物流を変革するスマートロジスティクスとは?最新の事例を交えて解説
2022.10.26
2021.09.14
商品やモノの輸送から保管、梱包、情報処理などを一手に担う物流業界。近年では、BtoC-EC市場に限らず、CtoC-EC市場も拡大しており、物流は生活になくてはならない存在と言える。
しかし、物流業界は、人材不足や小口配送増加による激務化など多様な課題を抱えている。そんな物流業界の課題を解決する手段として注目を集めているのがスマートロジスティクスだ。
本記事では、スマートロジスティクスの基礎知識や用いられている最新技術、実際の事例を解説していく。物流業界において、課題を抱える企業はぜひ参考にしてほしい。
目次
スマートロジスティクスとは?
生産者から消費者に商品が届くまでの輸送・保管・荷役・包装・流通加工・情報処理といったモノの流れを物流と呼ぶが、同類の意味合いとしてロジスティクスという用語も、物流業界では使用されている。ロジスティクスとは、調達・生産・販売・回収までのプロセスを、一元管理することを意味する。物流は生産と流通を別々に扱うが、ロジスティクスは生産と流通を連携させて運用するのが大きな違いだ。
そして、スマートロジスティクスでは、IoTやAIなど最新のデジタル技術を活用し、物流の最適化や業務の効率化、環境負荷の軽減、貨物のセキュリティ向上を目指す。物流をより能率的に進めるための仕組みだが、環境配慮も前提として組み込まれているのがスマートロジスティクスの特徴だ。
スマートロジスティクスが必要とされる背景
スマートロジスティクスが求められる背景としては、物流業界のさまざまな課題が影響している。ここでは、物流業界の現状を解説していく。
物販系分野のEC市場が伸長
スマートロジスティクスが注目される背景には、物販系分野のEC市場規模拡大が一つの要因として挙げられる。経済産業省が2021年7月に発表した「令和2年度産業経済研究委託事業」によると、2020年のBtoC-EC市場規模は19兆2779億円で、前年比0.43%減という結果になった。これは、新型コロナウイルスの影響で旅行業界が打撃を受け、サービス系分野のEC市場規模が大幅に減少したためだ。
一方、物販系分野のBtoC-EC市場規模は12兆2333億円で、前年比21.71%増という結果に。コロナ禍により外出自粛が呼びかけられ、ECサイトの利用者が急増。加えて、メルカリなどを利用したCtoC取引が増加しているのも要因と言える。
しかし、少量・少額の小口配送が増えたことにより、物流業界の負担は大きくなっている。物販系分野のEC市場が伸びれば、必然的に配送業務は増えるが、小口配送の場合は仕分け作業の負担も増加。
さらに、少額の小口配送であるため、トラック1台で配送できる荷物の価値も減少している。コストを抑えた物流業務が重要となっており、スマートロジスティクスに着目する企業も増えた。
人材不足が深刻化
先述の通り、物流の需要は年々増加しているが、物流業界の人材不足により、配送業務が追い付いていない。その結果、労働者一人あたりの仕事量も増加し、負担が大きくなっている。
人材の確保が難しくなっているのも深刻な問題。物流業界の仕事は、体力的な負担も大きいというイメージが若者を中心に根付いてしまい、人材不足を加速させている。また、体力が必要な物流業界だが、ドライバーの高齢化が進んでいるのも、人手不足を引き起こしている要因だ。
スマートロジスティクスで用いられる最新の技術
スマートロジスティクスと一口に言っても、物流におけるさまざまな工程で用いられている。ここでは、スマートロジスティクスの最新技術を紹介する。
倉庫内の最適化・自動化
まず、倉庫内の最適化・自動化を図れる最新の技術を見ていく。倉庫内の作業を効率化したい企業は、要チェックだ。
AIによる倉庫内作業の最適化
コストの削減を図る際、大きな課題となるのがピッキングだ。指示書や注文伝票を見ながら商品をピックアップする作業だが、ベテラン従業員のノウハウ・勘に頼る部分が多かった。
そこで、WMS(倉庫管理システム)を有効活用すべく、AI(人工知能)が導入された。例えば、ピッキングを行う従業員にセンサーを付け、行動結果をAIが分析したところ、作業効率が落ちているというデータが上がった。しかし、AIが提案した行動改善案を実施すると、作業効率は大幅に向上。
AIはディープラーニングという、大量のデータから法則性を発見する学習方法を採用している。ディープラーニングによりベテラン従業員のノウハウをデータ化し、経験の浅い従業員・アルバイトであっても、倉庫内作業の最適化をAIでは期待できる。
ピッキングロボット
ピッキングロボットとはその名の通り、商品を自動でピックアップしてくれるロボットのことを指す。しかし、ピッキングロボットで商品を集めるには限界があり、特に細かな対象物を識別することが困難だった。
そのような中、精度を向上させるために、ピッキングロボットにAI技術を搭載。立体的に捉えることで、多様な商品をピックアップできるようになった。
また、高速なピッキングで生産性や作業効率向上を図れるだけでなく、人為的ミスを削減し、作業の手戻りを防ぐことも可能だ。
配送の最適化
次に、荷物の配送業務を最適化する最新技術を解説する。ドライバー不足に悩む企業は、参考にしてほしい。
AIによる配送ルートの最適化
目的地までの最短ルートを調べる際、利用される車のカーナビやマップアプリ。物流業界においても有効活用できるナビ機能だが、配送先は当然ながら複数存在するため、都度目的地を設定するのは効率的ではない。
