IKEA新宿が量り売り惣菜「スウェーデンバイツ」を導入した理由
2022.04.12
2021.06.21
スウェーデン発の世界的なホームファニシングショップ、イケアと言えば、「郊外にある大型店」というイメージが強かった。ところが、イケアは、大都市圏の攻略も積極化している。とりわけ、強化しているのが首都圏だ。
東京都心では原宿、渋谷に続き、2021年5月1日には、東京を代表する繁華街である新宿に、「シティショップ」(都市型店)と位置付けるIKEA新宿をオープン。
フォーエバー21新宿店跡地で、伊勢丹新宿店などが立ち並ぶ新宿三丁目交差点(追分交差点)、地下鉄新宿三丁目駅にも至近と利便性が高い。地下1階~地上3階の4フロアで、総面積は約3270㎡だ。
オープニングセレモニーでイケアの日本法人、イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長兼チーフサステナビリティオフィサーは、「新宿は世界的にも有名なエリア。新宿駅の乗降客数が約350万人であるなど多くの人が行きかい、多様な価値観を持つ人が集まっている街だ。ダイバーシティやインクルージョンを進め、誰もが自分らしいライフスタイルを実現できるようにサポートしているイケアには、ピッタリだと考えている」と、期待感を表明した。
スウェーデンのペールエリック・ヘーグベリ駐日大使も、「スウェーデンの生活文化、サステナビリティやダイバーシティ、ライフ・ワーク・バランスといった、スウェーデンらしい革新性や価値観を、日本の皆さんにも身近に感じてもらえる店舗になると考える」と、祝辞を述べた。
量り売りは日本人にもなじみがあり、フードロス対策にもなる
同店の最大の特徴は、5月17日からサービスを始めた、1階の「スウェーデンバイツ」のコーナーだろう。惣菜を量り売りするテイクアウト専門の新売場だ。
イケアの惣菜は、既存店でもおなじみで、コロナ禍に見舞われた20年からテイクアウトサービスも行っているが、IKEA新宿のこの新売場は、日本のみならず、世界のイケアでも初めての試みだという。
オープン時には、量り売りメニューを8アイテム、パックしたメニューを12アイテム、ドリンクを13アイテム、ベーカリーを7アイテム、デザートを2アイテム用意した。量り売りの惣菜は、デパ地下のようにショーウインドー越しに好きなメニューを選んで、販売員に取り分けてもらえる。
フード類は、基本的に店内調理加工はせず、郊外店のキッチンから毎日、デリバリーされるが、ベーカリーのメニューは店内のオーブンで焼いている。その場で作ってもらえる、ソフトクリームのメニューもある。
同社の佐川季由カントリーフードマネージャー・法人部門総責任者は、「コロナ禍でテイクアウトのニーズが高まっているのと、都心型店舗はスペースが限られるので、販売効率を引き上げたいことがある。また、量り売りは日本人になじみがあり、必要量だけを購入できるので、問題視されているフードロスの解消にも役立つと考えた」と、新売場を開発した理由を明かす。
今後も都心型店舗が増える見込みだが、「スウェーデンバイツを導入するかどうかは未定」(佐川氏)。とはいえ、可能性はあるのではないか。イケアは海外でも都心型店舗の出店を加速しているが、ニューヨークやロンドンのような国際的な大都市は地価が高く、売場面積も限られるため、スウェーデンバイツのような売場が登場するかもしれない。
スウェーデンバイツの主なコンセプトは3つあると、佐川氏は説明する。1つ目は、「日本ではまだ普及していないスウェーデン料理に、手軽に親しんでもらうこと」。
例えば、「ディルマヨ和えシュリンプポテトサラダ」(100g当たり450円)は、エビのディルマヨネーズあえをマッシュポテトに乗せたもので、伝統的な北欧料理の1つ。
