コロナ禍で進む「一人前おせち」などおせちの個食化。各企業の対応をまとめて解説

2022.04.21

2020.12.16

日本の伝統料理である正月の「おせち」。しかし、近年では、少人数世帯の増加、女性の社会進出などに伴って、おせちの予約販売といった「おせちの中食化」、単身者向けの「一人前のおせち」といった、「おせちの個食化」も進んでいる。そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2021年のおせちは、家族で集まって食べられなくなったことから、個食化が一段と加速している。

コロナ禍における『おせち』消費の変化

 だて巻きに栗きんとん、煮豆、数の子・・・・・・「おせち料理」と言えば、「お雑煮」などと並んで、正月の日本の食卓を彩る風物詩だ。主婦が年末からおせちづくりに打ち込み、年明けには重箱に詰められた色とりどりの料理を、新年を祝うために集まった家族や親戚がめいめい箸でつまむというスタイルが、かつては一般的だった。

しかし、そうした日本の伝統的な風景は近年、一変している。日本では核家族化、少子高齢化によって、老夫婦二人だけの2人世帯や「おひとりさま」の単身世帯といった少人数世帯が増えた。その結果、大量のおせち料理を仕込む必要性が低くなり、おせちの少量化や個食化が進んだ。

そもそも、おせち料理は、料理をまとめて作ることが前提になっている。ところが、少量化や個食化は、おせちの家庭内調理の非効率化をもたらした。

さらに、女性の社会進出に伴って、主婦が家で調理する時間が減り、簡便食品や惣菜に頼る傾向が強まった。とりわけ、年末の忙しい時期に、重労働となるおせちづくりを回避するため、デパートなどでおせちを買い込んだり、おせちの通信販売を予約したりする主婦が増えた。つまり、おせちの調理をアウトソーシングするという「おせちの中食化」が顕著になったのだ。

現在では、必要な分だけの“少量”のおせちを、自分で作るのではなく、“買う”というライフスタイルが、主流になってきている。とはいえ、地方出身の若い世代の中には、年末年始に実家に帰れば、母親が手作りしたおせちを用意して待っている、といったケースがまだ多いのではないだろうか。そんなケースも、コロナ禍によって大幅に減り、おせちの少量化や個食化が一段と加速しそうだ。それは、どうしてなのだろうか?

2020年秋以降、新型コロナウイルスの感染拡大の「第三波」が押し寄せ、政府の観光の需要喚起策「GoToキャンペーン」が停止されるなど、旅行などの外出や大人数での会食の自粛を促す動きが、全国に広がっている。

そうした中、年末年始の帰省や旅行を取りやめる人も急増している。例えば、朝日新聞が2020年11月14~15日に行った世論調査(有効回答1547人)によれば、今回の年末年始には、「帰省や旅行を予定していない」と回答した人が、88%にも上った。

そうしたことからも、今回の年末年始は、「家族みんなが集まって食べるおせち」のニーズが、激減したことが推測される。しかし、一方で、「せっかくの正月休みなのに外出できないのなら、せめて自宅でおいしい料理を食べたい」と思うのが人情だ。

年末年始に子どもや孫が帰ってこない地方の高齢者世帯でも、おせちの手作りはやめたにしても、自分たちが食べるおせちは購入するだろう。実家に帰省できない都会の一人暮らしの若者も、正月気分を味わうため、自分用のおせちセットを買い入れるケースが多いようだ。

そうしたニーズに合わせて、今回の正月商戦では、百貨店や外食店、ホテル、CVSといった各社が「おせちの個食セット」を拡充。おせちセットは通信販売で手に入るケースが多く、非接触で感染リスクが低いといったことからも、消費者の人気をうまくとらえているようだ。

個食セットの長所は、「一人前」「二人前」といった具合に、顧客が必要に応じた量を購入できるので、無駄な出費が抑えられる上に、フードロスも回避しやすい点だ。さらに、料理を取り分ける必要がないので、他人との接触機会がなく、感染リスクを減らせるというメリットがある。そのため、ファミリー向けにも、個食セットのニーズが高まるといった観測がある。

もう一つのポイントは、高価格帯のプレミアムおせちに人気が集まっていること。今回の年末年始は帰省や旅行を手控えて予算が余ったため、その分をおせちの購入に充てるケースが増えていると見られる。また、帰省できなくなった人が、ふるさとの家族や親戚、友人に「お年賀代わりのおせちセット」を贈るケースも増えていて、そうした新たなニーズも、プレミアムおせちの人気を押し上げているそうだ。

しかし、一方で、コロナ禍で収入が減ったり、在宅時間が増えたりした人も多いため、とりわけ、中・低位の所得層では、おせちの購入をやめて、手作りするケースが増加するといった見方も、一部では出ているようだ。

個食化する「おせち」への小売企業の対応

それでは、今回の年末年始に向けて、各社がどのような個食対応のおせちセットをラインアップしたのかを見てみよう。

●事例①:そごう・西武

コロナ禍でのおせち商戦では、「銘々に愉しむ、新しい集い方」と題した、新しい正月の過ごし方を提案。その中で、「ひとりにひとつがいいね」と銘打って、個食ニーズに対応したラインとして、一人前のおせちを折詰にした「おひとり重」を揃えた。

