新ディスカウントの台頭か ポストコロナ時代 小売業の針路

2020.08.07

島田研究室 島田陽介

コロナ後についての悲観と楽観

買物・消費を決めるのは、現在自由にできる現金ではなく、未来の収入の確実性である。いま1万円の現金しかなくても、来月から確実に続けて30万円の現金が入ってくるなら、いま借金してでも買物する。だがいま100万円持っていたとしても、今後の収入が不確実なら、100円使うのにも用心深くなる。ではコロナ後の未来はどうなるか。

 まずコロナ後について悲観と楽観と中観がある。悲観とは、これから不況が、リーマン・ショックはもとより1929年の大恐慌をはるかに超えると同時に、自然災害と異なり、その影響は全世界全国に及び、被害地域を非被害地域がカバーすることが、不可能であり、経済の規模の萎縮、多くの企業の不振・倒産・廃業、それによる雇用の不安定・賃金水準の低下、それによる消費の停滞、経済の萎縮という悪循環の発生が避けられず、圧倒的人口が中所得以下に転落し、治安は悪化し、これから相当の期間、消費は、生活にどうしてもなくてはならず、しかも消費すれば消耗するモノに集中し、いまあるモノで間に合うモノ、高額なモノには向かわない、という状態が続く、と予想される。

すでに兆候は現今のテレビCMに現れている。車、家電、家具、住宅、アパレル、高級ブランド…などのCMは激減し、食品、薬品、基礎化粧品といった消耗品のCMが急増している。ニトリだけは、悠々と合計10万円近い電動ベッドのCMを流しているが…。

他方、楽観とは、戦争後とは異なり、都市・建築物・インフラ…などは健在であること、これは楽観と悲観が並列するが、地価・家賃の低下が必至であること、エネルギー・コストの低下とごみの減少など、である。

悲観でも楽観でもない中観とは、今後のワクチンと治療薬の開発、来年のオリンピック・パラリンピック開催の可能性である。この2つは連動している。これが緒に就かなければ悲観はさらに深まり、逆に開催可能ならば、経済全体の起動力になり楽観度が増すだろう。

ドコがうまくいき、ドコがうまくいかないか

 流通業は、①スーパーマーケット(SM)、スーパードラッグ、ホームセンター、コンビニ、一部低額品専門店(ダイソー、ワークマンなど)、SMチェーンやビッグストア主催のネットなどの現状維持・成績向上組、②それと対照的なデパート、高額品専門店、耐久消費財、アパレル(ユニクロを含む)などの成績半減以下、倒産廃業閉店の増加予想組、③飲食・レジャーの不振組、④ネット、特にアマゾンの成績停滞、に分かれる。

①SMの好成績の理由は指摘するまでもない。ただし、その好調は後述する新ディスカウント・ビジネスの出現の可能性とその影響に左右される。かつて米国で「スーパーマーケット」が出現したのも、大恐慌直後の新ディスカウント・ビジネスとして、であった。スーパードラッグの場合も、いま好調を支えている例えばマスクや殺菌スプレーを含む医薬関連品は、いずれ供給が増え、コロナが収束に向かえば、伸びは止まる。

食品はSMでのまとめ買いと、その新ディスカウント勢力に奪われる可能性が大きい。「便利」より「安さ」が優先するときが来るからである。コンビニは、配達好調の住宅地・狭域商圏を対象にする店舗は、今後とも好調を維持するだろう。

②については、「現金」の大事さの痛感が深刻なマイナスの影響を与える。米国でもシアーズに続いてJCペニー、ニーマン・マーカス、J・クルーなどの会社更生法入りが伝えられるが、これは端緒に過ぎない。日本でも同じことが起きる。③はコロナの被害を最も蒙った分野だが、実はコロナ収束後も、自粛解除直後は一時的に賑わっても、一部ファストフードを除き、むしろ不振は永続する。外食やテークアウトをするより、SMで買って自炊する方が、安く済むことを、現金の大事さを痛感する人が今後急増するからである。

④については逆だと思う人が多いだろう。だがSMのチェーン店舗網を起点とする米国と異なり、例えばアマゾンやアパレルのネットが扱うのは、大部分不急不要のモノでしかない。しかもコロナ禍渦中において、ネットこそマスクの高値転売の片棒を担ぎ、その後も殺菌スプレーなどの高値転売を続行し、信用を失っている。