さまざまな具材を薄焼きのパンで巻いた「ツンブロード」、リンゴンベリージャムなどを付けて食べる「ミートボール」もスウェーデン料理の定番だ。その他、へリング(ニシン)の酢漬け、サーモンといった北欧料理に欠かせない食材も豊富に取り入れる。
なお、スウェーデン料理と言えば、「スモーガスボード=バイキング」というイメージを多くの日本人が抱いているが、佐川氏によれば、「確かに、ビュッフェスタイルは、スウェーデンで定着しているようだが、日本でも広まっている。スウェーデンならではのスタイルとして、量り売りを導入したわけではない」とのこと。
IKEA新宿のオリジナルメニューもある。例えば、既存店でもプラントベースのアップルソフトクリームを販売しているが、イケア新宿では、「黒いコーンに乗せた青いアップルソフトクリーム」を限定販売している。
一方で、スウェーデン料理以外にも、キーマカレー、十六穀米ブレンドライスなども提供する。佐川氏は、「スウェーデン料理は、既存店の人気メニューをチョイスしているが、日本のお客さまのニーズに合わせて、メニューを柔軟に入れ替えていきたい」と話す。プラントベースの「唐揚げ」なども検討中だという。
コンセプトの2つ目が「お手ごろ価格の実現」だ。「気軽に食べてもらうには、ハードルを下げる努力も必要」と佐川氏。例えば、「プラントベースラザニア」は1人前で850円(総額、以下同)。10個入りの「プラントボール」「プラントベースキーマカレー」も500円と、1000円未満のメニューをそろえている。量り売りも、購入価格を抑えるのに役立つ。
3つ目が「サステナビリティの取り組みを進めること」。とりわけ、強化しているのが植物由来の食材だ。例えば、ミートソースの代わりに植物由来のソースを使ったプラントベースラザニア、植物由来の原料で作った「ベジボール」などもその一種。
動物由来の原料を増産するには、家畜を増やしたりしなければならず、それだけCO2の排出も増えるのだという。つまり、プラントベースの拡大は、CO2削減にもつながる。佐川氏は、「ニーズにもよるが、都心型店舗では商品構成比のうち、プラントベースの割合を50%にしたい」と意気込む。
その他、エビのディルマヨネーズあえでは、持続可能な水産物としてMSC(海洋管理協議会、海のエコラベル)に認証されたエビを使うなど、環境に適応した食材をふんだんに使用している。
また、イケアでは、21年12月までに、全世界での食糧廃棄量を50%削減することを目標に掲げている。それに向けて、スウェーデンバイツではAI(人工知能)を活用したモニタリングツールを導入、フードロスの抑制を図る。
イケア新宿では、スウェーデンバイツの他にも、新しい試みにチャレンジしている。生活シーンに合わせた売場づくりがそれだ。
人気の高まりを受け、ゲーミング用家具、アクセサリーを発売
同店は、約1600点の家具や雑貨をそろえている。寝具、食器といった具合に、商品のカテゴリーによって売場を区分けするのが普通だが、イケア新宿では、フロアをリビングルーム、ベッドルームといった「部屋のカテゴリー」で区分し、家具と一緒に関連する小物も集積した。
例えば、食卓であれば、その周りに食器やテーブルクロスなどを展示するというわけだ。多様な価値観やライフスタイルに合わせた商品展示ルームを6セット用意。季節感を訴求するため、商品のコーディネーションを提案するスペースも増設した。
同店の青木エリナ・マーケットマネジャー(店長)は、「部屋のカテゴリーで分ければ、どんなシーンで商品を使うのかイメージしやすいので、商品を探すのに便利。多忙な都心部のお客さまにとっては、買物も効率的な方が良い」と説明。
また、イケアは、世界的なeスポーツなどコンピュータゲームの人気の高まりを受けて、ASUSのゲーミングブランド「ROG」とのコラボレーションで開発したゲーミング用家具、アクセサリーを、日本でも4月から発売。IKEA新宿でも2階にゲーミング用家具、アクセサリーのコーナーを設け、6つの商品シリーズを展開している。(取材・文/野澤正毅)