ファブレス経営とは?ファブレス化のメリット、デメリット、OEMやアウトソーシングとの違い、企業例と交えて解説

2024.03.27

2023.11.17

消費者行動が多様化する現代においては、製品の製造元はフレキシブルな生産体制でニーズに応えていくことも重要となる。生産工程を一つの企業内で完結させる一貫生産体制を取り入れる企業もある中、製造プロセスを外部へ委託するファブレス経営を採用する企業も増加している。

本記事では、ファブレス経営の意味からOEM・アウトソーシングとの違い、メリット・デメリット、実際にファブレス化を実現している企業例まで解説していく。

ファブレス経営の意味とは?

ファブレス経営とは、自社で工場を所有せず、生産工程を外部へ委託するビジネスモデルのことを言う。ファブレス経営の「ファブ」は「fabrication facility:工場」の略語であり、「less:持たない」の用語を組み合わせ、「ファブレス」という造語が誕生した。

新たな製品は通常、アイデア出し・コンセプトの打ち出し・プロトタイプの作成・製造といったプロセスを経て、市場へ投入される。一連の工程を社内で行う企業も多いが、ファブレス経営は自社で工場を所有していないため、製造・生産工程は全て他社が請け負うことになる。

ファブレス経営の概念自体は、1980年代にアメリカのシリコンバレーで登場した。自社工場を保有するためには、広大な敷地の確保・巨額な設備投資・労働力の構築など、さまざまな準備が必要。

その中でも、当時のアメリカは工場の設備費が高騰しており、市場参入の大きな障壁となっていたが、製造を外部委託することでこの障壁をクリア。以降、ファブレス経営のビジネスモデルは広く認知されるようになった。

OEMやアウトソーシングとの違い

ファブレス経営と意味を混同しないよう注意したい用語が、OEMとアウトソーシングだ。ここでは、ファブレス経営とOEM・アウトソーシングの違いを解説していく。

ファブレス経営とOEMの違い

OEMとは「Original Equipment Manufacturing」の略称であり、直訳すると「オリジナル製品の製造業者」。他社名義のブランド製品を製造すること、もしくは製造企業のことを指す。

例えば、自動車メーカーのダイハツは「トール」という普通車を製造・販売しているが、トヨタおよびスバルにもOEM供給を実施。トヨタは「ルーミー」、スバルは「ジャスティ」というブランド名で、ダイハツ「トール」をベースとしたOEM車の販売を行っている。

発注元は自社で製造工場を所有せずとも、製品の販売が可能であるため、一見ファブレス経営とOEMの意味は似通っているように思える。しかし、ファブレス経営は自社ブランドの製品を製造すべく、生産工程の外注を行う。

自社の製品を他社名義のブランド製品として販売するOEMとは、意味が大きく異なると言えるだろう。

ファブレス経営とアウトソーシングの違い

アウトソーシングとは、社内業務の一部を外部へ委託する経営手法を言う。ファブレス経営は製造工程を垂直分業して外部へ委託するが、アウトソーシングは業務の効率化やコスト削減などを図るために外部の力を借りる。

分業関係には当たらない点が、ファブレス経営とアウトソーシングの違いと考えられるだろう。

ファブレス化のメリット

ここでは、ファブレス経営を行うメリットを解説していく。

初期投資を抑えられる

ファブレス経営の最大のメリットとして挙げられるのが、初期投資を抑えられる点だ。国交省が発表した「建築着工統計調査(2021年時点)」のデータによると、構造別に見た工場建築費水準は下記表のようになっている。

構造建築費水準 / 坪
鉄筋コンクリート造202.2万円
鉄骨鉄筋コンクリート造141.7万円
鉄骨造69.2万円
木造44.9万円

工場を1棟建設するだけでも、莫大な費用が発生するとわかる。

しかし、ファブレス経営は自社で生産体制をもたないので、製造設備の調達は不要。また、新しい市場に参入しやすいだけでなく、初期費用が少ないため、事業に失敗した場合のリスクも低減可能。積極的に新規事業へ挑戦したい企業に、ファブレス化は最適と言えるだろう。

