都心型店舗を連続出店するイケア・ジャパン最新店「IKEA渋谷」が実現するDX戦略
2022.04.12
2020.12.24
スウェーデン発のホームファニッシングカンパニーであるイケアの日本法人イケア・ジャパンが都心部への出店を続けている。同社は日本においても、郊外に大型店の「イケアストア」を出店してきた。商品の展示を見た後、在庫をピックアップし持ち帰るというスタイルのイケアストアの店数は日本で9に達する。
今回、シティショップ(都心型店舗)の位置づけで、今年6月には原宿駅前にIKEA原宿(東京・渋谷)、そして11月30日には渋谷駅から徒歩約5分の至近にIKEA渋谷(同)をオープンした。
イケアストアでは店舗で完成品を見た後、最後に在庫ゾーンがあり買いたい商品を持ち帰ることができるが、都心型店舗の場合は、大型家具はオンラインで購入したり、従業員が注文を取ったりして、後日の配送を想定する。
背景にはオンラインでの買物を想定した認知度向上の狙いがある。人が集まる立地に出店することで、お客としてはより気軽に店に立ち寄ることができ、商品を体験することができる。違いは大型商品を購入する際、商品を持ち帰るのではなく、オンラインで注文するということになる。デジタル技術を活用することで出店の可能性を拡大できたといえそうだ。その意味では同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を象徴する戦略ともいえる。
IKEA渋谷はIKEA原宿に続く都心型店舗の2店目。イケアとして世界初の7階建て店舗で、フロアごと都心での暮らしのソリューションを提供しつつ、従来のストアにおける「ワクワク感も体験できるような空間をデザインした。IKEA渋谷では都心型店舗として初めておもちゃ&遊具売場も展開。家族連れのお客の来店も促す。
1階から6階の売場は11月30日のオープンだが、7階のレストランフロアについては2021年春にオープン予定。
都心型店舗のため、面積は郊外に出店する従来型の大型店(同社ではストアと呼ぶ)と比べて約5分の1の約4800㎡(約1452坪)。1~6階には、19種類の売場と「スウェーデンフードマーケット」も配置。取扱アイテム数は約3100。そのうち約1800は持ち帰りが可能だ。
それ以外の商品を含めたイケア・ジャパンが取り扱っている全約9500の商品については、IKEA渋谷店内、もしくはIKEAオンラインストア、IKEAアプリで注文、後日配送の手続きが可能。狭いとはいえリアル店舗を出店することで、オンラインではできない「体験」が都心部でできることは大きな強みとなる。
商品は全てオリジナルで、食品の一部を除いて全て世界共通の商品を輸入している。
イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長兼Chief Sustainability Officerは、同店について「初めて渋谷の中心部にイケアのシティショップ(都心型店舗)を開業できることを非常にうれしく思います。イケアがより多くの皆さまに身近に感じていただけるよう都心に進出するに当たり、最高の立地です。IKEA渋谷は従来のイケアストアをコンパクトに体験できる7階建てで、1800点の商品をお持ち帰りでき、他の商品は店内で、またはオンラインで注文できます」とコメント。
IKEA渋谷の前にオープンしたIKEA原宿の面積は、IKEA渋谷よりさらに狭く、ストアの約10分の1となる約2500㎡(約756坪)。そのため、売場づくりでも「眠る」「整える」「くつろぐ」「料理する」という都市部での暮らしのニーズに基づいた4つのくくりで売場を構成したが、今回のIKEA渋谷は、狭いとはいえIKEA原宿の約2倍の面積のため、ストアと同様の考えで19種類の売場を配置し、「コンパクトなストアにいるような売場」を目指した。
世界のイケアで初のベジドッグ専門売場を設置
IKEA渋谷の大きな特徴に、世界のイケアで初めてのベジドッグ専門の「スウェーデンビストロ」を設けていることがある。従来のイケアストアで販売している2種類のベジドッグに加え、今回、8種類のIKEA渋谷限定の商品を販売。さらに全10種類のうち6種類はバンズも含めてプラントベースの食材を採用した商品になっている。
