イケアがシティショップ初の「スウェーデンレストラン」を渋谷にオープン、レストランまで併設して「食」を提供する理由とは?
2022.04.12
2021.05.11
城取フードサービス研究所 城取博幸(商品レポート)/編集部(概要)
「より快適な毎日を、 より多くの方々に」をビジョンに、ホームファニシング商品を販売する「IKEA」を日本で展開するイケア・ジャパンは4月21日、IKEA渋谷の7階に日本のシティショップ(都市型店舗)で初めてとなる「スウェーデンレストラン」をオープンした。
IKEA渋谷は昨年11月30日にオープンした。世界初の7階建ての店舗で、最上階の7階フロア全体をレストランに充てている。
緊急事態宣言を挟むなど新型コロナウイルスの影響を強く受けつつも、オープン後のIKEA渋谷の売上げは順調だという。さらにオンラインの販売がそれをサポートしているともいう。
もともと、売場面積がそれほど取れない都市型店出店の目的自体がショールーム的な役割を持つため、IKEA渋谷での体験をへてオンライン、もしくは郊外の既存店のストアに送客することは大きな目的となる。「絶対ここで買ってもらうというよりは、イケアを知ってもらう役割を果たしている。ここを通じてオンラインで買ってもらっても、他店でも買ってもらっても良いと思っている」(ゼラ・バラン・マーケットマネージャー)
都心という身近な場所にある比較的小型の店でイケアをコンパクトに体験し、オムニチャネルにつなげていくという戦略が見えてくる。
同様のコンセプトの店はグローバルで進めている戦略で、「シティセンターショップ」と呼ばれ、フランスのパリやスペインのマドリード、中国の上海などで展開している。
特に食品の売上高構成比は高くなっているが、これについては相乗効果が見込めるためポジティブに捉えている。「フードを通じてスウェーデン文化に興味を持ってもらうことで、家の文化の切り口につながっていく。『暮らしの中に入っていく』という意味で、相乗効果になる」(バランマネージャー)
IKEA渋谷の1階にはイケアとして世界初のべジソーセージを使ったベジドッグ専門店があるが、今回オープンしたレストランも、その延長線上にある重要な施設となる。
食を通じてスウェーデンのライフスタイルを提案
イケアは、「多くの方々にとってイケアでのショッピング体験がより楽しく充実したものになるよう、スウェーデンフードをお手頃な価格で提供しています」として、店舗にレストランを設けている。
そこには、食という誰にとっても身近なものを通じて、あらゆる層のお客に文化を楽しんでもらおうとの意図がある。今回の渋谷でのオープンは、これまで郊外型大型店の「ストア」で展開してきたメニューを都心部のお客にも食べてもらう機会となった。
また、さらに伝統的なスウェーデン料理の他、日本初の都市型店となったIKEA原宿のみで提供してきたスウェーデン料理の「TUNNBRÖD(ツンブロード)」、肉の代わりに植物由来の原料を使用したプラントボールやプラントベースキーマカレーといったプラントベースフード、あるいは世界中のイケアでIKEA渋谷のみの限定メニューなどを提供する。
大きな特徴はメニュー全体の75%を占める約33メニューがプラントベース、もしくはサーモンで占められるという点。IKEA渋谷にはイケアとして世界初となるベジドッグ専門店が1階にオープンしているが、今回は7階にサステナビリティを大きくアピールするレストランがオープンするなど、同店がイケアの最新戦略の発信拠点となっている点には注目したい。
「昨今、若者はサステナビリティに対するアンテナを高く立てている。都心の若者向けにイケアのサステナビリティの取り組みを少しでも知っていただきたく、スウェーデンレストランのオープンにつながった。イケアではミートボール、ホットドッグがメインの商品になっている。食を通して地球環境に貢献するため今後、どのように持続可能な食にしていくかということでベジドッグ、プラントボールを発売してきた」(佐川李由・イケアジャパンカントリーフード マネージャー)
料理はオープン時点でメイン料理12種類、カレー2種類、ツンブロード4種類、前菜・サラダ7種類、スープ2種類、ケーキ&サンド3種類、ソフトアイス2種類、その他ポテト、ライス、ベーカリーなど。
プラントボールは黄エンドウ豆やオーツ麦、ジャガ芋、玉ネギ、リンゴを主要な原材料とする植物由来の原材料を使用した代替肉。日本のプラントベースの代替肉で多くを占める大豆はメインでは使っていないことが特徴だ。一方、キーマカレーには大豆をメインに使っている。
