新規開拓するまでには集客・アプローチ・商談・提案・契約・アフターフォローといったプロセスを踏む必要があり、特にアプローチ・商談・提案の工程では多くの時間と工数が発生。コストの増加に伴う利益の圧迫も招いてしまう。

一方、既存顧客は自社に対する関心度がすでに高く、すぐに関連商品やオプションの提案といったアプローチ行為に移れるのが大きなメリット。営業コストを抑えつつ、安定した利益を生み出し続けるためにも、LTVを高めることは重要と考えられる。

新規顧客の獲得が難しくなっている

近年のビジネス市場において、加速しているのが市場の飽和に伴う新規顧客獲得の困難化だ。

デジタル革新・DXの推進により、多くの企業がITシステムを導入して業務の効率化や正確性の向上を図っており、商品・サービスの提供スピードも増している。一方で、市場の成熟スピードが早まり、新規顧客を獲得し難くなっているのも実情。

また、消費者行動の多様化やコロナ禍が影響し、異業種参入のニーズも高まっている。例えば、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、日本が深刻なマスク不足に陥っていたのは記憶に新しい。

マスク不足という社会問題を解決すべく、政府の要請を受けて大手電気機器メーカーのSHARPがマスク製造に参入したのも大きな話題を集めた。先行きが不透明な時代では、成長市場に異業種参入する企業も多く、必然的に競争は激化。

さらに、日本の人口減少も市場の成熟化を助長している。新規開拓は利益や競争力を向上させるためにも重要であるが、新規顧客の獲得が一層困難となっている現代においては、LTVを高めることも不可欠と言えるだろう。

LTV(顧客生涯価値)の計算方法

LTVの算出方法はさまざまであり、企業のビジネスモデルによって最適な計算手法も異なる。ここでは、ビジネスモデル別に見たLTVの算出方法を2つ紹介していく。

リピート商材のLTV計算方法

最も基本的なリピート商材のLTVは「平均顧客単価 × 収益率 × 平均購入頻度 × 平均継続期間」で算出される。

例えば、平均顧客単価30万円、収益率50%、平均購入頻度3回/年、平均継続期間3年である場合、LTVは「30万円 × 0.5 × 3 × 3 = 135万円」と算出できる。なお、新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストを考慮する場合、LTVは「平均顧客単価 × 収益率 × 平均購入頻度 × 平均継続期間 -(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)」で算出可能。

一概にLTVの目安を提示するのは難しいが、BtoB商材であれば顧客と良好な関係を築き上げ、継続的に取引するなどしてLTVを高めることが重要だろう。

サブスクリプションのLTV計算方法

サブスクリプションのLTVは「平均顧客単価 × 粗利 ÷ 解約率」で算出される。

近年、ビジネスモデルとして注目を集め、消費者の間でも認知度が高まってきているサブスクリプション。音楽配信・動画配信・ソフトウェアといったデジタルコンテンツが中心であったが、家具家電・ファッション・自動車などのサブスクリプションサービスも普及している。

サブスクリプションサービスは一度の取引だけでなく、定額制で継続的な収益を見込めるが、顧客からサービスを解約される可能性もあるため、LTVには解約率(チャーンレート)を利用。解約率は「単月あたりに解約した顧客数 ÷ 月の全体顧客数」で計算される。

顧客単位かつ最適なタイミングで、サービスを継続的に利用するベネフィットを訴求し、顧客の離脱を防止して解約率を低下させることが重要。また、豊富なプランを用意して顧客を上位プランへ誘導し、顧客単価を上げることも、LTVを向上させる有効なマーケティング戦略と言えるだろう。

LTV(顧客生涯価値)を高めるポイント

LTVを高めるためには、前述の計算式で示した通り平均顧客単価・収益率・平均購入頻度・平均継続期間を上げていく必要がある。ここでは、LTVを高めるためのポイントについて解説していくので、マーケティング戦略を立案する際の参考にしてほしい。

関連商品の購入を促して顧客単価を上げる

顧客単価を上げる最もシンプルな方法としては商品・サービスの値上げが挙げられるが、当然ながらリピート率の低下や顧客の購買意欲の喪失といったリスクも伴う。そこで検討したいのが、関連商品を訴求して顧客の購買意欲を促進する手法だ。

例えば、小売業界で用いられているのがアップセルとクロスセル。アップセルとは、顧客が購入した商品もしくは購入しようとしている商品より、さらに上位の商品を提案して購買を促進する手法である。

対し、クロスセルは関連商品を提案し、同時購買を促す手法。いずれも顧客単価を向上させ、LTVを高めることにつながる。

その他、ECサイトであれば、レコメンドエンジンを導入するのが有効。レコメンドエンジンとは、顧客の趣味嗜好に沿った商品を提案するシステムで、クロスセルと同様に関連商品の購買を促進可能。

顧客単価の改善を図りたいときは、関連商品を提案して既存顧客へ訴求してみてほしい。

利用機会を拡大する

顧客にきっかけを与えて店舗やECサイトの利用機会を増やすことも、LTVを最大化させるためには重要。

例えば、定期的なクーポンの配布。クーポンはリピーターの獲得に有効であり、「3回目の来店時に20%OFF」といったクーポン内容にすることで、継続的な来店も促進できる。ただし、クーポン配布やセールを過剰に実施すると、割引時のみ利用する顧客となってしまうので、運用には注意が必要である。

その他、SNSを活用するのも非常に効果的。SNSで人間味を持たせることができれば、ブランドや店舗に対して親近感がわき、顧客ロイヤリティの醸成につながる。また、SNSのアカウント開設は基本無料で行えるので、販促費の少ない集客で収益性の向上も期待できる。