固定費の削減

自社工場を保有していれば、工場の維持・メンテナンス・高熱費など、毎月発生するコストが生まれる。ファブレス経営であれば、この生産施設の維持管理にかかる固定費用が削減される。これにより、変動する市場環境に対する経済的な柔軟性が高まる。

高い柔軟性で市場変化に対応できる

昨今、各産業における市場変化のスピードは目まぐるしく、企業は変化に対して柔軟に適応することが重要となっている。自社で製造工場を所有する場合、設備の劣化に伴うリプレイスも必要であるが、市場変化に沿った設備の刷新も考慮しなければならない。

一方で、ファブレス経営を採用していれば、定期的に設備をリプレイスする労力・資金は必要とせず、市場が大きく変動した都度、要件の整った工場に発注することも可能。市場変化のスピードが速い産業に身を置く企業や、今後の不透明な時代に備えてリスクヘッジを図りたい企業にも、ファブレス経営はおすすめと考えられる。

また、世界中の製造パートナーと連携することで、より広い市場への進出が容易になり、地域毎に最適化された生産戦略を立てるなど、グローバル展開においても有利に働く場合もあるだろう。

製造費の削減につながるケースもある

ファブレス化するにあたり、考慮したいのが委託先の製造能力・生産機動力。特に、製造を専門に行うファウンドリメーカーであれば、スケールメリットを享受でき、製造費の削減につながるケースもある。

さらに、複数のファウンドリメーカーに業務を委託することで、製造量の調整や納期の短縮も実現可能。自社製造に比べ、コスト面・効率面においてもメリットをもたらすと言えるだろう。

製造に係る人材リソースを削減できる

通常、製品を製造する上では多くの人材を必要とするが、製造プロセスのファブレス化により、人材リソースを削減できる。人材リソースに余裕があれば、コアビジネスに人員を投入して競争優位性を確立できる他、人手不足の部署・業務に人員を配置して社員の負担を軽減し、モチベーションの向上・離職率の低下につなげたりと、多様なメリットを享受可能。

職場の環境改善の一環として、ファブレス化を図るのも一つと言えるだろう。

ファブレス化のデメリット

企業に多くのメリットを生み出すファブレス化だが、その裏には気を付けたいリスクも潜んでいる。ここでは、ファブレス化によるデメリットを見ていこう。

品質管理が難しい

ファブレス経営は製品の品質管理を行いにくい点が、一つのデメリットとして挙げられる。品質の価値観は企業によってさまざまであり、特に複数企業に業務を委託する場合は、品質が一定に保たれないケースも多い。

委託先から納品された製品は自社で検品する必要があるが、水準に満たない製品については差し戻しや手直しが発生。品質の粗悪な製品がエンドユーザーに届けられた場合、クレームの発生による余計な費用の発生や信用失墜を引き起こす可能性も。

自社が定める水準以上の製品を納品してもらうためには、委託先の品質に対する意識向上や品質保証体制の整備、管理者を委託先に派遣して品質を担保するといった施策も講じなければならない。ファブレス化の際には、品質管理の指導に係るコストが発生する点も念頭に置いておきたい。

情報漏洩のリスクを伴う

ファブレス経営では、自社の情報を社外へ持ち出すため、情報漏洩のリスクを伴う。万が一にも情報が漏洩してしまった場合、多額の経済的損失が発生する可能性も。

情報漏洩のリスクを低減するためには、機密情報保持といった契約を結ぶのはもちろん、自社が定める情報セキュリティ管理基準を満たしているか、定期的に検証および報告してもらうことも重要。社会的信用力の高い企業を中心に、慎重に委託先を検討してほしい。

外注コストが発生する

ファブレス経営を行う上では、当然ながら外注コストが発生する。例えば、小ロットでしか発注できない委託先の場合、大量発注に比べて外注コストが高額になるケースも考えられる。

一概に、ファブレス経営が自社生産より優れているとは言えず、売上が安定している際は内製化も視野に入れたほうが良いだろう。

また、コミュニケーションとコーディネーションのコスツも無視できないだろう。多数の製造業者との間でのコミュニケーションとプロジェクト管理を効果的に行うことは、非常に複雑で労力を要するプロセスとなる。