渋谷ではサステナブルを徹底的に強化
IKEA渋谷のスウェーデンレストランでは、特にサステナブル(持続可能性)の観点に焦点を当てる。代表的なものがサーモンを使ったメニューだ。サーモンは、肉と比べCO2排出量が約8%と少ないことからサステナビリティへの貢献につながるという。
イケアでは、スカンジナビアンフードの伝統を大切にし、スウェーデン食文化に欠かせないサーモンを強化している。サーモンは人気の食材であるが、タンパク質やオメガ3脂肪酸が豊富に含まれ、健康にも良いとされているといった利点もある。
イケアでは、養殖に際して自然環境の汚染や資源の過剰利用の防止、労働者や地域住民との誠実な関係構築などに関する国際認証制度であるASC認証を受けたノルウェー産のアトランティックサーモンを使用。さらに切り身は骨なしとするなど子どもを含め食べやすさにも配慮している。
メニューに関して、スウェーデンのメニューに加え、多様なサーモンの味わい方を楽しんでもらうために11種類のサーモンのメニューを開発。「サーモンポキ」や「フィレサーモン定食 ジンジャーソース」などIKEA渋谷限定のサーモンメニューも開発した。
また、肉と同じような食感になるような商品を目指したプラントボールについては、通常の肉によるミートボールと比べてCO2排出量がわずか4%ほどと極端に少ないことから、こちらもサステナビリティにつながる。
「日本の食文化にまだまだ浸透していないフレキシタリアン(肉を食べない日を設けたり、柔軟にプラントベースを取り入れるスタイル)、もしくはペスカトリアン(タンパク質として魚のみを食べるスタイル)という新しい食文化を発信していきたい。ヴィーガン、ベジタリアンになるのが難しいお肉大好きな人たちが、1週間に1回、もしくは2回、お肉を食べない日を作っていただいても、おいしく楽しんでいただける食文化を提供したい」(佐川マネージャー)
ここで重要なことは、「決して、プラントベースでヴィーガン、ベジタリアンの方たちだけをターゲットにしたいわけではない。肉好きの人たちにぜひ、食べてもらいたいと思っている」(佐川マネージャー)ということだ。
レストランで提供されるサーモンや、プラントボール、スウェーデンミートボール、シナモンロールなどは、主に冷凍の状態で1階の食品売場の「スウェーデンフードマーケット」で買うことができる。
また、4階は調理器具や調理関連の家具のフロアだが、ここもレストランとの相乗効果が見込める。IKEA渋谷でも非常に人気のあるフロアとなっているという。
「店を経営していて思うのは、お客さまが食べ物に対する興味をすごく持たれているということ。食べるということはもちろん、作るということについても興味を持たれていると感じる。4階の調理用品でお買い上げされる方が非常に多い」(バランマネージャー)
調理用品はイケアの商品の中では単価もそれほど高くないものが多いこともあり、レストランを含む「食」が自然な形でイケアの商品に親しむ土壌を生み出していることが分かる。
IKEA渋谷スウェーデンレストラン概要
所在地/東京都渋谷区宇田川町24-1高木ビルディング7階
オープン日/2021年4月21日
営業時間/11時~20時(ラストオーダー19時30分、IKEA渋谷の営業時間に準ずる)
面積/約390㎡
座席数/167席
メニューの一部(売価は総額、以下同)
そして物販へ——物販でも買える食品
これだけのプラントベースのレストランメニューを開発し、展開している点に注目したい。日本のスーパーマーケットもリスクを取って新しい取り組みをする必要があるのではないかと感じた
ここからは筆者がかつてストックホルムのホテルのスモーガスボード(ビュッフェ)で体験したスウェーデン料理の一部を紹介したい。
こうしたメニューを振り返ると、旅先で食べた料理が日本のイケアで食べられるのはうれしい。IKEA渋谷にまた行きたくなる。レストランが来店動機になることを身をもって実感した。
イケアの食材で料理を作ってみた
イケアで買ったプラントベースの食材やサーモンで料理をつくってみた。
オーガニックマッシュルームスープを煮詰めてソースを作り、プラントボールとあえてみた。プラントボールは電子レンジで加熱してソースに加える。好みで塩コショウを加えた。
冷凍サーモンを袋のまま75℃の熱湯で加熱し、塩コショウをしてオリーブオイルを敷いたフライパンでソテー。リンゴンベリーを添えて出来上がり。北欧ではかんきつ類が取れないため、ベリー類を酸味として使う。
調味料を含め、動物性のタンパク質を使わずにペスカトリアンメニューが簡単にできた。