ヤオコー上期決算、上期は増収減益も、通期では増収増益を予想、SM業界に横たわる高いハードルを超える底力

2022.11.14

ヤオコーの上期決算は、増収減益だった。連結営業収益2798億5600万円(前期比103.9%)、営業利益159億6500万円(同92.5%)、経常利益157億3000万円(同92.5%)、当期利益107億5900万円(同94.3%)。

単体では営業収益2421億7600万円(同102.8%)、営業利益142億1100万円(同89.7%)、経常利益139億8300万円(同89.0%)、当期利益96億1100万円(同89.1%)だった。

これまで増収増益を達成し続け、特に単体では22年2月期まで33期連続の増収増益を達成してきたヤオコーだが、上期段階では減益となった。

もともと新型コロナウイルスの影響は、スーパーマーケット(SM)には売上げの上振れという形で現れた。そのため、一部20年度、および21年度の決算は多くの企業が好業績となった。新型コロナウイルス自体はまだ存在感を持っているが、その中でも確実に以前の日常が戻りつつある中、今期、22年度はその反動が大きく出ている。

その上に、さらに水道光熱費や人件費の高まりが、販売管理費を直撃している。売上げのハードルも高いが、何とかそれを達成しても、営業利益段階では増益を達成するのは相当ハードルが高いのは明らかという状況だ。

その点、ヤオコーの今回の減益に大きく影響したのが前期比約14億800万円増加した人件費と、同10億4900万円増加、前期比139.3%の水準にまで高まった水道光熱費の2つ。

特に電気代の高騰は冷蔵、冷凍設備や照明など多くの電気を使用する小売業にとって大きな打撃となっている。ヤオコーとしても年間で約30億円の増加を見込む状況だ。

通期では増収増益を予想

しかし、ヤオコーは通期では当初計画を変えず、増収増益を計画している。連結営業収益は5460億円(前期比101.9%)、営業利益は255億円(同105.9%)、経常利益は247億円(同106.1%)、当期利益は160億円(同104.0%)を予想。

単体では営業収益4695億円(同100.4%)、営業利益221億円(同101.6%)、経常利益216億円(同100.7%)、当期利益141億円(101.2%)を予想している。

今期の通期で増収増益はSMにとってはハードルが高いが、達成を見込む。

「この下半期、変化が大きい中で非常に読みづらい状況。ただ、トレンドを見ても極端に業績が落ちるということは想定していない。経費面では、水光熱費はコントロールしようがないが、人件費については自動発注などの取り組みも含めて生産性向上の努力を続けている。厳しい環境ではあるが、当初想定した売上げ、利益については実現していきたい」(川野澄人社長)

川野澄人社長

その点でヤオコーの決算数値を見ると、営業利益については上期の比率が高い傾向にあることが分かる。連結ベースの前期の22年3月期で見ると、上期の営業利益は通期対比約72%となっている。それだけ下期に「攻め」の商売ができることを意味している。

ちなみに21年3月期の同数値は約70%、20年3月期は約55%、19年3月期は約61%、18年3月期は約59%であることからすると、もともと新型コロナウイルスとは関係なくヤオコー自体、前期に利益を確保する傾向にあったといえる。

今上期段階の通期予想に対する達成度を見ると連結ベースでは営業利益で約62.6%となっている。前期や前々期ほどではないが、比較的高い達成度といえる。

上期の既存店売上高は値上げの影響もあって1品単価が102.4%、客単価が100.8%と増えたものの、客数が98.9%と伸びず、売上高前年比では99.7%となった。

粗利益率も原価高を受け、0.31ポイント低下の28.01%となるなど、環境的には厳しいが、「われわれとしても粗利益率を削りながら、価格についてはお客さまに値上がり感がない形で価格設定、プロモーションをかけている状況。また、デリカ事業部の構成比が上がっている一因には外食における値上がりによって一部外食のニーズも取り込んでいることもあると思う。だから、ここは『率』を追わずに『高』を取っていく」(川野社長)方針。あくまで売りを取っていく姿勢だ。

デリカ・生鮮センターでは4月からポテトサラダの原料となるバレイショ(ジャガ芋)を仕入れ、下処理を行う態勢に変更。より原料にさかのぼることで粗利益率を高めると共に味の良い部分も丁寧に活用することで品質も向上

ディスカウントSMは意外にも苦戦

やや意外であったのは、子会社のディスカウントSM企業のエイビイが苦戦だったという点。物価高が叫ばれる中では、一般的にディスカウント事業は支持を高めることが予想されるためだ。

「自社競合の影響もあって苦戦をしている状況。既存店の昨年比で言えば、ヤオコーの方が良い状況。この辺りは、エイビイがポイントカード(を導入していないため)等でお客さまの動きを捉え切れていないため、どういう要因で下がっているのかは分かりかねるが、1つの理由としては、いま価格が大きく動いているタイミングで、お客さまの価格に対する感度が高まっている中で、ヤオコーは安い商品をハイ&ローを差し込みながら割高感を薄める取り組みをしているが、やはりEDLP(毎日低価格)の業態だと商品の値段が一旦上がると固定されるため、値上がり感をかえって強く感じられるということはあるように思う」(川野社長)

ヤオコーは埼玉県でもエイビイと同様のディスカウントSMを展開するために子会社のフーコットを設立し、21年から出店を開始しているが、こちらはほぼ計画どおりに推移しているという。今期は8月に3号店の秩父店(埼玉県秩父市)を既存店からのフォーマット転換の形でオープンしている。

フーコットは3店体制になった。写真は2号店の昭島店(東京都昭島市)

「プロセスセンターから供給することで生産性を上げるモデルのため、1、2店では効率が上げ切れないため、早めに少なくとも5、6店の店舗網を築かなければならない」(川野社長)

物価高の中、これらディスカウントSMの貢献についても注目だ。

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