コープさっぽろが「自分たちのDX」デジタル改革をあえて公開する理由とは?

2020.11.09

コープさっぽろは店舗、宅配など合計事業高が2019年度で2806億9869万円に達する単協としては最大級の生協だ。そのコープさっぽろが、「コープさっぽろDX」と名付けられたユニークなサイトを運営しているhttps://dx.sapporo.coop/)。

タイトルには「小売りDXのおもしろ参考書 超アナログ!からの、コープさっぽろジャンプアップ変遷記」、説明には、「レガシーな北海道の流通『生活協同組合コープさっぽろ』のデジタル改革を赤裸々に公開していくサイトです。 コープさっぽろが、もっと使いやすく!買い物しやすく!職員が働きやすく!なるためにDXしていきます! きっと、山あり谷ありのDX!ステキな仲間と一緒に進化していきますー!」とある。

2020年6月開始の同サイトには数多くの記事が載っている。10月24日の記事は、「DXnoteを見て、阪急阪神東宝グループのエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 デジタル改革担当 小山さんがコープに 来たよ!」、あるいは10月23日の記事は「新しい個人認証とかECサイトがもう少しでリリースとか、バタバタしはじめている。」といったように、日誌風に現在コープさっぽろが取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)の具体的な内容が詳細にレポートされている。

方針は、幾つかのカテゴリー(視点)で、とにかくなんでもアップすること。そして、マニアからリテラシーの低い人まで、小売りDXの参考書になることを目指す。具体的なカテゴリーとしては、「デジタル推進本部メンバーのつぶやき(週報公開)」「ゆるっとデジタライゼーション(のぞみのへやなど)」「コープさっぽろ AWS Samurai 四人衆」といった項目が並ぶ。

内部に向けて情報発信することで組織変革を促す

DXには多くの企業が取り組んでいるところだが、一般的にはそれは企業内、場合によっては組織の一部での情報共有にとどまっているのが実態ではないだろうか。あえて取り組みを公開する意図はどこにあるのか。

対馬慶貞・執行役員デジタル推進本部長CDO(最高デジタル責任者)はその意図について次のように語る。

「小売りにはDXが最も必要だが、遅れている。だから、地方のレガシーな巨大小売り(コープさっぽろ)ができて他にできないわけがないという事例を作り、日本全国でこの事例をもとに本当のDXが広まって欲しかった。コープさっぽろのDXの成功はもう分かっているので、その過程を赤裸々に晒すことで、他社が課題に対してどう取り組むのかの勇気になればと思い始めた」(対馬CDO)

もちろん、情報発信を通じて、優秀なエンジニアなどの採用に生かそうとの思いもあるものの、自分たちだけでなく、他の小売業がDXをすることをサポートするという目的には驚きを覚えるが、それ以外にもう1つ重要な目的があるという。対馬CDOはDXを推進する上での組織的な背景についても指摘する。

「DXはツールを入れようとしてもだめで、人間は基本的に変化が嫌い。小売りはオペレーションラインなので、コープさっぽろでいえば、いかに100店舗以上、40センターを通じて北海道中に均一のオペレーションで、均一の作業をこなすことが大事。こう考えると、何かアジャイル的に『やってみよう』と変化を促すことは基本的にタブー」(対馬CDO)

つまり、情報発信は外部だけでなく、内部にも向けられている。組織文化の変革のためにこのサイトを活用しようというのだ。その背景には、「事業系と情報システム系は対立構造にある」(対馬CDO)という認識がある。

小売業の組織を考えたとき、一般的に事業系は「どうして情報システム担当は、使いにくいシステムを作るのか」と思っている一方で、情報システム系は「ミスがないように運用することがどれだけ難しいと思っているのか分かっていない」といった思いを持っているものだ。

対馬CDOは、その対立構造の存在が組織変革の最大のネックだと考えた。単に「デジタルツールを使う」ことではなく、事業側と情報システム側の間にある高い壁をいかに壊すかが組織変革の鍵だと考えたわけだ。

そのための大きな役割を担うのが「広報部」だ。対馬CDOは、「今回のデジタル推進本部に広報部がなかったらできない」と語る。今年度、コープさっぽろのデジタル推進本部は「伝える、伝わる、ファンを作る」「もっとシンプルに、楽に」の2大テーマを年度方針としているが、このうち対馬CDOが最も大事にしているのが、「伝える、伝わる、ファンを作る」ということ。「伝わらないので、みんな変化に対して抵抗して、DXが推進できないのではないかと考えた」(対馬CDO)わけだ。

緒方部長は現在、この「伝える」ための動画制作を進めるなどしている他、対馬CDOと2人で週2、3回、10人程度の少人数を単位で「G Suite&Slack勉強会」を1時間30分ほど実施している。

G Suite&Slack勉強会で自ら説明する緒方広報部長(左)と対馬CDO(右)

小売業は店舗が分散していることもあって組織の規模が大きい。コープさっぽろも職員の数は約1万5000人に上る。「だからこそ内部に伝えるのが最大のポイント」(対馬CDO)との認識の下、2人とも忙しい合間を縫いながら、手間をかけて地道に「伝える」作業を実施している。過酷な作業であるが、それを「作業を事務的に、日常的にやっている人たちが、『これはいい』となってくると非常に良いと思う」(対馬CDO)との思いで続けている。