製品の製造に関するノウハウを蓄積しにくい

ファブレス経営では製造のプロセスを外部へ委託するため、製造業務に関するノウハウを蓄積しにくくなる点も気を付けたいポイント。

自社で蓄積するノウハウは言わば一種の資産であり、その知見が今後の業務効率化や新規事業・新製品の展開などに役立つケースもある。

また注意したいのが、外注業務の内製化を図るときだ。ノウハウを委託先から踏襲し、社内で共有する必要性が生まれるなど、ハードルが高くなる。

ファブレス経営の企業例

世界規模の企業をはじめ、日本企業もファブレス経営を取り入れたファブレスメーカーが数多く存在する。ここでは、ファブレス経営を採用する企業例を紹介していく。

Apple

世界有数のIT企業であるAppleは、デジタル機器の生産を外注してファブレス経営を確立させている。自社ではデジタル機器の設計・デザイン、および革新的な技術開発に注力し、生産に関してはファウンドリ企業に外注。王道にして高利益率を生み出すファブレス経営を実現している。

例えば、Appleの主力製品とも言えるiPhoneの製造を受託しているのが、台湾の鴻海精密工業。同社は電子機器の受託生産を行う世界最大規模の工場であり、Apple社の成功を陰で支えてきた。

その他、Apple製品の製造工場は主に中国に集中しているが、全ての製品・部品が同じ工場内で製造されているわけではない。Apple製品には液晶ディスプレイ・カメラ・CPUチップ・半導体といったパーツが使用されており、委託先もさまざま。コストを最適化しつつも、各国からの膨大な需要に応えている。

Appleは製品の製造プロセスをファウンドリ企業に任せきりにせず、急激なデジタルテクノロジーの進化にも対応できるよう、各工場への高額投資もいとわない。外注企業とともに、常に革新的な技術・製品を探求し続け、現在の世界的な地位を確立させた。

任天堂

国内の大手おもちゃ・コンピュータゲームメーカーの任天堂も、ファブレス経営を取り入れる企業の一つだ。ファブレス経営を採用する大きな要因としては、おもちゃ・ゲーム業界の特質が挙げられる。

本業界は技術のアップデートスピードが速く、トレンドの移り変わりも激しい。メーカーは柔軟な生産体制で消費者のニーズに応える必要があるが、任天堂は製造プロセスを国内外のパートナーへ委託することで、市場変化のスピードにも対応。実際、任天堂のファブレス経営に伴う取引先選定方針には、「安定供給能力および需給変動に対する柔軟な対応力があること」と明記されており、市場変化へフレキシブルに対応することへの重要性が見て取れる。

その他、経営状態の健全性や法令・社会規範の遵守、情報管理体制の適切性など、7つの取引先選定方針を策定。ファブレス経営に潜むリスクを低減すべく、取引先の選定方針を厳格に定め、パートナーとともにCSR調達活動を推進している。

ユニクロ

ファストファッションの代表格とも言えるユニクロも、ファブレス経営で成功した企業として有名だ。ユニクロは衣料品の企画・デザイン・素材調達・販売までは自社で行っているが、製造に関しては海外の工場を中心に委託。

ユニクロの運営会社であるファーストリテイリングが2022年9月に公開した「生産パートナーリスト」によると、各工程における委託先の工場数は下記のようになっている。

  • 縫製工場:433件
  • 一部工程外注先工場:121件
  • 主要素材工場:129件

主な委託先の国は中国だが、バングラデシュ・カンボジア・インド・インドネシア・イタリア・ポルトガルなど、生産工場は世界各国に点在。長年の契約で信頼関係を築き上げるとともに、従業員を派遣するなど品質管理も徹底している。

ファブレス経営のまとめ

ファブレス経営は大手企業を中心に、多様な業界で採用が進むビジネスモデルである。品質管理が難しい点や、情報漏洩のリスクを伴うといった懸念点も存在するが、製造プロセスを外注することで、初期費用の抑制やコアビジネスに注力できるといったメリットも享受可能。

昨今、デジタル技術の革新や新型コロナウイルスの蔓延により、先行きが不透明な時代が続いている。フレキシブルな経営戦略で、不確実性の高い社会を生き抜いていくことが重要と言えるだろう。

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