大恐慌後のSMの教訓

 かつての大恐慌直後の米国に出現した「スーパーマーケット」は、実は今日のSMの原型ではない。「大不況後に売れるモノなら、これまでの品揃えに囚われず、何でも売る」ビジネスであった。それが当時の「業種」の枠を超えたのは当然で、「何屋」とも呼べず、店舗の規模と形態で「スーパーマーケット(大きな店)」と呼ぶしかなかった、だけである。今後出現すると予想される「新ディスカウント」も、既存の業種業態を無視して、コロナによる超不況後に売れるモノだけ、売るビジネスになるだろう。

だが同時に知るべきは、その「スーパーマーケット」を創始したキング・カレンが、実はビジネスとしては成功しなかった、という事実である。その後キング・カレンは跡形もなくなる。不況が終わったからではない。米国最大(1万2000店)の紅茶のチェーンA&Pがキング・カレン出現の5年後チェーン店を全店閉鎖し、約3000店の「スーパーマーケット」に転換したからである。真に恐るべき新ディスカウントとは、キング・カレンのようなアイデアによるイノベーションではない。それを根こそぎ奪う大チェーンの転換である。

その時A&Pが、全商品ストアブランド(SB)で品揃えしたことを銘記すべきである。ストアブランドによってこそ、真のディスカウントは可能であった。この教訓はその後欧州のアルディやリドルに受け継がれ、さらには米国のトレーダージョーに受け継がれた。トレーダージョーを「一風変わったスーパーマーケット」だと思って帰る視察は(今後丸2年視察はあり得ないが)、この企業がセールを一切やらないで集客しているという事実を見逃している。

「薄利多売」とは異なる、新ディスカウントの本質

 すなわち今後出現して、①のグループに大きな影響を与えるのは、「薄利多売」によるディスカウント企業ではない。薄利で売れば「多売」できたのは、ビッグストアの揺籃時を見れば明らかなように、経済・生活の成長期だったからである。かつて1万円のスーツの発売が、そしてリーマン・ショック後のニトリ、しまむら、ユニクロが成功したのは、将来の「収入」が不確実ではなく、しばらくすれば元に戻るだろうという楽観があったからだ。

だがコロナ後始まる不況は、様相が異なる。収入の不確実性は、長期に渉ると考えられる。そのような時代に成立するディスカウントは、「薄利多売」ではなく、「高利・安売りによる、普通の売れ行き」を前提にしなければならない。

とすればその新ディスカウントの基本構造は、収入の不確実な不況時にも、生活するのになくてはならぬモノで、消耗性の高いモノを、しばらくはピービー(PB)が主力になるだろうが、その後は主にストアブランドによって、安く売る、チェーンになるはずだ。

ディスカウントして、「多売」するのでなく、「普通の売れ行き」で、なおかつ利益を得るには、次のようなそれを支える「企業としての利益構造」の確立が必須条件である。

それが先に挙げた米国の3社に典型的なストアブランド主力による品揃えである。なぜならピービーは基本的にそのコピーの元であるナショナルブランド(NB)を前提にするが、ストアブランドのみなら、商品原価を抑えられてなおかつ高利益が期待でき、多売しなくても収益が可能であり、ストアブランドのみなら、必要な店舗面積も在庫量もはるかに少なくて済み、店舗面積が小さければ、店舗の必要人員の数も少なくて済み、閉店店舗や空き家を低家賃で借りることもでき、出店・店数増加・店舗維持などのコストも構造的に低く抑えられる。

さらに「薄利多売」と構造的に異なる新ディスカウントにとって必須なのは、「商品調達力」と「店数規模」である。思えばリーマン・ショック後成長したユニクロ他の3社の特徴も、ストアブランドによる品揃えを実現し一挙に店数を増やしたことにある。ワークマンやダイソーやセブン‐イレブンの成功も、ストアブランドと店数による。

新ディスカウントを担う本命企業が出現すれば、大店舗・大商圏・薄利多売…の「多売しなければ成立しないディスカウント屋」と異なり、それはSMに取って代わる存在になり得る。

なぜなら、いま、たまたま盛業中の既存のSMチェーンの多くは、それが必要だったとしても、お客の募る高クオリティ要求に応えるべく、重装備の店舗と高コスト体質(すなわちトレーダージョー体質ではなく、ウェグマン体質)になっており、状況が変わったからといって、そこから一挙に脱出し、新しい低コスト構造に転換するのは容易でないからである。

この予測が外れるのを望む。

しまだ ようすけ 1936年金沢市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。著訳書多数。セミナーを開催。メール=shimad@msb.biglobe.ne.jp

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