トップとボトムが動くことで、中間管理職も変わる

「一番、DXについて理解をし合わなければならないのが、中間管理職かもしれない」。数多くの勉強会を実施する中で対馬CDOが持つに至った率直な認識だ。たとえば特徴的な事例として服装をスーツからカジュアルに変更した際の反応がある。方針を決定した経営層は当然対応する他、若年層はすぐに対応して雰囲気が良くなったが、中間管理職はなかなか変わらなかった。

「経営層の判断を実施するとき、経営層と若手は動くが、一番変化が遅いのは中間管理職というのが服装一つでも見て取れた」と対馬CDOは振り返る。

G Suite&Slack勉強会でも、部長級など中間管理職の参加は全体と比較すると少ない一方で、若年層は積極的に参加する傾向がみられるという。

そのため、スタンスとしては、まずはデジタルツールに対する若い人の適応能力の向上を全力で支援しながら、デジタルリテラシーの高い経営層と若手でまず事例を作っていく。

実際、これまでの活動を通じて、サイト自体がコミュニケーションツールになることで職員への興味喚起にもつながるなど、変化の兆しが出てきているという。社内報と連携したり、エンジニア採用時の情報ツールとして活用するなど、活用の幅も広がってきている。

内部からは若年層の職員だけではなく60代など高齢層の職員からも、「期待している」という声が多く寄せられている。理解してくれるスピードが意外と早いという印象もあるという。

具体的な記事では、発注、在庫などサプライチェーンをつかさどるシステムについての率直な意見を記事にしたところ、ページビューが8000ほどに上るなど、内外から大きな反響を得る事例も出ている。

CIO、CDO、広報部長の3人のキーマンが連携

対馬CDOは、大きな組織体である小売業がDXを推進する上でのポイントとして、次の3点を指摘する。①トップ経営判断としてDXが推進されていること、②経営陣に担当がいること、そして、③DXに対してトップが否定しないこと、完全裁量権が担当に与えられていることの3点だ。

「トップが任せた後、一切口を出さない。全部委任したことが組織的には画期的だった。この担保がないと正直難しかった」と対馬CDO。

対馬CDOは現在のポジションに就任する前から、「デジタル改革は情報システム部長を1人置いただけで解決するような生やさしいものではない」と考えていた。

同時に、「昨今デジタル投資が活発になってきていて、小売りもそうなのだが、実際はニンジンの仕入れなどはプロの目で1円単位で厳しくやっている一方で、システムはそうではなく、自前の情報システムがいてもいなくても、結局ベンダー丸投げで、ものすごい金額が経営会議で承認されていくという流れがある」(対馬CDO)のではないかという問題意識も抱えていた。

そうした背景を踏まえ、「コープさっぽろがDXをするためには、組織全体で1年間集中して取り組まないと無理」と大見英明理事長に直談判。その後も投資や体制について大見理事長と話し合い、2019年末に「店舗本部」「宅配本部」と同格の「デジタル推進本部」が新設され、対馬CDOが本部長を務めることになった。この組織的背景が、前述の3つポイントを実現する上で重要な役割を果たしている。

また、実際の推進態勢としては対馬CDOに加え、緒方恵美・デジタル推進本部広報部部長、さらに長谷川秀樹・CIOの3人がキーマンになっていることも大きい。CIOの長谷川氏は東急ハンズの執行役員やメルカリの執行役員CIOの経験者で、自身が設立したロケスタ社長も務めるいわば「小売りDXのプロ」。その長谷川氏をコンサルタントではなく、内部のCIOとして迎え入れていることが重要だという。

そこには、「コンサルでは内部は動かない」(対馬CDO)との思いがある。また、G Suite&Slack勉強会についても、対馬CDOと緒方部長という組織的背景を持った人間が直接担当することが、有効性を高めることにつながっているという。

対馬CDOは、「世界中の成功事例を持ってくる長谷川さんと、内部に対して伝える緒方さんがいたというのが大きい。これがそろわないと無理だった。仮に私が1人で、たとえば外部で仕入れた成功事例などを導入しようとしてトップダウンでやってしまうと失敗する可能性が高い」と指摘する。

具体的には、長谷川CIOが世界中の成功事例をもたらし、対馬CDOが経営陣として施策を実践することを決定し、各事業との調整を図り、さらに緒方部長がそれを現場に伝えるという流れが確立している。

組織変革を起こす媒体としての「コープさっぽろDX」

そして、その中で「コープさっぽろDX」がその媒体としての役割を果たしている。対馬CDOには「変化に対して、日本の小売業は成功事例主義」という認識がある。

その上で「誰もやったことないことをやるのは怖いが、他に成功事例があると急に展開する。具体的な事例をしっかりつくることがコープさっぽろDXを作った理由」と語る。組織に変化を起こすための事例づくり、その記録や共有のツールとして、コープさっぽろDXが大きな役割を果たしている点は注目だ。

「最近は書いている人が楽しんでいて、頼まなくても書いてくれている。新しく入っているエンジニアもノリが良く、私の中のエンジニア像も変わってきた。良くなる様子がコープDXで表現されるような気がしている。一方で、昔からいる方で全くDXと関係のなかった方々も読んでくださって声をかけてくださったりする。まだまだやりたいことはあるが、良い感じに回ってきている」。緒方部長は、組織変革を起こすための媒体として、コープさっぽろDXに好循環が生まれつつあることを実感している。

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