また、複数の目的地を経由する場合、順序良く配送先・経路を決めなければ、全ての荷物を届けるのに時間が掛かってしまう。ピッキングと同様に、配送ルート作成もベテランの経験に頼ることが多く、一部従業員の負担が増すケースも少なくない。
そこで、AIによる配送ルートの最適化が注目されている。高性能なAIアルゴリズムが最適な配送ルートを提案することで、経験の浅い従業員でも配送時間を短くし、コストの削減を図れる。
顧客が指定した配送時間や渋滞状況、高さ制限などの道路規則を考慮できるのも大きなポイント。単に最短ルートを算出するわけではないため、その日に応じた柔軟な配送ルートの提案が可能だ。
無人配送
商品の配送に人員を投入しない無人配送も、スマートロジスティクスの一つだ。昨今では、ドローンを使用した無人配送に期待が高まっている。
ドローンのビジネス市場規模は年々拡大しており、農業・建築・医療などさまざまな分野で実用化されている。物流業界においても注目を集めているが、政府は航空法にて4段階のドローン飛行レベルを定め、現在は最大レベル4の「有人地帯での目視外飛行」が認められていない。
しかし、ドローンの市場規模拡大や性能向上も影響し、2022年後半に予定されている改正航空法の試行で、レベル4の「有人地帯での目視外飛行」が認可される見通しだ。認可されれば、人がいるエリアであってもドローンの飛行が可能になり、ドローン輸送の実現も期待できるだろう。
一方で、日本の大手企業を中心に、宅配ロボットを実現するための取り組みも行われている。例えば、佐川急便はソフトバンクと連携し、ロボットの実証をスタート。
屋外では、自動運転ロボットと信号機を連携させるシステムを開発し、信号機に従って交差点を横断するかや、公道を走りながら荷物を配送できるか実証している。屋内では、ソフトバンクの新本社オフィスビルで自動運転ロボットとエレベーターを連携し、各フロアへ配送できるか実証。他にも、ヤマトホールディングスや日本郵便、京セラなどが無人配送の実現に向けて動いている。
スマートロジスティクスの具体的な事例
スマートロジスティクスを導入し、実際に運用する企業はすでに存在している。具体的なスマートロジスティクスのイメージを付けるためにも、ここでは実際の企業事例を紹介する。
楽天と西友が自動配送ロボットによる商品配達を実現
楽天株式会社と合同会社西友は横須賀市にて、自動配送ロボットで「西友馬堀店」の商品を配達するサービスを、2021年3月23日から4月22日までの期間限定で提供した。自動配送ロボットが公道を走行し、実際に商品を届けたのは国内初。
消費者がサービスを利用する流れとしては、まず対象地域の住民が専用のスマホ向け注文サイトから商品を選び、住所と配達時間帯を指定。「西友馬堀店」で実際に購入した商品を、店舗のサービスカウンターに持ち込み、配達してもらう流れでも問題ない。商品を積み込み、自動配送ロボットは消費者の自宅前まで向かうが、その間は約5km離れた「横須賀リサーチパーク」から遠隔監視する。
自動配送ロボットが自宅前に到着すると、自動音声を使用した電話で通知。消費者は自動配送ロボットの側面に搭載された操作パネルに、注文完了時に通知される暗証番号を入力。番号が正しければ扉が解錠され、商品を受け取れる仕組みだ。
少ない監視人員で多くの荷物を配達できれば、人件費の大幅な削減に繋げられるだろう。
ヤマト運輸はAI・ビッグデータを活用して配車計画システムを導入
ヤマト運輸は医薬品を扱うアルフレッサホールディングスと業務提携し、配送に係る業務量予測システムと適正配車計画を立てられるシステムを、AI・ビッグデータを活用することで実装した。
配送業務量予測システムでは、アルフレッサが蓄積した販売・物流・商品・需要トレンドなどのビッグデータをAIで解析。顧客ごとの注文数や配送発生確率など、配送業務量を予測する。
次に、配車計画システムが配送業務量予測システムで得られたデータや、ヤマト運輸が蓄積したノウハウ、渋滞情報などを加味し、自動で配車計画を作成。効率的な配車計画により、人件費やガソリン代などのコストカットを期待できるだけでなく、CO2を削減して環境保全にも繋げられる。
現在はアルフレッサの首都圏の支店を対象としているが、今後は全国へシステム導入を拡大していく。
ウォルマートはピッキングロボットで業務を高速化・効率化
世界最大規模のスーパーマーケットチェーンであるアメリカのウォルマートでは、オンライン受注した商品に対して、自動でピッキングするロボットを一部倉庫で導入した。専用倉庫内では、棚とレールが一体化され、ピッキングロボットはレール上を水平方向もしくは垂直方向に移動。レールがない場合は、自律走行も可能だ。
ピッキングロボットは受注商品を回収後、ワークステーションまで運んで従業員に渡す。商品を受け渡し専用の荷箱や買い物袋に梱包するのは、従業員が手で行う。
ウォルマートでは、ネット通販で商品を受注した際、従業員が売場を回ってピッキングしていた。しかし、ピッキングロボットを導入した倉庫では、従業員が商品をピックアップするために移動する必要がなく、業務の高速化・効率化を実現している。
スマートロジスティクスのまとめ
スマートロジスティクスはIoTやAIといった最先端の高度な技術を必要とするが、物流業界においては、業務の効率化・コスト削減などさまざまな効果を見込める。試験的な運用をする企業もまだまだ多いが、大手を中心に本格運用している企業があるのも事実だ。
物流業界は長年深刻な人手不足が課題となっているが、今後もEC市場規模の拡大や少子高齢化などが影響し、課題を解消するのは困難と考えられる。自社の課題を解決できるようなスマートロジスティクスの技術はないか、本記事を参考に一度調べてみてほしい。