顧客の利用機会を拡大して顧客体験を向上させ、平均購入頻度を高めてみてほしい。

原価率を下げる

販売価格と同じく意識したいのが、商品の原価率。原価率が低ければ利益が大きくなるのはもちろん、収益率が向上してLTVも高まる。

業態により原価率を下げる方法はさまざまであるが、例えば飲食店であれば、大量発注して仕入れ値を下げる、売上予測を行ってロスを少なくするなどの施策が挙げられる。高い利益率で安定性の高い企業経営を目指したい。

取引期間を延ばす

取引期間を延ばす方法として挙げられるのは、例えば最低契約期間の設定。契約期間中は取引が発生するため、平均継続期間を延ばしつつも収益を得られる。

ただし、最低契約期間を過ぎると解約される可能性もあるので、根本的に追及したいのが顧客満足度。顧客満足度を高めることができれば、リピート顧客を創出して取引期間を延ばすことも可能であり、結果的にLTVの向上を見込めると言えるだろう。

One to Oneマーケティングへの移行

従来のマーケティング活動では、不特定多数の顧客に対して画一的なアプローチを行うマスマーケティングが取り入れられていたが、近年ではOne to Oneマーケティングへ移行しつつある。One to Oneマーケティングとは、顧客の属性や購買行動などを基に、顧客一人ひとりに最適なマーケティングを行うことを指す。

ストレスや不快感を与えず、顧客に最適な情報を提供することが可能なため、信頼関係を構築しやすいのが大きな特徴。顧客ロイヤリティを高めて継続的な取引を行えば、LTVの向上も期待できると言える。

長期的なLTVマネジメントを意識する

企業が持続的に成長していくためには、中長期的な観点からも経営戦略を立てることが不可欠。一方、中長期的な経営戦略の重要性を把握していながらも、短期的な目標にコミットしてしまう企業が多いのも事実である。

LTVを高める際も同様で、短期間ではなく5年先・10年先を見据えて成果を上げていくのが基本。長期的なLTVマネジメントが求められる点を認識しておきたい。

LTV(顧客生涯価値)とCAC、NPSとの違いや関係性

LTVと近しい概念として、CAC・NPSというマーケティング用語が存在する。ここでは、LTVとCAC・NPSの違いや関係性を解説していく。

LTVとCACの違い・関係性

CACとは、「Customer Acquisition Cost」の略称で、日本語では「顧客獲得コスト」「顧客獲得費用」「顧客獲得単価」といった意味合いで用いられる。その名の通り、顧客を獲得するために必要なコストを表すマーケティング用語である。

CACを把握しておけば、費用対効果の高いマーケティングチャネルを選定することが可能。例えば、CACが高く利益率の悪いチャネルには改善策を講じる、CACが低く利益率の高いチャネルには積極的に経営リソースを投ずるといった戦略を立てることができる。CACの指標が高い場合は、顧客獲得コストを減らすもしくは顧客獲得数を増やす施策が必須となるだろう。

LTVとCACの関係性だが、両指標はユニットエコノミクスを算出する際に用いられる。ユニットエコノミクスとは、顧客一人あたりの採算性を意味する用語で、SaaSをはじめとしたサブスクリプション型ビジネスを展開する企業で採用されるケースが多い。

ユニットエコノミクスは「LTV ÷ CAC」で算出可能。例えば、LTVが30万円、CACが8万円の場合、ユニットエコノミクスは「300,000 ÷ 80,000 = 3.75」となる。

一般的に、ユニットエコノミクスの値が3以上であれば、ビジネスは健全な状態であると言われているので、LTVを算出する際はCACとユニットエコノミクスも併せて計算してみてほしい。

LTVとNPSの違い・関係性

NPSとは、「Net Promoter Score」の略称で、顧客ロイヤリティを数値化する際に用いられるマーケティング用語だ。例えば、あるサービスを利用したときに「このサービスを他の人におすすめしたいですか?」というアンケートの問いに対し、0~10の11段階評価で回答した経験はないだろうか。

顧客ロイヤリティは企業やサービスに対する愛着性・忠誠心を表す用語で、顧客満足度のように目に見えるものではない。しかし、アンケートをとることで顧客ロイヤリティを数値化でき、ビジネス方針の転換やサービスの改善につなげていける。

LTVの高い顧客というのはロイヤルカスタマーと言えるが、併せて定量的に算出しておきたいのがNPS。NPSの高い顧客は自社のサービスを他者へ勧めてくれる推奨者なので、口コミによる宣伝効果を大いに期待できる。

LTVとNPSの両方が高いロイヤルカスタマーを育成していくことで、新規顧客の獲得および経営の安定化につなげられるだろう。

LTV(顧客生涯価値)のまとめ

LTVは利益構造を把握する際に活用できるマーケティング指標であり、LTVを高めていけば収益を最大化できる。LTVを高めるには、顧客単価・購入頻度を向上させる、継続期間を長くするなどさまざまな切り口が存在しており、数値の低い指標を分析して積極的に改善していくことが重要だ。

昨今では、実店舗・ECサイト・SNS・マスメディアなど多様な販売チャネルが構築され、商品・サービスを提供する企業側も販路を拡大しやすくなっている。しかし、チャネルに応じて適切なマーケティング戦略を立てていくことが必須であり、販促コストも上昇しているのが実情。

LTVを最大化していき、コストの上昇・新規開拓の困難化が進む現代においても、安定した事業基盤を有する企業を目指してほしい。

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