「イケアはプラントベースフードの展開に注力しており、多彩なおいしいメニューを提供する世界初のベジドッグ専門スウェーデンビストロをオープンすることを誇りに思います。 IKEA渋谷には、地球とお財布にやさしい形で、快適でサステナブルな家をつくるソリューションをたくさんご用意しています」(ライス社長兼Chief Sustainability Officer)
また、ベジドッグ以外にもプラントベースのメニューも販売する他、イケアストアでおなじみのシナモンロールなどのパン、UTZ認証のコーヒー、プラントラーメン、北欧の低アルコールビールなども販売する。
店舗が狭いためイートインはないが、来年の春には7階にスウェーデンレストランがオープンすることで食事を楽しむ場としても利用できるようになる。
プラントベースを含め、サステナビリティに注力
IKEA渋谷では、都心型店舗として初めて食品売場の「スウェーデンフードマーケット」を設けた。こちらでも、肉の代わりにプラントベースの原料を使用して「イケアミートボール」を再現した「プラントボール」なども販売。
イケアはサステナビリティに注力し、さまざまな取り組みを行っている。ベジドッグなどプラントベースの食品に注力することもその一環だが、販売する商品の素材として「竹」を多用していることもその1つ。
イケアでは竹のメリットとして、「多様な生態学的環境で成長する」「一般に肥料やかんがいが不要」「成長が極めて早い」「植え直す必要がほぼない」といったことを挙げる。さらに1日に1mほど伸び、4~6年で刈り取ることができるという成長の早さも魅力だ。
同社では、「家での時間が増えた今だからこそ、イケアはこれまで以上に多くの皆さまにサステナブルな暮らしを提案していきたいと考えております」と意気込む。
その他、IKEA渋谷でしか買えない限定商品として、ショッピングバッグで採用している「フラクタ」の素材でつくった帽子の「クノルヴァ」を限定発売。耐水性に優れる他、使わないときはコンパクトにたためる便利なアイテムとしても訴求する。
IKEA渋谷概要
所在地/東京都渋谷区宇田川町24-1高木ビルディング1階~7階
オープン日/2020年11月30日
営業時間/11時~20時(12月31日は18時まで)
面積/地上1階~7階計約4800㎡
マーケットマネジャー(店長)/ゼラ・バラン
Interview
ゼラ・バラン マーケットマネジャー
——IKEA渋谷の特徴は。
バラン ユニークなことは、「体験」ができること。私は日本に来て4年になるが、IKEA長久手(愛知県長久手市)やIKEA新三郷(埼玉県三郷市)と、これまで大型店舗にいた。郊外の店舗は2万㎡ぐらいの面積があり、一日かけてイケアの体験を楽しむことが一般的だが、ここはたくさんの商品を集めながらも、都心でそれが体験できる「ミニIKEA」であることが特徴だと思う。
——この店で体験してもらって、郊外に送客する狙いもある?
バラン IKEA渋谷での短時間の体験、郊外のストアでの一日の体験、あるいはオンラインの体験などたくさんのオプションを用意するという意味での都心型店舗がある。多くのチャネルを用意しているので、お客さまのご都合で選んでいただける。
——これまでイケアに来ていなかった人が体験できる意義は大きい。
バラン もちろんそうだ。時間がない人もちょっとだけ立ち寄って試していただける。それで郊外に行っていただけるとすごくうれしい。
——プラントベースを重視している理由は。
バラン イケアのビジョンとして、「より快適な毎日を、より多くの方々に」ということがあるが、同時に地球の環境を守ることもすごく大事なことだ。プラントベースの食べ物が肉よりも温室効果ガスの排出量が少ないということで、IKEA 渋谷のベジドッグの専門の売場をとおして、お客さまにプラントベースの食品を食べていこうということをご紹介したい。イケアのグループ全体としても、プラントベースの商品の割合を増やしていこうという大きなゴールがあるので、このタイミングで、IKEA渋谷で強く実践に落とし込むことをしたかった。
——スウェーデンフードマーケットの位置づけは。
バラン イケアのブランドのアイデンティティとして「スウェーデンらしさ」はすごく大事なことだ。それはもちろん、家具においてもそうだし、フードの体験も同様。スウェーデンなど北欧のフードを提供すること、また、それを使ったクッキングスタイルをご提案できる大事な場所だと考えている。また、ストアにはフードマーケットがあるが、(都心型店舗の)IKEA原宿にはないこともあり、今回IKEA渋谷で「ストアを思わせるもの」の位置づけと導入したこともある。