おひとり重を提供したのは、京都の「美濃吉」「たん熊北店」、東京の「日本料理なだ万」(各1人前×1客10800円)といった名店。受付の対象は西武池袋本店、渋谷店、所沢S.C.、東戸塚S.C.、そごう横浜店、千葉店、大宮店、川口店。

●事例②:J.フロントリテイリング

大丸・松坂屋各店は、10 月 1 日から店頭でのおせちの予約を開始した(一部店舗除く)。インターネットの大丸松坂屋オンラインショッピングでは、大丸・松坂屋特別企画おせちなどを店頭に先がけて9 月 24 日から注文受付を開始した。

おせちの売上げはここ 10 年間で約2割増と、需要が着実に伸びている(大丸・松坂屋直営 9 店合計)。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、年末年始に関しても引き続き「おうち時間の充実」「巣ごもり需要の拡大」の傾向が続き、百貨店のおせち需要はさらに高まると予想した。

この夏の帰省は自粛ムードで、年末年始の帰省シーズンも同様の可能性があると見て、家族と離れて暮らす人が、 この冬は帰らずに一人で新年を迎えるということも想定される。会えない気持ちをおせちにのせて、単身赴任の父親に送ってみたり、実家に送ってみたりするシーンを想定、離れた家族にも配送可能なおせちを用意した。

 個食のおせちセットの例としては、小樽の老舗の人気すし店、おたる政寿司の一人前おせちが挙げられる。

<北海道・小樽 おたる政寿司>税込13000円(1人用)20品

店舗で受け取りの場合、12月31日午前10時30分~午後4時 大丸札幌店1階特設おせち料理お渡しカウンターにて手渡し。配送の場合、12月31日午前8時頃から午後6時頃までに配達予定。配達地域は、札幌市や小樽市など北海道の一部限定(送料は税込495円)。

●事例③:イオン

今回の個食用のおせちセットとしては、通販サイトで、「イオンサクワオリジナル和洋おせち 彩宝 一段重 約1人前 計24種」を販売した。和洋折衷で、黒豆やなます、数の子、紅白かまぼこ、ボイル海老、栗きんとん、だて巻、昆布巻きといった和風のおせちのほか、ローストビーフやサーモントラウトスモーク、パテドカンパーニュ、野菜マリネといった洋風のメニューも取り入れている。送料無料で税込み6400円。12月30日に配送予定。

●事例④:ローソン

今年の年末年始は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、帰省や旅行を控えて、自宅で、少人数で、クリスマスや正月を迎える人が多いといわれ、また、近場でのハレの日の買い物ニーズも高まっていることから、ローソンは12月8日より順次、全国のローソン、ナチュラルローソン店舗で、「Withコロナ」の忘年会、クリスマス、お正月に合わせた“個”食タイプの惣菜、冷凍食品、デザート、おせちなど合計15品を発売した。

おせちの予約高は、前年比約130%(集計期間は2020年9月15日~11月28日と昨年のおせち予約期間2019年9月17日~11月30日)と好調だった。 今回用意したのは、京都の有名店「野村佃煮」が監修したお弁当サイズのおせち「京都野村おひとりさま用おせち」。12月30日より関東でのみ発売(甲信越を除く)。税込み1980円。一品一品の味付けや盛付けにこだわり、海老、数の子、黒豆、昆布などを盛り付けた。

●事例⑤:オイシックス・ラ・大地

一人や少人数で正月を過ごす人向けに、おせちの2021年新作として、「伝統を味わう和風二段重」を発売した。

二の重には、こだわりの出汁をきかせた「鮎笹茶巾」「焼き帆立」といった料理8品を、彩も豊かに盛り付けた。 

一の重には、「栗きんとん」「鰆西京焼き」といった伝統的なおせち10品をラインアップした。

なお、同社は、おいしくて、安心して食べられるように、おせちにも合成着色料や合成保存料を使用せず、放射能物質検査を行っているという。

まとめ

コロナ禍がきっかけとなり、正月を一人で過ごす人が、個食用おせちセットを利用するケースが大幅に増えるだろう。そして、そうした個食おせちの味覚や利便性を体験することで、来年以降も利用を継続する人も増えるだろう。単身世帯が今後も増加することを考えれば、おせちの個食化は定着していくと見られる。

とはいえ、個食おせちの普及が爆発的に普及するかといえば、それも不透明だ。なぜなら、コロナ禍によって、家族や友人とのきずなやふれあいの大切さにも気づき、コロナ禍が収束すれば、家族みんなで食べるおせちの価値が見直されるかもしれないからだ。また、おせちを手作りする楽しさも注目され、「半調理おせちセット」なども今後は登場するかもしれない。

個食用おせちセットが拡大する一方で、家族用おせちセットなども併存するだろう。おせちを楽しむ年末年始のライフスタイルは、さらなる多様化が予想される。

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